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民間公益の増進のための公益法人等・公益認定ウォッチャー (by 出口正之)

日本の民間公益活動に関する法制度・税制は、10数年にわたって大きな改善が見られました。たとえば、公益認定等委員会制度の導入もその一つでしょう。しかし、これらは日本で始まったばかりで、日本の従来の主務官庁型文化の影響も依然として受けているようにも思います。公益活動の増進のためにはこうした文化的影響についても考えていかなければなりません。内閣府公益認定等委員会の委員を二期六年務めた経験及び非営利研究者の立場から、公益法人制度を中心に広く非営利セクター全体の発展のためにブログをつづりたいと考えております。


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おばけと化する「指定」正味財産 [2019年04月07日(Sun)]

 上田秋成の『雨月物語』の中に「菊花の約」という話がある。赤穴宗右衛門は菊の節句(重陽の節句)九月九日に再会しようと約束した友人丈部左門にどうしても会えなくなった。そこで「人一日に千里をゆくことあたはず。魂よく一日に千里をもゆく」という言葉を思い出し、自殺し、魂だけが約束の日に左門に会いに行き、約束を果たしたという奇妙な心身二元論の話だ。



 今回の公益認定法の内閣府令の改正に伴い、パブリックコメントとその回答が公開されている。今回の改正で「指定正味財産」は、財産と果実(=運用益等)の二元論に基づいて分離することになってしまった。

 府令改正に伴うパブコメとその回答を見て、本来一つの「財産と果実」が切り離されたので、なぜか「菊花の約」を思い出したのである。



 公益認定における遊休財産規制では、本来無色透明な財産に対して、認定規則第22条第3項の1号から6号まで何に使うかのラベル(=指定)を貼れば、控除対象財産として、遊休財産から控除することになっている。これは、公益目的事業を法人が適切に実施するように、無益な貯め込みを規制するとともに、拙速に使わないように遊休財産の額から控除可能な財産を定めているのである。法人のガバナンスの中で対応可能なように自由度を高めてある。


 したがって、公益認定法における遊休財産とは将来にわたっても何に使うかわからない文字通りの「遊休」状態にある財産だけを意味する法律用語である。


 1号財産は公益目的保有財産という愛称があり、公益目的事業にしか使えない。

 2号財産は法人会計や収益事業等の専用の財産ということになる。


 それでは、今回話題となっている6号財産とは何かというと、ガイドラインには「寄附等によって受け入れた財産で、財産を交付した者の定めた使途に充てるために保有している資金。例えば、研究用設備を購入する旨定めがあって寄附されたが、研究が初期段階のため購入時期が到来するまで保有している資金が該当する」とあった。この例で言えば、購入した研究用設備は公益目的保有財産になるので、6号財産とは、一時的に拘束され、購入後に1号財産となるものである。同様に寄付金として6号財産として受け入れ、収益事業等の2号財産に変わっていくものもあるだろう。つまり、6号から1号、6号から2号になるということは当初から想定されていた。


 6号財産は「寄附等によって受け入れた財産」であるから、指定正味財産ではあるが、指定正味財産ならば必ず6号であるということではない。1号も2号も指定正味財産であることはありえる。ところが、いつもまにか「指定」を重々しくしてしまって「運用益にも指定などのような指定の仕方」があれば、6号財産としてしまっていたようである。


 その結果「第1号、第2号、前号又は本号に掲げる財産から生じた果実」も6号財産としていた実態があったようだ。行政庁においてもそのように指導していた可能性もある。


 正確に言えば「本号=6号に掲げる財産から生じた果実」についても6号財産としていた緩和策がとられていたことについては私も承知していた。しかし、それ以外の1号、2号、5号から生じた果実が、元の財産と切り離して6号財産にするということはいつから行われていたのであろうか。私も承知していなかった。


