こころナビ:ゲートキーパーの役割は。(毎日新聞)
[2012年03月06日(Tue)]
2012(平成24)年03月06日(火)
毎日新聞 東京朝刊
トップ>ライフスタイル>新着記事
こころナビ:ゲートキーパーの役割は。
http://mainichi.jp/life/today/news/20120306ddm013100029000c.html
◇「もしや」の視点で自殺防止
◇サイン見落とさずに 気付くだけでなく支援も
自殺者は98年に3万人を超え、
昨年も3万584人(暫定値)に上った。
3月は国の自殺対策強化月間で、キャッチフレーズは
「あなたもゲートキーパー宣言!」
批判を受けて引っこめられた「GKB47宣言」の
騒動はともかく、ゲートキーパーの役割と課題を探った。
「AKB48」をイメージキャラクターに起用した
自殺対策強化月間のポスター
=東京都渋谷区のJR渋谷駅で
□
東京都足立区こころといのち支援担当課長、
馬場優子さんは、つらい体験を持つ。
2000年暮れ、保健師として
以前に健康相談にのった50代の男性が
「大変世話になったのでお礼が言いたい。」
と訪ねてきた。
いつも作業着姿だった男性が、その日はスーツにネクタイ姿。
違和感はあったが、
「ご丁寧にありがとう。」
だけで済ませた。
翌朝、男性は帰らぬ人に。馬場さんは
「せっかくだから相談室で話をしましょうと、
なぜ言わなかったか。」
と悔やむ。
英語で「門番」を意味する「ゲートキーパー」。
内閣府自殺対策推進室によると、
悩んでいる人に気付き、声をかけ、話を聞いて、
必要な支援につなげ、見守る人を指す。
世界保健機関(WHO)をはじめ、
自殺対策分野で広く使われる用語だ。
医師や弁護士、民生委員らだけでなく、
強化月間で政府は「全員参加」を掲げ、
一般市民にも行動を呼びかける。
東京都足立区は06年の自殺者が23区で最悪の
161人となり、2008年から自殺対策事業を進めている。
「ゲートキーパー養成研修」を始め、全職員の受講を目指す。
雇用や年金、健康など複数の問題を抱えた区民の情報を、
各窓口で共有する「つなぐシート」も導入。
昨年の自殺者は、前年比約22%減
(東京都全体では5%増)となった。
馬場さんは
「自殺者の7割以上が何らかの相談機関を訪れていた
とされ、サインが見落とされている。
『まさか』でなく、みんなが『もしや』と心がければ、
自殺は防げるはず。」
と話す。
□
「悩みを聞くだけでなく、再出発までしっかり寄り添い、
具体的に対応して支え続けることが大切。」
福井県坂井市の景勝地「東尋坊」で自殺防止に取り組む
元警察官、茂(しげ)幸雄さんは強調する。
茂さんは、地元有志でつくる
自殺防止のNPO法人「心に響く文集・編集局」の代表。
東尋坊では毎年20人前後が自ら命を絶ち、
会では毎日3人態勢で巡回している。
2004年の会発足以来、
364人の自殺を食い止めてきた。
昨年11月の夕暮れ、断崖にたたずむ男性(60)がいた。
沈んだ様子が気になり、茂さんが
「どちらからお越しですか。」
と声をかけると、男性は
「死ぬために来た。」
妻に先立たれ、週2回のパートをやっと見つけたが、
仕事中に足を負傷して働けなくなった。
補償はなく、解約した生命保険も底を突いた。
生活保護を申し込んだが、なかなか認定されず、
「もう生きていけなくなった。」
という。
男性は、同会の「シェルター」に保護された。
茂代表が市役所に同行すると、すぐに生活保護が認められ、
男性は生活を立て直すことができた。
シェルターは企業の元社員寮を活用し6室ある。
賃貸料全額を国が補助し、食費や生活費を会が負担。
保護された人は約1カ月滞在し助けを借りながら
職探しや通院をし、再スタートを切る。
「病院で薬漬けになった人、
上司に相談したが退職を勧められた人、
生活保護を門前払いされた人。
みんな、ゲートキーパーになるべき人に期待を裏切られ、
東尋坊にやって来る。」
と茂さんはこぼす。
NPO法人「自殺対策支援センター・ライフリンク」の
清水康之代表は
「あなたもゲートキーパーに、
というほど簡単ではない。」
と指摘する。
「自殺は例えば、
『失業→生活苦→多重債務→うつ病』
のように幾つかの要因が重なり合って起きる。
『気付こう。』と口で言うのはたやすいが、
より重要なのは、気付いた後に頼ることができる
相談窓口や専門家の存在。
いまはそれがないから『気付きたくても気付けない。』
国は、せめて都道府県に1つずつ
シェルターを作るべきだ。」
と力を込めた。 【丹野恒一】
==============
■「死にたい」と打ち明けられたら
<傾聴のポイント>
・真剣な態度で「自殺」のことを聴く、話す
・相手のペースに合わせる(せかさない)
・共感を伝える
例:「死にたいと思うほどつらかったんですね。」
「よく耐えてきましたね。」
「もしよかったら、心配なことを
話してくれませんか。」
<言ってはいけない言葉>
「頑張れ。」
「命を粗末にするな。」
「逃げてはダメだ。」
「そのうちどうにかなるよ。」
※ 東京都足立区の『ゲートキーパー手帳』から
■自殺対策強化月間の特設サイト
(http://promotion.yahoo.co.jp/gatekeeper/)
自殺につながるさまざまな悩みの相談窓口を紹介している。
職業や場面に応じた対応法を学ぶ
「ゲートキーパー養成講座」の動画も見ることができる。
