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民間公益の増進のための公益法人等・公益認定ウォッチャー (by 出口正之)

日本の民間公益活動に関する法制度・税制は、10数年にわたって大きな改善が見られました。たとえば、公益認定等委員会制度の導入もその一つでしょう。しかし、これらは日本で始まったばかりで、日本の従来の主務官庁型文化の影響も依然として受けているようにも思います。公益活動の増進のためにはこうした文化的影響についても考えていかなければなりません。内閣府公益認定等委員会の委員を二期六年務めた経験及び非営利研究者の立場から、公益法人制度を中心に広く非営利セクター全体の発展のためにブログをつづりたいと考えております。


収支相償で悩む必要はありません(設計当初の特定費用準備資金) [2018年02月16日(Fri)]
収支相償で悩む必要はありません。すべての特定費用準備資金(資産取得資金)には将来の収支変動に対応可能なように制度設計がされています。   



 年度末が近づいて、収支相償について悩んでいる法人が多くなってきたように思います。

この時期になると、ブログニュースで収支相償のことが取りあげれたりもします。


 そこで、収支相償を考えるうえで一番大事な特定費用準備資金について設計当初の考え方を説明します。会計関係者が多い非営利法人研究学会(昨年9月)でも説明したことですが、どこまで浸透したでしょうか?



 特に、某有名法人が特定費用準備資金で混乱に陥ったことは記憶に新しいところです。その要因となったFAQX-3-Cの下記の部分のために、特定費用準備資金についてどうしたらよいか分からない、使いにくいという声が届いています。迂闊に特定費用準備資金を積めば梯子を外されるのではないかという危惧もあるようです。



FAQX-3-C特定費用準備資金は

4 例えば予備費等、将来の一般的な備えや資金繰りのために保有している資金は上記3の要件を充たさないため、該当しません(問X−4−A参照)。将来の収支の変動に備えて法人が自主的に積み立てる資金(基金)については、過去の実績や事業環境の見通しを踏まえて、活動見込みや限度額の見積もりが可能など要件を充たす限りで特定費用準備資金を用いることができます。



 後半部分はもともと

旧FAQ問X−4−K(遊休財産額)

移行認定を申請する段階で、将来の単なる備えとして保有している資金を特定費用準備資金として整理することは可能でしょうか。


の回答として作られました。つまり、移行法人(旧民法34条で設立された旧公益法人が特例民法法人となって新制度に移行するときの法人)の遊休財産(ストック)との関係で、可能だという回答です。

このFAQは 移行法人の財産をどのように申請書で整理したら遊休財産額とみなされないかというストックの控除対象財産の問題として、費消型の特定費用準備金を考えていました。


 例えば移行法人で低金利のために基本財産を取り崩していたような法人を考えてください。

仮に30億円の基本財産があったとしたら新制度では20億円を基本財産(=公益目的保有財産)とし、残りの10億円を毎年5000万円づつ公益目的事業費に当てるということを計画していたとします。


 この場合、移行時の10億円を遊休財産との関係で特定費用準備資金とし、「毎年の費用額を具体性を持って見積もること」ができます。この費消型の特定費用準備資金が無ければ、かなり多くの法人が遊休財産規制のため公益法人に移行できなくなったわけです。それは立法趣旨の公益の増進とは大きく異なることになりますので、特定費用準備資金の特殊な形態としてこの方式がとられました。


 ところがこれをフローの収支相償の剰余金処理として使えると言い出したので、法人が混乱したのではないでしょうか(このブログでその点は何度も指摘しております)。



 年々変化する収支の中でたまたまある年に余った資金を「資金の目的である活動の内容及び時期が費用として擬制できる程度に具体的なもの」(「認定規則第18 条第1号法令解釈=ガイドライン)として将来の計画を作ることは事実上不可能です。


 収支相償の解決策としては、財政安定化のための特定費用準備資金はできないと思ってください。ただし、以下を読めば安心しますから、淡い期待は捨て去りましょう。


 移行法人向けの遊休財産対策のストックとしての特定費用準備資金は取崩し型、収支相償からフロー部分を積立てる特定費用準備資金は積立型と180度性格が異なります。収支相償対策として「将来の収支の変動に備えて法人が自主的に積み立てる資金については、過去の実績や事業環境の見通しを踏まえて、活動見込みや限度額の見積もりが可能など要件を充たすこと」は事実上不可能です(し、その必要すら無いからです)。認定法規則に整合可能な解はないものと考えたほうが遥かに無難です。


ではどうしたらよいのでしょうか?

理事会で平素から資金があったらこんな公益活動をしたいと言うようなことを議論していたらよいのです。これこそ公益の増進です。たまたまプラスが出たら、そのための特定費用準備資金(または資産取得資金として)として積み立ててください。


公益目的事業が将来赤字のときに困るではないか、と悩む法人にははっきりと申し上げます。


制度設計上、すべての特定費用準備資金(または資産取得資金)は将来の収支の変動に備えて使用可能なように作られています。


公益目的事業費として積立てられている特定費用準備資金は公益目的事業に使用する限り、どんな理由であれ、一回は変更可能です。合理的な理由があれば、一回でなくても大丈夫です。


ガイドラインには以下のようにあります。

「資金について、止むことを得ざる理由に基づくことなく複数回、計画が変更され、実質的に同一の資金が残存し続けるような場合は、「正当な

理由がないのに当該資金の目的である財産を取得せず、又は改良しない事実があった場合」(同条第4項第3号)に該当し、資金は取崩しとなる。」


<止むことを得ざる理由に基づくことなく複数回>変更したら取崩しですから、どんな理由であれ一回は変更可能という形で設計されました。一度は変更可能なように作っていますから、わざわざ「将来に変動に備えるための」特定費用準備資金にする必要はないともいえます。


安心して、ガイドライン通りに特定費用準備資金と資産取得資金として積立ててください。


 なお、特定費用準備資金規程を上記と異なるように規定している法人が数多くあります。適用に当たっては規定を、ガイドライン並みに柔軟なものに変更しておいてください。


以上が設計時の特定費用準備資金です。収支相償で皆様が悩むような制度は作っておりません。

収支相償はすべての法人が簡単にクリアーできるように設計されています。


 このことは収支相償で公益法人になることを躊躇している一般法人のかたがたへも是非強いメッセージとして送りたいと思います。


 もっともっと自由に機動力をもって公益活動を展開してください。
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