上書きを促す
[2022年01月01日(Sat)]
謹んで新年のあいさつを申し上げます。
昨年も、みなさまに大変お世話になりました。
より良い社会づくりのお手伝いを仕事にする立場のはずが、
むしろみなさまに、例年以上に助けられながら過ごした一年でした。
重ねて深くお礼申し上げます。
そして昨年は、感染症が顕わにした課題の深刻さを体感した年でも
ありました。重傷者への対応に追われるごく一部の医療機関、
自宅で待機させられている間に亡くなられた数百名もの方々、
もとより厳しい労働条件に加えて対策も求められながらケアを続けた介護施設、
事態の長期化に伴って静かに増え続ける生活困窮者。
そのすべての仮説や判断の遅れの原因となった内閣、
結果として対応に追われる基礎自治体行政。
文字通り史上空前規模の予算を用意しながら、
その効果が限定的だったのは、深く調べることもなく、
アイディアレベルで予算を付け、その執行は外注にまかせてきた
この10年間の「国の仕事の仕方」の劣化に大きな原因があると
言わざるを得ません(もちろん、委託先の手数料収入を増やすことが
目的だったのならば、それは十分に成功していますが)。
2020年から、ひとり親世帯をはじめとする困窮者・家族の
支援活動団体のお手伝いも、従来以上に積極的に行うように
してきました。そのくらしの厳しさは、想像や言葉に絶します。
他国とは異なり、「働いているのに生活が苦しい」という人の多さと、
その増えるスピードの速さ。原因は、最低賃金や労働分配率の低さだけ
でなく、労働者派遣事業者の利益率の高さや、技能実習制度など、
さまざまな要素の積み重なりにあります。しかし、どんなに複雑でも、
基本的人権を損ね続けている、これらの制度や、その背景にある慣行
・文化までを、上書きしていかなければ、働いている人々が安心して
くらし続けることができない。ゆえに将来に希望も、地域や他者への
信頼も抱くことができない。それが、都心部だけでなく農山漁村部でも
進み続ける「小家族化」、実質的には独居化と並行することで、
「孤立」というさらに深刻な課題を生んでいく、という、課題の連鎖を
止められません。
これまでも日本は、どんなにすばらしい技術や製品・サービスのタネを
開発しても、消費者と行政が過剰なまでの安全の保証を求め、
結果として市場化に失敗し続けてきました。検査の偽装が発覚しても、
「安全には問題ない」と悪びれずに言い切る会社が相次ぐ背景にも、
「過剰品質」という言葉が当たり前に使われるほどの手間やコストが
求められてきたという意識があるのでしょう。
この「問題ない」という感覚は、相手の気持ちを共有することなく、
自分の判断を相手に押し付けるものであり、安心という関係を損ねます。
同様に、高齢化と人口減少に加えて、小家族化が進みつつある中での
くらしや、それを支える地域づくりにおいても、「これまで通りで
問題ない」「変える必要がない」という人々が、まだまだたくさんいます。
しかし、ごくわずかながら、上書きの成果を生みつつある地域も
出てきました。昨年11月末に発表された国勢調査(まだ一部ですが)
をもとに、2010年から2020年にかけて、30歳台と40歳台の
残存率(ここでは2010年の30歳から49歳までと、2020年の
40歳から59歳までの数を比較した増減率)の上位200市区町村を
見ると、大都市やその近郊、離島振興などの理由がある場所だけでなく、
「若者のチャレンジ」を積極的に受け入れ続けてきた自治体も含まれて
いることがわかります。

もちろん、すべてのチャレンジがいきなりうまくいくわけでは
ありませんし、無理やり押し切って始めたと周囲が感じていることは、
うまく進む確率も下がってしまいます。
そこで、各地に伺った際、「チャレンジ」というカタカナではなく、
「決めてみる・やってみる・ダメならやり直してみる」の
「3つの『てみる』」を大切にできる人を増やそう、とお伝えしています。
高齢化だけでなく、人口減少と小家族化まで同時に進行する日本は、
世界の課題先進国。これまでは農山漁村部で戦後75年かけて徐々に、
そしてこれからは都心部で加速度的に深刻化する課題に立ち向かうには、
「これまで通りで問題ない」「変える必要がない」という発想こそが
最大の問題です。そういった考え方の持ち主は、行政や政治家といった
特定のセクターにではなく、どこにでもいる、私たち自身です。
英経済誌「Economist」の昨年12月11日号は日本を特集し、
https://www.economist.com/special-report/2021-12-11
巻頭に「Adapting for the future: What the world can learn from
Japan: The country is not an outlier -it is a harbinger」と題した
記事を設けました。直訳すれば「未来に対応する:世界が日本から
学べること:外れ値(異常値)ではなく先駆け(前触れ)」。
最前線にあるという自覚を、チャレンジに結び付けるには、
形式的・手続き的な決議ではなく、「これまで」と「これから」は
どう違うかを見通し、仮説に基づく試行を通じて精度を高める、
という、リスクと、将来の価値への投資を引き受けながらの判断を
積み重ねるしかありません。
資本主義を進化するには、まず民主主義の深化から。
これからも、ひとつでも多くのコミュニティ(地域でも組織でも!)で、
持続可能性を高めるチャレンジを促すために、判断と試行を
積み重ねる人々を増やせるよう、微力を尽くし続けます。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。
