追跡 京都2009:年間自殺者3万人時代 宗教者の役割に期待の声/京都(毎日新聞)
[2009年01月18日(Sun)]
2009(平成21)年01月18日(日)
毎日新聞 地方版
トップ>地域ニュース>京都
追跡 京都2009:年間自殺者3万人時代
宗教者の役割に期待の声/京都
http://mainichi.jp/area/kyoto/news/20090118ddlk26040362000c.html
◇アンケートで「不在」の実態浮き彫り
10年も続けて自殺者が年間3万人を超える深刻な事態に、宗教者
たちはどう向き合っているのだろうか。
浄土真宗本願寺派(下京区、本山・西本願寺)が全国約1万の末寺
を対象に実施したアンケートでは、自殺問題における「宗教者の
不在」が浮き彫りになった。
その一方で自殺予防や遺族支援に果たす宗教の役割に期待する声も
聞こえてくる。 【木下 武】
◇居場所失った人の受け皿に
「息子の遺骨を手放せずにいるが、周りから納骨するように言われ
る。どうすればいいのでしょうか」
「父の魂はどこへ行ったのでしょうか」−−。
京都市内で会場を借り、自殺遺族らが悲しみや苦しみを語り合う場
を提供する「こころのカフェ きょうと」。06年2月の設立以来、
延べ約450人が訪れたが、こんな宗教的な疑問を投げかける人は
思いのほか多い。何冊もの宗教書を読みふけったり、四国88カ所巡りに出かけたりする人も少なくないという。
自らも夫を自殺で亡くした開設者の石倉紘子代表(65)は
「宗教者にじっくり話を聞いてほしいと言う人は多いが、今の寺や
教会は受け皿になりえていないのではないか」
と疑問を投げかける。
個別に自殺問題に取り組む宗教者は少なくない。曹洞宗の僧侶、
西 育範さん(32)は07年11月、三重県御浜町に熊野自殺
防止センターを開設し、毎週金曜日午後7〜11時に電話相談
(05979・2・2277)に応じている。
「ひたすら相手に寄り添って話を聞き、胸のうちを吐き出して
もらう。人は声に出して話すことで、自分を客観的に見て思考を
整理できる。話を受け止める相手がいることを知ってもらい、
何とか生きる気力を回復してもらいたい」
と西さん。相談員9人のうち4人は僧侶や牧師ら宗教者が占める。
宗派として自殺問題に取り組み始めたのが浄土真宗本願寺派だ。
僧侶らの意識向上のため、遺族支援に関する講演会や研修会を
重ねてきたほか、葬儀で遺族と接する際のガイドライン作成も検討
している。昨年5〜9月には自殺に対する意識や遺族支援に関する
アンケートを実施した。
その結果(回答率26%)によると、
「自殺は社会的な要因が強く働いていると思うか」
は「思う」が47・1%で「やや思う」が30・1%。
自殺予防や遺族支援については「特にかかわっていない」が
83・1%だった。
自殺を社会問題として認識しながら、大半の僧侶が予防や遺族支援
などの活動ができていないことをうかがわせる内容。
同派の日野慶之・教学伝道研究センター研究員は
「今の寺は葬儀をする場に形がい化している。悩み事の相談を
受け付けるなど寺の活用法を考えなければならない」
と話す。
宗教者が果たし得る役割とは何なのか。
「こころのカフェ きょうと」の石倉代表は、人員不足が問題と
なっている「いのちの電話」や「自殺防止センター」の相談員に
なることを提案。
奈良女子大の清水新二教授(社会病理学)は
「自殺者の葬儀の場にもなるお寺は、遺族支援のために行政や弁護
士、支援団体に引き継ぐゲートキーパー役にもなれるのでは」
と問いかける。
宗教を「最後の行き場」と位置付けるのは同志社大の木原活信教授
(社会福祉学)だ。同教授は
「宗教は居場所を失った人の最後の受け皿になるべきだと思う。
国の自殺対策からは宗教が排除されているが、本気で取り組むなら
宗教も取り込んだほうがいい」
と訴えている。
