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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2023年8月「言語学のロードトリップ(続き)」鈴木美彩(18期生) 生活記録[2023年09月08日(Fri)]
2023年8月 第18期生 鈴木美彩 生活記録
言語学のロードトリップ


言語学のロードトリップB ~SALT会議での困難~

このロードトリップ最大の目的であるSALT会議はアメリカ言語学会の協賛のもと年に一度行われていて、第16回は東京で行われるなど規模の大きさが窺える会議です。春学期の終わりが近づく頃、私とボニーは参加登録をオンライン上で済ませました。最後の欄に「アメリカ手話通訳を希望する方はこのチェックボックス」にとあったのでさすがアメリカと感動しました。言語学の中でも意味論に特化したこの会議はかなり専門性が高く、アメリカといえど通訳の用意は大変な仕事です。それでもアメリカ手話の通訳が選択肢にあるのは素晴らしいことです。すっかりあぐらをかいていた私でしたが、ボニーは通訳者の経験上、通訳を用意しますと言っていても、専門外な通訳者が派遣されたり、一部だけへの派遣だったりするから、念の為に問い合わせた方がいいと助言してくれました。そこでメールを送ってみましたが、返信がありません。これは雲行きが怪しくなったぞと思いつつ、ちょうど学期末で忙しさのピークを迎えていたので、課題に追われて時間も過ぎていきました。そして直前になって返信が来ました。その内容は明らかに通訳の申請に対する動揺でした。いつ参加登録をしたか、通訳は全日希望するか、という質問が並べられていて心配になりました。しかし、私たちはすでに出発していてコネチカットに滞在中でした。会議には最終日を除いて全日参加の予定だったので、基本的には全てのプログラムに参加したいと伝えると、通訳の費用が用意できていないのでギャロデット大学側で負担できるかと、これまた衝撃的な返信が返ってきました。参加登録には大学も記入するので、当てにできると思われたのでしょう。参加登録の時、通訳申請の締切が明示されていなかったのが気になっていましたが、形だけの処置だったのはかなりショックでした。それを言語学部の先生に相談すると、「オーマイガーなんてこと!!そんなのありえない!」と先生方も驚いていました。開催に関わっていないギャロデットから資金を出すのはナンセンスと言いつつ、私たち学生のためになんとかしようと言語学部内の学生への支援制度が使えないか模索してくださいました。その間に私はSALT会議の責任者と通訳についてあーだこーだとメールでやりとりを続けていました。会議の開催も目前で運営に追われている中の対応だったので運営側も大変だったのは想像するに難くありません。イェール大学近くのホテルに到着すると、イェール大学で教えているろうの先生、ジュリア・シルブストリ先生からメールが届いていました。「通訳を必要としていると聞きました。私が力になりますので詳細を教えてください。とりあえず明日の朝の分はオンラインになってしまうけど確保できました。」とこの波乱の中とてもありがたい助け舟でした。その後、三日間手厚くお世話していただいて、SALT会議に参加することができました。正確には3日目は母の日ということもあり、通訳者がつかまらず、最初の1日と2日目の午後からのみでしたが、ないよりはずっとましです。シルブストリ先生も一緒に会議に参加し、意味論の様々な発表を拝聴しました。生成文法はギャロデットで学んでいましたが、生成文法から見た意味論はより複雑で特有の記号も用いたりと私にとってはまさに異世界でした。アメリカの地でも学術レベルのこう言った会議には情報アクセスが行き届かないものなんだと経験を通して学びました。今回は直前ということもあり、専門外だがなんとか通訳してみます!という通訳者もいました。中には自分には不適任と断る人もいたと思います。専門性のある人でないと内容に適った通訳が難しいですが、時間のない中きていただいただけでもありがたいです。これは今後の課題として他の学生とも議論して改善に努める必要があります。改めて、突然のトラブルにもかかわらず多大なサポートをしてくださったシルブストリ先生を初め、通訳者やイェール大学のろうの先生方に感謝申し上げます。もちろん、一緒に行ってくれた同期のボニーに対しても感謝の気持ちでいっぱいです。
Posted by 鈴木 at 10:20 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年8月生活記録【第18期生 田村誠志】[2023年09月04日(Mon)]
皆様、おはようございます、こんにちは、こんばんは。

8月に入り、VA, DCのエリアは猛暑になってきましたが私の場合、暑さも寒さも京都育ちのせいなのか慣れているので問題なく過ごせております。しかし熱中症には気をつけなければいけませんので、水分補給はこまめにとっております。日本も熱中症の注意喚起は頻繁に行われていると思われますが、みなさまもお気をつけてください。

