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民間公益の増進のための公益法人等・公益認定ウォッチャー (by 出口正之)

日本の民間公益活動に関する法制度・税制は、10数年にわたって大きな改善が見られました。たとえば、公益認定等委員会制度の導入もその一つでしょう。しかし、これらは日本で始まったばかりで、日本の従来の主務官庁型文化の影響も依然として受けているようにも思います。公益活動の増進のためにはこうした文化的影響についても考えていかなければなりません。内閣府公益認定等委員会の委員を二期六年務めた経験及び非営利研究者の立場から、公益法人制度を中心に広く非営利セクター全体の発展のためにブログをつづりたいと考えております。


公益認定等委員会は誰がチェックするのでしょうか? [2024年12月12日(Thu)]

 チェックはとても重要です。公益法人に期待されている「ガバナンス」も基本的には権力の過度の集中をチェックする仕組みが内包されているといってよいでしょう。


 ところで、国会同意人事で委員が任命される公益認定等委員会は誰がチェックするのでしょうか?イギリスでは、チャリティ委員会は議会に対して説明責任を果たし、議会が委員会活動をチェックすることになっています。また、毎年、パブリック・ミーティングが行われ、直接、社会がチェックする場もあります。


 日本の場合、この仕組みがないからでしょうか、その時々の委員会の考え方によって、法令は変わらないのに一方的に法の適用が厳しくなる「クリープ現象」が起こりやすくなるように感じます。


 とりわけ、チェックすべき機関が「公益増進のための制度である」という立法趣旨を繰り返し強調していかないと、「不十分な審査で認定すること」の怖さを委員は感じやすく、認定することに慎重=臆病にならざるを得ない状況が生まれることは委員経験者としてよく理解できます。


しかし、それで本当に良いのでしょうか?


 今回の法改正によって、理事と監事との間に、婚姻や親族関係やそれに類する特別の利害関係にあってはならないことになりました。


 この点については、申請法人側からの「特別の利害関係にはない」という文書の提出によって確認し、事後的にそうではないと判明した時に対応しようとする提案がガイドラインとして出されました。


 実はこれと同じことが、以前にもありました。財政的基盤の明確化に関することです。


 他国では、組織のスタート時から税制上の優遇を与えて寄付を募ってスピーディに公益活動ができるようになっています。


 2006年の改革もそうした他国の状況を踏まえてのものでした。「財政的基盤の明確化」という規制はありましたが、この点については、申請書(別表E)において、大口の寄付予定者がある場合に記載できるようになっていて、これでもって財政的基盤を判断するようにしてありました。この点は、今回の「理事と監事の関係」と全く同じです。


 ところが、あっという間に、「実際に寄付する意思があるかどうかわからない」、「実際に寄付できる能力があるかどうかわからない」という議論があって、申請法人にとっては第三者である寄付予定者からの「寄付確約書」、さらに寄付予定者の「通帳の預金残高」または「前年の確定申告書」のコピーを申請時に求めるようになっていたようです。これが「現在の運用」であることが、公益認定等委員会の議事録やガイドライン研究会の議事録で明らかになってきました。


完全なクリープ現象です。せっかく応援しようと思っても、こんなことを言われては寄付者は寄付する気もなくなれば、ひどい場合には法人理事との人間関係にも深刻な影響を与えかねません。


 以前にも紹介しましたが、第1期の元裁判官であった委員の大内俊身氏が述べているように、公益認定申請制度というのは、懲役刑を含む大きなサンクションがバックにあるから、「こうやっておりますと言う説明があり、その説明が本当ならいいであろうという 程度に説得してもらえばいいんじゃないか。あと、それがもし嘘だったら大変なことになりますよというような感じにしておけばいいのでは ないかと思います。」というスタンスでした。


 まさに、今回の「理事と監事との特別利害関係」を確認する方法と同じではないでしょうか?


 今回、新しいガイドラインがほぼでき上がり、この通り運用されていけば、ある程度の問題は解決するかもしれません。


 しかし、「寄付確約書を取りなさい」、「寄付予定者の預金口座のコピーを提出しなさい」、「寄付予定者の確定申告書を提出しなさい」という「今までの運用」を今回「寄付確約書」だけにしますと言われても、「当初の運用」とは思想も哲学も全く異なる「今までの運用」とは一体いつからの運用だったのかと首をかしげたくなります。


 繰り返しになりますが、立法趣旨を振り返ることなく、委員が一所懸命役割を果たそうとすればするほど、「クリープ現象」は起こってくるでしょう。誰も委員を責めることはできないはずです。厳しくすることに対してぶれる方が世論の支持を受けやすことも背景にはあるでしょう。


 「クリープ現象」を止めるために公益認定委員会をチェックする機能の仕組みを作らない限り、今回の公益の増進という法改正の趣旨は生かされないのではないでしょうか? どなたか、一緒に仕組みを考えてくださいませんか?


