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民間公益の増進のための公益法人等・公益認定ウォッチャー (by 出口正之)

日本の民間公益活動に関する法制度・税制は、10数年にわたって大きな改善が見られました。たとえば、公益認定等委員会制度の導入もその一つでしょう。しかし、これらは日本で始まったばかりで、日本の従来の主務官庁型文化の影響も依然として受けているようにも思います。公益活動の増進のためにはこうした文化的影響についても考えていかなければなりません。内閣府公益認定等委員会の委員を二期六年務めた経験及び非営利研究者の立場から、公益法人制度を中心に広く非営利セクター全体の発展のためにブログをつづりたいと考えております。


「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)(素案)」等に対する意見募集開始 [2024年11月04日(Mon)]

「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)(素案)及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則の規定に基づく内閣総理大臣が定めるものを定める件」に対する意見募集が開始されました。


 今回のガイドライン策定プロセスでは、ガイドライン研究会が設置され、かなり丁寧な手続きを経て、ガイドライン案が作成されました。中間的なもの(素案イメージ)を発表して、意見を募集したり、第5回ガイドライン研究会では議事要旨を作成する前にわずか数日で、さらに第6回研究会では即日に、その時その時のガイドライン案を含む資料を発表し、外部へできるだけ早く情報提供をしようとしていた姿勢や研究会で出された意見を反映しようとする意図が明確に感じられました。


 また、中間的なもの(素案イメージ)で出された意見についても、研究会でフィードバックしながら、この種の意見募集としてはかなりのものを取り入れたり、取り入れなかった理由を研究会で公表しながら現在の案があると思います。


 これまでいろんな文書を参照しなければ公益法人制度の全体像がつかめなかったことから、ガイドラインという形で様々な文書を今回一か所にまとめたこともあって、A4で234頁にも及ぶ大量の書類となっています。


 できるだけ多くの公益法人関係者やそれ以外の方々が意見提出することが期待されているものと思います。本来ならば、国民全体にその受益が及び国民の関心が高くなって当たり前の公益法人に関してあまりにも無関心層が多いことが公益法人が活発に活動している他国と比べて大きな違いの一つになっているものと思います。


 ガイドライン案は本ブログの考えと著しく異なる部分ももちろんありますが、ある意味では社会全体の雰囲気を反映している部分もあると思います。このガイドライン案を見て本ブログの考え方を社会全体に広げていく必要性も痛感しているところです。


 できるだけ多くの方が、語義の質問を含めて多くのご意見を出されることがより良き制度や誤解のない制度へ近づく第一歩だと思います。


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小規模法人と比例原則と委員会 [2024年10月20日(Sun)]

 公益法人の本年の改革で重要な用語の一つとして「小規模法人」というものがあると思います。「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告ではこの用語は4か所も出てきます。


ある目的を達成する際に、より規制の程度が軽い手段で目的を達成できる場合は、その軽い手段によるべきという原則である「比例原則」(”principles of proportionality”)は、非営利行政では普遍則に近いもので、他国においてはしばしば強く強調されます(もちろん非営利に限ったことではないと思いますが)。海外の非営利の会計が日本で紹介されることが多くありますが(例えば、イギリスにおけるSORP)、これらは規模が一定以下の小規模法人は現金の出納だけでオーケーです(イギリスは25万ポンド以下=日本円で約5000万円以下)。


 監督についても、イギリス(イングランド&ウェールズ)のチャリティ委員会(日本の「公益認定等委員会」に相当)を例に出せば、次の 3 つの戦略的リスクに焦点を当てています。


1.受益者の保護

2.テロ対策

​​3.会計上の不正


 監督の主な目的は、重大な法令違反に関する懸念がある「チャリティ」(日本の「公益法人」に相当)、または「チャリティ」のグループ内で重大な法令違反の重大なリスクがあると考えられる慈善団体を監視することです。この作業は、委員会がセクターとそこで行われている不正行為について持っている情報と知識、およびこれらの懸念と法令違反に対処した経験を駆使して行われます。


