第3回公益認定等ガイドライン研究会の議事録が公開されました。
今回の公益認定法改正は、
「新し い時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」が開催され、立派な報告書が完成し、それに基づいて法改正が実現しました。
利便性について運用で対応しようとしていたことを、法律でしっかりと書き込んでの法改正は誠に見事だったと思います。
有識者会議の最終報告には改正に趣旨が次のように記載されています。
多様な価値観をもつ個人が自らの価値観に基づき、SDGs実現その他の多様な社会的 課題解決に主体的に取り組んでいくという成熟した市民社会においては、機動的な対応が 難しく画一的な対応になりがちな行政部門のみでは社会的課題の発掘・解決には限界があ る。また、利益の分配を目的とする民間営利部門のみでも社会的課題の解決には限界があ り、営利を目的としない民間非営利部門が「公 」として多様な社会的価値の創造に向けて果 たす役割が、ますます重要となる。
ガイドラインは、実際の活動に直接影響を与える「各論」を議論をしています。
まずは関係者のご尽力に感謝したいと思います。
本来、総論から、各論たるガイドラインが導き出されるはずなのですが、そうはいっても現実として、現在、行われている内閣府内の審査の状況を事務局は前提とせざるを得ません。これは致し方がないことかもしれません。
なにせ、国会同意人事による公益認定等委員会委員によって運営されている訳ですから、事務局の立場として、現状の委員会の議論はおかしいとは言えないからです。
しかし、現実には不認定について裁判まで起こされ、国は敗訴しています。敗訴したのは国ですが、間違った判断をしたのは公益認定等委員会です。「前提となる解釈に誤りがあるか,事業目的の評価が明らかに合理性を欠くといえる」し,別の事項については「その前提となる事実を認めることができないか,重視すべきでない考慮要素を重視するなど,考慮した事情に対する評価が明らかに合理性を欠い」ていることから、「登録管理事業が『不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの』に当たらず,公益目的事業に該当しないとした判断は, 社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものとして裁量権の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。」と非常に手厳しい判決となっています。
この流れの中で、公益認定等委員会のこれまでの審議についてしっかりとした反省をすることなく、現状の委員会の議論を元にガイドラインを作らざるを得ない事務局は気の毒としか言いようがありません。現状から出発すれば、「重視すべきでない考慮要素を重視するなど,考慮した事情に対する評価が明らかに合理性を欠い」ている内容をガイドラインに組み込まざるを得ないということになってしまいます。
さらに年間7−80件しかない申請で、かつ3−40件は取下げに至っている現状を前提とした、ガイドラインの設定は、改正趣旨から大きくずれることになるでしょう。
この現状を打破できるのは、国会同意人事によって選ばれた公益認定等委員会委員だけではないでしょうか?
現状を肯定するのではなく、審査の在り方をゼロベースで見直して、ガイドラインを作るべきではないでしょうか?それを提案できるのは、公益認定等委員会委員だけです。
チェックポイントを作った第1期の公益認定等委員会には常勤委員の大内俊身さんという大変立派な元裁判官の方がいらっしゃいました。法務省民事局参事官、東京高等裁判所判事、最高裁判所上席調査官、年東京高等裁判所部総括判事等を歴任された方です。その時に気が付かなくても、後で議事録を読み返すと、すべて正しい発言をされていたと思います。今、議事録を読み返してもほれぼれしてくるほどです。
チェックポイントを作った時に大内さんからは次のような発言があります(第16回公益認定等委員会議事録)。
○大内委員 実質で判断するとなると大変ですが 、少なくとも 、個々につ いて申請者がきちんとした説明をしておく。その説明がもし後日になって 嘘だったとか、 間違いだったというようなときに はサンクションがあると。委員会として本当に公正かどうかなどというのは 、実は調べようがあまりなくて 、こうやっておりますと言う説明があり、その説明が本当ならいいであろ うという 程 度に説得してもらえばいいんじゃないか。あと 、それがもし嘘だったら大変なことになりますよというような感じにしておけばいいのでは ないかと思います。
議事録の中で、このシステム論的考え方が正式のものだという形で残っているわけではないにしろ、こうした考えで審査が行われていたことの生き証人の一人として小生がここで発言しています。
申請だけで虚偽に関連しては懲役刑を含むとんでもなく重いサンクションがバックにあって、それをシステム論的に生かさない手はないと思います。
しっかりとした審議に対する要望は当然のことですが、それは不必要な書類を求めて、あたかもしっかりと審議したように自己満足することとは異なります。さらには、「〇〇する可能性がある」という漠然たる不安から、公益法人になりたいという法人に対する参入を阻害することとも異なるはずです。
総論は「事前チェックから事後チェック」だったはずです。法律に基づかない参入障壁はあってはなりません。
漠然たる不安は委員経験者でもある小生も分からなくはありません。その心情は理解しますが、それは「公益認定」とは別のことだと思います。法人の情報公開、社会の監視、公益認定等委員会のしっかりとした事後チェックで十分解消できる不安だと思います。
公益認定等委員会は、当初のガイドライン作成時と実際の審査の段階で、不連続な状態がありましたが、今回法改正に伴うガイドライン作成に当たっては、是非、裁判所からダメだしされた現状の各論から出発するのではなく、ほとんど目立った公益法人の新規参入がない状態を冷静にに分析し、改正趣旨という総論から整合的な議論をすることに期待しています。
そしてそれを納得できる形で発案できるのは、勇気ある公益認定等委員会委員だけだと思います。委員の方々の矜持に期待しております。
過ちては改むるに憚ること勿れーー論語から。