Dr.中川のがんの時代を暮らす:/32 暮らしの中のリスク(毎日新聞)
[2012年03月25日(Sun)]
2012(平成24)年03月25日(日)
毎日新聞 東京朝刊
トップ>ライフスタイル>健康>医療
Dr.中川のがんの時代を暮らす:/32 暮らしの中のリスク
http://mainichi.jp/life/health/medical/news/20120325ddm013070043000c.html
放射線医学総合研究所の
神田玲子上席研究員らの研究グループが、
市民638人と研究所の職員らを対象に実施した調査によると、
一般人が暮らしの中の「リスク」として恐怖を感じる順番は、
ピストルがトップ、2番は原子力、3番が喫煙でした。
実際のリスクの大きさとしては、
喫煙、飲酒、交通事故の順なので、
身近なリスクに対する一般市民の意識のずれが
示されたことになります。
○
リスクの認識に関してギャップが生まれるのは、
メディアの影響も小さくないと感じています。
たとえば、現在、低線量被ばくのリスクが大きく報道されて
いますが、広島・長崎の10万人以上の被爆者を
50年以上も綿密に追跡した結果、
100ミリシーベルト以下の被ばくでは、
がんの明確な増加は確認できていません。
低線量被ばくによる発がんリスクの増加は、
あったとしても非常に少ないと考えるべきだと思います。
放射線以外にも、ダイオキシンや環境ホルモンなど、
新顔の「リスク」が大きく報道されては
忘れられていきました。
一方、年間36万人近くが死亡するがんについては、
報道は多いものの、大半の情報は断片的で、
国民の知識を増やす啓発的な内容になっていません。
たばこはがんだけでなく心臓病や高血圧も引き起こし、
年間約20万人の死因となっていますが、
警鐘を鳴らすメディアは多いとは言えません。
年間3万人を超える自殺、
年に約4、600人が亡くなり
6万人以上が後遺症に悩まされている交通事故も、
もっと積極的に取り上げてほしいと感じます。
○
メディアを見ていると、本当に備えが必要な
重大なリスクは報道されにくい傾向を感じます。
あまりにも大きいリスクは「日常的」すぎて、
「ニュース」になりにくいためでしょうか。
私たちは、本当のリスクと報道で話題になるリスクの差に
注意を払う必要があります。
2001年に起きた9・11のテロの後、
米国では自動車事故による死亡が
年間1,600人も増えました。
テレビで繰り返し放映された飛行機によるテロの映像の影響で、
よりリスクが高い長距離運転による事故が増えたためです。
暮らしの中のリスクの大きさを客観的に測る
「ものさし」があればいいな、と思います。
(中川恵一・東京大病院准教授、緩和ケア診療部長)
毎日新聞 東京朝刊 2012年03月25日(日)
毎日新聞 東京朝刊
トップ>ライフスタイル>健康>医療
Dr.中川のがんの時代を暮らす:/32 暮らしの中のリスク
http://mainichi.jp/life/health/medical/news/20120325ddm013070043000c.html
放射線医学総合研究所の
神田玲子上席研究員らの研究グループが、
市民638人と研究所の職員らを対象に実施した調査によると、
一般人が暮らしの中の「リスク」として恐怖を感じる順番は、
ピストルがトップ、2番は原子力、3番が喫煙でした。
実際のリスクの大きさとしては、
喫煙、飲酒、交通事故の順なので、
身近なリスクに対する一般市民の意識のずれが
示されたことになります。
○
リスクの認識に関してギャップが生まれるのは、
メディアの影響も小さくないと感じています。
たとえば、現在、低線量被ばくのリスクが大きく報道されて
いますが、広島・長崎の10万人以上の被爆者を
50年以上も綿密に追跡した結果、
100ミリシーベルト以下の被ばくでは、
がんの明確な増加は確認できていません。
低線量被ばくによる発がんリスクの増加は、
あったとしても非常に少ないと考えるべきだと思います。
放射線以外にも、ダイオキシンや環境ホルモンなど、
新顔の「リスク」が大きく報道されては
忘れられていきました。
一方、年間36万人近くが死亡するがんについては、
報道は多いものの、大半の情報は断片的で、
国民の知識を増やす啓発的な内容になっていません。
たばこはがんだけでなく心臓病や高血圧も引き起こし、
年間約20万人の死因となっていますが、
警鐘を鳴らすメディアは多いとは言えません。
年間3万人を超える自殺、
年に約4、600人が亡くなり
6万人以上が後遺症に悩まされている交通事故も、
もっと積極的に取り上げてほしいと感じます。
○
メディアを見ていると、本当に備えが必要な
重大なリスクは報道されにくい傾向を感じます。
あまりにも大きいリスクは「日常的」すぎて、
「ニュース」になりにくいためでしょうか。
私たちは、本当のリスクと報道で話題になるリスクの差に
注意を払う必要があります。
2001年に起きた9・11のテロの後、
米国では自動車事故による死亡が
年間1,600人も増えました。
テレビで繰り返し放映された飛行機によるテロの映像の影響で、
よりリスクが高い長距離運転による事故が増えたためです。
暮らしの中のリスクの大きさを客観的に測る
「ものさし」があればいいな、と思います。
(中川恵一・東京大病院准教授、緩和ケア診療部長)
毎日新聞 東京朝刊 2012年03月25日(日)