 オーストラリアの場合には、チャリティ委員会事務局の半数近くはIT関係者で、まずは報告書の内容に矛盾がないかを電子的にチェックしています。


 日本の場合には、行政文化によるものでしょうが、全法人に対して行政への報告書の数値に間違いがないかを、人力で確認し、数か月たってから、修正の連絡がかなりの公益法人に対してなされます。このような方法では、新規の公益法人の増加は役所の仕事を増加させることになりますから、新規法人の増加には心理的なブレーキがかかってしまうのかもしれません。


 また、立入検査も全法人に対して実施され、どんな法人に対しても一般社団財団法や公益認定法を中心にあらゆる法令とともに暗黙の委員会のルールとの齟齬がないかチェックされます。特に多いのは、「理事会と決算の社員総会や評議員会がまる14日間空いているかどうか」(一般社団財団法上の要請)や「講師の謝金を出している場合に規程があるかどうか」(委員会に拠る暗黙のルール)などです。


 まあ、前者のように法令にあることならば、やむを得ないかもしれませんが、後者は全く法令に根拠がありません。公益認定に必要以上の時間がかかっていたことの要因の一つでしょう


 こうしたことに一生懸命になるばかりに、自ら遵守すべきことを怠ってしまっている行政庁も出てくるのでしょうか?


 やや我田引水ですが、行政庁としての大阪府は私が委員になる前から、この点についてはきちんと対応がなされるようになっていました。


 特に岡本仁宏関西学院大学教授(現在は同名誉教授)が委員長となった時に、明確に以下のような宣言をされたことがその後の行政の態度に大きな影響を与えたと思います(下記に一部を引用)。


民間公益活動の発展のためにも、法人自治の考え方を尊重し、「新たな公益活動の分野を切り開いていく」法人の革新的実験的な試みが許容されなければなりません。本委員会としても、法令以上の必要以上の規制や後見的な干渉は行わないようにいたします。また、行政手続法第6条に基づく標準処理期間を尊重し、迅速な対応を図っていきます。

12.3%の公益法人は常勤職員がおらず、5.8%は職員自体がいません。それぞれ、一人だけの法人が11.9%%、13.7%、4人以下が、48.7%、55.0%です。中央値は、それぞれ5人、4人ですが、新規の公益認定法人に限れば、それぞれ二人、一人です(内閣府『平成27年「公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」平成28年9月)

 これらの法人も、民間非営利公益活動の担い手としての役割を果たしています。小規模法人に過剰な負担にならないように、認定・監督等を行うことが必要だと考えます。



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公益法人の情報公開?まずは隗より始めよ! [2024年10月16日(Wed)]

 今回の公益法人制度改革の最重要点の1つは間違いなく情報公開だと思います。


 これに関連して公益法人の作業も大変多くなります。公益法人制度の改善のためであり、仕方ないことかもしれません。公益法人の関係者は今必死に取り組んでいるところです。


 しかし、地方分権の中で都道府県の行政庁の委員会の情報公開の現状はどうなのでしょうか?


 地方分権ですから、条例に基づいて認定及び監督の委員会たる第三者機関が設置され、地方においても「公益認定等委員会」や、「公益認定等審議会」などの名称が付けられ、委員会についての運営規則もそれぞれで作られています。


 運営規則の内容はほぼ同じであり、会議の議事録及び配布資料については個別審査に関わるものなどを除き一部の例外はあるものの、原則公開であり、これまでずっと公開されてきました。


 年に2,3回しか委員会が開かれていない県もあれば、人口が少ない県でも熱心に開催している県もあります。


 しかるに、本年度はすでに半年も過ぎているのに、会議開催の痕跡すらないものが、9県にも及んでいます。全国の20%近い県の数となるので、驚きです。


 もちろん、今年度に入って一度も委員会が開かれていないということはないと思いますが、そのうち6県は、本年になって一度も会議開催の情報がありません。


 さらに、そのうち1県は、最後の会議は令和4年3月であり、さらに、もう1県は実に平成30年3月が最後です。


 地方には地方の事情もあるのかもしれません。しかし、このことは地方の委員会でしっかりと原因や再発防止策も含めて議論し、その議事録を公開すべきでしょう。監督されている法人がどういう思いで、今回の大改正を受け止めているのか、その気持ちの万分の1でも思いをはせれば、当然のことだと思いますが、間違っているでしょうか?