毎日新聞 東京朝刊 2012年03月06日(火)
毎日新聞 東京朝刊
トップ>ライフスタイル>新着記事
こころナビ:ゲートキーパーの役割は。
http://mainichi.jp/life/today/news/20120306ddm013100029000c.html
◇「もしや」の視点で自殺防止
◇サイン見落とさずに 気付くだけでなく支援も
自殺者は98年に3万人を超え、
昨年も3万584人(暫定値)に上った。
3月は国の自殺対策強化月間で、キャッチフレーズは
「あなたもゲートキーパー宣言!」
批判を受けて引っこめられた「GKB47宣言」の
騒動はともかく、ゲートキーパーの役割と課題を探った。
「AKB48」をイメージキャラクターに起用した
自殺対策強化月間のポスター
=東京都渋谷区のJR渋谷駅で
□
東京都足立区こころといのち支援担当課長、
馬場優子さんは、つらい体験を持つ。
2000年暮れ、保健師として
以前に健康相談にのった50代の男性が
「大変世話になったのでお礼が言いたい。」
と訪ねてきた。
いつも作業着姿だった男性が、その日はスーツにネクタイ姿。
違和感はあったが、
「ご丁寧にありがとう。」
だけで済ませた。
翌朝、男性は帰らぬ人に。馬場さんは
「せっかくだから相談室で話をしましょうと、
なぜ言わなかったか。」
と悔やむ。
英語で「門番」を意味する「ゲートキーパー」。
内閣府自殺対策推進室によると、
悩んでいる人に気付き、声をかけ、話を聞いて、
必要な支援につなげ、見守る人を指す。
世界保健機関(WHO)をはじめ、
自殺対策分野で広く使われる用語だ。
医師や弁護士、民生委員らだけでなく、
強化月間で政府は「全員参加」を掲げ、
一般市民にも行動を呼びかける。
東京都足立区は06年の自殺者が23区で最悪の
161人となり、2008年から自殺対策事業を進めている。
「ゲートキーパー養成研修」を始め、全職員の受講を目指す。
雇用や年金、健康など複数の問題を抱えた区民の情報を、
各窓口で共有する「つなぐシート」も導入。
昨年の自殺者は、前年比約22%減
(東京都全体では5%増)となった。
馬場さんは
「自殺者の7割以上が何らかの相談機関を訪れていた
とされ、サインが見落とされている。
『まさか』でなく、みんなが『もしや』と心がければ、
自殺は防げるはず。」
と話す。
□
「悩みを聞くだけでなく、再出発までしっかり寄り添い、
具体的に対応して支え続けることが大切。」
福井県坂井市の景勝地「東尋坊」で自殺防止に取り組む
元警察官、茂(しげ)幸雄さんは強調する。
茂さんは、地元有志でつくる
自殺防止のNPO法人「心に響く文集・編集局」の代表。
東尋坊では毎年20人前後が自ら命を絶ち、
会では毎日3人態勢で巡回している。
2004年の会発足以来、
364人の自殺を食い止めてきた。
昨年11月の夕暮れ、断崖にたたずむ男性(60)がいた。
沈んだ様子が気になり、茂さんが
「どちらからお越しですか。」
と声をかけると、男性は
「死ぬために来た。」
妻に先立たれ、週2回のパートをやっと見つけたが、
仕事中に足を負傷して働けなくなった。
補償はなく、解約した生命保険も底を突いた。
生活保護を申し込んだが、なかなか認定されず、
「もう生きていけなくなった。」
という。
男性は、同会の「シェルター」に保護された。
茂代表が市役所に同行すると、すぐに生活保護が認められ、
男性は生活を立て直すことができた。
シェルターは企業の元社員寮を活用し6室ある。
賃貸料全額を国が補助し、食費や生活費を会が負担。
保護された人は約1カ月滞在し助けを借りながら
職探しや通院をし、再スタートを切る。
「病院で薬漬けになった人、
上司に相談したが退職を勧められた人、
生活保護を門前払いされた人。
みんな、ゲートキーパーになるべき人に期待を裏切られ、
東尋坊にやって来る。」
と茂さんはこぼす。
NPO法人「自殺対策支援センター・ライフリンク」の
清水康之代表は
「あなたもゲートキーパーに、
というほど簡単ではない。」
と指摘する。
「自殺は例えば、
『失業→生活苦→多重債務→うつ病』
のように幾つかの要因が重なり合って起きる。
『気付こう。』と口で言うのはたやすいが、
より重要なのは、気付いた後に頼ることができる
相談窓口や専門家の存在。
いまはそれがないから『気付きたくても気付けない。』
国は、せめて都道府県に1つずつ
シェルターを作るべきだ。」
と力を込めた。 【丹野恒一】
==============
■「死にたい」と打ち明けられたら
<傾聴のポイント>
・真剣な態度で「自殺」のことを聴く、話す
・相手のペースに合わせる(せかさない)
・共感を伝える
例:「死にたいと思うほどつらかったんですね。」
「よく耐えてきましたね。」
「もしよかったら、心配なことを
話してくれませんか。」
<言ってはいけない言葉>
「頑張れ。」
「命を粗末にするな。」
「逃げてはダメだ。」
「そのうちどうにかなるよ。」
※ 東京都足立区の『ゲートキーパー手帳』から
■自殺対策強化月間の特設サイト
(http://promotion.yahoo.co.jp/gatekeeper/)
自殺につながるさまざまな悩みの相談窓口を紹介している。
職業や場面に応じた対応法を学ぶ
「ゲートキーパー養成講座」の動画も見ることができる。
毎日新聞 東京朝刊 2012年03月06日(火)