公益法人の監督を日米比較の観点で考える
[2026年08月12日(Wed)]
日本の公益法人の数が一向に増えません。この停滞の根本原因について、私たちはそろそろ本格的に検証しなければならないでしょう。
本ブログでは、日本の公益法人に相当する「米国内国歳入法(IRC)501条(c)(3)団体(以下、「米国公益団体」)という」との比較を通じ、「行政監督のあり方」という観点からこの問題を考えてみたいと思います。
かつて私が内閣府公益認定等委員会の委員を務めていた際、事務局から「3年かけてすべての公益法人に立入検査を行う」という方針を聞かされ、大変驚いたことがあります。
立入検査の根拠となる公益認定法第27条には、次のように規定されています。
(立入検査)第27条
条文を見れば明らかな通り、これは行政庁に検査の権限を与える「授権規定(権限規定)」であって、全法人への実施を義務付ける「義務規定」ではありません。しかし当時、事務局からは「公益法人行政が強く批判されていたから、全数調査を行うのはやむを得ない」との説明がなされました。
一方、米国の状況はどうでしょうか。 米国の公益法人の実数は日本の約200倍、年間新設数に至っては約1000倍に上ります。しかし、IRS(内国歳入庁)による立入検査(実地監査)の対象となるのは、年間に全体のわずか0.05%〜0.1%程度にすぎません。
米国の監督行政は、個別の違反是正を内部通報制度(Form 13909等)などに委ねる一方、監査の主たる目的を「セクター全体のコンプライアンス実態を統計的に把握し、制度設計や政策にフィードバックする(Compliance Research & Policy Feedback)」ことに置いています。
つまり、サンプリング調査によって「制度全体が機能しているか」を検証しているのです。こうした調査データに基づく制度改定のサイクルがあったからこそ、2008年には当局への提出フォーム(Form 990)の大幅刷新が行われ、情報開示を通じた自律的なガバナンス強化が実現しました。
これに対し、日本の公益法人行政は、恐らく世界で最も膨大な税金を投じて「一つ一つの法人を隅々までチェックする」方式をとっています。提出された事業報告書を事細かに確認し、半年以上たってから補正を求められるということはよく見られます。行政官として一生懸命仕事をしているわけであるので、これは行政文化の問題でもあり、公益法人の活躍の実態を十分に知らない国民側も、そうした厳格な監視を望んできたのかもしれません。
しかし何より問題なのは、この「全数立入検査」、「入念な監視」という運用自体が、公益認定の拡大を制度的に抑制せざるをえなくなっているという事実です。
公益法人が増えれば増えるほど行政庁の業務負担が激増するため、過去の公益認定委員会委員の中からは「これ以上、公益法人を増やす必要はない」という本末転倒な意見まで飛び出したほどでした。
現在の日本の公益法人制度は複雑な法令が絡み合っており、ルールの正確な把握が極めて困難です。そのため、弁護士、公認会計士、税理士、行政書士といった専門家が伴走しても、「100点満点」の申請書や提出書類を作成するのは容易ではありません。
微に入り細に入りチェックし、わずかな記載ミスや不備があれば「技術的能力が欠ける」と鬼の首を取ったように、声をあげる行政庁も存在すると聞きます。
仮に100の法人のうい100すべてが修正を求められるような状況があるのだとすれば、正すべきは法人の技術的能力なのでしょうか、それとも制度のあり方なのでしょうか。公益認定等委員会こそが、この問いを真摯に検討すべきです。
もっとも、令和7年(2025年)の公益認定法改正に関連し、これまで「3年で全数立入検査」としていた内閣府の方針が見直され、期間が「10年」へと延長されるとともに、検査内容も大幅に改善・簡素化される方向に向かっていると聞いております。
今一度、立法趣旨に立ち返り、「行政は一体何を監督すべきなのか」「不必要な規制によって社会の活力(公益活動)を削いでいないか」を深く問い直す時期に来ています。
ただ残念なことに世論は公益法人の活性化を後押ししてくれるのでしょうか?まず先に、公益法人が社会にインパクトを与えて世論を味方にすることも大事なのではないでしょうか?
