2010(平成22)年02月27日(土)
毎日新聞 地域版
トップ>地域ニュース>秋田
救える命・自殺未遂者を支える:
第1部・現場/4 相次ぐ精神科病棟休止/秋田
http://mainichi.jp/area/akita/news/20100227ddlk05040004000c.html
◇地域との連携に難題
09年11月半ばの深夜、厚生連由利組合総合病院
(由利本荘市)の夜間救急に、10代後半の男性がやってきた。
統合失調症の病歴があり、自傷の恐れに加え、
「殺したい」
などと口走ったのを心配した家族が連れてきたのだった。
病院はすぐ自宅に待機していたこの日の当番医に連絡。
当番医が救急車で付き添って、
精神科専門の秋田東病院(秋田市)に引き継いだ。
◆
由利本荘市の救急搬送先の65%を占め、
本荘・由利地域の医療の中核を担う同病院。
しかし常勤の精神科医がいなくなり、
08年1月に精神科病棟を休止した。
平日の外来は秋田大からの派遣で対応するが、
夜間は県の「精神科救急医療システム」に基づき、
輪番制の当番精神科病院に受け入れてもらう。
内閣府の自殺対策白書で示された世界保健機関の統計では、
自殺者の6割以上がうつ病などの精神疾患を抱えていた。
精神科救急は、自殺未遂者のケアとも密接な関係がある。
本荘・由利地域は域内の受け入れ先が2病院のみで、
秋田市か大仙市がほとんどだ。
由利組合の菊地顕次院長は
「当番を務める精神科以外の医師が輪番の病院と連携し、
全体で機能を維持している」
と話す。
◆
県によると、精神科病棟がありながら休止している
総合病院(09年4月現在)は由利組合のほか、
鹿角組合、米内沢の2病院。
地域の中核的な位置付けである平鹿、雄勝、仙北、秋田の
各組合病院などは、精神科病院と機能分担し
精神科病棟自体を持たない。
自殺未遂者をフォローするためには、入り口となる
中核病院の救急と地域医療との連携が不可欠となる。
だが入り口が身近な地域でない場合、
その後のケアにつなぐのは容易ではない。
身体の病気から精神的な病気を引き起こす患者もおり、
総合病院で同時に治療が必要な場合もある。
「なんとか精神科病棟を復活してほしい」
との声を住民や地域の診療所などから受ける菊地院長は
「非常に危うい綱渡りをしている。
このままでいいわけではない」
と厳しい現状を吐露する。
◆
自殺未遂をする人の多くは、精神科に行く前に
別の診療科にかかっている。
地域の診療所や病院内の別の科の医師が気づき
専門医に橋渡しすれば、継続ケアにつなげられる。
常勤医確保が困難な状況で、いかにして危険サインを
いち早く察知できるか。菊地院長は言う。
「人はいきなり自殺をするのではなく、必ず前兆がある。
まわりの医師もそれを見逃さないようにすることが大事だ」
=つづく
◇従事医師数に格差
県によると、08年の精神科従事医師数は
秋田周辺医療圏(秋田市、男鹿市など)が
人口10万人当たり19.1人に対し、
湯沢・雄勝 5・5人
大館・鹿角 6・6人
北秋田 7・3人
横手 8・0人
由利本荘・にかほ 8・7人
能代・山本 9・8人
大仙・仙北 15・4人
−−と地域差が大きい。
一方、秋田大医学部付属病院の中永 士師明医師によると、
秋田市消防本部がまとめた県内で自殺を試みた人の
救急搬送事例は05〜07年に1,288例。
人口10万人当たりでみると
由利本荘の53.6が最も多く、次いで鹿角が51.4。
だが両地区とも精神科医が常勤している総合病院は1つもない。
毎日新聞 地方版 2010年02月27日(土)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
2010(平成22)年03月02日(火)
毎日新聞 地方版
トップ>地域ニュース>秋田
救える命・自殺未遂者を支える:
第1部・現場/5 悩む精神保健福祉士/秋田
http://mainichi.jp/area/akita/news/20100302ddlk05040055000c.html
◇支え合う仕組みなく
「私が死なせちゃったのかな……」。
精神保健福祉士の井上祥子さん(28)=仮名=
はかつて、同僚にこう漏らした。
3年前の冬、受け持っていた20歳前後の女性患者が
電話相談の直後に自ら命を絶った。
今は
「中途半端な気持ちで向き合っていたわけではない。
やれることはやった」
と思うようになった。
それでも
「彼女が好きだったミスターチルドレンの曲を聞くたび
思い出す。もっとできることはあったのかなって」。
◆
精神科や精神障害者のデイケアなどの施設で、
医師や作業療法士らと連携しながら
医療者とは違う立場から患者や利用者を支援する精神保健福祉士。
井上さんは中規模病院で、患者の相談に応じる
「医療ソーシャルワーカー」を務めている。
かつて働いた精神障害者の社会復帰施設では、
多くはないが利用者が自殺未遂を起こす場面に何度か遭遇した。
女性患者も未遂を重ねた末の出来事だった。
自殺を図った人のほとんどは若い女性。
不安になって井上さんのもとに電話がかかってくることも
たびたびあった。
とことんかかわればいいというわけではなく、
適度な距離感が必要。
しかし死の願望をほのめかし
自傷や未遂を繰り返す人たちに対して、
「話を聞き、その病状を医師に伝えることしかできない」
