智に働けば角が立つ。特定費用準備資金
[2015年04月16日(Thu)]
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。夏目漱石はうまいことをいうものです。
「公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について(最終報告書素案)」に関する御意見について(御意見の取りまとめ)(以下「意見のとりまとめ」という)が内閣府から発表されました。なお、私が提出した意見はここをご覧ください。
「意見のとりまとめ」について少々愕然としております。行政手続法上のパブリック・コメントではなさそうで、96件集まったとされる意見のうち、54件に回答が付されております。ある程度は、答えられない意見が寄せられていただろうとは想像しましたが、中途半端に回答されたものを読む限り、問題意識が通じていないのではないかと思います。さはさりとて、3期後半の委員会に期待をせざるを得ないわけですから、ここであまり細かなことまで指摘するのも、こちらの品位が疑われてしまいます。
しかし、以下のことだけは指摘せざるを得ないように思います。
制度設計者が収支相償について、「法律上の用語を定義しなおすことで、現実の緩和策をとった」という核心部分のところをどのように理解されているのでしょうか?「剰余金」の語義等をぞんざいに扱っているとしか考えられません。制度設計者は次のように述べます。「論点としては、収支が均衡しているかどうかをどのような単位で判断するのか。2点目が、その場合の適正な費用の範囲をどうとらえるか。3点目が、同じく収入の範囲をどうとらえるか。4点目は、収入が適正な費用を償う額を超えないという意味をどう考えるか。最後に、公益目的事業に付随する事業や関連する事業がある場合に事業の範囲をどう考えるかといったことであります。いわばこの条文についてコンメンタール的に各語句の意味を明らかにするという作業です。」(第19回委員会議事録)
言い換えれば、コンメンタール的に、せっかく語句の意味を会計用語とは異なるようにずらすことによって、収支相償をより現実的な規制とすることに成功したのですが、会計用語だと考えて「費用」(正確には「適正な費用」)や「剰余金」の用語を使用すると、混乱を招いてしまいます。また、そのことから(ガイドラインには記載がないことまで)、「ガイドラインに書いてあります」と言って平然と公式文書に記載していられるのでしょう。これでは、公益法人は混乱してしまうだけです。最終報告書及び「意見のとりまとめ」の中では、「剰余金」の語義が三種類あって、それが所々動いているのですが、残念ながら、定義が動いていることすら気が付いていないようです。
その結果、ガイドラインには、ルールの範囲内だと指摘していることについては、駄目出しをして、逆にルールの範囲外だということについてはOKだということになってしまい、法人側は何を根拠に自分たちの活動を律したらよいのかわからなくなります。
特に今回の回答で、悩ましいのは、次の回答です。
@「特定費用準備資金において将来的に発生する赤字の補てんについては、制限をしていないところです。」
A「単年度の収支で黒字が発生した場合に、将来の赤字が見込まれる場合には、これに備えて、資金を積み立てる(特定費用準備資金)や将来の公益目的事業に使用するための財産の取得なども可能」とされています。
驚きました。
これらについては、制度設計者が「止むことを得ざる理由に基づくことなく複数回」というような文学的な表現で、ガイドラインに何ができて何ができないかをギリギリのところまで書いてきたわけですが、それらの努力がわからないのか、どうでもよいのか、あっさりと一線を越えてしまいました。こんなに簡単に一線を越えるのですね。私でもここまではとても言えません。「結果的に」その様なことになることはあっても、積む「目的として」将来の赤字解消ができるとはとてもではないですが言えません。
ガイドラインには、特定費用準備金について「繰越金、予備費等、将来の単なる備えとして積み立てる場合は本要件を満たさない」と明確に記載されています。ところが、Aについては、一般論として「将来の赤字のために積立てが可能だ」と回答してこのような大緩和策が突如提案されました。中身はガイドラインに係るものですから、なぜ「会計の意見の回答」として、このような大きな話が突如出てきてしまうのでしょうか?この点に関してのガイドラインの変更が必要か否かまでは私が言うべきことではないですが、少なくともガイドラインの議論ではなく、会計の議論でガイドラインの本質的なところまで踏み込むのは如何なものでしょうか?これでは、地方行政庁や法人にも大いなる期待と混乱を生じさせることになるでしょう。いずれにせよ、@、Aとガイドラインの関係をしっかり説明していただきたいと考えます。
私は、制度設計者の作業を白紙の用紙の上に、マッチ棒を重ねながら見事な立体をつくったと表現したことがあります。全体をしっかり理解せずに、そのマッチ棒を一本外すと、全体が音を立てて崩れることもあります。したがって、単に「緩和策」をとればよいというわけではありません。財務三基準という牢固な法律の中の解釈の範囲にとどまるものですし、以前から何度も言いますが、「遊休財産規制」「収支相償」「公益目的事業比率」「公益目的取得財産額」は相互に連動しているため、一つの変化がそれぞれにシステム論的に影響してくるものです。一つを緩めれば、どこかをきつく締めなければならない・・・その繰り返しが現在の混乱を招いてはいませんか?
万一、赤字対策を目的に特定費用準備資金が積めるということであるならば、堂々と本文に書いて理由を説明しなければりません。このようなところ(意見の回答)で、信じられない緩和策が突然出てくることは現に避けて頂きたいと思います。それを信じて活動した法人に対して後から掌を返さないようにだけしていただきたいと考えます。
現在の会計上の混乱の根本原因を理解しないと、このようなことは何度でも繰り返し、そのたびに真面目な活動を行っている法人が迷惑することになるでしょう。
何が混乱の根本原因ですかだって?特に第三期後半の委員会に期待しましょう。それしかありません。
https://blog.canpan.info/deguchi/archive/23