AVPN(Asia Venture Philanthropy Network) はシンガポールに拠点を置き、34か国600を超える会員を持つ組織で、2011年に設立されています。昨年の会議には1200名を集めていました。
会議の参加料は研究者には非常に高く、例年、出席を見送っていましたが、本年は新型コロナウイルスの影響で5日間にわたるオンライン会議開催となったので、初めて参加してみました。大変な成功だったと思います。もともとITに強い組織だったことあるでしょうが、リアルで参加するのと遜色ないものを感じました。
この会議について、以前に存在していた組織のAPPC(Asia Pacific Philanthropy Consortium)と比較しながら、感想を述べてみたいとおもいます。二つとも、AsiaとPhilanthropyに力点が置かれているからです。ここではPhilanthropyとは財団などの公益を目的とする組織の活動を意味しています。
APPCは日本の強いイニシアチブで1990年代前半に設立されたアジア太平洋地区の財団等の連携組織です。主導した方は日本国際交流センターの代表理事の山本正氏とアジア財団のバーネット・バロン氏。二人とも既に鬼籍に入ってしまっていますが、その熱意は大きなものがありました。
数年の準備期間を経て、事実上の設立宣言は1994年に関西国際空港開港直後の大阪でなされました。フォード財団のピーター・ガイトナー氏(後にニューヨーク連邦準備銀行総裁、米国財務長官を務めたティモシー・ガイトナー氏の父君)などの米国関係者も一枚かんでいました。日本の財団では、笹川平和財団の入山映氏が熱心でした。
当時は電子メールは全くと言ってよいほど普及しておらず、ファックスが最も有効な国際間の伝達手段でした。ホームページを有する財団もほぼ皆無であったろうと思います。何よりもアジア太平洋の財団といっても、日本、韓国、オーストラリア、フィリピンくらいが多少目立つ程度でしたが、それも相互に十分な情報があったわけではありません。
その中でも、アジア地区の財団といえば、日本が圧倒的に優位でした。ところが、当時の日本は依然としてバブル崩壊期にあたり、翌年には阪神淡路大震災が起きるタイミングで、さらに、金利は低下傾向を続けていました。
日本の財団には1980年代ほどの活力がみられなくなった時期と重なっていたことは残念でした。APPCは本部をマニラに置き、2000年代前半まで活動をつづけました。AVPNはタイミング的にはそのあとにできましたが、APPCの後継組織ではありません。EVPN(European Venture Philanthropy Network)という欧州の組織がモデルになったものです。
5日間にもわたるバーチャル国際会議をリアルで行う力にも驚きましたが、何よりも登壇するパネリストや参加者の所属する財団等の組織の「若さ」です。ほとんどが創設15年に満たない組織です。
アジアは急発展を遂げ、次々と新しい財団が誕生し、活発な行っています。CSRの主体的組織としての企業財団も目立っておりました。新型コロナウイルス対策、環境問題、自然災害など数多くの困難に立ち向かっています。
AVPNの日本側代表となって奮闘している伊藤健氏らの尽力の足跡は強く感じますが、日本の本会議でのプレゼンスの低さはAPPC時代と比べ見る影もありません。Knowledge Partnerとして名前を連ねた笹川平和財団のほか、日本側の公益法人の出席者は日本財団、トヨタ財団くらいです。そのほかに企業のCSR担当者と思しき方々、JICA,社会的企業や一般法人等の関係者がいらっしゃる程度でした。出席者は全体の5パーセント程度ではなかったでしょうか?
内容も新型コロナウイルス対策など極めて喫緊な話題にあふれていました。「巧遅は拙速にしかず」などが議論されていました。
AVPNが発展していったこの10年は日本の公益法人制度改革の時期と重なります。公益法人制度改革が何を目指していたのか今一度考える機会にもなったような気がします。
APPCの設立にもかかわった入山映氏が自らの余命を削って出版した遺作のタイトルは『市民社会があぶない―改正公益法人制度が日本をほろぼす』でした。
小生も責任を痛感しております。
注:APPCについてはMasayuki Deguchi “Philanthropy”, Ogawa, Akihiro, ed. Routledge Handbook of Civil Society in Asia. Routledge, 2017.Nov. pp390-406, Oxon and New Yorkに経緯を書いております。