欧米のチャリティ委員会ないし同等の行政機関が協力してチャリティ(日本の公益法人と類似の法的カテゴリーの認定団体)の不正注意喚起国際週間が先月実施されました。
同週間は英国のチャリティのひとつである「不正忠告パネル」(FAP)が、日本の公益認定等委員会に相当するイングランド・ウエールズ・チャリティ委員会(以下「チャリティ委員会」という)と協力して、2015年から展開してきたものです。これが昨年、米国、オーストラリアやニュージーランドの政府の委員会に広がり、チャリティ不正注意喚起の国際週間となりました。なお、現時点で本注意喚起週間に協力を行っているチャリティ委員会等は英語圏のみです。
指摘されていることはそれほど目新らしいことはありません。しかしながら、注意喚起をする背景には不正事例の蓄積、要因の分析、研究の蓄積がなされていることを感じさせます。また、他のセクターと共通する不正、非営利セクターに特化した不正をよく分析しながら注意喚起していることが非常に特徴的だったと思います。
日本においても公益法人の不正については様々な形で注意喚起がなされています。行政庁の立入検査においても指摘されることがあるとも聞いております。
不正喚起週間の注意喚起の手法と日本のそれと比較すると文化的差異が明確に出てきています。今回の海外のものは様々な不正事例を的確に分類してわかりやすくチャリティ組織に情報提供しています。解決策については具体的な手法を提示していません。むしろ、No one-size-fits-all approachを強調し、不正に対する回避策には万能薬がないことを強調しているように思います。one-size-fits-allとは洋服のフリーサイズのことを言いますが、同様にどのようなものにも対処可能な万能的、汎用的対応、悪く言えば、ワンパターンの対応をいいます。そのような対応を取らないと言い続けているのです。関係者がいろんな観点から不正のパターンを理解し、不正が起こりうるものだと言うことに注意を向ける事が1番大切であるという明確なメッセージが出されているように感じました。
日本の場合には、不正というときには、財産管理の「支払時不正」(銀行口座から預金が引き出される不正)と呼ばれる1つの不正だけが強調されているように思います。しかも、それを回避する手段として通帳と印鑑を分けてそれぞれ別の人が管理するようにというone-size-fits-allの解決策が内閣府のホームぺージでも掲載されています。日本の場合、マスメディアも横領があった場合には、通帳と印鑑を別々の人に管理していなかった場合だけ、記事の中で強調する文化的なパターンが定着していますから、そのようになっているものと思います。また、そうした対応をとってさえいれば、理事が善管注意義務違反に問われないという意味では確かによい方法だと思います。
しかし、理事が善管注意義務違反に問われるか否かよりも、法人にとっては遥かに大切なことは、不正そのものを起こさせないことです。そのための解決策は多様であって、決して万能薬はないということを海外では強調しているものと思います。
日本の場合には、実に6分の1の公益法人が常勤職員1名以下であることを考えると、行政庁による「複数人による財産管理という解決策」の指導については言われた法人が戸惑うこともあり得ます。また、職員が1名を超える公益法人であっても支部組織では1名しかいないという場合もありますので、この指導に悩む公益法人は2割以上あるのではないでしょうか。別に内閣府は「人を雇え」とまで指導しているわけではないと思いますが、解決策が余りにも具体的なので、内閣府からそのように指導されたので人を雇わなければいけないと受け取った法人も実際にあります。
不正のリスクを減らす最適な解決策は法人一つ一つに異なっております。それを探し対応策を講じるのは理事会なのではないでしょうか。
日本と海外の文化の差を感じさせる一週間でした。
皆様の法人におかれましても、このような喚起週間を契機に法人内で話し合う風土を作っていっては如何でしょうか?