謹んで新年のお慶びを申し上げます。
みなさまには、昨年も私どもに貴重な機会を与えていただきましたことに、
深くお礼申し上げます。
人類が世代を超えて積み重ねてきた民主主義が、世界各地で脅かされたことで、
今年を含む数年間は、その結果を引きずり続けることになります。
情報通信技術(ICT)の進化により、スマートフォンとSNSが
膨大な情報へのアクセスを可能にした結果、社会は動かされやすくなりました。
もはや人々にとって、情報の格差は問題ではなく、
判断の格差、そして、その判断による負の影響の受けやすさの格差が、
深刻であることを意味します。
意図的な誤った情報を「ネットで知った真実」と信じて判断した投票結果が、
自らを利するどころか、より厳しい状況へと導いてしまうことも、
一方で、状況が厳しくなっているのに、それを知らせる情報もあるのに、
目や耳を、そして心も閉ざして「今までのまま、ずっとこのままがいい」と
判断せず、判断と対応をしなかったことによる負の影響を
自らも周囲も受け、状況がさらに厳しくなっていく、ということも、
同時に進んでいます。
特定の個人と多くの匿名の人々によって「つくりだされた社会の不安」で、
人々のくらしが不安定になってしまう。
これは従来から呼ばれてきた「保守化」や「リテラシー向上の必要性」といった
問題ではなく、判断力と「試行」(「思考」ではなく)力が下がってしまっている
という問題であると、捉え直す必要があります。
島根県雲南市をはじめとする住民自治力の豊かな地域に共通するのは、
「決めてみる・やってみる・ダメならやり直してみる」という3つの「てみる」を
実践し続けるチャレンジ精神を持ち続ける人々が、世代を超えて存在すること。
判断力と「試行」力が求められる今こそ、3つの「てみる」が重要かつ有効で
あるとともに、それを下支えする力、具体的には、
「これまで」の経過を踏まえて「これから」の見通しを示し「てみせる」、
ある地域での工夫や努力を、他の地域の状況や環境に即してその場で試し「てみせる」、
地域の人々が抱く課題や不安、そして理解し試行したことを
それぞれの飾らない言葉で伝え「てみせる」の、3つの「てみせる」が、
私たち支援者に求められていると、改めて強く感じます。
冒頭でも述べた通り、これから数年間は、昨年までの判断の結果に引きずられます。
しかし、どんなに関税を高めても、自国の製品・サービスの質が高まることを促しません。
どんなに減税を進めても、それはたくさん稼いでいる人の資産をさらに増やすだけで、
所得が少なく、日々の生計に困り、未来にも大きな不安を抱いている人々の
くらしを支えることはできません。
先進国と呼ばれる各国が成長率を高めたのは、植民地政策など他国から収奪した時か、
中間層が生活の豊かさを実感していた時か、そのいずれか。
企業の稼ぐ力を強くするだけでなく、労働分配率をしっかり高め、
困窮や不安を少しでも解消できるよう、社会保障を積み上げる。
家族が小さくなり、終身雇用でなくなりつつある現代では、
医療や介護だけでなく、教育や居住も、社会保障の基礎に改めて位置付ける必要があります。
ただ、高齢者率が世界で最も高く、しかも民間資産の大半を高齢者が保有している
日本では、高齢者の社会保障費負担を高めることは、避けて通れません。
地方創生も、日本経済の再生も、世界に広がってしまいつつある保護主義からの脱却も、
3つの「てみる」と「てみせる」は、重要で有効だと確信しています。
大きな経済も、小さな経済の集積であり、また、国家行政の存在理由は、再分配の
最適化にこそあるからです。
微力は無力ではない。決して精神論ではなく、物理学でもそうです。
その力を、持続可能な地域と世界のために。