もどかしさがあったという。
良くなったと思った人が突然落ち込んで
自殺未遂を起こすこともあり、心理的負担は大きい。
女性の死に触れた井上さんは
「同僚と気持ちを出し合い、それが支えになった」
というが、少ない人数に加えみな同じような悩みを抱える中で、
別の職場へ移った同僚も多い。
「離れた立場の人も含め、もっと支え合う仕組みがあっても
いいのでは」
との思いを抱いている。
◆
心の浮き沈みがあり自殺の危険性を抱える患者もいるが、
「普段は優しい人たちばかりだった」
と井上さんは強調する。
当初は独り言などに怖いイメージを抱いていたが、
仕事で「元気?」と声をかけられ、
こちらが励まされることも多かった。
逆に
「家族が病気を分かってくれない」
との嘆きを何度も聞き、周囲の無理解や偏見で
さらに追い詰められていると考えている。
「精神障害者や自殺未遂者は、人の気持ちに敏感な人が多い。
地域の中で身近に接する機会が増えれば、
理解が深まりケアも広がるのでは」 =つづく
◇登録者、全国43位
財団法人社会福祉振興・試験センターによると、
秋田県の精神保健福祉士(PSW)登録者数は273人。
隣県の青森(418人)、岩手(417人)の6割程度で、
全国でも 鳥取187人▽山梨254人▽山形257人▽
和歌山258人−−に次ぎ5番目に少ない。(1月末現在)
県精神保健福祉士協会によると、秋田看護福祉大が
09年4月に学科を新設する以前は養成機関がなかったことや、
県内で活動する職場の絶対数が少ないという背景がある。
加藤雅史会長は
「PSWの仕事は、病院や相談機関など
社会資源へつなぐ支援をすること。
地域の行政や社会福祉士、臨床心理士など
他職種のネットワークと連携できれば、
自殺未遂者や精神障害者のサポートができる」
と強調する。
毎日新聞 地方版 2010年03月02日(火)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
2010(平成22)年03月03日(水)
毎日新聞 地方版
トップ>地域ニュース>秋田
救える命・自殺未遂者を支える:
第1部・現場/6 信頼構築へ臨床心理士/秋田
http://mainichi.jp/area/akita/news/20100303ddlk05040002000c.html
◇解決への糸口を模索
中通総合病院(秋田市)の臨床心理士、成沢ゆうこさんは、
院内に設けられた日当たりのよい「心理検査室」という一室で
患者の相談を聞き、悩みの解決や軽減に向けた援助をしている。
部屋には、人形や箱庭、子供用のボードゲームなども置かれ、
和やかな雰囲気が漂う。
「患者さんのもやもやした心の状態を表現してもらうため
使うことがある」
と成沢さん。
自殺未遂や自傷の患者ともここで対話し、
解決の糸口を共に探す。
●
同病院では、自殺未遂の患者の救急処置を終えると、
救急医が神経精神科に紹介。
その後、精神科医が自殺の切迫度を確認し、
継続的な治療が必要と判断すれば、成沢さんがケアにかかわる。
ただ、救急の治療後に帰ってしまったり、再受診しないなど、
手前の段階で患者との関係が切れてしまうこともある。
「現状ではその後どうなったのか分からない患者もいる。
きちんと医療につなげたのか、実態を調査しなければ」
精神科医の診察は初診こそ1時間だが、
患者が多く、その後は5分程度。
代わりに成沢さんが1日2人程度、時間をかけて話を聞くという。
「自殺未遂は再度やってしまう危険がある。
じっくりと、少しずつ治していくしかない」。
ただ生活苦など、社会的背景で患者が抱える悩みも
多様化する中で、成沢さんは
「もっと多職種で連携し、医療者同士や患者さん
それぞれがつながることが大事」
と感じている。
◆
病院のほか学校、福祉施設など
活動の場が多岐にわたる臨床心理士。
繰り返せば自殺につながる恐れがあり自殺未遂の一歩手前
ともいえる自傷行為にいち早く気づくことも多い。
大仙、仙北市の中学校などでスクールカウンセラーをしている
ケイメンタルクリニックの浅沼知一さん(44)は、
時にリストカット(手首を傷つける行為)など
自傷の悩みを本人から直接聞くこともある。
そんな子供たちと接する際、
「二度としないで」
「やらないと約束して」
と頭ごなしに言わないようにしている。
信頼関係を築くため、その思いに寄り添い
「打ち込めるものを一緒に見つけよう」
などと声をかける。
「小さな悩みでも一生懸命聞き
相談しやすい環境をつくることで、
数字には見えなくても自殺予防につながっていく」
と考えている。=つづく
◇活動の場、少なく
臨床心理士は、国が指定する大学院を修了または修了後に
臨床経験を積み資格審査を合格した者に対し、
日本臨床心理士資格認定協会が認める資格。
県内の資格保有者は87人だが決して多くなく、
総合病院や学校現場で働く人も限られる。
自身も資格を持つ秋田大教育文化学部付属教育実践総合センター
の柴田 健教授によると、背景には国家資格ではなく
医療機関での活動に保険点数がつかない現状があるという。
県臨床心理士会の堺沢 大会長は
「市町村の小さな病院などに浸透しておらず、
活動できる場が少ない。
もっとすそ野が広がれば自殺予防に力を発揮できる」
と話す。
毎日新聞 地方版 2010年03月03日(水)