自殺予防、ひざつきあわせ学ぶ 兵庫の学生が現地調査(朝日新聞/秋田)
[2010年09月16日(Thu)]
2010(平成22)年09月16日(木)
朝日新聞
asahi.com>マイタウン>秋田
自殺予防、ひざつきあわせ学ぶ 兵庫の学生が現地調査
http://mytown.asahi.com/areanews/akita/TKY201009150394.html
公民館で山崎ツル子さん(手前左)の話を聴く
前田麻更さん(手前右)=由利本荘市前郷
自殺予防学を学ぶ学生たちが授業の一環で
旧由利町(由利本荘市)の高齢者たちを訪ね、
健康状態について聞き取り調査をした。
中には、自殺や病気で家族を亡くした人もおり、
学生たちは戸惑いつつも真剣に向き合った。
結果を元に、地域ができる自殺予防対策をまとめ、
10月の学園祭で発表する。
●
調査したのは関西国際大学人間科学部(兵庫県三木市)の
学生11人。8月22、23日、約20人の高齢者を訪ねた。
「最近は町に若者が減って寂しいなぁ」
「近所の人がいるから独り暮らしの不安はないよ」。
22日昼、同町の公民館。山崎ツル子さん(85)が
3年生の前田麻更(あさふ)さん(20)とひざをつき合わせて
いた。話は地域の現状にも及び、約1時間続いた。
「孫と話してるみたいで楽しかった。めんこいもんなぁ」。
終了後、山崎さんが言うと、前田さんがすかさず返した。
「ほな、今度デートしましょか」。
2人は顔を見合わせ、笑った。
●
学生を引率するのは同大の渡辺直樹教授(自殺予防学)。
精神科医として1997年から同町の自殺予防活動をサポート
してきた。学生による高齢者の調査を始めたのは2年前からだ。
「安心して暮らしているか」
「困ったことはないか、その解決方法は」
などと尋ね、健康状態や悩みを聞き出す。
調査には渡辺教授とともに自殺予防活動をしてきた
民間団体のホットハート由利が協力している。
学生たちは訪問にあたり、臨床心理士から、
話を聴く心構えやコツを学んだ。
だが、実際に調査していくうち、高齢者が抱える現実に、
多くの学生が戸惑った。
大学院1年生の明石恵理奈さん(22)は
70歳代の独り暮らしの女性の家を訪問した。
「ダンナさんを亡くしてから随分になりますね。
生活は大丈夫ですか」。
同行したホットハート由利の会員が声をかけたとき、
黙ってうなずく女性の目が少しうるんだ。
●
後になって渡辺教授から、この女性の夫が自殺したと知らされた。
「もしかしてそうかもと思ったけど、
実際に目の前にいると何も聞けなかった」
前田さんも、家族が自殺したという女性宅を訪れた。
女性がこの家族の話題に触れたが、
「話すことでつらい気持ちになるのでは」
と思い、何も聞けなかった。
3年生の河相大介さん(20)は思い切って
自分の体験をぶつけてみた。
訪問した80歳代の女性は昨年、息子を病気で亡くした。
「いつも息子のことが頭にある。1人になってしまい寂しい」。
女性は終始うつむき加減で繰り返した。
今も息子の仏壇の前に布団を敷いて寝ているという。
河相さんは静かに語りかけた。
「僕の母も息子を亡くしました。
母はあなたと同じ気持ちだったと思います」。
河相さんの兄は1歳で病死した。
女性は顔を上げて河相さんを見つめた。
さらに、考えを話した。
「人は死んでも、誰かの心の中で生きることができる。
あなたの心の中に息子さんは生きている。
そして、あなたが僕に息子さんのことを話してくれたお陰で、
僕の心の中でも息子さんは生きています」
翌日、再び女性の家を訪れると、笑顔で声をかけられた。
「あんたと話したお陰で、昨日はよく眠れた。ありがとう」
●
渡辺教授によると、高齢者は学生に話すことで、
自分の生活を振り返り、地域との結びつきを再確認できるという。
「自殺という言葉を使わなくても、
こうした取り組みが自殺予防につながる。
学生たちも高齢者の生きる努力や優しさに触れ、
多くのことを学んだと思う」
