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民間公益の増進のための公益法人等・公益認定ウォッチャー (by 出口正之)

日本の民間公益活動に関する法制度・税制は、10数年にわたって大きな改善が見られました。たとえば、公益認定等委員会制度の導入もその一つでしょう。しかし、これらは日本で始まったばかりで、日本の従来の主務官庁型文化の影響も依然として受けているようにも思います。公益活動の増進のためにはこうした文化的影響についても考えていかなければなりません。内閣府公益認定等委員会の委員を二期六年務めた経験及び非営利研究者の立場から、公益法人制度を中心に広く非営利セクター全体の発展のためにブログをつづりたいと考えております。


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小規模法人と比例原則と委員会 [2024年10月20日(Sun)]

 公益法人の本年の改革で重要な用語の一つとして「小規模法人」というものがあると思います。「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告ではこの用語は4か所も出てきます。


ある目的を達成する際に、より規制の程度が軽い手段で目的を達成できる場合は、その軽い手段によるべきという原則である「比例原則」(”principles of proportionality”)は、非営利行政では普遍則に近いもので、他国においてはしばしば強く強調されます(もちろん非営利に限ったことではないと思いますが)。海外の非営利の会計が日本で紹介されることが多くありますが(例えば、イギリスにおけるSORP)、これらは規模が一定以下の小規模法人は現金の出納だけでオーケーです(イギリスは25万ポンド以下=日本円で約5000万円以下)。


 監督についても、イギリス(イングランド&ウェールズ)のチャリティ委員会(日本の「公益認定等委員会」に相当)を例に出せば、次の 3 つの戦略的リスクに焦点を当てています。


1.受益者の保護

2.テロ対策

​​3.会計上の不正


 監督の主な目的は、重大な法令違反に関する懸念がある「チャリティ」(日本の「公益法人」に相当)、または「チャリティ」のグループ内で重大な法令違反の重大なリスクがあると考えられる慈善団体を監視することです。この作業は、委員会がセクターとそこで行われている不正行為について持っている情報と知識、およびこれらの懸念と法令違反に対処した経験を駆使して行われます。


 オーストラリアの場合には、チャリティ委員会事務局の半数近くはIT関係者で、まずは報告書の内容に矛盾がないかを電子的にチェックしています。


 日本の場合には、行政文化によるものでしょうが、全法人に対して行政への報告書の数値に間違いがないかを、人力で確認し、数か月たってから、修正の連絡がかなりの公益法人に対してなされます。このような方法では、新規の公益法人の増加は役所の仕事を増加させることになりますから、新規法人の増加には心理的なブレーキがかかってしまうのかもしれません。


 また、立入検査も全法人に対して実施され、どんな法人に対しても一般社団財団法や公益認定法を中心にあらゆる法令とともに暗黙の委員会のルールとの齟齬がないかチェックされます。特に多いのは、「理事会と決算の社員総会や評議員会がまる14日間空いているかどうか」(一般社団財団法上の要請)や「講師の謝金を出している場合に規程があるかどうか」(委員会に拠る暗黙のルール)などです。


 まあ、前者のように法令にあることならば、やむを得ないかもしれませんが、後者は全く法令に根拠がありません。公益認定に必要以上の時間がかかっていたことの要因の一つでしょう


 こうしたことに一生懸命になるばかりに、自ら遵守すべきことを怠ってしまっている行政庁も出てくるのでしょうか?


