ODRのルーツはeBay
[2018年10月04日(Thu)]
9月21日に一橋大学主催で行われたODR国際シンポジウムの報告です。
シンポジウムのタイトルは「AI・ビッグデータ時代の紛争ガバナンス」。Dispute System Design(紛争システム設計)や裁判手続きのIT化など幅広い内容でした。その中からODR(オンライン紛争解決)について抜粋して報告します。(本シンポジウムとは別の機会に聞いた内容も若干含んでいます。)
前回の記事にも書きましたが、今回のメインゲストのお1人が、eBayとPaypalの紛争解決責任者として、eBayレゾリューション・センターの基礎となる仕組みを作ったコリン・ルールさんでした。
その後コリンさんは、2011年にODRサービス会社Modriaを設立し、現在は、同社を吸収合併したTyler Technologies社において、Eコマースに止まらず、様々な分野でのODRシステムを開発・販売されています。そのルーツは、やはりeBayにあるということでした。
eBayでは、ODRで年間6000万件の紛争を処理しています。その90%は、人間が介入せずにソフトウェアのみで処理が実施されています。グローバルにマーケットプレイスを展開するeBayのレゾリューション・センターには、日々多くの紛争の申告が寄せられます。年間6000万件ということは、1秒間に1.9件、紛争が発生する計算ですね。発生率の説明はありませんでしたが、もちろん取引件数は、その数万倍と想像します。
そのほとんどは数万円程度の取引。裁判はあり得ず、弁護士に依頼するのも費用倒れになる額です。つまりeBayでは、利用者が安心して取引に参加できるようにするため、low value high volume(少額で多数)の紛争を効率的に処理する必要を感じ、ODRのソフトウェアを開発した訳です。
もう一つ、クロスボーダーという点も重要です。eBayでは利用者の所在を問わず取引ができます。国境をまたがった取引の紛争について、どちらの国の法律が適用されるか?という準拠法の問題を意識せずにオンラインで解決できるということも、eBayにとっては必須だったそうです。
裁判外の手続きなので、執行は100%プライベートに行われます。決済システムと連動していることが「事実上の執行力」として機能しています。利用者は、結果に不満であれば訴訟を起こすこともできます(が、99.9%起こさないそうです)。
このような少額の紛争解決にユーザーが求めているのは、「速くて簡単な解決」「電話しなくて良い」「特典や景品なし」「交渉不要」「公正で一貫した取扱い」「プライバシー」だとコリンさんは言います。
ユーザーは、最終的には自分に有利な結論になったとしても、解決までに12日以上かかった場合は満足度が低く、たとえ不利な結論でも「迅速に決着する」ことに価値を感じる、とデータに現れているそうです。
また、ODRを経験したユーザーは、経験したことがないユーザーよりもリピート率が高い、つまりトラブルに遭っても、ODRを通じて、そのプラットフォームへの愛着(ロイヤルティ)が逆に高まるというデータもあるとのこと。
現在のeBayの状況が上記の通りかどうかはわかりませんが、日本国内でもいろいろ参考になる点があるように思います。私が体感する実ニーズとの関係やパネルディスカッションの模様については、日を改めて書きます。
ちなみにTyler TechnologiesのODRは、eBayのようなマーケットプレイスをはじめ、単体のEコマース、決済プラットフォームなどに提供されているそうです。このほか、自治体と個人の紛争(税額への異議申し立て)、保険金関連、製造物責任、オンブズマンによる特定事業分野(通信など)への苦情、プライバシー関連など様々な分野に活用され、もはやlow valueとは言えない紛争の解決手段になっているとか。
利用者は、日常使っているデバイスで紛争解決までできることに価値を見出しています。しかしメールやSNSは紛争解決のためのツールではないので、高額の紛争となれば、やはりセキュリティが担保されたODRシステムが必要ということだと思います。
更に同社のODRは、米国各州や英国、カナダの裁判所でも続々と(?)採用されているそうです。e-filing、つまり双方の主張や希望する解決をシステムに入力することで、法廷に出る前の論点整理が効率的にできるという活用方法が基本だと思います。加えて離婚訴訟などでは、ODRの段階で和解に至り、自動生成された書面を裁判所が認証するだけで手続きが終わるケースもあるようです。フロアからは、「IT化に後ろ向きな日本の裁判所にもこの話を聞かせたい」という声が上がりました。
訴訟大国アメリカでも、一般国民にとってはやはり裁判所は敷居が高く、紛争を抱えても97%の人は訴訟をしないというデータがあるとか。ODRは、そのような潜在的紛争にも「司法へのアクセスの機会」を提供するもので、決して「訴訟の代替手段(alternative)」ではないのだ、というお話が印象的でした。
