簡単な比較でできませんが、日本の公益法人と同等の非課税・寄付金控除団体である米国の内国歳入法501条(3)C団体は、本年9月の時点で約190万団体にもなります。
イギリスの一部(イングランドとウェールズ=人口約6000万人)の公益法人同等の法律上「チャリティ」と呼ばれる組織の数は本年の数字で約17万団体にもなります。
数多ければよいというものではありませんが日本の公益法人数は1万を下回り、2006年の大改革があって以降、新規に公益認定された法人は1000も増えていません。
しかし、
公益法人税制の方向転換の契機となった税制調査会の平成17年6月17日「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」では
「あるべき税制」の一環として、「新たな非営利法人制度」とこれに関連する税制を整合的に再設計し、寄附金税制の抜本的改革を含め、「民間が担う公共」を支える税制の構築を目指そうとするものに他ならない。これはまた、歳入歳出両面における財政構造改革の取組みと併せて、わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組みでもあるといえよう。
と、「わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組み」と高らかに謳っています。これだけの意気込みの中での2006年の公益法人制度改革でした。
数多ければよいというものではありません。しかし、税調の同報告書では
「新たな非営利法人制度」の制度化を契機として、税制面において、欧米諸国並みに寄附文化を育んでいくためのインフラ整備に積極的に寄与するとの視点が重要となる。
とあるように、明らかに欧米は意識していました。
今回、ガイドライン案についての都道府県の行政庁の担当者からの意見も発表になっています。その中には、公益法人の認定をするにあたっての不安感がにじみ出たものもあります。
そのメンタリティはよくわかります、きっと優秀なお役人だと思います。
だからこそ、民間人が有識者として公益認定等委員会委員になっているのではないでしょうか?
単なる不安感の解消のための膨大な書類提出で、公益認定申請数の約3割から4割(内閣府)が辟易として取下げてしまっている実態にメスを入れる必要はないのでしょうか?
財政的基盤の明確化は、申請書の別表Eに大口の寄付予定者があれば、それを記載できるようにして、新設財団が300万円の資産拠出の後、最大限税制優遇が受けられるようになっています。申請書の別表Eは当時の事務局と委員であった小生とで作りましたが、これだけで認定するものとしてそれ以上の書類など考えていませんでした。
ところが、「クリープ現象」によって「寄付予定者が本当に寄付をするのか。」「そんな多額の寄付ができる資金を有しているのか確認するために、前年の確定申告書を提出しろ」といった委員会委員の意見から「確定申告書」を寄付予定者が提出した例があることも聞いています。
大内俊身氏が指摘した通り、虚偽申告に対して、システムとして懲役刑を含む厳しいサンクションがあることに対して、明確な矛盾もないのにそれを挙証する書類を求めることなど想定もしていませんでした。
今回のガイドライン案は、これを「寄付の確約書」という形の提出を求めることで、「書類の防波堤」としているのではないかとということもよくわかります。
しかし、法律に形式要件があるもの以外に、<おそれ=可能性=蓋然性>に基づく不安感による審査そのものをやめなければ、どのような防波堤に基づくガイドラインができても、同じことが繰り返されるのではないでしょうか?
委員の方々の不安感まで否定しているわけではありません。その気持ちは痛いほどわかります。しかし、それと「法律にもどつく審査」は別物ではないでしょうか?
「税制があるから」ということが、不必要な書類要求の言い訳に使われているようにも思います。税制は上記にある通り、「わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組み」としての公益活性化の「インセンティブ施策」としてあります。
事務方のトップが言う「思想」を徹底させるためには、(失礼な言い方は百も承知ですが)公益認定等委員会の委員こそ今存在感を示す時ではないでしょうか?
迅速に税制上の地位を与えられて、皆が奮闘し難病の子供を救ったという実話に基づいた感動の映画があります。”Ordinary Angels” という映画です。法律上の差異もあるので簡単な比較はできませんが、しかし、少なくとも「審査の文化の相違」によって日本のような審査ではこの子供の命は助からなかったでしょうし、おそらくは何十万人、何百万人に与えた感動も生まれなかったことと思います。
機会があれば、是非ご覧になってください。
新規の公益認定を求める法人の意欲を削ぐようなことを避けるために何をするべきか、その一点を是非お考え下さい。