 公益認定法では、内閣総理大臣は知事に対して、法人に対する勧告、命令、取消しなどの監督処分を行うことの指示を行う等の権限を有しています(公益認定法60条)が、地方分権の建前から、このようなことまで地方行政庁に対していちいち口出すことはかえってどうかとも思います。


 法人のチェックに関しては、行政庁は事細かに法令を超えたことまで指導しています。では、行政庁のチェックは誰がしたらよいのでしょうか?


 地方の委員は、自らの会議の開催録の公開状況すらチェックしていないのでしょうか?


 アカウンタビリティ、情報公開、大切でしょう。わかります。でも、まずは隗より始めよ!ではないでしょうか?


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公益を目的としていること以外の公益法人の特徴って何? [2024年10月06日(Sun)]

ニューヨークのブロードウエイのミュージカルは営利企業が行い、リンカンセンターのオペラは日本の公益法人のような非営利非課税法人が行っていますが、両者の違いって何でしょうか?


どちらも豪華な衣装や舞台を用意し、素晴らしい演奏や歌を披露してくれます。

両者とも興業ですから、 リンカンセンターのオペラが営利企業等が実施している事業と類似する事業だと指摘されば、そうだと言わざるを得ません。


実際に、ニューヨークに出張でも行けば、今晩は「ニューヨークのブロードウエイのミュージカルへ行こうかな?リンカーンセンターのオペラに行こうかな?」と迷う人も多いでしょう。


その時に、オペラの公益法人が実施する特徴を示せと言われたら、どう説明したらよいのでしょうか?


前者は興業主が大きな利益を上げようとし、後者は公益を目的として利益を分配しないという大きな本質的な特徴の違いがあります。税だけが関係者の判断基準ではありません。


儲かると思って儲けを期待しながら投資をする人がたくさん集まれば、営利法人を選ぶでしょうし、別の公益目的がある人は公益法人を選ぶでしょう。この目的の違い、儲けてもそれが自分のものにならないという違いは他の要素に比べるとあまりにも大きなものがあります。


日本の場合には、公益法人に対して、さらに役員の報酬に関する規制や財務三基準というものがあります。儲けたいと思う人にとっては、あまりにも「魅力がない制度」であり、それは非課税の魅力の度合いと比べると、何倍も何倍も大きな「魅力のなさ」です。


それ以外の特徴を上げろと言われたら、皆さんは何と答えますか?


まさか、「オペラは芸術だけど、ミュージカルは芸術ではない」とは言えないでしょう。オペラも人を育てていますが、ミュージカルもレベルは収益に直結しますから、ものすごく人を育てています。


また、リンカンセンターでもミュージカルは公演されますから、場所の違いだとも言えないでしょう。


値段の違いでいえば、オペラの方が高いかもしれません。


さらに、ブロードウエイのミュージカルは営利企業ですが、別の場所でのミュージカル興業社が非課税団体である例もたくさんあります。


もし、当局が公益法人に対して他の営利企業との異なる「特徴」を求め出したら一体何と答えればいいのでしょうか? 是非どなたか教えてください。


公益法人には企業と異なる事業上の特徴があるはずではないか、と一見説得力のある主張の中にこそ危険が潜みます。

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前々回の続き [2024年09月26日(Thu)]

