収支相償の3つの基本公式 収支相償と特定費用準備資金その2
[2015年01月28日(Wed)]
先日、収支相償と特定費用準備資金のことについて書きましたが、本日はその追加です。本日の目的も「黒字を出してはいけない」というメッセージを払拭することにあります。
収支相償とは次の二つの規定を指して言います。
【法第5条第6号】
その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること。
【法第14条 】 公益法人は、その公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない。
確かに字面をみると、憂鬱になってしまいそうになりますね。
1.条文の趣旨
この規定の趣旨は次のようなものと考えられます。
公益目的事業は、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものですから、事業の特性として資源を最大限に活用し、無償又は低廉な対価を設定することなどによって受益者の範囲を可能な限り拡大することが求められているものと考えられます。
もともと、公益法人の指導監督基準には、「対価を伴う公益事業については、対価の引下げ、対象の拡大等により収入、支出の均衡を図り、当該法人の健全な運営に必要な額以上の利益を生じないようにすること」とありました。対価の引下げが、収支の均衡に寄与するかどうかという経済原理についてはここでは措いておきましょう。認定法では「対価」以外にも拡大はしていますが、収支相償はこの基準が元になったものと考えればわかりやすいでしょう。
2.条文の視点
この条文には、次のような視点があると思います。もちろん、これ以上にもあるのですが、全てを解説するとわかりにくくなるので、次の3点だけを指摘しておきましょう。
@ 適正な費用の範囲とは何か。
A 収入の範囲とは何か(長くなるのでこの部分は改めてにいたします)。
B 収入が実施に要する適正な費用を償う額を超えないとはどういう意味か。
念のために言っておきますが、収支相償で比較するのは、「収入」と「適正な費用」です。
公益目的事業費の会計上の「収益」と「費用」ではありません。
この辺りが、かえって会計の知識のある人には読みにくくなっています。
3.基本公式@ 費用の公式
収益事業等を行っていない場合及び収益事業等の利益の50%を繰り入れる場合には、ガイドラインには、
以下の合計額を費用とする、とあります。
@ 損益計算書上の公益目的事業の会計に係る経常費用
A 公益目的事業に係る特定費用準備資金の当期積立て額
ここでは、@は公益目的事業費、Aは特費積立額と簡単に呼びましょう。
そうすると以下の公式ができます。
収支相償上の費用=公益目的事業費+特費積立額
これを 収支相償の基本公式@ 「費用の基本公式」と呼んでおきましょう。
収益事業等の利益の繰入額が50%を超えるときには、さらに付加されて複雑になりますが、基本はこの式を考えることなので、収益事業等の利益の繰入額が50%を超えるときは、今日の説明から除外しておきます。全部説明するとまたわからなくなりますから。
4.基本公式A 適正な費用の公式
さらに、ガイドラインは、少し離れた場所で、
B 費用は「適正な」範囲である必要から、謝金、礼金、人件費等について不相当に高い支出を公益目的事業の費用として計上することは適当ではない。(以下略)
としていますから、公益目的事業費には、適正でない費用を入れないということが前提となっています。万一、赤字を出すことに必死になって「不相当に高い」費用を計上していたとしましょう。
そうすると
収支相償上の「適正な費用」=(公益目的事業費+特費積立額−「不相当に高い部分の額」)となります。最後の「不相当に高い部分の額」をα(アルファ―です)と置き換えると、
αが「適正な費用」ではないとして収支相償上の費用計算から除かれる可能性があります(なお、ガイドラインにはαが発生しないことを前提としていますので、控除するとは書いてありません。ここではあえて計算式を念頭に入れてαとしておきます。)
そうすると、
収支相償上の
「適正な費用」=(公益目的事業費+特費積立額−α)
これをここでは 収支相償上の基本公式A 「適正な費用」の基本公式と呼んでおきましょう。
ただし、αがゼロでないということは「適当ではない」ということになります。
「適正な費用」の基本公式をみると、法人が何をしなければならないかよくわかります。