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おかげさまで百万ビュー! [2024年12月05日(Thu)]
【感謝】

 公益法人関係に特化した地味なブログでしたが、おかげさまで百万ビューを達成いたしました。日々のビュー数が決して多いわけではありませんが、地道に投稿を重ねた結果の百万ビューというのは、大きな励みにもなります。

 見に来てくれた方々、ありがとうございます。


 多くの方からブログについて感想を頂戴したり、ブログを通じて知己を得た方もいらっしゃいます。


 国益を担う警察官と公益を担う公益法人の職員数はほぼ同数です。公益法人がその活動のわりに人々に知られていないのではないでしょうか。


 また、海外の公益法人の活動を知る者として、日本の国力から考えると公益法人の活躍はもっと拡大してしかるべきと考えています。


 世界の同業の人々は、SDGsの時代、社会に貢献できる仕事に携わることの幸せに皆笑みを浮かべています。


 改正公益認定法によって一つでも多くの公益法人が誕生し、社会のために役立つことを夢見ています。


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内閣府が公益法人の広報に尽力 [2024年12月03日(Tue)]

 内閣府公益法人行政担当室(公益認定等委員会事務局)が公益法人の活動をYouTubeでアップし始めています。これは多くの国民に公益法人の活動を知ってもらおうという考えの一環と思われます。


YouTubeによって公益法人の活動が広く知れ渡ることに期待して以下のような説明がつけられています。

全国には約9,700の公益法人があり、様々な公益目的事業を行っています。

公益社団法人、公益財団法人、名前だけは聞いたことはあるけど、

右向き三角1どのような公益法人があるの?

右向き三角1どのような活動(事業)を行っているの?

と思われる方もいらっしゃるかもしれません。


法人自らがその活動内容などを紹介するシリーズ動画です!

 第1回 公益財団法人 福島県観光物産交流協会

  https://youtu.be/cxpmDYgDEEs?si=7NuQJyKkowVVdKix

 第2回 公益財団法人 宮崎県スポーツ協会

  https://youtu.be/RFJWR9Crj10?si=BFF4ARmkHPj3DWFV

    第3回 公益財団法人 諸橋近代美術館

     https://youtu.be/XjoyiMvO2Qc?si=jmUECFzV-saWFdqI



 地方の公益法人からスタートさせたことに、その深遠な意図を感じます。


 ところで、制度を作るのも制度を動かすのも世論です。


「公益法人にとってはこう制度であるべきだ」という主張も、公益法人に対して幅広い世論の支持があってこそ実現できるのではないでしょうか。


 制度論として欧米との比較がよくなされますが、残念なことに日本の場合には公益法人に対する世論の支持は圧倒的に低いというか、そもそも知られていません。


 内閣府のこのような広報活動は大いに歓迎すべきですが、それ以上に我々が何をすべきかについても考える契機にもなるような気がします。


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公益財団法人公益事業支援協会が『小規模公益法人500ガイドブック』を刊行 [2024年12月01日(Sun)]

 公益財団法人公益事業支援協会(理事長千賀修一)が『小規模公益法人500ガイドブックーー現在の公益認定審査の実情と問題点・公益認定取得のすすめ』を発行しました。

小規模法人500.jpg


 本書は、内閣府による令和3年の「公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」を活用したものである。正味財産に着目して、500法人を選び出し、さらに、内閣府の公益法人の閲覧請求を使用し財務省表等を取り出して作り上げたものです。


 内閣府はこのデータとデータベースについて少なからぬ予算をつけて作りあげていますが、こうした形で社会全体に向けて活用されることは素晴らしいことではないでしょうか?



 さらに、巷間、公益認定が難しいと言われていることに対して、小規模法人の事例を載せることで多くの方に、公益認定を目指してほしいと願う気持ちがあふれてのことだと思います。様々な公益法人が社会のために活動していることがとてもよくわかります。


 また、前半の現在の「公益認定審査の実情と問題点・公益認定取得のすすめ」は、弁護士法人の代表弁護士でもある、同法人理事長の千賀修一氏が執筆しています。


 同氏は多忙な弁護士業務の傍ら、多くの法人の公益法人の申請書をご自身で作成され、行政庁とのやり取りを記録し、当初、問題のなかったやり取りがどんどんと変化していく様をリアルに描きでしています。ある法人の公益認定申請では、担当者とのメールのやり取り224回、メールを含めた提出書類は1000ページ、期間は1年6か月となったといいます(標準処理期間は4か月)。これらの事実は、担当官や担当委員くらいしか状況がわからなかったのではないでしょうか?


 幸い、本年公益認定法が改正され、こうしたおかしな事態にも手が打たれるようなので、もうこのようなことにはならないと思いますが、こうした異常事態が生じた真の要因が何だったのかまでを理解するうえでも本書は必読書です。


 冒頭の千賀氏の「現在の公益認定審査の実情と問題点・公益認定取得のすすめ」の最後には、「現在一般法人として活動中の法人又はこれから公益活動を行う志を持つ方が本書に掲載する500の公益法人の事業内容を参考にして、できるだけ多くの方が公益認定を取得して公益法人として活動されることを期待します。」と本書の狙いをはっきりと記して結ばれています。


 ぜひ皆様お読みください。


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