 やや我田引水ですが、行政庁としての大阪府は私が委員になる前から、この点についてはきちんと対応がなされるようになっていました。


 特に岡本仁宏関西学院大学教授(現在は同名誉教授)が委員長となった時に、明確に以下のような宣言をされたことがその後の行政の態度に大きな影響を与えたと思います(下記に一部を引用)。


民間公益活動の発展のためにも、法人自治の考え方を尊重し、「新たな公益活動の分野を切り開いていく」法人の革新的実験的な試みが許容されなければなりません。本委員会としても、法令以上の必要以上の規制や後見的な干渉は行わないようにいたします。また、行政手続法第6条に基づく標準処理期間を尊重し、迅速な対応を図っていきます。

12.3%の公益法人は常勤職員がおらず、5.8%は職員自体がいません。それぞれ、一人だけの法人が11.9%%、13.7%、4人以下が、48.7%、55.0%です。中央値は、それぞれ5人、4人ですが、新規の公益認定法人に限れば、それぞれ二人、一人です(内閣府『平成27年「公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」平成28年9月)

 これらの法人も、民間非営利公益活動の担い手としての役割を果たしています。小規模法人に過剰な負担にならないように、認定・監督等を行うことが必要だと考えます。



 以上のように「比例原則」を十分わきまえた素晴らしい宣言であり、立入検査後の指摘は、岡本委員長時代から大阪府ではすべて法令上の根拠を示した上で、文書で行われていました。また、Must(法令上しなければならないこと)とShould(した方が望ましいと考えられること)を峻別してきた点もあります。こうした先人の努力により、私が委員長をした時代には、標準処理期間(新規認定4か月、変更認定40日)は完全に守られていました。大阪府では、さらに指摘事項(特に会計の内容な理事会の権限を侵すような内容等)を委員会で吟味し続けた結果、立入検査時の指摘事項は減り続け、立入検査に入っても指摘事項無しという公益法人も出てきておりました。言い換えれば、不必要な書類を減らすという方法で、認定までの期間を減らしてきたのです。


 ところが、ある行政庁は、立入検査に入った公益法人に対してセミナーなどの講師謝金規程がないから作れという指導を突然し始めました。これは法令に根拠はありません。法令上必要な規程以外の規程の何を作るかは完全に理事会のガバナンス事項です。収支予算書を作成している以上、規程以外にも、報酬を巨額にはできない歯止めはかかっていますから、私の知る限り主務官庁時代からもなかった指導です。したがって、突然こんな指導が始まれば、講師謝金を支払っている公益法人はほぼすべてに指摘事項が増えてしまいます(当該行政庁を含む一部の行政庁の公益法人だけです)。立入り検査のたびに、指摘事項が増えるのは、こうした法人にとっては全く意味のない規程を法人規模に見合わないくらい作らされてしまうこともあるのではないでしょうか?また、法人サイドも規程を作る理由がわからなければ、過去に指導されていたとしても、作っていない法人もあるのでしょう。


 再度立入検査に入れば、たくさんの不必要な規程を無理やりつくらされている小規模法人は当然それらに対応できていないことも生じ、規程との齟齬に伴い、「合規性」が指摘されます。規程を作っていなければ、指導に従っていないと再度指導を受けることになるでしょう。いわば、小規模法人に対して指摘事項が増えているとしたら、その増えている原因はいったい何なのかを冷静に考える必要があるのではないでしょうか?


 自らの委員会議事録等すら公開していない地方の委員会では、いったい何を議論しているのでしょうか? 横領に対して会計監査人が入っている法人では堂々と無限定適正意見が出される現実をどのように考えるのでしょうか?大企業ではそれが会計監査の監査報告のルールとは言え、横領を減らすことは重点事項ではないのでしょうか?ガバナンスが大事だからという理由で会計監査人の範囲を増やした場合、何を目的とするのでしょうか?


 いったい何のために監督するのか、誰のための「ガバナンス」強化なのでしょうか?理事会のガバナンスが重要と言いながら、理事会の判断を全く無視することは「ガバナンス」の強化なのでしょうか?そしてそれらの括弧付きの「ガバナンス」の強化がどのように社会の利益にむすびつくのでしょうか?


 ぜひ岡本先生の宣言を噛みしめて、いわば世界の常識である「比例原則」にのっとって審査・監督にあたって頂きたいものと思います。



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