ここで αがゼロでないときには、満たしていた収支相償が満たしていないことにもなりかねないことから、第5条第6号や第14条に抵触することになりますし、あるいは第5条2号の経理的基礎というものに抵触する可能性があります。もちろん、第5条第3号、4号の特別の利益にも注意しなければなりません。
したがって、相手がだれであっても、「不相当に高い支出」とりわけ収支相償を逃れるための無駄な支出は厳にやめておくようにお勧めします。言い換えれば、αを常にゼロにすることが法人に求められていると考えます。
(なお、平素より合理的な理由に基づき正しい手続きで「高い支出」をしている場合には、「不相当に高い支出」ではなく、民間らしさの一環とも考えられます。絶対額だけで萎縮しないようにしてください。)
さらに、ガイドラインを見ると
(第1段階では)収入が費用を上回る場合には、当該事業に係る特定費用準備資金への積立て額として整理する。
と、記載されています。
つまり、ガイドラインでは、特定費用準備資金への積み立ては決して「例外的な措置」ではないことがお分かり頂けると思います。
5.基本公式B 剰余金の公式
収入の話をすると非常に長くなりますので、改めてにさせてください。次に「収支相償上の剰余金」の話に飛びましょう。
同じく、収益事業等を行っていない場合及び収益事業等の利益の50%を繰り入れる場合は
(収支相償上の剰余金)=「収入」−「適正な費用」です。
つまり
=「収入」−(公益目的事業費+特費積立額−α)
αは通常はゼロでなければなりませんので、
収支相償上の 「剰余金」≒「収入」−(公益目的事業費+特費積立額)
または 「剰余金」≒「収入」−公益目的事業費ー特費積立額
と簡単に考えてもいいです。
これを 収支相償上の基本公式B 「剰余金」の基本公式と呼んでおきましょう。
つまり、「剰余金が出たので特定費用準備資金として積み立てた」という表現は正しくありません。収支相償上の剰余金は、特定費用準備資金を積み立てることが前提となっております。くどいようですが、特定費用準備資金が組み込まれているといってよいと思います。
また、剰余金を(公益目的事業費の収益−費用)と理解すると、ガイドラインが全く理解できなくなってしまします。式からいっても、黒字、赤字という言い方となじまないことがわかると思います。
6.設問Bの答え
次に最初の設問のBを考えます。
「収入が実施に要する適正な費用を償う額を超えないとはどういう意味か」
についてですが、ガイドラインは次のように応えています。
(4) 剰余金の扱いその他
@ ある事業年度において剰余が生じる場合において、公益目的保有財産に係る資産取得、改良に充てるための資金に繰入れたり、当期の公益目的保有財産の取得に充てたりする場合には、本基準は満たされているものとして扱う。このような状況にない場合は、翌年度に事業の拡大等により同額程度の損失となるようにする。
A 事業の性質上特に必要がある場合には、個別の事情について案件毎に判断する。また、この収支相償の判定により、著しく収入が超過し、その超過する収入の解消が図られていないと判断される時は報告を求め、必要に応じ更なる対応を検討する。
収益事業等を行っていない場合及び収益事業等の利益の50%を繰り入れる場合は
公益目的保有財産に係る資産取得、改良に充てるための資金(資産取得資金)への繰入れ等の手段は「本基準は満たされているものとして扱う」わけであり、特費積立額でクリアしていれば、そもそも剰余金すら発生していないということになります。
ここで収支相償解決のためのメニューがいっぱい出てきますので、目移りしますが、「適正な費用」に当初から入る「特費積立額」と、「本基準は満たされているものとして扱う」とされる他のメニューとは位置づけが異なることはお分かり頂けるものと思います。
収支相償の法の趣旨と法人の柔軟な活動を支援するという「読み方のコツ」を使えば、少しは制度が使いやすくなるのではないでしょうか?
先日も述べましたが、「不相当に高い支出」に気を付けるべきであり、一般的な意味での黒字すなわち(公益目的事業費の収益−費用)については、そもそもそんな式は出てこないのですから、気にしなくてよいのです。
結局「黒字を出してはいけない」というメッセージが誤解を与えるということばかりではなく、不用意な支出を誘発する恐れがある「危険」なメッセージであるということがお分かり頂けたものと思います。
さらに、ガイドラインを読み続ければ、本当に「感動に」出会えますよ!!
