特集ワイド:心落ち着かせる「青色」を追う(毎日新聞)
[2010年03月04日(Thu)]
2010(平成)年03月04日(木)
毎日新聞
トップ>ニュースセレクト>話題
特集ワイド:心落ち着かせる「青色」を追う
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20100304dde012040022000c.html
駅頭に青い光がともされるようになった。
自殺防止の効果まで期待されているのだという。
気持ちを静める働きがあるとも言われる色、
「青」を追った。 【宮田 哲】
◇自殺防止の照明に 議論白熱抑え 絵はストレス暗示も
壁にはめこまれた水槽で熱帯魚が泳ぐ。
海を思わせるような世界。
東京・銀座の飲食店「青の洞窟」の照明は、
青を基調としている。
墨田区内の女性会社員(28)は、
廊下の床に埋め込まれた青い光が気に入っている。
「青は2番目に好き。落ち着きます」
気持ちが落ち着くと言われる色「青」。
JR新宿駅の中央線快速用ホームには、
ほのかな青い光が差し込む。
電車が進入してくるあたりの頭上に、
縦40センチ、横30センチのかさに
24個のLED(発光ダイオード)がある。
JR東日本は昨年9月から、自殺防止などの安全対策のため
山手線29駅全駅に青色照明を設置。
山手線の自殺件数は、
▽06年度9件
▽07年度15件
▽08年度18件
と増えていた。設置は中央線快速のホームにも広げている。
■
日本色彩研究所は79年度から93年度のうちの14年間、
18〜59歳の男女に色の好き嫌いを調査した。
青色は1位が4回。5位以内には12回入っている。
白には及ばないが、好かれている色だ。
名取和幸・研究第1部次長は
「空に青があるのは晴天の時です。
お天気を好ましく思う気持ちが、
青も好ましいと思う文化になる」
と話す。
サントリーが03年に「ザ・プレミアム・モルツ」の、
07年に第3のビール「金麦」の缶で濃い青を強調した
デザインにしたところ、好ましく見えるのか、
前年を上回る売り上げを続ける。
■
こんな調査もある。95〜96年に千々岩英彰・
武蔵野美術大教授(当時)らが20カ国(23地域)の
大学生5,375人にたずねたところ、最も好まれた色は青。
青は国別でも、米国、カナダ、ドイツ、日本、中国・北京など
12カ国(13地域)で1位だった。
青の特徴を、
「赤は好きな人も嫌いな人もいるが、青は嫌いな人がいない。
どの国で使っても嫌われる可能性が低い色」
と説明するのが鈴木恒男・慶応大教授(色彩心理学)である。
鈴木教授は
「青の一般的なイメージは、
落ち着いている、冷たい、動きがないというものです。
赤色の『情熱的』に対し『理知的』とも言える。
宗教的な高貴さを表すのも多くの国で共通しています」
と話す。
■
ただ、自殺防止のための青色照明の効果については懐疑的だ。
「気持ちを落ち着かせる作用はあるが、
自殺の衝動にかられた人を抑えるだけの強い力があるだろうか。
色の効果の範囲で生活を豊かにするために使っていけば
いいのではないか」
青を生活に生かすと言われても、どうしたらいいのか。
日ごろ、色のことなど気にすることもないおじさん記者には、
さっぱりわからない。簡単にできるコツがあるのか。
「自分の感情が波立っていると感じたときは、
意識して青い服を着ればいいんですよ。
周りの人が抱く印象が変わりますから」
と鈴木教授。
そんなに簡単なことでいいのならできそうだ。
自分にも「落ち着いている」と暗示をかけると、
さらに効果が出るという。
ビジネススーツは「理知的」というイメージを出すために
青や紺が多い。もちろん、記者のタンスにもある。
「上から下まで青にするのでは面白くない。
ネクタイなどは躍動感のある色を使えば、
注目点になり、なおさらいいです」
また、部屋の壁やカーテンを「冷たさ」を感じる青色にすると、
「夏場の冷房の設定温度を1度は上げられる」
という。
手で触れて実感するのも、視覚からイメージするのも、
冷たいと感じる点は同じなのだそうだ。
さらに、青は会議の時間をも左右するというから驚く。
部屋が赤いと、議論が白熱して時間の経過を短く感じてしまい、
会議は長引く。
一方、青っぽい部屋では落ち着いた議論になり、
時間の経過も長く感じる。
「会社に青系と赤系の2つの部屋が持てれば、
使い分けができます。
短時間で結論を出したいときは『青』、