シンポジウムのタイトルは「AI・ビッグデータ時代の紛争ガバナンス」。Dispute System Design(紛争システム設計)や裁判手続きのIT化など幅広い内容でした。その中からODR(オンライン紛争解決)について抜粋して報告します。(本シンポジウムとは別の機会に聞いた内容も若干含んでいます。)
前回の記事にも書きましたが、今回のメインゲストのお1人が、eBayとPaypalの紛争解決責任者として、eBayレゾリューション・センターの基礎となる仕組みを作ったコリン・ルールさんでした。
その後コリンさんは、2011年にODRサービス会社Modriaを設立し、現在は、同社を吸収合併したTyler Technologies社において、Eコマースに止まらず、様々な分野でのODRシステムを開発・販売されています。そのルーツは、やはりeBayにあるということでした。
eBayでは、ODRで年間6000万件の紛争を処理しています。その90%は、人間が介入せずにソフトウェアのみで処理が実施されています。グローバルにマーケットプレイスを展開するeBayのレゾリューション・センターには、日々多くの紛争の申告が寄せられます。年間6000万件ということは、1秒間に1.9件、紛争が発生する計算ですね。発生率の説明はありませんでしたが、もちろん取引件数は、その数万倍と想像します。
そのほとんどは数万円程度の取引。裁判はあり得ず、弁護士に依頼するのも費用倒れになる額です。つまりeBayでは、利用者が安心して取引に参加できるようにするため、low value high volume(少額で多数)の紛争を効率的に処理する必要を感じ、ODRのソフトウェアを開発した訳です。
もう一つ、クロスボーダーという点も重要です。eBayでは利用者の所在を問わず取引ができます。国境をまたがった取引の紛争について、どちらの国の法律が適用されるか?という準拠法の問題を意識せずにオンラインで解決できるということも、eBayにとっては必須だったそうです。
裁判外の手続きなので、執行は100%プライベートに行われます。決済システムと連動していることが「事実上の執行力」として機能しています。利用者は、結果に不満であれば訴訟を起こすこともできます(が、99.9%起こさないそうです)。
このような少額の紛争解決にユーザーが求めているのは、「速くて簡単な解決」「電話しなくて良い」「特典や景品なし」「交渉不要」「公正で一貫した取扱い」「プライバシー」だとコリンさんは言います。
ユーザーは、最終的には自分に有利な結論になったとしても、解決までに12日以上かかった場合は満足度が低く、たとえ不利な結論でも「迅速に決着する」ことに価値を感じる、とデータに現れているそうです。
また、ODRを経験したユーザーは、経験したことがないユーザーよりもリピート率が高い、つまりトラブルに遭っても、ODRを通じて、そのプラットフォームへの愛着(ロイヤルティ)が逆に高まるというデータもあるとのこと。
現在のeBayの状況が上記の通りかどうかはわかりませんが、日本国内でもいろいろ参考になる点があるように思います。私が体感する実ニーズとの関係やパネルディスカッションの模様については、日を改めて書きます。
ちなみにTyler TechnologiesのODRは、eBayのようなマーケットプレイスをはじめ、単体のEコマース、決済プラットフォームなどに提供されているそうです。このほか、自治体と個人の紛争(税額への異議申し立て)、保険金関連、製造物責任、オンブズマンによる特定事業分野(通信など)への苦情、プライバシー関連など様々な分野に活用され、もはやlow valueとは言えない紛争の解決手段になっているとか。
利用者は、日常使っているデバイスで紛争解決までできることに価値を見出しています。しかしメールやSNSは紛争解決のためのツールではないので、高額の紛争となれば、やはりセキュリティが担保されたODRシステムが必要ということだと思います。
更に同社のODRは、米国各州や英国、カナダの裁判所でも続々と(?)採用されているそうです。e-filing、つまり双方の主張や希望する解決をシステムに入力することで、法廷に出る前の論点整理が効率的にできるという活用方法が基本だと思います。加えて離婚訴訟などでは、ODRの段階で和解に至り、自動生成された書面を裁判所が認証するだけで手続きが終わるケースもあるようです。フロアからは、「IT化に後ろ向きな日本の裁判所にもこの話を聞かせたい」という声が上がりました。
訴訟大国アメリカでも、一般国民にとってはやはり裁判所は敷居が高く、紛争を抱えても97%の人は訴訟をしないというデータがあるとか。ODRは、そのような潜在的紛争にも「司法へのアクセスの機会」を提供するもので、決して「訴訟の代替手段(alternative)」ではないのだ、というお話が印象的でした。