法人の皆様が自由で柔軟な公益活動を実施されることを祈念致しております。
収支相償とは次の二つの規定を指して言います。
【法第5条第6号】
その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること。
【法第14条 】 公益法人は、その公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない。
確かに字面をみると、憂鬱になってしまいそうになりますね。
1.条文の趣旨
この規定の趣旨は次のようなものと考えられます。
公益目的事業は、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものですから、事業の特性として資源を最大限に活用し、無償又は低廉な対価を設定することなどによって受益者の範囲を可能な限り拡大することが求められているものと考えられます。
もともと、公益法人の指導監督基準には、「対価を伴う公益事業については、対価の引下げ、対象の拡大等により収入、支出の均衡を図り、当該法人の健全な運営に必要な額以上の利益を生じないようにすること」とありました。対価の引下げが、収支の均衡に寄与するかどうかという経済原理についてはここでは措いておきましょう。認定法では「対価」以外にも拡大はしていますが、収支相償はこの基準が元になったものと考えればわかりやすいでしょう。
2.条文の視点
この条文には、次のような視点があると思います。もちろん、これ以上にもあるのですが、全てを解説するとわかりにくくなるので、次の3点だけを指摘しておきましょう。
@ 適正な費用の範囲とは何か。
A 収入の範囲とは何か(長くなるのでこの部分は改めてにいたします)。
B 収入が実施に要する適正な費用を償う額を超えないとはどういう意味か。
念のために言っておきますが、収支相償で比較するのは、「収入」と「適正な費用」です。
公益目的事業費の会計上の「収益」と「費用」ではありません。
この辺りが、かえって会計の知識のある人には読みにくくなっています。
3.基本公式@ 費用の公式
収益事業等を行っていない場合及び収益事業等の利益の50%を繰り入れる場合には、ガイドラインには、
以下の合計額を費用とする、とあります。
@ 損益計算書上の公益目的事業の会計に係る経常費用
A 公益目的事業に係る特定費用準備資金の当期積立て額
ここでは、@は公益目的事業費、Aは特費積立額と簡単に呼びましょう。
そうすると以下の公式ができます。
収支相償上の費用=公益目的事業費+特費積立額
これを 収支相償の基本公式@ 「費用の基本公式」と呼んでおきましょう。
収益事業等の利益の繰入額が50%を超えるときには、さらに付加されて複雑になりますが、基本はこの式を考えることなので、収益事業等の利益の繰入額が50%を超えるときは、今日の説明から除外しておきます。全部説明するとまたわからなくなりますから。
4.基本公式A 適正な費用の公式
さらに、ガイドラインは、少し離れた場所で、
B 費用は「適正な」範囲である必要から、謝金、礼金、人件費等について不相当に高い支出を公益目的事業の費用として計上することは適当ではない。(以下略)
としていますから、公益目的事業費には、適正でない費用を入れないということが前提となっています。万一、赤字を出すことに必死になって「不相当に高い」費用を計上していたとしましょう。
そうすると
収支相償上の「適正な費用」=(公益目的事業費+特費積立額−「不相当に高い部分の額」)となります。最後の「不相当に高い部分の額」をα(アルファ―です)と置き換えると、
αが「適正な費用」ではないとして収支相償上の費用計算から除かれる可能性があります(なお、ガイドラインにはαが発生しないことを前提としていますので、控除するとは書いてありません。ここではあえて計算式を念頭に入れてαとしておきます。)
そうすると、
収支相償上の
「適正な費用」=(公益目的事業費+特費積立額−α)
これをここでは 収支相償上の基本公式A 「適正な費用」の基本公式と呼んでおきましょう。
ただし、αがゼロでないということは「適当ではない」ということになります。
「適正な費用」の基本公式をみると、法人が何をしなければならないかよくわかります。
ここで αがゼロでないときには、満たしていた収支相償が満たしていないことにもなりかねないことから、第5条第6号や第14条に抵触することになりますし、あるいは第5条2号の経理的基礎というものに抵触する可能性があります。もちろん、第5条第3号、4号の特別の利益にも注意しなければなりません。
したがって、相手がだれであっても、「不相当に高い支出」とりわけ収支相償を逃れるための無駄な支出は厳にやめておくようにお勧めします。言い換えれば、αを常にゼロにすることが法人に求められていると考えます。
(なお、平素より合理的な理由に基づき正しい手続きで「高い支出」をしている場合には、「不相当に高い支出」ではなく、民間らしさの一環とも考えられます。絶対額だけで萎縮しないようにしてください。)
