公益認定申請における実務混乱の要因分析と、法改正に伴う申請書簡素化への提言
1. はじめに 内閣府が法改正後1年間の「公益認定等委員会の活動報告」を素早く公表しました。内閣府の頑張りはよくわかる内容で、高く評価できますが、肝心の申請数も思ったほど伸びていないばかりか、相変わらず取下げ率が20%以上もあります(内閣府だけの数字です)。そこで、公益認定(および変更認定)申請実務がこれまで著しい混乱に陥っていた要因について、制度設計当時の経緯を踏まえ、以下の通り課題を整理し、今後の簡略化に向けた提言を行いたいと思います。
2. 混乱の歴史的要因:「収支相償」と会計基準のミスマッチ
: 本来「収支相償」は、その名の通り収支計算(現金ベース)で行えば何ら問題が生じない概念でした。しかし、会計基準設計において損益計算が必須とされた結果、経常損益上で黒字であっても、未払金等の調整によって「手元に現金がない」という歪みが生じ、当時のパブリックコメントでその実態が明らかになりました。
本来の設計意図: 当初はこれを救済するため、事後報告の収支相償欄に「短期調整金」を文章で記載する欄を設けました。もともとは、黒字が出れば「特定費用準備資金」や「資産取得資金」に充当することで、100%の法人が収支相償を簡単に満たせる前提で制度設計されていたものです。これを合意した時の委員会では委員の中に誰も反対者はいませんでした。
「短期調整金」の形骸化と都市伝説の蔓延:しかし、2013年の会計研究会において十分な議論がないまま、この欄を「2年間でゼロにする」という、緩和とは名ばかりの実質的な制限が課されました。これにより、短期調整金に記載した金額は翌年の報告書のどの欄に記載するかが明確でなく、FAQで指示する変則的な形となっていたのです。本来の趣旨とは異なる「剰余金の使途」を記載する運用に変質し、「公益法人は利益を出してはならない」という誤った都市伝説を生む原因となりました。
3. 構造的欠陥:申請書における「円単位の次年度予測」の要求
移行期の遺物の踏襲: 制度発足時、2万5,000あった旧公益法人が財務3基準を満たすかどうかを判断するため、認定後の年度末決算の予測値を判断させる欄が設けられました(1期目のことで当時委員であった私も責任は免れませんが)。今回の法改正に伴う申請様式にこのスタイルが踏襲されてしまいました。
実務上の過大な負担: 申請法人は、申請後の年度末決算を予想し、その数字を「円単位」で細かく申請書に入れ、現在の財務3規律に適合するかどうかを証明させられています。その結果、法律で作成が定められた「収支予算書」の他、資産の変動まで見越した次年度の「予想活動計算書(損益計算書)」や「予想貸借対照表の内訳表」に基づく数字が必要であり、これは理事会で実質的に議論できるものを超えています。この細かな申請書自体が、「制度外の巨大な制約」として法人側に重く横たわっています。
4. 法改正の趣旨との乖離と行政チェックの肥大化
制度の緩和と申請実務の乖離: 現在、財務3規律については大幅な緩和策が取られており、例えば「収支相償」も「中期的収支均衡」へと名称が変わり、単年度のプラスがあること自体は何ら問題のない状況になっています。それにもかかわらず、申請実務では従来の形に近い「円単位の予測数値」を求められています。
行政側の負担と新規参入の阻害: 申請書に細かな数字がある以上、行政庁側の会計担当者も細部までチェックせざるを得ず、各種計算書の数字と合わなければ、修正を求め、双方に膨大な無駄が生じています。さらに、新規申請法人にとっては、当局の相談室に確認しても即答できないような難解な用語や書式が壁となり、大きな負担となっています。
5. 提言:法改正の趣旨に則った申請書の根本的簡略化
今回の法改正の主眼は、事後チェック及びガバナンス重視にあると思います。したがって、事前申請の段階における財務3規律への適合性については、「満たせると思う・思わない」欄を設け、チェックさせるといった、大括りの確認で十分ではないでしょうか。50%以上であれば認定される、公益事業比率の「予想の数字」が、例えば92%が正しいのか91%が正しいのかというようなことをしている限り、 申請の「取下げ」件数はゼロにはならないでしょう。「事後チェック重視・緩和化」という法改正の趣旨を実務レベルで活かすためにも、申請書を抜本的に簡略化し、社会的な無駄(サンクコスト)を排除することが極めて重要であると考えます。

