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民間公益の増進のための公益法人等・公益認定ウォッチャー (by 出口正之)

日本の民間公益活動に関する法制度・税制は、10数年にわたって大きな改善が見られました。たとえば、公益認定等委員会制度の導入もその一つでしょう。しかし、これらは日本で始まったばかりで、日本の従来の主務官庁型文化の影響も依然として受けているようにも思います。公益活動の増進のためにはこうした文化的影響についても考えていかなければなりません。内閣府公益認定等委員会の委員を二期六年務めた経験及び非営利研究者の立場から、公益法人制度を中心に広く非営利セクター全体の発展のためにブログをつづりたいと考えております。


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公益財団法人の『原田積善会100年史』:描かれた歴史と勇気 [2021年01月06日(Wed)]

 日本の公益法人には、その淵源を江戸(ないしそれ以前)、明治、大正期とするものもあり、現在でも活発な活動をしているものも少なくありません。そう聞くと驚く方も多いのではないかと思いますが、実は歴史ある事業型の公益法人の多くが学校法人や社会福祉法人に改組しています。


 ところが、他法人格へと組織変更せずに、公益法人としての法人格を維持したままで、長い歴史を刻み存在感を維持している法人は決して多くはありません。結果的に「歴史ある公益法人」の存在を見えにくくしています。


 とりわけ、資産運用型の財団法人は戦後のインフレの時期がありましたので、長年にわたって活動を継続することは、非常に難しかったものと思います。そんな中で、公益財団法人原田積善会は昨年100周年を迎えました。特筆すべきことだと思います。民間の公益の増進という一貫した姿勢について、『原田積善会100年史1920−2020』に詳しく描かれています。。


 原田積善会は研究者にとって著名な財団でもあり、前半部分はある程度は承知しておりました。圧巻なのは後半の部分です。バブル崩壊、金利の低下、リーマンショック等の経済危機などを本部事務所の移転、賃貸事業の開始、運用の見直し等を一流の理事の方々がその都度英断をしつつ、新しい助成先に対して臨機応変に助成を行っています。果敢な挑戦の「勇気」を感じさせる描写です。


 理事長の稲垣裕志氏はTKCの全国会で「民間の公益事業として『行政の手の届かない細かなニーズ』を捉えるように努めるとともに、自由な発想と迅速な助成決定で助成ニーズに応えていきたい」とまさに林雄二郎先生が目指したサードセクターとしての理想像を語られています


 さらに、公益法人の反応が鈍いのではないかと内心思っていた休眠預金の活用に対しても資金分配団体に選定され、子どもホスピスを全国主要都市に展開するといいます。


 一方、原田二郎旧宅の松阪市への寄贈が公益法人制度改革の影響だったことや公益認定申請に関連する話など、制度改革の余波などもしっかりと記載されています。そればかりか私にとっては少々耳の痛いことではありますが、収支相償をはじめとする財務三基準に対する率直な感想や収支相償撤廃の必要性なども強く指摘されています。

<機会があれば、「公益の増進」という立法趣旨と財務三基準に対する行政庁の監督が矛盾なく行われるように設計してある(のにできていない)ことについてお話しできたらなとも思います。仮に収支相償が撤廃されたとしても、規制的な文化が残存したり、別の規制が盛り込まれたりしてしまえば、元の木阿弥になりかねません。>



 原田積善会は第七十四銀行(のちの横浜銀行の前身の一つ)頭取を経て、鴻池銀行の再建を果たした原田二郎が設立した個人財団です。実子のいなかった原田は養子も取らずに「絶家」して全財産を財団に寄付しています。人生哲学を織り込んだ「設立理由書」、運用の原点である「40年間見積書」、さらには3500年にわたる運用計画など、原田二郎の創設にかけた情熱と長期にわたる現実を見据えた冷静さには驚嘆します。100年間の全助成額は現在の貨幣価値で約323億円にも達するといいます。


 本書はとても読みやすいです。「年史」といった類の印刷物がただ無味乾燥な資料の羅列で終わることが多い中、日経BP日本経済新聞出版本部エディターの山本優子氏が全体の構成と編纂とを、また日本経済新聞社社友の杉本哲也氏が執筆を担当して、「是非読んでもらいたい」という気持ちに溢れています。例えば、途中に挟まれたコラムには、原田二郎の数々のエピソード、友人関係、助成先、さらには歴史的な出来事との遭遇などの「縁」が描かれてとても面白いです。。また、資料部分である財団の年譜にはただ年号が並ぶだけではなく、その時々の社会事象が加えられています。「100年の風雪」に財団が耐えるということが、歴史的な事件に遭遇し続けることなのだということがよくわかります。その重さをずしりと感じます。それゆえにこそ、コロナ禍のテレワークの状況までしっかりと記載されているものと思います。


 なかなか積極果敢に挑戦できない公益法人が少なくない中で、「歴史と勇気」を感じさせる100年史です。「公益法人制度改革が掲げた『民による公益増進』は本会の設立趣旨と合致するものです。しかし、…」と続けられる理事長の言葉は重いです。こうした素晴らしい公益法人を応援するための公益法人制度改革だったはずです。


いったい改革のボタンの掛け違いはどのようにして始まったのでしょうか?



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