 どうやら「指定」正味財産だからということらしい。「指定」ということが、非常に力を持つようになったためであろう。パブコメへの回答を見てみると、今回の改正は「第1号、第2号、前号に掲げる財産から生じた果実」を「寄附者の指定の仕方によっては」6号とすることを「可能とする」意図があったようだ。


これがまさに、財産としては1号や2号だが、果実(=運用益)としては6号という「財産・果実」二元論に基づいて果実だけが浮遊しているのである。


財務三基準に煩わされる法人にとっては、6号財産は控除対象財産として遊休財産規制の計算から控除可能であるので、一見有難いような話ではあるが、「相当の期間内に費消することが見込まれるものに限る。」(ガイドライン改正)という制約が新たに設けられた。


さらに、「『相当の期間内に費消することが見込まれる』と認められるためには、公益目的保有財産等から生じた果実についても、公益法人は寄附等を受けた財産を速やかに公益目的事業のために使用するべきであり、公益目的事業の実施とは何ら無関係に法人内部に蓄積するべきではないという遊休財産額の保有の制限の趣旨等に鑑みて、相当の期間内に財産を交付した者の定めた使途に従って全て費消することが具体的に見込まれることを要する。したがって、例えば、具体的な費消時期が明らかでない場合や、費消の時期が10年を超えるような場合には、基本的に「相当の期間内に費消することが見込まれる」とは認められない。」(ガイドライン改正)


と、一般には理解不能なことが記載されている。言い換えれば、「指定の仕方」に依存するわけであるにもかかわらず、6号に計上可能な「指定の仕方」はブラックボックスとなっている。


果実を6号に計上可能ならば、どういう条件で可能なのか?

果実を6号に計上可能でないのに6号に計上していた場合(=行政庁からノーと言われた時)にはどのような処理をすべきなのか?


時あたかも決算を迎えようとしている法人が多い中、困惑する法人も少なくなかろう。適用は公布の日以降であるので、少なくとも昨年度の決算には影響がない。法人には無駄な拠出を増やすのではなく、じっくりと対応を取ってほしい。


「指定」の内容を細かくし、さらに、拘束度を高めれば高めるほど、「柔軟な民間の公益活動」を縛ることになってしまうだろう。果たしてそれが「指定」の意図だったのだろうか。


 公益認定等委員会運営規則には議事録を公開することになっているのに、議事録を公開もしていない。それゆえ、残念ながら、改正の意図、現状、改正した場合のメリット、デメリットなどが十分に伝わってこない。


 議事録を公開していないことを指摘したパブコメに対しても、「配布資料を公開している」とういう回答では、あまりにも超然としすぎて法人との信頼関係も崩れかねないだろう。また、これでは行政庁が「指定の仕方がおかしい」という裁量権を丸々持つことになり、行政庁の裁量権を可能な限り小さくし予見可能性を高めようとした立法趣旨と正反対になってしまう。


 「どのような事業を実施している法人で、そのような法人が何件存在するのか是非、公開して欲しい」と記された他のパブコメを見ても、内閣府側の問題点が法人側に伝わっていないことがみてとれる。



 株式の配当額が上がり嬉しい悲鳴を上げている法人は、何も好き好んで貯め込もうとしている訳ではあるまい。適切に公益活動を実施しようとすれば、時機を計ろうとするは当然である。財産と果実が分離され、「指定」が、重々しくのしかかれば、「指定」されているがゆえに活動の幅が拡大することもままならなくなり、法人の自由度を奪うだけだ。「柔軟な公益活動が可能」ということから税制上優遇された公益法人の活動を、おばけの「指定」でがんじがらめにして、無益で無駄な拠出を強要することにならないように留意願いたい。


 内閣府公益認定等委員会委員が4月から7名中5名が新しくなった。新しい公益認定等委員会でしっかりと議論し、議事録を公開し、公益法人に十二分な情報を提供することを強く望みたい。緩和しているようでもあり、規制強化しているようでもある不十分なメッセージでは現場を混乱させるだけである。



 今のままなら、近い将来に混乱を惹起する可能性があることを指摘しておく。


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