毎日新聞 2009年01月18日 地方版
毎日新聞 地方版
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追跡 京都2009:年間自殺者3万人時代
宗教者の役割に期待の声/京都
http://mainichi.jp/area/kyoto/news/20090118ddlk26040362000c.html
◇アンケートで「不在」の実態浮き彫り
10年も続けて自殺者が年間3万人を超える深刻な事態に、宗教者
たちはどう向き合っているのだろうか。
浄土真宗本願寺派(下京区、本山・西本願寺)が全国約1万の末寺
を対象に実施したアンケートでは、自殺問題における「宗教者の
不在」が浮き彫りになった。
その一方で自殺予防や遺族支援に果たす宗教の役割に期待する声も
聞こえてくる。 【木下 武】
◇居場所失った人の受け皿に
「息子の遺骨を手放せずにいるが、周りから納骨するように言われ
る。どうすればいいのでしょうか」
「父の魂はどこへ行ったのでしょうか」−−。
京都市内で会場を借り、自殺遺族らが悲しみや苦しみを語り合う場
を提供する「こころのカフェ きょうと」。06年2月の設立以来、
延べ約450人が訪れたが、こんな宗教的な疑問を投げかける人は
思いのほか多い。何冊もの宗教書を読みふけったり、四国88カ所巡りに出かけたりする人も少なくないという。
自らも夫を自殺で亡くした開設者の石倉紘子代表(65)は
「宗教者にじっくり話を聞いてほしいと言う人は多いが、今の寺や
教会は受け皿になりえていないのではないか」
と疑問を投げかける。
個別に自殺問題に取り組む宗教者は少なくない。曹洞宗の僧侶、
西 育範さん(32)は07年11月、三重県御浜町に熊野自殺
防止センターを開設し、毎週金曜日午後7〜11時に電話相談
(05979・2・2277)に応じている。
「ひたすら相手に寄り添って話を聞き、胸のうちを吐き出して
もらう。人は声に出して話すことで、自分を客観的に見て思考を
整理できる。話を受け止める相手がいることを知ってもらい、
何とか生きる気力を回復してもらいたい」
と西さん。相談員9人のうち4人は僧侶や牧師ら宗教者が占める。
宗派として自殺問題に取り組み始めたのが浄土真宗本願寺派だ。
僧侶らの意識向上のため、遺族支援に関する講演会や研修会を
重ねてきたほか、葬儀で遺族と接する際のガイドライン作成も検討
している。昨年5〜9月には自殺に対する意識や遺族支援に関する
アンケートを実施した。
その結果(回答率26%)によると、
「自殺は社会的な要因が強く働いていると思うか」
は「思う」が47・1%で「やや思う」が30・1%。
自殺予防や遺族支援については「特にかかわっていない」が
83・1%だった。
自殺を社会問題として認識しながら、大半の僧侶が予防や遺族支援
などの活動ができていないことをうかがわせる内容。
同派の日野慶之・教学伝道研究センター研究員は
「今の寺は葬儀をする場に形がい化している。悩み事の相談を
受け付けるなど寺の活用法を考えなければならない」
と話す。
宗教者が果たし得る役割とは何なのか。
「こころのカフェ きょうと」の石倉代表は、人員不足が問題と
なっている「いのちの電話」や「自殺防止センター」の相談員に
なることを提案。
奈良女子大の清水新二教授(社会病理学)は
「自殺者の葬儀の場にもなるお寺は、遺族支援のために行政や弁護
士、支援団体に引き継ぐゲートキーパー役にもなれるのでは」
と問いかける。
宗教を「最後の行き場」と位置付けるのは同志社大の木原活信教授
(社会福祉学)だ。同教授は
「宗教は居場所を失った人の最後の受け皿になるべきだと思う。
国の自殺対策からは宗教が排除されているが、本気で取り組むなら
宗教も取り込んだほうがいい」
と訴えている。
毎日新聞 2009年01月18日 地方版