さらに、ガイドラインを見ると
(第1段階では)収入が費用を上回る場合には、当該事業に係る特定費用準備資金への積立て額として整理する。
と、記載されています。
つまり、ガイドラインでは、特定費用準備資金への積み立ては決して「例外的な措置」ではないことがお分かり頂けると思います。
5.基本公式B 剰余金の公式
収入の話をすると非常に長くなりますので、改めてにさせてください。次に「収支相償上の剰余金」の話に飛びましょう。
同じく、収益事業等を行っていない場合及び収益事業等の利益の50%を繰り入れる場合は
(収支相償上の剰余金)=「収入」−「適正な費用」です。
つまり
=「収入」−(公益目的事業費+特費積立額−α)
αは通常はゼロでなければなりませんので、
収支相償上の 「剰余金」≒「収入」−(公益目的事業費+特費積立額)
または 「剰余金」≒「収入」−公益目的事業費ー特費積立額
と簡単に考えてもいいです。
これを 収支相償上の基本公式B 「剰余金」の基本公式と呼んでおきましょう。
つまり、「剰余金が出たので特定費用準備資金として積み立てた」という表現は正しくありません。収支相償上の剰余金は、特定費用準備資金を積み立てることが前提となっております。くどいようですが、特定費用準備資金が組み込まれているといってよいと思います。
また、剰余金を(公益目的事業費の収益−費用)と理解すると、ガイドラインが全く理解できなくなってしまします。式からいっても、黒字、赤字という言い方となじまないことがわかると思います。
6.設問Bの答え
次に最初の設問のBを考えます。
「収入が実施に要する適正な費用を償う額を超えないとはどういう意味か」
についてですが、ガイドラインは次のように応えています。
(4) 剰余金の扱いその他
@ ある事業年度において剰余が生じる場合において、公益目的保有財産に係る資産取得、改良に充てるための資金に繰入れたり、当期の公益目的保有財産の取得に充てたりする場合には、本基準は満たされているものとして扱う。このような状況にない場合は、翌年度に事業の拡大等により同額程度の損失となるようにする。
A 事業の性質上特に必要がある場合には、個別の事情について案件毎に判断する。また、この収支相償の判定により、著しく収入が超過し、その超過する収入の解消が図られていないと判断される時は報告を求め、必要に応じ更なる対応を検討する。
収益事業等を行っていない場合及び収益事業等の利益の50%を繰り入れる場合は
公益目的保有財産に係る資産取得、改良に充てるための資金(資産取得資金)への繰入れ等の手段は「本基準は満たされているものとして扱う」わけであり、特費積立額でクリアしていれば、そもそも剰余金すら発生していないということになります。
ここで収支相償解決のためのメニューがいっぱい出てきますので、目移りしますが、「適正な費用」に当初から入る「特費積立額」と、「本基準は満たされているものとして扱う」とされる他のメニューとは位置づけが異なることはお分かり頂けるものと思います。
収支相償の法の趣旨と法人の柔軟な活動を支援するという「読み方のコツ」を使えば、少しは制度が使いやすくなるのではないでしょうか?
先日も述べましたが、「不相当に高い支出」に気を付けるべきであり、一般的な意味での黒字すなわち(公益目的事業費の収益−費用)については、そもそもそんな式は出てこないのですから、気にしなくてよいのです。
結局「黒字を出してはいけない」というメッセージが誤解を与えるということばかりではなく、不用意な支出を誘発する恐れがある「危険」なメッセージであるということがお分かり頂けたものと思います。
さらに、ガイドラインを読み続ければ、本当に「感動に」出会えますよ!!
法人の皆様が自由で柔軟な公益活動を実施されることを祈念致しております。
OA様と小生の意見はほぼ一緒です。素案はとてもではないけれども議論になっていません。設計通りにしてくれていないのですから。私は戦いますよ!
さてOAさんの想定です。
>もし黒字の年度があっても、黒字額は翌年度に使用することとされているので、赤字の主要財源とすることは困難です。財政的に破綻することを多少後ろの年度にずらすだけです。
〇特定費用準備資金をお勧めします。赤字補てんのために積むことはできませんが、赤字になれば使ったらよいですよ。その場合、一旦特費は取崩しになります。収入に入るのはご指摘の通りです。
>このような形でしか収支相償要件を考えられなかった立案担当者の能力を疑います。もっと知恵を出せと言いたかったです。私たちのような一般人や一般法人が制度の全体像を知り、問題点を認識できないうちに現行制度が出来て運用が始まってしまったのはとても残念です。
〇と、考えてしまいますよね。私にはそれが耐えられません。
https://blog.canpan.info/deguchi/archive/16
にも、書きましたが、本当にいい制度を作ってくれているのです。運用をここまで無茶苦茶にされると、設計自体に批判が集中てしまいます。是非、私を信じてください。このブログで徐々にわかってくると思います。