 簡単な比較でできませんが、日本の公益法人と同等の非課税・寄付金控除団体である米国の内国歳入法501条(3)C団体は、本年9月の時点で約190万団体にもなります。


 イギリスの一部(イングランドとウェールズ=人口約6000万人)の公益法人同等の法律上「チャリティ」と呼ばれる組織の数は本年の数字で約17万団体にもなります。 


 数多ければよいというものではありませんが日本の公益法人数は1万を下回り、2006年の大改革があって以降、新規に公益認定された法人は1000も増えていません。


しかし、


公益法人税制の方向転換の契機となった税制調査会の平成17年6月17日「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」では


「あるべき税制」の一環として、「新たな非営利法人制度」とこれに関連する税制を整合的に再設計し、寄附金税制の抜本的改革を含め、「民間が担う公共」を支える税制の構築を目指そうとするものに他ならない。これはまた、歳入歳出両面における財政構造改革の取組みと併せて、わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組みでもあるといえよう。


と、「わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組み」と高らかに謳っています。これだけの意気込みの中での2006年の公益法人制度改革でした。



数多ければよいというものではありません。しかし、税調の同報告書では


「新たな非営利法人制度」の制度化を契機として、税制面において、欧米諸国並みに寄附文化を育んでいくためのインフラ整備に積極的に寄与するとの視点が重要となる。


とあるように、明らかに欧米は意識していました。


今回、ガイドライン案についての都道府県の行政庁の担当者からの意見も発表になっています。その中には、公益法人の認定をするにあたっての不安感がにじみ出たものもあります。

そのメンタリティはよくわかります、きっと優秀なお役人だと思います。


だからこそ、民間人が有識者として公益認定等委員会委員になっているのではないでしょうか?


単なる不安感の解消のための膨大な書類提出で、公益認定申請数の約3割から4割(内閣府)が辟易として取下げてしまっている実態にメスを入れる必要はないのでしょうか?


財政的基盤の明確化は、申請書の別表Eに大口の寄付予定者があれば、それを記載できるようにして、新設財団が300万円の資産拠出の後、最大限税制優遇が受けられるようになっています。申請書の別表Eは当時の事務局と委員であった小生とで作りましたが、これだけで認定するものとしてそれ以上の書類など考えていませんでした。


ところが、「クリープ現象」によって「寄付予定者が本当に寄付をするのか。」「そんな多額の寄付ができる資金を有しているのか確認するために、前年の確定申告書を提出しろ」といった委員会委員の意見から「確定申告書」を寄付予定者が提出した例があることも聞いています。


大内俊身氏が指摘した通り、虚偽申告に対して、システムとして懲役刑を含む厳しいサンクションがあることに対して、明確な矛盾もないのにそれを挙証する書類を求めることなど想定もしていませんでした。


今回のガイドライン案は、これを「寄付の確約書」という形の提出を求めることで、「書類の防波堤」としているのではないかとということもよくわかります。


しかし、法律に形式要件があるもの以外に、<おそれ=可能性=蓋然性>に基づく不安感による審査そのものをやめなければ、どのような防波堤に基づくガイドラインができても、同じことが繰り返されるのではないでしょうか?



委員の方々の不安感まで否定しているわけではありません。その気持ちは痛いほどわかります。しかし、それと「法律にもどつく審査」は別物ではないでしょうか?


「税制があるから」ということが、不必要な書類要求の言い訳に使われているようにも思います。税制は上記にある通り、「わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組み」としての公益活性化の「インセンティブ施策」としてあります。


事務方のトップが言う「思想」を徹底させるためには、(失礼な言い方は百も承知ですが)公益認定等委員会の委員こそ今存在感を示す時ではないでしょうか?


