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民間公益の増進のための公益法人等・公益認定ウォッチャー (by 出口正之)

日本の民間公益活動に関する法制度・税制は、10数年にわたって大きな改善が見られました。たとえば、公益認定等委員会制度の導入もその一つでしょう。しかし、これらは日本で始まったばかりで、日本の従来の主務官庁型文化の影響も依然として受けているようにも思います。公益活動の増進のためにはこうした文化的影響についても考えていかなければなりません。内閣府公益認定等委員会の委員を二期六年務めた経験及び非営利研究者の立場から、公益法人制度を中心に広く非営利セクター全体の発展のためにブログをつづりたいと考えております。


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前々回の続き [2024年09月26日(Thu)]

 簡単な比較でできませんが、日本の公益法人と同等の非課税・寄付金控除団体である米国の内国歳入法501条(3)C団体は、本年9月の時点で約190万団体にもなります。


 イギリスの一部(イングランドとウェールズ=人口約6000万人)の公益法人同等の法律上「チャリティ」と呼ばれる組織の数は本年の数字で約17万団体にもなります。 


 数多ければよいというものではありませんが日本の公益法人数は1万を下回り、2006年の大改革があって以降、新規に公益認定された法人は1000も増えていません。


しかし、


公益法人税制の方向転換の契機となった税制調査会の平成17年6月17日「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」では


「あるべき税制」の一環として、「新たな非営利法人制度」とこれに関連する税制を整合的に再設計し、寄附金税制の抜本的改革を含め、「民間が担う公共」を支える税制の構築を目指そうとするものに他ならない。これはまた、歳入歳出両面における財政構造改革の取組みと併せて、わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組みでもあるといえよう。


と、「わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組み」と高らかに謳っています。これだけの意気込みの中での2006年の公益法人制度改革でした。



数多ければよいというものではありません。しかし、税調の同報告書では


「新たな非営利法人制度」の制度化を契機として、税制面において、欧米諸国並みに寄附文化を育んでいくためのインフラ整備に積極的に寄与するとの視点が重要となる。


とあるように、明らかに欧米は意識していました。


今回、ガイドライン案についての都道府県の行政庁の担当者からの意見も発表になっています。その中には、公益法人の認定をするにあたっての不安感がにじみ出たものもあります。

そのメンタリティはよくわかります、きっと優秀なお役人だと思います。


だからこそ、民間人が有識者として公益認定等委員会委員になっているのではないでしょうか?


単なる不安感の解消のための膨大な書類提出で、公益認定申請数の約3割から4割(内閣府)が辟易として取下げてしまっている実態にメスを入れる必要はないのでしょうか?


財政的基盤の明確化は、申請書の別表Eに大口の寄付予定者があれば、それを記載できるようにして、新設財団が300万円の資産拠出の後、最大限税制優遇が受けられるようになっています。申請書の別表Eは当時の事務局と委員であった小生とで作りましたが、これだけで認定するものとしてそれ以上の書類など考えていませんでした。


ところが、「クリープ現象」によって「寄付予定者が本当に寄付をするのか。」「そんな多額の寄付ができる資金を有しているのか確認するために、前年の確定申告書を提出しろ」といった委員会委員の意見から「確定申告書」を寄付予定者が提出した例があることも聞いています。


大内俊身氏が指摘した通り、虚偽申告に対して、システムとして懲役刑を含む厳しいサンクションがあることに対して、明確な矛盾もないのにそれを挙証する書類を求めることなど想定もしていませんでした。


今回のガイドライン案は、これを「寄付の確約書」という形の提出を求めることで、「書類の防波堤」としているのではないかとということもよくわかります。


しかし、法律に形式要件があるもの以外に、<おそれ=可能性=蓋然性>に基づく不安感による審査そのものをやめなければ、どのような防波堤に基づくガイドラインができても、同じことが繰り返されるのではないでしょうか?



委員の方々の不安感まで否定しているわけではありません。その気持ちは痛いほどわかります。しかし、それと「法律にもどつく審査」は別物ではないでしょうか?


「税制があるから」ということが、不必要な書類要求の言い訳に使われているようにも思います。税制は上記にある通り、「わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組み」としての公益活性化の「インセンティブ施策」としてあります。


事務方のトップが言う「思想」を徹底させるためには、(失礼な言い方は百も承知ですが)公益認定等委員会の委員こそ今存在感を示す時ではないでしょうか?