公益法人問題の真の主役は世論であり、国民的な議論の輪が広がっていくことを切に願っています。
本ブログでは、日本の公益法人に相当する「米国内国歳入法(IRC)501条(c)(3)団体(以下、「米国公益団体」)という」との比較を通じ、「行政監督のあり方」という観点からこの問題を考えてみたいと思います。
かつて私が内閣府公益認定等委員会の委員を務めていた際、事務局から「3年かけてすべての公益法人に立入検査を行う」という方針を聞かされ、大変驚いたことがあります。
立入検査の根拠となる公益認定法第27条には、次のように規定されています。
(立入検査)第27条
行政庁は、公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度にお いて、内閣府令で定めるところにより、公益法人に対し、その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該公益法人の事務所に立ち入り、その運営組織及び事業活動の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
条文を見れば明らかな通り、これは行政庁に検査の権限を与える「授権規定(権限規定)」であって、全法人への実施を義務付ける「義務規定」ではありません。しかし当時、事務局からは「公益法人行政が強く批判されていたから、全数調査を行うのはやむを得ない」との説明がなされました。
一方、米国の状況はどうでしょうか。 米国の公益法人の実数は日本の約200倍、年間新設数に至っては約1000倍に上ります。しかし、IRS(内国歳入庁)による立入検査(実地監査)の対象となるのは、年間に全体のわずか0.05%〜0.1%程度にすぎません。
米国の監督行政は、個別の違反是正を内部通報制度(Form 13909等)などに委ねる一方、監査の主たる目的を「セクター全体のコンプライアンス実態を統計的に把握し、制度設計や政策にフィードバックする(Compliance Research & Policy Feedback)」ことに置いています。
つまり、サンプリング調査によって「制度全体が機能しているか」を検証しているのです。こうした調査データに基づく制度改定のサイクルがあったからこそ、2008年には当局への提出フォーム(Form 990)の大幅刷新が行われ、情報開示を通じた自律的なガバナンス強化が実現しました。
これに対し、日本の公益法人行政は、恐らく世界で最も膨大な税金を投じて「一つ一つの法人を隅々までチェックする」方式をとっています。提出された事業報告書を事細かに確認し、半年以上たってから補正を求められるということはよく見られます。行政官として一生懸命仕事をしているわけであるので、これは行政文化の問題でもあり、公益法人の活躍の実態を十分に知らない国民側も、そうした厳格な監視を望んできたのかもしれません。
しかし何より問題なのは、この「全数立入検査」、「入念な監視」という運用自体が、公益認定の拡大を制度的に抑制せざるをえなくなっているという事実です。
公益法人が増えれば増えるほど行政庁の業務負担が激増するため、過去の公益認定委員会委員の中からは「これ以上、公益法人を増やす必要はない」という本末転倒な意見まで飛び出したほどでした。
現在の日本の公益法人制度は複雑な法令が絡み合っており、ルールの正確な把握が極めて困難です。そのため、弁護士、公認会計士、税理士、行政書士といった専門家が伴走しても、「100点満点」の申請書や提出書類を作成するのは容易ではありません。
微に入り細に入りチェックし、わずかな記載ミスや不備があれば「技術的能力が欠ける」と鬼の首を取ったように、声をあげる行政庁も存在すると聞きます。
仮に100の法人のうい100すべてが修正を求められるような状況があるのだとすれば、正すべきは法人の技術的能力なのでしょうか、それとも制度のあり方なのでしょうか。公益認定等委員会こそが、この問いを真摯に検討すべきです。
もっとも、令和7年(2025年)の公益認定法改正に関連し、これまで「3年で全数立入検査」としていた内閣府の方針が見直され、期間が「10年」へと延長されるとともに、検査内容も大幅に改善・簡素化される方向に向かっていると聞いております。
今一度、立法趣旨に立ち返り、「行政は一体何を監督すべきなのか」「不必要な規制によって社会の活力(公益活動)を削いでいないか」を深く問い直す時期に来ています。
ただ残念なことに世論は公益法人の活性化を後押ししてくれるのでしょうか?まず先に、公益法人が社会にインパクトを与えて世論を味方にすることも大事なのではないでしょうか?
公益法人問題の真の主役は世論であり、国民的な議論の輪が広がっていくことを切に願っています。