迅速に税制上の地位を与えられて、皆が奮闘し難病の子供を救ったという実話に基づいた感動の映画があります。”Ordinary Angels” という映画です。法律上の差異もあるので簡単な比較はできませんが、しかし、少なくとも「審査の文化の相違」によって日本のような審査ではこの子供の命は助からなかったでしょうし、おそらくは何十万人、何百万人に与えた感動も生まれなかったことと思います。


機会があれば、是非ご覧になってください。


新規の公益認定を求める法人の意欲を削ぐようなことを避けるために何をするべきか、その一点を是非お考え下さい。


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前回の続き [2024年09月25日(Wed)]

前回からの続きになります)

もともとのチェックポイントの用語については以下のような明確な説明があります。


各用語の解説 ア 「機会が、一般に開かれているか」:共益的に行われるものを除く趣旨である。 受益の機会が特定多数の者(例えば、社団法人の社員)に限定され ている場合は原則として共益と考えられる。 ただし、機会が限定されている場合でも、例えば別表各号の目的に 直接貢献するといった合理的な理由がある場合、不特定かつ多数の者 の利益の増進に寄与するという事実認定をし得る。(例:特定の資格等 を有する者の大半で構成される法人における講習による人材の育成が 学術の振興に直接貢献すると考えられる場合、受講者が社員に限定さ れていても、公益目的事業とし得る。) 


特定の学校を指定した奨学金が「機会が、一般に開かれているか」という文言の文字通りの意味において疑問があるとしても、「共益的に行われるものを除く趣旨」とは全く関係のない話です。特定校であるにしても第三者が提供する奨学金が「共益的」であるはずがなく、そのことに公益認定等委員会が疑義を差しはさむことは明らかに当初の説明と食い違っておりクリープ現象が起きています。ここまで明確に説明がある事項についても異なる運用が現在はされているということです。


今回のガイドラインは、こうした「クリープ現象」(法律改正がないままに法の運用が一方向に徐々に変化していく現象。今回の場合は規制が強化されていく現象として使用している)を公認しています。


現行の 17 事業を含むこれまでの公益目的事業該当性の判断から帰納的導いたものであり、17事業の公益目的事業該当性チェックポイントついては、簡便公益目的事業該当性を判断するためのものとして、原則、現在の判断の構造は維持する(ガイドライン案)。


さらにこの個所の注として、

従来、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」という事実があるかどうかを認定するに当たっての留意点とされていたが、現実の運用においては、「別表に掲げる種類の事業」という事実があるかどうかを認定するに当たっての留意点としても使われており、実際の判断の構造に変更はないと考えられる(ガイドライン案注)。


これは初期の委員からすればありえない記述であり、クリープ現象の典型といえるでしょう。チェックポイントと異なる運用してきたこと認めたうえで、それを前提にしますと宣言しているのですから。


事務局としては公益認定等委員会がガイドラインやチェックポイントと異なる運用をしてきて、実際の判断の構造は変化していましたとは言えませんから、こう記載せざるを得ないのでしょう。これまでのガイドラインやチェックポイントと異なる運用をして変化してきました、本来の運用と現在の運用とはどちらがよいでしょうか、と言えるのは実際に運用をしてきた委員だけです。


これまでと一緒だというのは、議論を否定することにほかなりません。


今回、チェックポイントをガイドラインに格上げし、クリープ現象を現在の運用のところで止めるための膨大なガイドラインということはわかりますが、これだけの分量があると、今後もクリープ現象が進まないという保証は全くできないでしょう。


数年後に、また、「実際の記載は〇〇であったが、現実の運用としては△△であったので、次のように記述を変更しても実際の判断の構造に変更はないと考える」とすれば、この制度はその時の委員の字句の読み間違いによって永遠に無意味な規制が増大し続けるでしょう。


クリープ現象を止めるのは公益認定等委員会委員の良心以外にはありません。


とりわけ、ガバナンスの中核である定款の目的や事業にまで、現状では、委員会が口を挟み出していたことや、それを今回のガイドラインで公認しかけていることについては看過できません。企業が定款に書いていない社会貢献活動をどんどん展開できている中で、公益法人が法律上の根拠もなく「具体的に書け」と指導されて作られた定款に縛られて社会貢献活動が制約されるという規制は果たして正しいのでしょうか?疑問に感じます。


