カキのお話し [2011年08月22日(Mon)]
あるカキ養殖の生産者が言う。
「ボランティアはホントにありがてぇ」 いやいや、そんなたいしたことしてないっす、と言いながら缶を傾ける。 --- 最近はカキ養殖のお手伝いが増えた。 「種ばさみ」と言って、ロープに一定の間隔でホタテの貝殻を挟んでいく。ホタテの貝にカキの赤ちゃんが、いくつかくっついているのだ。そのロープを海に垂らすこととなる。 種ばさみは単純作業なので、素人でもできる。普段はパートを雇うとか。 震災の影響で、種ばさみが数か月遅れで始まった。カキの赤ん坊が成長しきってしまう前に、海に入れなくてはいけないので、種ばさみは遅くとも8月までと言われている。 唐桑と言えばカキ。 カキ養殖は、波が静かな内海(うちうみ)で行われる。唐桑半島の西海岸のことだ。 今、種ばさみをやらなければ、先の収入がなくなる。海のガレキが減ると、生産者は急げ急げと数か月前から慌てて種ばさみを開始した。 が、人がいない。雇うカネもない。 そこで、ボランティアにヘルプを出した。ボランティア側も、ガレキ撤去作業が徐々に減りつつあった時期なので、喜んで受けた。漁業体験にもなる。 そこに、唐桑ボランティア団がストップをかける。 「それはボランティアのすることなのか。生産活動のお手伝いは、慎重にやるべきだ。 そもそもパートさんの雇用を奪うことになり兼ねない」 私は当初慎重派だった。 週一の唐桑ボランティア団の定例会とは別に、カキ養殖について話し合う「分科会」が開かれる。RQを中心に、ボランティア団体が集まる。 が、時すでに遅く、地元内でひんしゅくの売り買いが始まっていた。 「○○さんは、どこそこのボランティアを使って、養殖を始めてるらしい…カネあるはずなのに」 まずい。ボランティアの存在が、生産者同士、地元の人同士の関係悪化に一役買っている。 唐桑ボランティア団内で、調整が必要だ。 お手伝いの要請を断るのは簡単だ。だが、現実問題として今人手が足りない。雇えない。 断るのではなくて、うまいことやりたい… まず漁協に話を通し、カキの生産者にボランティアの存在を周知してもらう。それにより、どの生産者もボランティアの手を借りれる環境づくりを目指す。機会の平等。 ボランティアに偏りが出なければ、どの生産者にも人を出せれば、ひんしゅくはなくなる。 RQが漁協に行く。次に、私も一緒に生産者へのあいさつ回りに行く。 それから、数か月が経った。 --- 今は、カキ養殖のお手伝いを4件請け負っている。依頼の声は今のところ偏りなく拾えている。それだけ周知されたか。 RQと唐ボラ団の事務局で人数を調整して、できるだけ毎日、各生産者のもとにボランティアを出している。 各生産者と各ボランティアの間に、仲介として唐ボラ団が入る形となった。うまくいった。 今回、震災復興支援に携わり、ボランティアの役割は行政や福祉の補完なのだと痛感した。 そのボランティアが、無作為に生産活動に手を出せば、「タダの労働力」に成り下がる。それだけでなく、地元の雇用も奪う。危険だ。 復興支援にマニュアルはまだない。だから、何がいいのか悪いのか手探り状態が続く。 カキの一件は、当初唐ボラ団の中では結構な問題になり、正直関わりたくなかった。 それでも、あのとき、断らないでやってよかった。RQ星野さんはじめ、生産者を紹介してくれた畠山新聞さん、一緒にやってきたボランティア、受け入れてくれた生産者の皆さんに感謝。 --- あるカキ養殖の生産者が言う。 「ボランティアはホントにありがてぇ」 いやいや、そんなたいしたことしてないっす、と言いながら、どうありがたいのか気になって仕方なかった。 タダの労働力としてありがたいのか、パートの穴を埋めたからか、それとも… それとも…の後に賭けたかった。耳を傾ける。 「ボランティアさんがいるとさ、“会話”が生まれるのさ。 おらい(俺ら)だけで作業やってても、話すことなんてねぇ。あるとすれば、暗い話さ。家内も普段はあの通り明るいけどさ、家に入ると『これからどうしていけばいいんだ』って暗くなる」 「ボランティアさんは、みんな最後に『逆に私たちが元気もらいました』って語って帰っていく。 でも、そうでねぇ。やっぱり元気もらってんのは、オラほ(俺たちの方)なんだ」 …うん。うん。私は噛みしめるように、この話を聞いた。聞いてよかった。 その夜は、カキの生産者が一堂に会していた。 「んじゃ、お先に失礼しまーす」と言って、小舟に乗り、ブイーンっと闇に消える漁師さん。 新鮮。電車でもタクシーでもなく、船で家路につく。 真っ暗な茂みの中でじょぼじょぼ音を立てる。 「加藤くんかぇ」 横で同じように突っ立ってたのは、さっき話を聞かせてくれた彼。 「下の名前で呼んでください」と返す。 「若ぇのに、いい眼をしてるな」 漁師さんはときどき、相手の眼を褒める。郭くんもそうだった。 立ち話をしていると、彼が不意に言う。 「宮城県の中で、一番日の出が早いのはここ唐桑だ」 唐桑は、宮城の最北端と同時に最東端でもある。 「おお、確かに」 「宮城の(復興の)日の出は唐桑から! 俺は唐桑に誇りをもっている」 |