意見を徹底的に出すなら『赤』という具合にね」
と鈴木教授。うーん、納得。
■
青といえば、「青の時代」で知られる
20世紀最大の芸術家、ピカソを思い出す。
親友の自殺にショックを受け、暗青色を多用した時期があった
という。絵で描く青はどんな心を映すのか。
「子どものアトリエ・アートランド」を主宰する
色彩心理学者の末永蒼生さん(66)は
絵を通して心を理解する研究を続ける。
「子どもは自分の状態を言葉でうまく伝えられません。
絵は子どもの無意識のおしゃべりなのです」
忘れられない絵があるという。
中央に、描いた子どもの分身と思われる獣のような生き物。
周りは白と冷たい青が塗り込められていた。
いじめに遭い不登校になった中学2年女子の絵。
「生き物を取り囲む青は、子どもの孤独を象徴している」
と感じた。
空を明るい青色で描いているならさわやかな気分が出ている。
また、孤独でも自分に向き合おうとする思春期にも
青は好まれるそうだ。
末永さんは語る。
「そのような色の使い方は気にすることはないと思います。
太陽や人間の顔が、青く塗られたりしていたなら、
学校で嫌なことが続いていたり、ストレスがたまっているかも
しれないので、少し考えた方がいい」
■
さて、空も海も青く見えるが、天然の青い動植物はない。
でも、「自分は青い」と思っている人はいるのでは。
恥ずかしながら、40代の半ばを過ぎた記者もそう思っている。
そこで、「青の洞窟」で飲んでいた皆さんに聞いた。
ずばり、自分が青いと思いますか。
男性(34)は
「会社に入って15年ですから、もう違います」
と、女性(29)は
「青いです。人間はまだみないい人だと信じていますから」
との答え。
多摩市の会社社長、山村俊弘さん(57)は、こう話した。
「若い人を『青い』というのは
ネガティブな言葉じゃないと思うんです。
いずれ熟して赤くなるんだよ、という気持ちを込めている。
青くて失敗しても、一生懸命やっている姿を見ると許せます」
必ず「熟す」。そう信じて、青と上手に付き合っていこう。
==============
◇「特集ワイド」へご意見、ご感想を
t.yukan@mainichi.co.jp
ファクス 03・3212・0279
毎日新聞 東京夕刊 2010年03月04日(木)
毎日新聞
トップ>ニュースセレクト>話題
特集ワイド:心落ち着かせる「青色」を追う
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20100304dde012040022000c.html
駅頭に青い光がともされるようになった。
自殺防止の効果まで期待されているのだという。
気持ちを静める働きがあるとも言われる色、
「青」を追った。 【宮田 哲】
◇自殺防止の照明に 議論白熱抑え 絵はストレス暗示も
壁にはめこまれた水槽で熱帯魚が泳ぐ。
海を思わせるような世界。
東京・銀座の飲食店「青の洞窟」の照明は、
青を基調としている。
墨田区内の女性会社員(28)は、
廊下の床に埋め込まれた青い光が気に入っている。
「青は2番目に好き。落ち着きます」
気持ちが落ち着くと言われる色「青」。
JR新宿駅の中央線快速用ホームには、
ほのかな青い光が差し込む。
電車が進入してくるあたりの頭上に、
縦40センチ、横30センチのかさに
24個のLED(発光ダイオード)がある。
JR東日本は昨年9月から、自殺防止などの安全対策のため
山手線29駅全駅に青色照明を設置。
山手線の自殺件数は、
▽06年度9件
▽07年度15件
▽08年度18件
と増えていた。設置は中央線快速のホームにも広げている。
■
日本色彩研究所は79年度から93年度のうちの14年間、
18〜59歳の男女に色の好き嫌いを調査した。
青色は1位が4回。5位以内には12回入っている。
白には及ばないが、好かれている色だ。
名取和幸・研究第1部次長は
「空に青があるのは晴天の時です。
お天気を好ましく思う気持ちが、
青も好ましいと思う文化になる」
と話す。
サントリーが03年に「ザ・プレミアム・モルツ」の、
07年に第3のビール「金麦」の缶で濃い青を強調した
デザインにしたところ、好ましく見えるのか、
前年を上回る売り上げを続ける。
■
こんな調査もある。95〜96年に千々岩英彰・
武蔵野美術大教授(当時)らが20カ国(23地域)の
大学生5,375人にたずねたところ、最も好まれた色は青。