迅速に税制上の地位を与えられて、皆が奮闘し難病の子供を救ったという実話に基づいた感動の映画があります。”Ordinary Angels” という映画です。法律上の差異もあるので簡単な比較はできませんが、しかし、少なくとも「審査の文化の相違」によって日本のような審査ではこの子供の命は助からなかったでしょうし、おそらくは何十万人、何百万人に与えた感動も生まれなかったことと思います。


機会があれば、是非ご覧になってください。


新規の公益認定を求める法人の意欲を削ぐようなことを避けるために何をするべきか、その一点を是非お考え下さい。


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前回の続き [2024年09月25日(Wed)]

前回からの続きになります)

もともとのチェックポイントの用語については以下のような明確な説明があります。


各用語の解説 ア 「機会が、一般に開かれているか」:共益的に行われるものを除く趣旨である。 受益の機会が特定多数の者(例えば、社団法人の社員)に限定され ている場合は原則として共益と考えられる。 ただし、機会が限定されている場合でも、例えば別表各号の目的に 直接貢献するといった合理的な理由がある場合、不特定かつ多数の者 の利益の増進に寄与するという事実認定をし得る。(例:特定の資格等 を有する者の大半で構成される法人における講習による人材の育成が 学術の振興に直接貢献すると考えられる場合、受講者が社員に限定さ れていても、公益目的事業とし得る。) 


特定の学校を指定した奨学金が「機会が、一般に開かれているか」という文言の文字通りの意味において疑問があるとしても、「共益的に行われるものを除く趣旨」とは全く関係のない話です。特定校であるにしても第三者が提供する奨学金が「共益的」であるはずがなく、そのことに公益認定等委員会が疑義を差しはさむことは明らかに当初の説明と食い違っておりクリープ現象が起きています。ここまで明確に説明がある事項についても異なる運用が現在はされているということです。


今回のガイドラインは、こうした「クリープ現象」(法律改正がないままに法の運用が一方向に徐々に変化していく現象。今回の場合は規制が強化されていく現象として使用している)を公認しています。


現行の 17 事業を含むこれまでの公益目的事業該当性の判断から帰納的導いたものであり、17事業の公益目的事業該当性チェックポイントついては、簡便公益目的事業該当性を判断するためのものとして、原則、現在の判断の構造は維持する(ガイドライン案)。


さらにこの個所の注として、

従来、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」という事実があるかどうかを認定するに当たっての留意点とされていたが、現実の運用においては、「別表に掲げる種類の事業」という事実があるかどうかを認定するに当たっての留意点としても使われており、実際の判断の構造に変更はないと考えられる(ガイドライン案注)。


これは初期の委員からすればありえない記述であり、クリープ現象の典型といえるでしょう。チェックポイントと異なる運用してきたこと認めたうえで、それを前提にしますと宣言しているのですから。


事務局としては公益認定等委員会がガイドラインやチェックポイントと異なる運用をしてきて、実際の判断の構造は変化していましたとは言えませんから、こう記載せざるを得ないのでしょう。これまでのガイドラインやチェックポイントと異なる運用をして変化してきました、本来の運用と現在の運用とはどちらがよいでしょうか、と言えるのは実際に運用をしてきた委員だけです。


これまでと一緒だというのは、議論を否定することにほかなりません。


今回、チェックポイントをガイドラインに格上げし、クリープ現象を現在の運用のところで止めるための膨大なガイドラインということはわかりますが、これだけの分量があると、今後もクリープ現象が進まないという保証は全くできないでしょう。


数年後に、また、「実際の記載は〇〇であったが、現実の運用としては△△であったので、次のように記述を変更しても実際の判断の構造に変更はないと考える」とすれば、この制度はその時の委員の字句の読み間違いによって永遠に無意味な規制が増大し続けるでしょう。


クリープ現象を止めるのは公益認定等委員会委員の良心以外にはありません。


とりわけ、ガバナンスの中核である定款の目的や事業にまで、現状では、委員会が口を挟み出していたことや、それを今回のガイドラインで公認しかけていることについては看過できません。企業が定款に書いていない社会貢献活動をどんどん展開できている中で、公益法人が法律上の根拠もなく「具体的に書け」と指導されて作られた定款に縛られて社会貢献活動が制約されるという規制は果たして正しいのでしょうか?疑問に感じます。


今こそ、事務方トップが指摘した法律の「思想」ということをかみしめたいと思います。




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法律の思想と公益法人のガイドライン案 [2024年09月23日(Mon)]

 今回の公益法人の改革というのは、広く国民からの意見も聴取したいという意向もよく反映されていると思います。とりわけ、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」(雨宮孝子座長)は、法改正時だけではなく、フォローアップ会議(以下「FU会議という」として、その後の政令府令やガイドライン策定などの詳細な事項まで意見交換していることは素晴らしいことだと思います。


その第1回FU会議で、事務方のトップは以下のように述べています。


私からは常々、法律の条文 にはなるべく「思想」を書けと言っています。この規定は、どういう趣旨、どういう社会 的意義で置いているのかという「思想」をなるべくにじみ出すようにと。プリンシプルベ ースというのとちょっと通底するものがあるかもしれませんが、条文でスタンスを明らか にした上で、下位のルールの体系で細目を体系的・整合的に整備していくことを指導して いるところです



