まほろば 自殺知らず?(朝日新聞/奈良)
[2008年06月29日(Sun)]
2008年06月29日
朝日新聞
asahi.com>マイタウン>奈良
まほろば 自殺知らず?
http://mytown.asahi.com/nara/news.php?k_id=30000000806290003
◆ 少ない脳疾患/あつい信仰心 飲酒量少なく/過疎化緩やか
◎県、厚労省統計で全国最低◎
奈良県の自殺の少なさが際立っている。住所地で集計した
厚生労働省の統計では全国最低。発生場所でみる警察庁の統計でも、
神奈川に次いで下から2番目。なぜ奈良は少ないのか。
(佐々木洋輔)
■ 病気の傾向注目
厚労省の人口動態統計によると、奈良県のここ10年間の自殺率
(人口10万人あたりの自殺者数)は5度も全国最下位だ。
自殺者が3万人を超えた98年以降、全国平均が25人前後で推移するなか、
県は17〜20人台と低率を維持する=グラフ。
警察庁の07年の統計では20・9人で、神奈川の20・8人に次いで少ない。
同庁の統計は原因・動機も分析し、特定できた人のうちの
6割強を健康問題が占めて最多だった。
自殺率の低さを分析している県健康増進課は、病気の傾向に着目する。
担当者は
「自殺が多い東北地方は脳血管疾患による死亡率が高いのに対し、
奈良は極めて低い。脳の疾患は障害が残ったり寝たきりになったり
することも多く、本人の自殺や介護負担の重さなどから
周囲の自殺も招きやすいのでは」という。
■ あつい信仰心
自殺予防の最前線はどうみるのか。奈良いのちの電話協会
(奈良市西大寺本町)は、年中無休の24時間態勢で
ボランティアの相談員が3台の電話で相談を受けている。
昨年は計2万4941件が寄せられ、1日平均約70件にのぼる。
いのちの電話の開設は79年と全国でも古い方。
「いのちの電話の開設が古い地域の方が自殺率は低い傾向にある」
という高橋みのり事務局長は、奈良の神社仏閣の多さも指摘する。
「信仰心のあつさが、命を大切にする精神に
根付いているのかもしれません」
■ 酒の消費量
大阪府自殺対策連絡協議会の会長を務める奈良女子大の
清水新二教授(社会病理学)は、自殺率とアルコール消費量の
因果関係に注目する。アルコール消費量が多い地域は
依存症やうつ病の発症が多く、自殺と結びつきやすいためだ。
自殺率が高い高知や秋田、青森、宮崎は、
1人あたりのアルコール消費量もそれぞれ4、5、6、7位
(06年、国税庁調べ)と多い。一方、奈良は三重と並び最下位で、
滋賀は下から2番目。三重と滋賀の自殺率は平均以下だ。
「アルコールは一時的に気分が晴れるが、問題の根本的解決にならない」
地域社会の安定性も自殺に関係するとみる。
奈良は都市部に比べ人口の流動性が低く、互助の精神が残っている一方、
都市部が近いことから経済的な立地条件は悪くない。
過疎化の進行が比較的緩やかな点も影響しているだろうという。
ただ清水教授は、いつまでも自殺率が低いとは限らないと
警鐘を鳴らす。凶悪犯罪の増加や体感治安の悪化は
地域社会の崩壊の兆しであるためだ。
「そもそも自殺は1つひとつが深刻な事例。遺族の傷も深い。
県は予防や啓発にもっと力を注ぐべきだ」と指摘する。
(2008年06月29日 朝日新聞)
朝日新聞
asahi.com>マイタウン>奈良
まほろば 自殺知らず?
http://mytown.asahi.com/nara/news.php?k_id=30000000806290003
◆ 少ない脳疾患/あつい信仰心 飲酒量少なく/過疎化緩やか
◎県、厚労省統計で全国最低◎
奈良県の自殺の少なさが際立っている。住所地で集計した
厚生労働省の統計では全国最低。発生場所でみる警察庁の統計でも、
神奈川に次いで下から2番目。なぜ奈良は少ないのか。
(佐々木洋輔)
■ 病気の傾向注目
厚労省の人口動態統計によると、奈良県のここ10年間の自殺率
(人口10万人あたりの自殺者数)は5度も全国最下位だ。
自殺者が3万人を超えた98年以降、全国平均が25人前後で推移するなか、
県は17〜20人台と低率を維持する=グラフ。
警察庁の07年の統計では20・9人で、神奈川の20・8人に次いで少ない。
同庁の統計は原因・動機も分析し、特定できた人のうちの
6割強を健康問題が占めて最多だった。
自殺率の低さを分析している県健康増進課は、病気の傾向に着目する。
担当者は
「自殺が多い東北地方は脳血管疾患による死亡率が高いのに対し、
奈良は極めて低い。脳の疾患は障害が残ったり寝たきりになったり
することも多く、本人の自殺や介護負担の重さなどから
周囲の自殺も招きやすいのでは」という。
■ あつい信仰心
自殺予防の最前線はどうみるのか。奈良いのちの電話協会
(奈良市西大寺本町)は、年中無休の24時間態勢で
ボランティアの相談員が3台の電話で相談を受けている。
昨年は計2万4941件が寄せられ、1日平均約70件にのぼる。
いのちの電話の開設は79年と全国でも古い方。
「いのちの電話の開設が古い地域の方が自殺率は低い傾向にある」
という高橋みのり事務局長は、奈良の神社仏閣の多さも指摘する。
「信仰心のあつさが、命を大切にする精神に
根付いているのかもしれません」
■ 酒の消費量
大阪府自殺対策連絡協議会の会長を務める奈良女子大の
清水新二教授(社会病理学)は、自殺率とアルコール消費量の
因果関係に注目する。アルコール消費量が多い地域は
依存症やうつ病の発症が多く、自殺と結びつきやすいためだ。
自殺率が高い高知や秋田、青森、宮崎は、
1人あたりのアルコール消費量もそれぞれ4、5、6、7位
(06年、国税庁調べ)と多い。一方、奈良は三重と並び最下位で、
滋賀は下から2番目。三重と滋賀の自殺率は平均以下だ。
「アルコールは一時的に気分が晴れるが、問題の根本的解決にならない」
地域社会の安定性も自殺に関係するとみる。
奈良は都市部に比べ人口の流動性が低く、互助の精神が残っている一方、
都市部が近いことから経済的な立地条件は悪くない。
過疎化の進行が比較的緩やかな点も影響しているだろうという。
ただ清水教授は、いつまでも自殺率が低いとは限らないと
警鐘を鳴らす。凶悪犯罪の増加や体感治安の悪化は
地域社会の崩壊の兆しであるためだ。
「そもそも自殺は1つひとつが深刻な事例。遺族の傷も深い。
県は予防や啓発にもっと力を注ぐべきだ」と指摘する。
(2008年06月29日 朝日新聞)