会計研究会2 前回からの続きです。
公益法人制度改革から今年で10年。非公開の内閣府会計研究会が始まって丸5年。毎年解釈変更していて未だに結論が出せない異常事態です。
制度を維持できるかどうかの危機的状況まで来ていると言えます。
制度がスタートしたということは、財務省をはじめとする関係省庁と内閣府の間で合意ができ、その内容も「最大限弾力化しているもの」(第29回議事録)となっていたものです。一見すると複雑に見えますが、「民間の公益の増進」という方向性は明確で、とても合理的な制度として作り上げられていました。
ところが、最近では5年間にわたって、小規模法人対策や弾力化と銘打ちながら、意図したのかしないのかはわかりませんが、逆に別の規制を新規に作ってしまっています。その結果、法人側がその運営に大きな支障をきたし始めています。例えば、公益法人協会ですら混乱に陥ったということは、ほぼすべての公益法人が混乱に陥っているのではないでしょうか?巷では、公益認定を取得すれば、会計が複雑で大変だという噂が絶えません。
また、5年間にもわたって解釈をいじくり、未だに解釈の決定版が作れていないということは、内閣府事務局内でも見解の統一が取れてはいないということではないでしょうか?
前回の続きです。具体的に説明しましょう、研究会が変更しようと思っているのは控除対象財産の<認定規則第22 条第3項>の6号財産(以下「6号財産」)の取扱いです。
1.研究会の問題意識
研究会の問題意識は下記の通りです。
「6号財産は、条文上、交付者の定めた使途が存在することが前提となっているため、公益法人会計基準における『指定正味財産』に該当する。しかしながら、6号財産に積み上げられている果実の中には、現状としては『指定正味財産』に整理されているが、明確な費消時期が定められず、また、具体的に費消される見込みもなく、漫然と蓄積されるものが散見された。このような現状は、上述した公益法人制度の趣旨に照らして適当ではないことは明らかである」(報告書3頁)。
2.研究会の検討結果
検討結果は「現行の特定費用準備資金の最長計画期間が10年であることを踏まえ、10年の長期を越える費消時期の指定は、公益の増進を担う公益法人に対する寄附金の指定として適当でないと整理」し、「ガイドラインの改正等」で明確にするようです(報告書4頁)。
3.6号財産とは何か
何を言っているか分かる人はほとんどいないでしょう。問題意識が公益法人に共有されないままに規制が変わっていっています。
そもそも遊休財産額から控除可能な6号財産とは以下のようなものです。
「寄附等によって受け入れた財産で、財産を交付した者の定めた使途に充てるために保有している資金(同6号)。例えば、研究用設備を購入する旨定めがあって寄附されたが、研究が初期段階のため購入時期が到来するまで保有している資金が該当する」。(ガイドライン)
4.問題設定の不明瞭性
6号財産の果実=運用益が積みあがっているということを心配しているようです。しかし、「明確な費消時期が定められず、また、具体的に費消される見込みもなく、漫然と蓄積されるもの」がどのくらいあるのか、どれほど深刻なものなのか、非公開の研究会では全く明らかにされていません。「漫然と」ということはどういうことなのでしょうか?法人側に使用したくても使用できない事情はないのでしょうか?「散見される」というだけで、ルール変更をしようとすることは異常な事態だと思います。
(以下の注は飛ばして読んでください)
(注)もともと6号財産は、すぐに5号財産に変わるものとして一時的に資金の状態であるものと想定されていましたので、運用益を無視して出来上がっています。これが問題になるとしたらある程度の金額をある程度の期間そのままにしているということなのでしょう。仮に当該の資金が100万円だとします。預貯金になって1%の金利だとすると1万円になります。また、仮にそれが100億円だとすると1億円になります。これが「漫然と」積み上がって見え、「上述した公益法人制度の趣旨に照らして適当ではない」ということのようです。もちろん、株式ということもありえたと思いますので、その場合は金額が配当によって変化することになります(おそらくは問題視しているのは株式のほうだと想像していますが…。)
鳥瞰的に見れば、遊休財産に入るのか、控除対象財産に入るのか、という点が非常に大きなポイントとなります。二次的な問題としては、控除対象財産の中の区分、例えば1号財産なのか4号財産なのか6号財産なのかという点は、全体の設計図との関係で問題になってくるでしょう(公益目的取得財産残額への影響等)。変更を加えるのであれば、1号、4号、6号財産の設計図上の「効果」(財務三基準が相互に有するシステムへの影響)の相違点を示す必要があります。そうでなければ、法人側は1号、4号、6号(あるいはひょっとすると5号各財産の中で)財産の組み替えをするだけに留まり、微細な「効果」の差によって、別表Hへの記載がより複雑になるだけでしょう。これ以上詳しい話は止めておきますが、正確な情報に基づいてこの部分は記載していることだけ信頼してください。
ただ現場で起きていること…「指定正味財産の運用益に指定がかかっていることを示せ」…というような非常識な行政庁からの指摘が、根本的なスィッチの押し間違いから生じていることに早く気が付くべきです。こうした非常識の指示の背後には非常識な制度が存在するのではなく、優れた制度の曲解が存在していることも理解していただきたいと思います。
