父が命絶った夏、また 自死遺族を支援する山口さん(毎日新聞)
[2010年08月25日(Wed)]
2010(平成22)年08月25日(水)
毎日新聞 東京朝刊
トップ>ニュースセレクト>話題>こころを救う
父が命絶った夏、また 自死遺族を支援する山口さん
http://mainichi.jp/select/wadai/kokoro/news/20100825ddm041040108000c.html
◇子どものケア、自ら重ね
父が命を絶った夏がまた巡ってきた。
あの時中学2年だった少年は、29歳の2児の父親になった。
NPO法人「自死遺族支援ネットワークRe」代表の
山口和浩さんは自殺を減らそうと学生時代に活動を始め、
今は精神科医療機関のスタッフを務める。
その生き方は父の死と向き合い続けているように見える。
自殺者が12年連続で3万人を超える中、
遺族も増え続けている。 【堀 智行】

田園風景が広がる高台にある横浜カメリアホスピタル。
待合室には、心を病む少年や少女の姿があった。
思春期の子どものケアを得意とする同院のスタッフとして
08年から、診察前の問診を担当してきた。
家族や友人を自殺で亡くした患者が少なくないことに
すぐ気付いた。
09年に新たに来院した患者477人を調べると、
約1割の46人が体験していた。
だが過去の医療機関での治療を聞くと、
身近な人を救えなかったつらさや悲しみを
十分にくみ取られないまま精神疾患と診断され、
薬を処方されたとみられる患者もいた。
同院の長岡 和院長(41)は
「抑うつ状態などの症状だけを診て、
根底にある気持ちが見落とされている可能性がある」
と話す。
山口さんは患者のため院内で体験を語り合う場を作った。
「何で気付けなかったのか」。
突然の死をどう受け止めていいか分からず悩む少女らが、
自分と重なった。
●
長崎県で暮らしていた中2の夏。
その夜、農業を営む父の姿が見えないことに気がついていた。
借金を抱えていたが、
「自分たちを残して死ぬはずはない」
と思い、捜さなかった。
明け方、山口さんが最初に見つけるまでの間に命を絶った。
「あの時起きていれば。僕が殺したんだ」。
誰にも相談できず、自責の思いに押しつぶされそうだった。
あしなが育英会で病気や災害で親を亡くした遺児と
体験を語り合い、同じ思いを抱いていることを知り、
初めて父の死を見つめ直すことができた。
「今の気持ちを大事にしていいんだよ」。
大事な人を失ったつらさは消えない。
だから自分なりの向き合い方を見つけてほしい。
そう思い、患者の話に耳を傾けてきた。
●
国の自殺対策キャンペーンで、精神科の受診者は増えた。
「でも外来治療中心で患者が自宅で長い時間を過ごす
今の医療では、自殺対策をすべて担うのは限界がある。
どこまでかかわれるか検証が必要ではないだろうか」
活動を始め今年で10年。
「残されて同じ思いをする人を減らしたい。
自殺をタブー視せず、社会全体で考えてほしい」
と名前を公表し、各地で講演を続けてきた。
自殺者が3万人台で高止まりしていることが、歯がゆい。
一方で「自殺予防」と聞くと、自殺が悪いことのような
気持ちになる。
「家族を残して死ぬことは正常な状態ではできない。
苦しみから命を絶つこともあるんだと思う」。
8月の命日が近づくと、葛藤(かっとう)は一層強くなる。
「特定の人間だけでは活動は広がらない。
精神科医療や学校教育など社会資源が
一緒に問題にあたらなければ」。
精神医療機関で働き始めた今、その橋渡しが役割と思っている。
==============
情報やご意見を
メール(t.shakaibu@mainichi.co.jp)、
ファクス(03・3212・0635)、
手紙(〒100−8051毎日新聞社会部「こころを救う」係)
でお寄せください。
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父が命絶った夏、また 自死遺族を支援する山口さん
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◇子どものケア、自ら重ね
父が命を絶った夏がまた巡ってきた。
あの時中学2年だった少年は、29歳の2児の父親になった。
NPO法人「自死遺族支援ネットワークRe」代表の
山口和浩さんは自殺を減らそうと学生時代に活動を始め、
今は精神科医療機関のスタッフを務める。
その生き方は父の死と向き合い続けているように見える。
自殺者が12年連続で3万人を超える中、
遺族も増え続けている。 【堀 智行】

田園風景が広がる高台にある横浜カメリアホスピタル。
待合室には、心を病む少年や少女の姿があった。
思春期の子どものケアを得意とする同院のスタッフとして
08年から、診察前の問診を担当してきた。
家族や友人を自殺で亡くした患者が少なくないことに
すぐ気付いた。
09年に新たに来院した患者477人を調べると、
約1割の46人が体験していた。
だが過去の医療機関での治療を聞くと、
身近な人を救えなかったつらさや悲しみを
十分にくみ取られないまま精神疾患と診断され、
薬を処方されたとみられる患者もいた。
同院の長岡 和院長(41)は
「抑うつ状態などの症状だけを診て、
根底にある気持ちが見落とされている可能性がある」
と話す。
山口さんは患者のため院内で体験を語り合う場を作った。
「何で気付けなかったのか」。
突然の死をどう受け止めていいか分からず悩む少女らが、
自分と重なった。
●
長崎県で暮らしていた中2の夏。
その夜、農業を営む父の姿が見えないことに気がついていた。
借金を抱えていたが、
「自分たちを残して死ぬはずはない」
と思い、捜さなかった。
明け方、山口さんが最初に見つけるまでの間に命を絶った。
「あの時起きていれば。僕が殺したんだ」。
誰にも相談できず、自責の思いに押しつぶされそうだった。
あしなが育英会で病気や災害で親を亡くした遺児と
体験を語り合い、同じ思いを抱いていることを知り、
初めて父の死を見つめ直すことができた。
「今の気持ちを大事にしていいんだよ」。
大事な人を失ったつらさは消えない。
だから自分なりの向き合い方を見つけてほしい。
そう思い、患者の話に耳を傾けてきた。
●
国の自殺対策キャンペーンで、精神科の受診者は増えた。
「でも外来治療中心で患者が自宅で長い時間を過ごす
今の医療では、自殺対策をすべて担うのは限界がある。
どこまでかかわれるか検証が必要ではないだろうか」
活動を始め今年で10年。
「残されて同じ思いをする人を減らしたい。
自殺をタブー視せず、社会全体で考えてほしい」
と名前を公表し、各地で講演を続けてきた。
自殺者が3万人台で高止まりしていることが、歯がゆい。
一方で「自殺予防」と聞くと、自殺が悪いことのような
気持ちになる。
「家族を残して死ぬことは正常な状態ではできない。
苦しみから命を絶つこともあるんだと思う」。
8月の命日が近づくと、葛藤(かっとう)は一層強くなる。
「特定の人間だけでは活動は広がらない。
精神科医療や学校教育など社会資源が
一緒に問題にあたらなければ」。
精神医療機関で働き始めた今、その橋渡しが役割と思っている。
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でお寄せください。
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