と話している。 (田中祐也)
朝日新聞 2010年09月16日(木)
朝日新聞
asahi.com>マイタウン>秋田
自殺予防、ひざつきあわせ学ぶ 兵庫の学生が現地調査
http://mytown.asahi.com/areanews/akita/TKY201009150394.html
公民館で山崎ツル子さん(手前左)の話を聴く
前田麻更さん(手前右)=由利本荘市前郷
自殺予防学を学ぶ学生たちが授業の一環で
旧由利町(由利本荘市)の高齢者たちを訪ね、
健康状態について聞き取り調査をした。
中には、自殺や病気で家族を亡くした人もおり、
学生たちは戸惑いつつも真剣に向き合った。
結果を元に、地域ができる自殺予防対策をまとめ、
10月の学園祭で発表する。
●
調査したのは関西国際大学人間科学部(兵庫県三木市)の
学生11人。8月22、23日、約20人の高齢者を訪ねた。
「最近は町に若者が減って寂しいなぁ」
「近所の人がいるから独り暮らしの不安はないよ」。
22日昼、同町の公民館。山崎ツル子さん(85)が
3年生の前田麻更(あさふ)さん(20)とひざをつき合わせて
いた。話は地域の現状にも及び、約1時間続いた。
「孫と話してるみたいで楽しかった。めんこいもんなぁ」。
終了後、山崎さんが言うと、前田さんがすかさず返した。
「ほな、今度デートしましょか」。
2人は顔を見合わせ、笑った。
●
学生を引率するのは同大の渡辺直樹教授(自殺予防学)。
精神科医として1997年から同町の自殺予防活動をサポート
してきた。学生による高齢者の調査を始めたのは2年前からだ。
「安心して暮らしているか」
「困ったことはないか、その解決方法は」
などと尋ね、健康状態や悩みを聞き出す。
調査には渡辺教授とともに自殺予防活動をしてきた
民間団体のホットハート由利が協力している。
学生たちは訪問にあたり、臨床心理士から、
話を聴く心構えやコツを学んだ。
だが、実際に調査していくうち、高齢者が抱える現実に、
多くの学生が戸惑った。
大学院1年生の明石恵理奈さん(22)は
70歳代の独り暮らしの女性の家を訪問した。
「ダンナさんを亡くしてから随分になりますね。
生活は大丈夫ですか」。
同行したホットハート由利の会員が声をかけたとき、
黙ってうなずく女性の目が少しうるんだ。
●
後になって渡辺教授から、この女性の夫が自殺したと知らされた。
「もしかしてそうかもと思ったけど、
実際に目の前にいると何も聞けなかった」
前田さんも、家族が自殺したという女性宅を訪れた。
女性がこの家族の話題に触れたが、
「話すことでつらい気持ちになるのでは」
と思い、何も聞けなかった。
3年生の河相大介さん(20)は思い切って
自分の体験をぶつけてみた。
訪問した80歳代の女性は昨年、息子を病気で亡くした。
「いつも息子のことが頭にある。1人になってしまい寂しい」。
女性は終始うつむき加減で繰り返した。
今も息子の仏壇の前に布団を敷いて寝ているという。
河相さんは静かに語りかけた。
「僕の母も息子を亡くしました。
母はあなたと同じ気持ちだったと思います」。
河相さんの兄は1歳で病死した。
女性は顔を上げて河相さんを見つめた。
さらに、考えを話した。
「人は死んでも、誰かの心の中で生きることができる。
あなたの心の中に息子さんは生きている。
そして、あなたが僕に息子さんのことを話してくれたお陰で、
僕の心の中でも息子さんは生きています」
翌日、再び女性の家を訪れると、笑顔で声をかけられた。
「あんたと話したお陰で、昨日はよく眠れた。ありがとう」
●
渡辺教授によると、高齢者は学生に話すことで、
自分の生活を振り返り、地域との結びつきを再確認できるという。
「自殺という言葉を使わなくても、
こうした取り組みが自殺予防につながる。
学生たちも高齢者の生きる努力や優しさに触れ、
多くのことを学んだと思う」
と話している。 (田中祐也)
朝日新聞 2010年09月16日(木)