自殺関連患者が次々と… 孤立する現場(中)(朝日新聞/関西)
[2008年06月27日(Fri)]
2008(平成20)年06月27日
朝日新聞
asahi.com>関西>特設>救急存亡
自殺関連患者が次々と… 孤立する現場(中)
http://www.asahi.com/kansai/tokusetu/kyuukyuu/OSK200806260103.html
言葉にならない奇声が処置室に響いた。ベッドの上で暴れ回り、
手がつけられない。解毒剤を流すチューブを鼻に挿入しようと、
10人がかりで手足を押さえつけた。
初夏の昼下がり、大阪府守口市の関西医科大付属滝井病院・
高度救命救急センターに、睡眠薬を大量に飲んだ40代女性が
運ばれてきた。次々に救急病院に受け入れを断られていた。
処置を終え、容体は安定したが、その夜、集中治療室(ICU)で
再び暴れ出した。鎮静薬で落ち着かせると、翌日、
「家に帰る」
と言い張って出て行った。
その1カ月前、飛び降り自殺を図って骨折した別の女性が
大声で叫びながら医師に殴りかかってきた。入院患者がおびえ、
必要がないのにICUに移した結果、重症者を受け入れるはずの
空きベッドが1つ減った。
30代の男性医師は、死のふちにいる患者を助けたいと考えて
救急を志した。なのに、自殺を図った人たちを懸命に治療しても、
感謝の言葉もなく病院を去っていく。
「また、やるのではないか」。
むなしさと徒労感が蓄積する。
◇
昨年の自殺者は全国で3万3093人。未遂者はその10倍に上り、
各地の救命救急センターでも搬送患者の1〜2割が自殺関連と言われる。
大半は精神疾患の診断がつく。
センターの中谷寿男教授(60)にも苦い経験がある。
以前勤めた病院で、けがが回復した自殺未遂患者を退院させたら、
そのまま目の前の建物に向かい、飛び降り自殺した。
「救急医は精神科の治療のノウハウがない」
中谷教授がセンターに精神科医を常勤させることにしたのは
7年前だ。精神科医は患者の容体が落ち着くと、
「できることは手助けしたい」
と寄り添う。自殺を図り、重傷を負った50代男性はその翌日、
妻を亡くした寂しさから酒浸りの生活に陥っていると告白した。
「重いうつ病かもしれません」。
治療が軌道に乗れば、再び自殺へ向かう行為をなくせるかもしれない。
救急と精神科の領域にまたがる自殺未遂患者。外傷を治療できる
精神科病院はほとんどない。搬送される救急病院は、
興奮した患者の治療で手いっぱいだ。精神科医が常勤する
救命センターも全国に数えるほどしかない。
◇
「点滴は終わりましたよ」。
神戸市の民間救急病院。当直医の声に、50代男性は
寝たふりを始めた。酩酊(めいてい)状態でタクシーに乗り、
交番へ突き出された末、救急車で運ばれてきた。ベッドを占有し、
ほかの患者の治療を妨げる。2時間居座り、警察官に抱えられて
出て行った。
酔った勢いでの暴力や暴言、セクハラ行為……。
「警察がなかなか来てくれない」
「救急隊が泥酔の事実を伏せた」
などの不満もくすぶる。神戸市の53病院でつくる
第2次救急病院協議会は、泥酔者の搬送には警察官が付き添い、入
院が不要ならば引き取るよう兵庫県警に要請した。
手を焼くのは警察も同じだ。保護しても容体が急変し、
死亡することがある。県警は
「頭を打っていたら病院へ」
と指示せざるを得ない。
県警の資料では、07年の「泥酔者の保護」は6841件で
5年前の33%増。大半が飲酒絡みとみられる
「病人・負傷者の保護」も3951件と7割伸びた。
生活安全企画課の日高一行課長補佐は
「病院が迷惑がるのは理解できるが、警察も手が回らない」。
病院、警察、消防ともに、
「押しつけあっても仕方ない」
