2012(平成24)年03月18日(日)
毎日新聞 東京朝刊
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医療&健康ナビ:精神医療のセカンドオピニオン どんな場合に検討すべきでしょうか。
http://mainichi.jp/select/science/news/20120318ddm013100032000c.html◇治療の疑問、不安解消を
がんや脳卒中、急性心筋梗塞(こうそく)、糖尿病の
「4疾病」に加え、「5疾病」として
新たに重点的に対策に取り組むことになった精神疾患。
患者数は約323万人(08年)にも上るが、
治療への疑問や不満も少なくないという。
専門家は
「場合によっては精神科でも
セカンドオピニオンを求めた方がいい。」
と指摘する。
◇服薬1回20錠
東京都内の女性(17)は07年春、地元の中学校に入学。
人付き合いが不得意で、拒食症状が出始めるなどし、
徐々に登校できなくなった。
自治体の相談室の臨床心理士に教えてもらった
心療内科診療所を受診。
医師に勧められ、その年の7月、総合病院の精神科に入院した。
面会謝絶で1週間ぶりに娘と顔を合わせた
母親(51)は驚いた。
目はうつろで、看護師に脇を支えられないと
ふらついて歩けなくなっていた。
適応障害で3カ月の入院と診断された。
○
しかし、3カ月たっても症状はよくならない。
不安を訴えると向精神薬の量が増えた。
2008年の冬、1回の服薬量は8種類で計20錠に。
母親は
「普通じゃない。」
と感じ、ネットを通じてたどり着いた
別の診療所の医師にセカンドオピニオンを求めた。
「薬を減らせば症状はよくなる。」
と助言され、娘を退院させた。
医師の指導に従い、時間をかけて減らしていくと
「食べたくない。」
「不安になる。」
といった症状が1つずつなくなっていった。
服用していた向精神薬がゼロになったのは昨年8月。
入院前の表情が戻った女性は今、高校に通っている。
◇客観的指標なく
なぜ患者は診断や処方に疑問を持つのか。
日本精神神経学会の薬事委員を務める北里大学精神科の
宮岡 等教授は
「私個人の見解だが、精神科の診断では客観的な指標がなく、
患者さんの話から症状を判断する。
性格や環境によっても差が出やすい。」
と指摘。
患者ごとに治療方針を変えざるを得ない部分が大きいため、
一般的な治療指針を作るのが難しいという。
また、国立精神・神経医療研究センターの
松本俊彦・診断治療開発研究室長は
「診療時間が短く患者が医師を信頼せず、
薬をもらうだけの関係になりやすい。」
と言う。
宮岡教授は、患者が主治医以外の意見を求めた方がいい
いくつかのケースを紹介している。
◇初めての治療で同系統の薬剤が2種類以上処方された
向精神薬は、
▽抗うつ薬
▽気分調整薬
▽抗精神病薬
▽抗不安薬
▽睡眠薬
−−などに分けられる。
宮岡教授は
「通常、最初から同じ系統の薬を
2種類以上処方することはない。」
と話す。
◇精神療法しかない、薬物療法しかないなど
治療方法が1つしかないかのように説明された
精神疾患の治療では、いくつかの治療法が示され、
医師と相談しながら方針を決めていく。
薬物療法が中心でも、職場環境の調整やストレスへの対処、
家族の対応の仕方などに助言が必要なことが多いためだ。
◇夜間や休日は一切対応できないと言われた
病院など日直や当直の精神科医がいる医療機関は、
電話などで対応してくれる場合が多い。
院長から携帯電話の番号を伝えられ、
具合が悪いときに助言してくれたり、提携の医療機関に
時間外診療を依頼してくれたりする場合もある。
◇治療を続けている段階で
「症状が悪くなった。」
と言うと薬がどんどん増えた
症状の悪化や薬の副作用、薬を減らしたことによる
離脱症状は区別しにくい場合があり、
薬を増やしたり減らしたりすることで対応すべきか、
環境を調整するなど他の方法で対応した方がいいのか
慎重な判断が求められる。
ただし、こうした指標に当てはまっても
適切な治療がなされていることもあり、必ずしも
主治医の治療方法が好ましくないということではない。
宮岡教授は
「すぐに主治医を代えたり自分で薬を減らしたりせず、
複数の医師の意見を聞いてみてほしい。」
と話す。 【奥山智己】
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■北里大の宮岡等教授が指摘する
主治医以外にも相談した方がいい主なケース
◇初めてかかった時
□記述式アンケートだけで診断しているようにみえる
□うつ病の症状だけ質問され
「抗うつ薬を飲み休めば治る。」と説明された
□薬の副作用の説明がない、
または副作用なしと説明された
◇治療を続けている時
□同系統の薬剤が3種類以上処方されている
□長期間の精神療法やカウンセリングでも改善しない
□医師が説明を拒んだり、質問しにくいような雰囲気になる
毎日新聞 東京朝刊 2012年03月25日(日)