昨年も、みなさまに大変お世話になりました。
より良い社会づくりのお手伝いを仕事にする立場のはずが、
むしろみなさまに、例年以上に助けられながら過ごした一年でした。
重ねて深くお礼申し上げます。
そして昨年は、感染症が顕わにした課題の深刻さを体感した年でも
ありました。重傷者への対応に追われるごく一部の医療機関、
自宅で待機させられている間に亡くなられた数百名もの方々、
もとより厳しい労働条件に加えて対策も求められながらケアを続けた介護施設、
事態の長期化に伴って静かに増え続ける生活困窮者。
そのすべての仮説や判断の遅れの原因となった内閣、
結果として対応に追われる基礎自治体行政。
文字通り史上空前規模の予算を用意しながら、
その効果が限定的だったのは、深く調べることもなく、
アイディアレベルで予算を付け、その執行は外注にまかせてきた
この10年間の「国の仕事の仕方」の劣化に大きな原因があると
言わざるを得ません(もちろん、委託先の手数料収入を増やすことが
目的だったのならば、それは十分に成功していますが)。
2020年から、ひとり親世帯をはじめとする困窮者・家族の
支援活動団体のお手伝いも、従来以上に積極的に行うように
してきました。そのくらしの厳しさは、想像や言葉に絶します。
他国とは異なり、「働いているのに生活が苦しい」という人の多さと、
その増えるスピードの速さ。原因は、最低賃金や労働分配率の低さだけ
でなく、労働者派遣事業者の利益率の高さや、技能実習制度など、
さまざまな要素の積み重なりにあります。しかし、どんなに複雑でも、
基本的人権を損ね続けている、これらの制度や、その背景にある慣行
・文化までを、上書きしていかなければ、働いている人々が安心して
くらし続けることができない。ゆえに将来に希望も、地域や他者への
信頼も抱くことができない。それが、都心部だけでなく農山漁村部でも
進み続ける「小家族化」、実質的には独居化と並行することで、
「孤立」というさらに深刻な課題を生んでいく、という、課題の連鎖を
止められません。
これまでも日本は、どんなにすばらしい技術や製品・サービスのタネを
開発しても、消費者と行政が過剰なまでの安全の保証を求め、
結果として市場化に失敗し続けてきました。検査の偽装が発覚しても、
「安全には問題ない」と悪びれずに言い切る会社が相次ぐ背景にも、
「過剰品質」という言葉が当たり前に使われるほどの手間やコストが
求められてきたという意識があるのでしょう。
この「問題ない」という感覚は、相手の気持ちを共有することなく、
自分の判断を相手に押し付けるものであり、安心という関係を損ねます。
同様に、高齢化と人口減少に加えて、小家族化が進みつつある中での
くらしや、それを支える地域づくりにおいても、「これまで通りで
問題ない」「変える必要がない」という人々が、まだまだたくさんいます。
しかし、ごくわずかながら、上書きの成果を生みつつある地域も
出てきました。昨年11月末に発表された国勢調査(まだ一部ですが)
をもとに、2010年から2020年にかけて、30歳台と40歳台の
残存率(ここでは2010年の30歳から49歳までと、2020年の
40歳から59歳までの数を比較した増減率)の上位200市区町村を
見ると、大都市やその近郊、離島振興などの理由がある場所だけでなく、
「若者のチャレンジ」を積極的に受け入れ続けてきた自治体も含まれて
いることがわかります。
もちろん、すべてのチャレンジがいきなりうまくいくわけでは
ありませんし、無理やり押し切って始めたと周囲が感じていることは、
うまく進む確率も下がってしまいます。
そこで、各地に伺った際、「チャレンジ」というカタカナではなく、
「決めてみる・やってみる・ダメならやり直してみる」の
「3つの『てみる』」を大切にできる人を増やそう、とお伝えしています。
高齢化だけでなく、人口減少と小家族化まで同時に進行する日本は、
世界の課題先進国。これまでは農山漁村部で戦後75年かけて徐々に、
そしてこれからは都心部で加速度的に深刻化する課題に立ち向かうには、
「これまで通りで問題ない」「変える必要がない」という発想こそが
最大の問題です。そういった考え方の持ち主は、行政や政治家といった
特定のセクターにではなく、どこにでもいる、私たち自身です。
英経済誌「Economist」の昨年12月11日号は日本を特集し、
https://www.economist.com/special-report/2021-12-11
巻頭に「Adapting for the future: What the world can learn from
Japan: The country is not an outlier -it is a harbinger」と題した
記事を設けました。直訳すれば「未来に対応する:世界が日本から
学べること:外れ値(異常値)ではなく先駆け(前触れ)」。
最前線にあるという自覚を、チャレンジに結び付けるには、
形式的・手続き的な決議ではなく、「これまで」と「これから」は
どう違うかを見通し、仮説に基づく試行を通じて精度を高める、
という、リスクと、将来の価値への投資を引き受けながらの判断を
積み重ねるしかありません。
資本主義を進化するには、まず民主主義の深化から。
これからも、ひとつでも多くのコミュニティ(地域でも組織でも!)で、
持続可能性を高めるチャレンジを促すために、判断と試行を
積み重ねる人々を増やせるよう、微力を尽くし続けます。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。