今こそ、事務方トップが指摘した法律の「思想」ということをかみしめたいと思います。




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法律の思想と公益法人のガイドライン案 [2024年09月23日(Mon)]

 今回の公益法人の改革というのは、広く国民からの意見も聴取したいという意向もよく反映されていると思います。とりわけ、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」(雨宮孝子座長)は、法改正時だけではなく、フォローアップ会議(以下「FU会議という」として、その後の政令府令やガイドライン策定などの詳細な事項まで意見交換していることは素晴らしいことだと思います。


その第1回FU会議で、事務方のトップは以下のように述べています。


私からは常々、法律の条文 にはなるべく「思想」を書けと言っています。この規定は、どういう趣旨、どういう社会 的意義で置いているのかという「思想」をなるべくにじみ出すようにと。プリンシプルベ ースというのとちょっと通底するものがあるかもしれませんが、条文でスタンスを明らか にした上で、下位のルールの体系で細目を体系的・整合的に整備していくことを指導して いるところです



「下位のルールの体系で細目を体系的・整合的に整備していくこと」について、今まさに、ガイドラインが検討されているものと思います。


 なるほど、ガイドラインは前半の総論においては上記の「思想」は徹底されているような記述が目について誠に素晴らしいと思います。


 しかし、14頁の「公益目的事業該当するか否かついての判断事例を整理して、判断基準の明確化を図る」というあたりから以降の各論は、やや疑問に感じる箇所もあります。というのも、公益認定等委員会の判断は裁判でしか、中立的にレビューされることがなく、しかもそれは、「考慮すべきでない点を考慮した」として、裁判では国が負けているからです。そのことを冷静に見つめなおす機会が取れていたのでしょうか。時間の経過とともに、一方的に厳しくなっていった判断事例に基づけば、どんどんと無駄な提出書類が増える制度に変わっていかざるを得ないものと思います。


 前回も指摘した通り、公益認定等委員会の判断を前提としなければならないことに伴う、問題をここで再度指摘したいと思います。


 法令が改正されないままに、時間が経つにしたがって、どんどんと変化していくことを学術的には「クリープ現象」といいます。公益法人行政は、「クリープ現象」のオンパレードだったのではないでしょうか?


 報告徴収、勧告、不認定処分などの事例が蓄積すれば、それに引きずられて、当初の状況とは異なる形で徐々に法令の適用をするのに書類が増えていかないでしょうか。もちろん、ガイドラインはそのことを意識して「(公益として)認められた事例」というものを交えながら、しっかりとした配慮をしている状況も読み取れなくはありません。しかし、それは決して十分ではないでしょう。この方法だとどうしても時間軸に対して増えていくばかりの枝葉末節の「規制」を結局は公認してしまって、法改正の「思想」から乖離した運用が増えてしまうのではないかと危惧します。

とりわけ、それが新規参入に対して大きな壁となっているように思います。


 ここで少し話題を変えましょう。日本の公益法人の法規制に関して、外国の研究者に説明が非常に難しいものがあります。


 具体的には、公益認定法の5条10号、11号の理事等に関する3分の1規制です。

 これらは、理事の構成を親族や他の団体の関係者が3分の1を超えてはならないという規制です。


 では、仮に3分の1を超えるような事態が生じたら、何が起こるのでしょうか?


 実は直ちに何か起こって困るということではありません。


 本来独立して活動すべき公益法人が、この規制を設けなければ、親族や他の団体に支配されてしまう<おそれ=可能性=蓋然性>が高まるというにすぎないのです。


 そのような規制をここでは「蓋然性直接規制」と呼ぶとすると、他国には「蓋然性」を直接規制するものが、あまり見られないように思います。


 実際、例えば、米国では親族に支配されている公益法人や他団体に支配されている公益法人も多く、それらが規制されているわけでもなければ、特段、公益活動自体に問題があるわけでもありません。