ということはわかった。それでも、解決策はまだ見えない。
2008年6月27日
朝日新聞
asahi.com>関西>特設>救急存亡
自殺関連患者が次々と… 孤立する現場(中)
http://www.asahi.com/kansai/tokusetu/kyuukyuu/OSK200806260103.html
言葉にならない奇声が処置室に響いた。ベッドの上で暴れ回り、
手がつけられない。解毒剤を流すチューブを鼻に挿入しようと、
10人がかりで手足を押さえつけた。
初夏の昼下がり、大阪府守口市の関西医科大付属滝井病院・
高度救命救急センターに、睡眠薬を大量に飲んだ40代女性が
運ばれてきた。次々に救急病院に受け入れを断られていた。
処置を終え、容体は安定したが、その夜、集中治療室(ICU)で
再び暴れ出した。鎮静薬で落ち着かせると、翌日、
「家に帰る」
と言い張って出て行った。
その1カ月前、飛び降り自殺を図って骨折した別の女性が
大声で叫びながら医師に殴りかかってきた。入院患者がおびえ、
必要がないのにICUに移した結果、重症者を受け入れるはずの
空きベッドが1つ減った。
30代の男性医師は、死のふちにいる患者を助けたいと考えて
救急を志した。なのに、自殺を図った人たちを懸命に治療しても、
感謝の言葉もなく病院を去っていく。
「また、やるのではないか」。
むなしさと徒労感が蓄積する。
◇
昨年の自殺者は全国で3万3093人。未遂者はその10倍に上り、
各地の救命救急センターでも搬送患者の1〜2割が自殺関連と言われる。
大半は精神疾患の診断がつく。
センターの中谷寿男教授(60)にも苦い経験がある。
以前勤めた病院で、けがが回復した自殺未遂患者を退院させたら、
そのまま目の前の建物に向かい、飛び降り自殺した。
「救急医は精神科の治療のノウハウがない」
中谷教授がセンターに精神科医を常勤させることにしたのは
7年前だ。精神科医は患者の容体が落ち着くと、
「できることは手助けしたい」
と寄り添う。自殺を図り、重傷を負った50代男性はその翌日、
妻を亡くした寂しさから酒浸りの生活に陥っていると告白した。
「重いうつ病かもしれません」。
治療が軌道に乗れば、再び自殺へ向かう行為をなくせるかもしれない。
救急と精神科の領域にまたがる自殺未遂患者。外傷を治療できる
精神科病院はほとんどない。搬送される救急病院は、
興奮した患者の治療で手いっぱいだ。精神科医が常勤する
救命センターも全国に数えるほどしかない。
◇
「点滴は終わりましたよ」。
神戸市の民間救急病院。当直医の声に、50代男性は
寝たふりを始めた。酩酊(めいてい)状態でタクシーに乗り、
交番へ突き出された末、救急車で運ばれてきた。ベッドを占有し、
ほかの患者の治療を妨げる。2時間居座り、警察官に抱えられて
出て行った。
酔った勢いでの暴力や暴言、セクハラ行為……。
「警察がなかなか来てくれない」
「救急隊が泥酔の事実を伏せた」
などの不満もくすぶる。神戸市の53病院でつくる
第2次救急病院協議会は、泥酔者の搬送には警察官が付き添い、入
院が不要ならば引き取るよう兵庫県警に要請した。
手を焼くのは警察も同じだ。保護しても容体が急変し、
死亡することがある。県警は
「頭を打っていたら病院へ」
と指示せざるを得ない。
県警の資料では、07年の「泥酔者の保護」は6841件で
5年前の33%増。大半が飲酒絡みとみられる
「病人・負傷者の保護」も3951件と7割伸びた。
生活安全企画課の日高一行課長補佐は
「病院が迷惑がるのは理解できるが、警察も手が回らない」。
病院、警察、消防ともに、
「押しつけあっても仕方ない」
ということはわかった。それでも、解決策はまだ見えない。
2008年6月27日