<やや専門家向けです。お許しください>
今回の公益法人会計基準の改正はゴーイング・コンサーンの日本語訳を「継続事業」から公認会計士協会のモデル会計基準の用語である「継続組織」に変えようとするものです。
(他の非営利法人の会計基準も「継続事業」の用語が使用されています)
出口がなぜ大反対をしているのか、よくわからないという質問を受けますので、お応えいたします。
それは「非営利組織とゴーイング・コンサーン」の部分には、非営利会計の本質が凝縮されているからです。
会計には、「企業会計」と「公会計(政府、地方自治体、政府機関の会計)」と「非営利組織の会計」(日本では非営利の会計基準は多数あり、世界的に見て異例のことです)があります。
企業会計は、口別計算からゴーイング・コンサーンの前提を置くことで、期間損益計算、発生主義とセットで重要な進展を遂げました。利益を目的としている以上、ゴーイング・コンサーンの前提をおくことは当為として可能です。公会計でも同様と思います。
ところが、非営利会計は異なるのです。企業会計のような「ゴーイング・コンサーン至上主義」をとれないことがあるのです。特定の目的を有している非営利組織である以上、本質論としてゴーイング・コンサーンでないものとして次の3種類があります。
@そもそも時限であるもの
オリンピック・パラリンピック組織委員会等がその典型です。
A目的達成ないし目的が達成しそうなもの
例えば、「〇〇川河川敷のホームレスを無くす会」といったものであれば、ホームレスを無くすことが目的です。ゴーイング・コンサーンであるためには、ホームレスが居続けてもらわないといけないという変な現象となります。
B奨学金給付などを目的達成のために資金取り崩しで実施しているもの
C財産上その他の不適切な理由から、継続が不可能となったもの
ところが、公認会計士協会の資料は、企業会計と基本的に同一の対応しか表示されていません。
第36回会計研究会資料
公益法人の継続事業の前提について(公認会計士協会)
1.継続事業の前提が適切であるかどうかを総合的に評価した結果、貸借対照表日において、単独で又は複合して継続事業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であって、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続事業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、継続事業の前提に関する事項として、以下の事項を財務諸表に注記する。
@ 当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
A 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
B 当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
C 財務諸表は継続事業を前提として作成されており、当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映していない旨
(文例)
当法人は、基本財産の運用収益を主な財源として事業活動を行ってきております。当事業年度においては、基本財産となっている株式の発行会社の配当が減配となり、経常収益は大幅に減少することとなりました。当該状況により、継続事業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しております。
当法人においては、当該状況を解消すべく、奨学金の給付規模を縮小するとともに、○○名の人員削減を行い、併せて全法人ベースで費用の○○%削減を行う予定であります。
しかし、これらの対応策を関係者との協議を行いながら進めている途中であるため、現時点では継続事業の前提に関する重要な不確実性が認められます。
なお、財務諸表は継続事業を前提として作成しており、継続事業の前提に関する重要な不確実性の影響を財務諸表に反映しておりません。
以上のような「ゴーイング・コンサーン至上主義」の事例が出てきます。上記に対し
財務諸表等の監査における監査人の責任として監査人は以下のことをすることになっています。
監査人は、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に従って、監査の過程
を通じて、職業的専門家としての判断を行い、職業的懐疑心を保持して以下を実施する。
継続事業の前提が適切であるかどうかを総合的に評価した結果、貸借対照表日において、単独で又は複合して継続事業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であって、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続事業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、継続事業の前提に関する事項として、以下の事項を財務諸表に注記する。
@ 当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
A 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
B 当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
C 財務諸表は継続事業を前提として作成されており、当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映していない旨
理事者が継続事業を前提として財務諸表等を作成することが適切であるかどうか、また、入手した監査証拠に基づき、継続事業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関して重要な不確実性が認められるかどうか結論付ける。継続事業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合は、監査報告書において財務諸表等の注記事項に注意を喚起すること、又は重要な不確実性に関する財務諸表等の注記事項が適切でない場合は、財務諸表等に対して除外事項付意見を表明することが求められている。監査人の結論は、監査報告書日までに入手した監査証拠に基づいているが、将来の事象や状況により、
法人は継続事業として存続できなくなる可能性がある。
なお、ゴーイング・コンサーンの日本語訳として一般に普及しているのは次の通りです。
WikiPedia
継続企業の前提(けいぞくきぎょうのぜんてい)とは、企業等が将来にわたって存続するという前提のこと。ゴーイングコンサーン(going concern)とも呼ばれる。企業以外の組織体の場合は、継続事業の前提、継続組合の前提などと呼ばれることもある。
また、公益法人に関しては法律用語として「会計監査人」、学校法人では使用されている「独立監査人」の用語があり、統一されていませんが、監査人の報告書では、公認会計士協会は共通して「独立監査人」を使用することとしております。
以上のことを踏まえて今回、ゴーイング・コンサーンの日本語訳として一般に普及している「継続事業」の改正をモデル会計基準の訳語である「継続組織」に変更する会計基準の改正として行おうとするものです。会計原則として以下が付加されました。
公益法人会計基準「第1 総則」に、次を追加する。(※)
2 継続組織の前提
この会計基準は、公益法人が継続して活動することを前提としている。したがって、組織の清算や全事業の廃止など、組織の継続を予定していない場合は、この会計基準は適用されない。
総則の変更というのは極めて重大です。この影響がどこにどのように及ぶか充分に検討できているのでしょうか?会計関係に関しては、現場が大変混乱している状況です。
会計関係者には上記のことはことあるごとに申し上げていたつもりですので、上記のような議論は行われていたとは思いますが、議事要旨では確認できません。
「組織の継続を予定していない場合」がどのようなケースを想定しているのか、独立監査人が付けるコメントは公認会計士協会が想定しているものだけで充分なのかよくわかりません。
用語が気になるのであれば、独立監査人と同様に「継続組織」を使用することも可能だと思います。
「会計基準の改正」というとても重いことを実施するのであれば、会計関係者以外の外部の方を入れて、議事録を公開し、公益法人の意見も聞きながら、ガバナンス有識者会議と同じような手続きを経て行っていただきたい、というのが、公益法人会計基準改正手続きに強く反対する理由です。
また、会議資料では、海外の状況を考慮するのにIPSAS(国際公会計基準)が参考にされていますが、公会計と非営利会計は異なるものです(日本ではよく似ていますが)。とりわけ、ゴーイング・コンサーンについては、異なっているのです。非営利会計の海外での大きな議論がすっぽりと抜け落ちてしまっています。
一連の議論は、企業会計を中心に公会計を少し参考にして行われています。
「企業でもない、政府でもない非営利公益活動」だから税も含めて応援するという立法趣旨にとって、非営利性の本質を議論した形跡が探せない今回の議論は専門家として決して認めることができないのです。
今回のことは非営利会計の独自性を考える上で、非常に重要なことだと思っています。
議事要旨にはこのようなことも出ています。
第40回の研究会の議事要旨「今回、会計基準を改正することの意義は大きいと考えている。」どういう意味なのでしょうか?