5.ガイドライン解釈の明確な誤謬
先ほど、「弾力化と銘打った規制」と申し上げましたが、良い例が出てきています。報告書の「現行の特定費用準備資金の最長計画期間が10年であること」との記載は制度設計時にはなかった規制です。制度設計時は最長計画期間は設けず、ガイドラインでは、「例えば、10年」という表記にして目安にしかしておりません。
このことの解説として、第29回公益認定等委員会議事録には次のように記載されています。
「○事務局 一般的に10 年先のものということについて、なかなか見る方も見通しがつかないものが多いだろうということで書いているということです。そういう意味で、「例えば」としてあります。特定費用準備資金は要件として法人において合理的な見積もりをしてもらい、事業報告書などにおいて公表してもらうということになっていますので、10 年超以降のものについても、法人において堂々と説明できるものであれば、そこは構わないと思います。」(第29回公益認定等委員会議事録)
これまでも指摘しておりますが、毎年の会計報告書の中には、随所に明確な誤解が「散見されます」。ガイドラインを作成した人が一人も入っていませんし、事務局も入れ替わっていますから毎回間違いがあっても不思議はないのです。ここでの指摘は非常に分かりやすい誤解です。一事が万事ということでここで記載しました。なお、今回の報告書には制度設計者から見ると税との関係で致命的な誤解がありますが、数年前から同じ記述が続いているので、こういう場で指摘しても、小生の品位が疑われかねないので、別の機会にしたいと思います。
6.公開の議論で作り上げたガイドライン
ガイドラインは、我々が真剣に作り上げました。公開で議論し、実に一生懸命作ったという自負もあります、それゆえ、今回の会計研究会の誤解も、議事録の該当箇所を示すことによって誤解であることを指摘することができます。それをこのようなわけのわからない非公開の議論の報告書で覆すことはあってはならないのではないでしょうか?
毎回指摘しておりますが、これだけ明確な誤解に基づいて、弥縫策を繰り返していけば、どうなるのかすぐに分かるでしょう。収支相償の問題が顕在化してその弥縫策を講じれば、遊休財産規制の問題が顕在化し、さらに、それをふさごうとすると、公益目的事業比率の問題が顕在化する・・・・。この5年間行ってきたことはこの繰返しです。したがって、緩和策といって提案すればするほど、別の個所で「公益法人制度の趣旨に照らして適当ではないことは明らかである」事態が生じることになります。
7.ありうべき対策
公益目的事業として使ってほしいならば、規制以外の方法も含めてしっかりと全体像を描くことが必要です。その上で、控除対象財産や公益法人会計基準などのルールについて何らかの変更を加えるには
@全体の設計図をしっかりと描く。
A現在の問題点を数字を使って分かりやすく提示する。
B変更を加えなくても問題が解決する方法が存在するのならば、ルールを変更しない。これが大原則です。ルールを変更しない限り問題が解決しないのであれば、理由とともにそのことを公表する。
Cその上で、政策意図として何をターゲットにして解釈を変更させるのかを明確にする。
D具体的な変更案を提示し、規制を変更をした場合の影響を予想し明示する。
E上記を公益法人関係者を含め多様なメンバーによって実施し、議事資料、議事録を公開する。
F全体像すべてが合理的に説明できるようになって初めて公表する。
これくらいのステップは取ってほしいものです。
したがって、今回の報告書の6-7頁についても上記の観点からも見送るべきです。公益目的保有財産が設けられた意図が間違いなく検討されているのかが全く分かりません。正式の別表Hを極限にまで複雑化させ、ますます混乱させるだけです。
8.結論
以上を勘案すれば、この程度の検討で弥縫策を再度繰り返すことは、危険ですらあるといわねばなりません。おそらくは外部の省庁の批判から、一部分の問題を指摘されているのではないかと拝察します。一方で穴を開け、他方で穴をふさぐことを何度も繰り返していくと、まさに「混沌」の世界に陥っていくでしょう。他省庁が求めているのは、制度としての総合的な合理的説明だと思います。それを個別の問題を解決しようとしていつまでたっても説明できていないだけではないでしょうか。
財務三基準はシステムとして設計したのであり、常にシステムの安定性を合理的に説明可能なようにしてからでないと変更してはいけません。また、問題を明示的に示し、解決策は規制以外の方法もあるということも理解すべきです。
例えば、単に公益目的事業として迅速に使ってもらいたかったら、公益目的事業の変更認定をもっと迅速にすることによってでも対応可能です。
「法人が貯めこんでいる」という認識があるとしたら、それはなぜなのか、十分な検討が必要でしょう。外形的に「漫然と」見えるからといって、システム全体に影響を与えかねないルールの変更を安易に考えてはいけません。
非公開の研究会を5年間も続けながら、霧が晴れないことに疑問を感じている内閣府の公益認定等委員会の委員、内閣府の善意ある職員もいるはずです。声を上げるべきです。
こういうことが何の説明もなく変更されようとしていることは、全体の方向性が分からないままに、監督を行なっているのではないかという疑いを払しょくできません。確認する必要があるでしょう。
パブコメで対応できるような段階はとうに超えています。