青は国別でも、米国、カナダ、ドイツ、日本、中国・北京など
12カ国(13地域)で1位だった。
青の特徴を、
「赤は好きな人も嫌いな人もいるが、青は嫌いな人がいない。
どの国で使っても嫌われる可能性が低い色」
と説明するのが鈴木恒男・慶応大教授(色彩心理学)である。
鈴木教授は
「青の一般的なイメージは、
落ち着いている、冷たい、動きがないというものです。
赤色の『情熱的』に対し『理知的』とも言える。
宗教的な高貴さを表すのも多くの国で共通しています」
と話す。
■
ただ、自殺防止のための青色照明の効果については懐疑的だ。
「気持ちを落ち着かせる作用はあるが、
自殺の衝動にかられた人を抑えるだけの強い力があるだろうか。
色の効果の範囲で生活を豊かにするために使っていけば
いいのではないか」
青を生活に生かすと言われても、どうしたらいいのか。
日ごろ、色のことなど気にすることもないおじさん記者には、
さっぱりわからない。簡単にできるコツがあるのか。
「自分の感情が波立っていると感じたときは、
意識して青い服を着ればいいんですよ。
周りの人が抱く印象が変わりますから」
と鈴木教授。
そんなに簡単なことでいいのならできそうだ。
自分にも「落ち着いている」と暗示をかけると、
さらに効果が出るという。
ビジネススーツは「理知的」というイメージを出すために
青や紺が多い。もちろん、記者のタンスにもある。
「上から下まで青にするのでは面白くない。
ネクタイなどは躍動感のある色を使えば、
注目点になり、なおさらいいです」
また、部屋の壁やカーテンを「冷たさ」を感じる青色にすると、
「夏場の冷房の設定温度を1度は上げられる」
という。
手で触れて実感するのも、視覚からイメージするのも、
冷たいと感じる点は同じなのだそうだ。
さらに、青は会議の時間をも左右するというから驚く。
部屋が赤いと、議論が白熱して時間の経過を短く感じてしまい、
会議は長引く。
一方、青っぽい部屋では落ち着いた議論になり、
時間の経過も長く感じる。
「会社に青系と赤系の2つの部屋が持てれば、
使い分けができます。
短時間で結論を出したいときは『青』、
意見を徹底的に出すなら『赤』という具合にね」
と鈴木教授。うーん、納得。
■
青といえば、「青の時代」で知られる
20世紀最大の芸術家、ピカソを思い出す。
親友の自殺にショックを受け、暗青色を多用した時期があった
という。絵で描く青はどんな心を映すのか。
「子どものアトリエ・アートランド」を主宰する
色彩心理学者の末永蒼生さん(66)は
絵を通して心を理解する研究を続ける。
「子どもは自分の状態を言葉でうまく伝えられません。
絵は子どもの無意識のおしゃべりなのです」
忘れられない絵があるという。
中央に、描いた子どもの分身と思われる獣のような生き物。
周りは白と冷たい青が塗り込められていた。
いじめに遭い不登校になった中学2年女子の絵。
「生き物を取り囲む青は、子どもの孤独を象徴している」
と感じた。
空を明るい青色で描いているならさわやかな気分が出ている。
また、孤独でも自分に向き合おうとする思春期にも
青は好まれるそうだ。
末永さんは語る。
「そのような色の使い方は気にすることはないと思います。
太陽や人間の顔が、青く塗られたりしていたなら、
学校で嫌なことが続いていたり、ストレスがたまっているかも
しれないので、少し考えた方がいい」
■
さて、空も海も青く見えるが、天然の青い動植物はない。
でも、「自分は青い」と思っている人はいるのでは。
恥ずかしながら、40代の半ばを過ぎた記者もそう思っている。
そこで、「青の洞窟」で飲んでいた皆さんに聞いた。
ずばり、自分が青いと思いますか。
男性(34)は
「会社に入って15年ですから、もう違います」
と、女性(29)は
「青いです。人間はまだみないい人だと信じていますから」
との答え。
多摩市の会社社長、山村俊弘さん(57)は、こう話した。
「若い人を『青い』というのは
ネガティブな言葉じゃないと思うんです。
いずれ熟して赤くなるんだよ、という気持ちを込めている。
青くて失敗しても、一生懸命やっている姿を見ると許せます」
必ず「熟す」。そう信じて、青と上手に付き合っていこう。
==============
◇「特集ワイド」へご意見、ご感想を
t.yukan@mainichi.co.jp
ファクス 03・3212・0279
毎日新聞 東京夕刊 2010年03月04日(木)