 他国にあまりない規制という意味では、「蓋然性に基づく規制」は日本の文化的なものだといっていいかもしれないですね。


 ただし、3分の1規制は、日本においては是非を論じるまでもなく、法律であるので守ってもらわないといけません。そこに異論はありません。


 しかし、ガイドラインの各論を見るといくつかのところで、法律に形式要件のないことに関してまで「蓋然性に基づく不安」が随所に現れているように思います。実際、これまでの不認定処分の理由を読むと、「○○というおそれがある」、「(○○という懸念を払拭する)仕組みが構築されているとは認めることができない」といった文言が並んでいる。あきらかに蓋然性が高まるという「不安感」で不認定にしてしまっています。


 公益認定等委員会委員として審査に加わった立場から、委員がそのような不安を感じることに関しては同情しないわけではありません。その気持ちは痛いほどわかるといってもいいでしょう。しかし、だからといって、不認定処分を下したり、それに基づく不要な書類を次々に要求するのは、上記の「思想」から言って正しかったのでしょうか?しかもそうした「判断事例」が積み重なれば、単に委員会委員の不安を払拭するだけの提出書類が累積してしまうことにはならないでしょうか?



 時間が足りませんが、次回以降、「クリープ現象」による提出書類の実例を挙げてもう少し考えてみたいと思います。


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第3回公益認定等ガイドライン研究会の議事録を読んで [2024年09月02日(Mon)]

第3回公益認定等ガイドライン研究会の議事録が公開されました。


今回の公益認定法改正は、

新し い時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」が開催され、立派な報告書が完成し、それに基づいて法改正が実現しました。


利便性について運用で対応しようとしていたことを、法律でしっかりと書き込んでの法改正は誠に見事だったと思います。


有識者会議の最終報告には改正に趣旨が次のように記載されています。

多様な価値観をもつ個人が自らの価値観に基づき、SDGs実現その他の多様な社会的 課題解決に主体的に取り組んでいくという成熟した市民社会においては、機動的な対応が 難しく画一的な対応になりがちな行政部門のみでは社会的課題の発掘・解決には限界があ る。また、利益の分配を目的とする民間営利部門のみでも社会的課題の解決には限界があ り、営利を目的としない民間非営利部門が「公 」として多様な社会的価値の創造に向けて果 たす役割が、ますます重要となる。


ガイドラインは、実際の活動に直接影響を与える「各論」を議論をしています。

まずは関係者のご尽力に感謝したいと思います。


その上でいささか感想を述べさせていただきたいと思います。
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公益認定等ガイドライン(素案イメージ)に関する意見募集 締切り近づく [2024年08月14日(Wed)]

新しい「公益認定等に関する運用について」(公益認定等ガイドライン)(素案イメージ)に関する意見募集の締切り(8月16日)が近づいてきました。


素案についてはこちらからご覧になれます。

https://www.koeki-info.go.jp/regulation/pdf/20240729_iken.pdf


今回は、素案が固まる前の段階で、意見を募集しています。

是非、公益法人関係者またはこれから公益法人を設立しようと考えている方々はご意見を出してみてください。


「箸の上げ下ろし」の指導をやめるというキャッチフレーズで110年ぶりの公益法人制度改革が2006年に行われましたが、「民間の」公益認定等委員会だったはずですが、役所以上に口をはさみ、「箸の上げ下ろし」は「つまようじの上げ下ろし」に変わったという意見も出てきております。


立派な理念に基づく法改正ですが、ステレオタイプの公益法人ではない全く新しい創意工夫に基づく法人に対しては、とりわけあれやこれやの追加資料のオンパレードでした。


 今回のガイドライン案はそのことに対する一定の歯止めも目的としているようにも思います。

 しかし、問題はその狙い通りになるのでしょうか?


 是非現場からの声を出してください。


意見はこちらから表明できます。

https://form.cao.go.jp/koeki/opinion-0044.html


以前に比べると、各段に意見を書き込みやすいフォームとなっております。

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