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民間公益の増進のための公益法人等・公益認定ウォッチャー (by 出口正之)

日本の民間公益活動に関する法制度・税制は、10数年にわたって大きな改善が見られました。たとえば、公益認定等委員会制度の導入もその一つでしょう。しかし、これらは日本で始まったばかりで、日本の従来の主務官庁型文化の影響も依然として受けているようにも思います。公益活動の増進のためにはこうした文化的影響についても考えていかなければなりません。内閣府公益認定等委員会の委員を二期六年務めた経験及び非営利研究者の立場から、公益法人制度を中心に広く非営利セクター全体の発展のためにブログをつづりたいと考えております。


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開高健の『輝ける闇』と消えた「短期の特定費用準備資金」 [2015年06月04日(Thu)]
 ノーベル文学賞の有力候補といわれながら、病魔に襲われ受賞が適わなかった開高健さんの作品の一つに『輝ける闇』というものがあります。べトナム戦争の従軍記者を主人公にした小説で、文豪が文字通り命を懸けて生み出した不朽の名作です。

 「輝ける闇」という表現はいうまでもなくoxymoronと呼ばれる撞着語法・矛盾語法です。まさか編集者が開高さんのタイトルに文句をつけることはないでしょうが、現実の社会ではoxymoronのような投げかけに対して頭から否定されることは少なくありません。ましてoxymoronのように見えてそうでないものもありますので、このような表現に出会った時には慎重に対応されることをお勧めします。

 そう思っていたところ、今回のFAQの改正で「短期の特定費用準備資金」という用語が消えました。会計研究会は議事録を公開していないので、どのような深遠な議論がなされてこの言葉が消えたのか知る由もありませんが、小生にとっては思い出深い用語です。




1.oxymoronとしての「短期の特定費用準備資金」


「短期の特定費用準備資金」とは流動資産の範囲で翌年に費消するものとして「特定費用準備資金」を認めるというものでした。初期の制度設計者の熟慮の産物で、当初のガイドライン案として公表までされていました。ところが、まさに開高健クラスの巨匠が作り上げた制度は巨匠が去った途端、<〇〇の専門家なら「短期の特定費用準備資金」というのは見た瞬間間違いであるということがわかるのですよ>ということになってしまいました。もちろん、行政の文書ですから本当のoxymoronはご法度でしょう。

【「特定費用準備資金」=特定資産として計上=固定資産】ということに対し、

【短期=流動資産】ですから、見た目にoxymoronのように見えてしまいます。しかし、本当にoxymoronだったのでしょうか?


2.委員会委員の受け止め方


 初期の制度設定者の去った委員会は、「短期の特定費用準備資金」についての充分な説明もなく、頭ごなしに「特定費用準備資金の要件を満たさない」ということを前提に議論が俎上に載せられました。しかし、委員の中にはoxymoronではないのではないかという前提で「短期の特定費用準備資金」を受け取った者もおりました。以下の二名です。


「○ 雨宮委員 多分出口委員は、長期であろうと短期であろうと、特定費用準備資金という特定の目的のために存在する財産ということで使い道が決まっており、遊休財産にはならないと考えて今まで議論をしてきたと御理解されているのですよね。私もそういうふうに理解していました。パブリックコメントで言っているのは、短期の特定費用準備資金というのは一体何なのかということでしょう。長期のものとどう違うのかという明確な基準が出ていないので、そこをはっきりしてくださいというのがパブリックコメントの意見だと思います。それでもなお、短期の特定の目的のために、流動資産に使うのだったらいいだろうということで、今回説明を少しプラスしたのではないですか。」(第40回議事録)


実に明快な説明ではないでしょうか。私のつたない発言を上手にまとめて頂いております。


3.収支相償としては「特定費用準備資金」として受け止められていた


さらに言えば、佐竹委員をはじめ委員も事務局も「収支相償だけは検討」したことに異論は挟んでいません。つまり、「短期の特定費用準備資金」は収支相償計算上は特定費用準備資金と同等に扱うということだったわけです。それについては疑う議論すら出ていないのです。佐竹委員の次の発言を見て下さい。

「○ 佐竹委員 この収支相償の話をずっとしてきて、短期の特定費用準備資金というのは、収支相償の方だけは検討したんですね。ところが、これが本当に遊休財産のところの議論をしたのかいうと、余りしないでスーッと通ってきたような気がして、改めてパブリックコメントで、これは遊休財産の計算上どうなのですかと聞かれてみると、これは入らないんだねということに気がついた。」(第40回議事録)

 つまり問題になったのは収支相償上のことではなく、遊休財産規制上の関係だけだったのです。


4.吹き飛ばされた初期設計者の意図


 「軽法重会」が始まったのはいつかと聞かれたら、第40回の委員会からであると私ならば答えるでしょう。それほど象徴的な出来事のように思います。

 もし、「側抑制仮説」が正しいとすると、「短期の特定費用準備資金」を提案した初期設計者の意図をものの見事に吹き飛ばしてしまったのかもしれません。


5.FAQの改訂で消えた「短期の特定費用準備資金」


 かくして、「短期の特定費用準備資金」の名称はその意図は継承するとされながら、制度から完全に消えてしまいました。なんとなく違和感を覚えたため、その足跡がわかるようにFAQの問V-2-Bに「短期の特定費用準備資金」の用語だけは残しておいてほしいと要望したのは他でもない私です。


6.FAQの問V-2-B改訂時の議事録の公開を


 今回、「短期の特定費用準備資金」の用語をFAQから削除するにあたって、どのような議論をしたのか、議事録を是非公開していただきたいと思います。その考え方までも闇に葬ってはいないものと考えたいのですが、どうでしょうか。私は今でも、いや、今だからこそ、「短期の特定費用準備資金」は素晴らしい提案で、これを設けなければならなかった必然性も分かりますし、これがあれば、巷間、収支相償問題は決して発生しなかったものと強く信じております。

 ただし、「短期の特定費用準備資金」を制度として十分いかせなかったその責めの一半は当然委員であった私にもあります。それは言うまでもありません...。



 (実務の方々へ。これは単なる回想です。「短期の特定費用準備資金」は理由が説明されることなく跡形もなく消えていますので、実務では使用しないように願います。)
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