企業会計は現金に裏付けられる交換取引がほとんどですが、非営利の世界はボランティア、企業派遣、寄付、製品寄付、現物寄付、不用品寄付などの非交換取引が非常に重要な要素となってきます。
そこへ発生主義を持ち込むとどういうことになるのかといえば、
@いつ収益・費用を認識するのか?(=認識時点基準)
Aいくらで認識するのか?(=測定基準)
Bルールとして自動的に認識するのか、誰かが判断するのか(客観基準か主観基準か)
という問題が次々の襲いかかります。いずれも企業会計では前例がない問題です。
企業会計の発生主義は収益や費用の認識の時点の話がほとんどですが、非営利の場合には、それに加えて現金の裏付けがないので「評価=測定」が付きまといます。本質論に沿ってしっかりと議論しなければならない問題が横たわっております。
こうした問題については、例えば、藤井秀樹(2017)のような会計学者の優れた研究をはじめ国内でも相当に研究・検討が進んできましたが、最近のことです。また、NPO会計基準は多くの人の議論を経ていますので、随分現実的なところへ集約しつつあると思います。
ただ、発生主義の場合には、ルールはルールとして抽象的にならざるを得ませんから、その判断が人によって異なってくることもあるでしょう。現金が動いていないところで、収益や費用を現金換算で認識することは、心理的にも大きな負担となります。重要性の原則などを使いながら現場ではある程度柔軟な運用も可能でしょうが、とりわけ、発生主義に対して原理主義を振りかざす人がいると現場は途端に大混乱に陥ります。災害救援時には是非避けたい事態です。
災害支援では、物資より現金の寄付が有用であるということは、これまで何回も繰り返し指摘されてきました。物資が非常に不足しているところもあれば、善意の段ボールが山と積まれたままになって開けることすらかなわなかったということが国内外で繰り返されてきたからです。しかし、そうした経験があったとしても、今回の令和2年7月豪雨のような広範囲でかつ物流もままならぬ災害では当面は物資の支援も必要でしょう。現物寄付を会計的にどう取り扱うべきかという問題は、私見ではありますが、未だに普遍性を持った方法は確立しているとは思えません。
いやいや1つだけ確実な方法があるのです。先日の国際的な議論の中でその解決法は‘an elephant in the room’になってしまっているという比喩が飛び出してきました。「部屋の中の象」とは「重要なことなのに誰もが触れない問題」についての英語流の比喩表現で、小生も初めて耳にしました。その方が言うには、非営利組織特有の非交換取引についてはまずは現金主義を議論すべきなのにみんなが避けて通っているというのです。とりわけ、非交換取引の部分は現金で認識するという基本中の基本にすれば、多くの問題は解決するのではないかというのです。
かつて会計学の泰斗であった番場嘉一郎先生は非営利法人の減価償却に極めて懐疑的でした。米国の大会計学者は、従来評価していなかった様々な資産を評価することになった非営利組織は「リップサービス」として行わざるを得なかったと言ったこともあります。考えてみれば、非営利組織の歴史は企業よりも古く、「発生主義の概念」の誕生よりも古いのですから。
様々な資金提供者は自らの「プロジェクトの部分だけの会計報告」を要求しますが、それらはほぼ例外なく現金主義に基づく報告です。こうした現実をしっかり議論すべきであろうというのです。
頭から「発生主義対現金主義」という二律背反の議論をするとうまくいきませんが、現実を見ると多くは両者のハイブリッド型になっています。
とりわけ、権力を有している方が「発生主義原理主義」という斧を振り回すことがないようにしてもらいたいものです。権力者がこの斧を振るうと、弱者はまさに「リップサービス」としてそれに従うかもしれませんが、あとあと何がどうなっているか余計に分からなくなってしまいます。
大事なことは、会計は使う人が常に声を挙げていくことだと思います。災害救援で会計のことでトラブルにならないよう願っております。
参考
藤井秀樹(2017)「非営利組織の組織特性と収益認識」(非営利法人研究学会 公益法人会計研究委員会編『非営利組織会計の研究』所収)