「下位のルールの体系で細目を体系的・整合的に整備していくこと」について、今まさに、ガイドラインが検討されているものと思います。


 なるほど、ガイドラインは前半の総論においては上記の「思想」は徹底されているような記述が目について誠に素晴らしいと思います。


 しかし、14頁の「公益目的事業該当するか否かついての判断事例を整理して、判断基準の明確化を図る」というあたりから以降の各論は、やや疑問に感じる箇所もあります。というのも、公益認定等委員会の判断は裁判でしか、中立的にレビューされることがなく、しかもそれは、「考慮すべきでない点を考慮した」として、裁判では国が負けているからです。そのことを冷静に見つめなおす機会が取れていたのでしょうか。時間の経過とともに、一方的に厳しくなっていった判断事例に基づけば、どんどんと無駄な提出書類が増える制度に変わっていかざるを得ないものと思います。


 前回も指摘した通り、公益認定等委員会の判断を前提としなければならないことに伴う、問題をここで再度指摘したいと思います。


 法令が改正されないままに、時間が経つにしたがって、どんどんと変化していくことを学術的には「クリープ現象」といいます。公益法人行政は、「クリープ現象」のオンパレードだったのではないでしょうか?


 報告徴収、勧告、不認定処分などの事例が蓄積すれば、それに引きずられて、当初の状況とは異なる形で徐々に法令の適用をするのに書類が増えていかないでしょうか。もちろん、ガイドラインはそのことを意識して「(公益として)認められた事例」というものを交えながら、しっかりとした配慮をしている状況も読み取れなくはありません。しかし、それは決して十分ではないでしょう。この方法だとどうしても時間軸に対して増えていくばかりの枝葉末節の「規制」を結局は公認してしまって、法改正の「思想」から乖離した運用が増えてしまうのではないかと危惧します。

とりわけ、それが新規参入に対して大きな壁となっているように思います。


 ここで少し話題を変えましょう。日本の公益法人の法規制に関して、外国の研究者に説明が非常に難しいものがあります。


 具体的には、公益認定法の5条10号、11号の理事等に関する3分の1規制です。

 これらは、理事の構成を親族や他の団体の関係者が3分の1を超えてはならないという規制です。


 では、仮に3分の1を超えるような事態が生じたら、何が起こるのでしょうか?


 実は直ちに何か起こって困るということではありません。


 本来独立して活動すべき公益法人が、この規制を設けなければ、親族や他の団体に支配されてしまう<おそれ=可能性=蓋然性>が高まるというにすぎないのです。


 そのような規制をここでは「蓋然性直接規制」と呼ぶとすると、他国には「蓋然性」を直接規制するものが、あまり見られないように思います。


 実際、例えば、米国では親族に支配されている公益法人や他団体に支配されている公益法人も多く、それらが規制されているわけでもなければ、特段、公益活動自体に問題があるわけでもありません。


 他国にあまりない規制という意味では、「蓋然性に基づく規制」は日本の文化的なものだといっていいかもしれないですね。


 ただし、3分の1規制は、日本においては是非を論じるまでもなく、法律であるので守ってもらわないといけません。そこに異論はありません。


 しかし、ガイドラインの各論を見るといくつかのところで、法律に形式要件のないことに関してまで「蓋然性に基づく不安」が随所に現れているように思います。実際、これまでの不認定処分の理由を読むと、「○○というおそれがある」、「(○○という懸念を払拭する)仕組みが構築されているとは認めることができない」といった文言が並んでいる。あきらかに蓋然性が高まるという「不安感」で不認定にしてしまっています。


 公益認定等委員会委員として審査に加わった立場から、委員がそのような不安を感じることに関しては同情しないわけではありません。その気持ちは痛いほどわかるといってもいいでしょう。しかし、だからといって、不認定処分を下したり、それに基づく不要な書類を次々に要求するのは、上記の「思想」から言って正しかったのでしょうか?しかもそうした「判断事例」が積み重なれば、単に委員会委員の不安を払拭するだけの提出書類が累積してしまうことにはならないでしょうか?



 時間が足りませんが、次回以降、「クリープ現象」による提出書類の実例を挙げてもう少し考えてみたいと思います。


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第3回公益認定等ガイドライン研究会の議事録を読んで [2024年09月02日(Mon)]

第3回公益認定等ガイドライン研究会の議事録が公開されました。


今回の公益認定法改正は、

新し い時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」が開催され、立派な報告書が完成し、それに基づいて法改正が実現しました。


利便性について運用で対応しようとしていたことを、法律でしっかりと書き込んでの法改正は誠に見事だったと思います。


有識者会議の最終報告には改正に趣旨が次のように記載されています。

多様な価値観をもつ個人が自らの価値観に基づき、SDGs実現その他の多様な社会的 課題解決に主体的に取り組んでいくという成熟した市民社会においては、機動的な対応が 難しく画一的な対応になりがちな行政部門のみでは社会的課題の発掘・解決には限界があ る。また、利益の分配を目的とする民間営利部門のみでも社会的課題の解決には限界があ り、営利を目的としない民間非営利部門が「公 」として多様な社会的価値の創造に向けて果 たす役割が、ますます重要となる。


ガイドラインは、実際の活動に直接影響を与える「各論」を議論をしています。

まずは関係者のご尽力に感謝したいと思います。


その上でいささか感想を述べさせていただきたいと思います。
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