漸くGallaudet大学も秋学期に入りました。秋学期になりたくさんの友人たちが寮やapartmentに戻ってきて夏休みの近況などをたくさん語り合ったりして日を過ごすことがざらですね。新入生も入ってきており、いくつか見かけない顔の学生が多くいます。
Gallaudet大学の8月の最初の週は、新入生を迎えるためのオリエンテーションやら、ウェルカムバックと名の食事会やらで学部生も院生もスタッフも先生もみんな移動だらけで大変そうでした。私はというと、一年前の大学院生のオリエンテーションを思い出しながら、コーヒーを飲んでクラス履修の準備をしていました。本記事は今学期のクラス履修について説明します。

まずは必修科目ですが、LIN 571 Field Methodsという講義です。こちらは言語学生がこれまでの言語学の知識を身につけた上で倫理観、フィールドワークの手引き、言語の枠割りに焦点を当てる研究プロジェクトの重要な基礎知識、またこれまで学んだ音韻論や生成文法、認知言語学だけでなく形態学や構文、人類学や社会言語学などの焦点に当てる事もできる重要な講義です。アメリカでは昔、白人の英語の言葉を話せという風潮が多く、社会的差異によって引き起こされた他民族言語の存続危機にさらされていました。もちろん当時は、我々の言語を尊重しないということの批判的な憤りがあったと思います(国家、民族、人種、ジェンダー、セクシュアリティ、その他)。私たちは何を目的として、彼らの倫理を尊重し、彼らの文化を理解しながら、彼らの生活の一部や言語を、学んだり研究したりするのかという心構えをこの講義を通して実技を行うのです。毎年、ASLや他の国の手話言語を対象としていましたが、昨年や昨昨年ではCOVIDが起きてからはZoomなどで講義を行なっておりました。今年は対面式で研究を行えるそうです。

次からは選択科目になります。まずはまとめて二つの講義について説明します。LIN 595 G01・G02 Special Topics:Corpus LinguisticsとData Management になります。この二つの講義はどちらとも上記で説明したField Methodsの内容と密接しております。
Corpus Linguisticsではコーパスについては何かを学ぶこと、そしてそのコーパスを行う際に使用するツールを使って学ぶことになります。主に使用するのはELANとなり、前学期ではPhonology Uで手話言語学の音韻分析を学ぶときに使用したツールです。そもそもコーパスとは何かというと機械やパソコンが検索、読み取り可能であるコレクションデータのことですね。この講義はGallaudet大学が所有している手話動画のデータを使用して手話動画のコーパス作成に取り組むことになります。
Data Managementについての講義はフィールドワークに不可欠なスキル習得、実践すること、機材のセットアップ、エリシテーションの実践、倫理への配慮、デジタルの整理、書き起こし、分析、共有などを学びます。特に共有は何のために共有するのか、対象者の人権やデータの流出を防ぐなどとても重要な問題あるため、信頼・安全を約束できるように配慮しなければいけません。また言語使用者についてのリテラシー、育った背景もそれぞれが異なる事もあり、メタデータの内容もしっかりと事細かく整理しなければいけないこともしばしばあります。その注意を心に留め実技も学びます。

最後に私は最近手話通訳士としての勉強に興味を持ち、手話通訳教育プログラム: INT501: UG01-INT501.G01 ASL and English Translation: Skills Developmentを受講することに決めました。こちらの講義は、手話通訳士が話し手の内容をどのように聾者に通訳できるのか実技を兼ねて学んでいく内容となります。話し手の言葉の意図は、複雑な意味で構成されており手話通訳士はその意図を読み取る技術と表現する技術が必要となりますが、これが大変面白いのが言語学の知識と密接している部分がありました。それは認知言語学による経験からの概念化によって手話を表現されるdepictive、また話し手の文脈から正しい意図を理解する語用論の考え方に通じているということです。これを機会に自分の手話言語についてのスキルをもっと学ぶことができる機会だと思って履修しました。

現在、コースを4つも取得しており、加えて4,5も仕事がある状況の秋学期です。正直言うとこの秋学期に履修できる選択講義の認知言語学Vも取得したかったのですが、ちょっとスケジュールが厳しいと思い、今回は見送りました...本当に受講したかったですね...。

さて長々とGallaudetの秋学期に向けての状況を報告してしまいましたが、プライベートでも楽しく友人と食事に出かけたり、私の家に招いたりと充実なひと時を過ごしせています。次回は機会があれば友人と楽しく話している内容でも書いてみたいですね。

みなさまもまだまだ残暑が続く暑さに負けずに、楽しく過ごしましょう。
下の写真はARTECHOUSE DCと呼ばれる植物のホログラムミュージアムの一部です。とても幻想的な世界でした。
IMG_3882.JPG
Posted by 田村 at 04:25 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年8月「8月は家探し」金本小夜(19期生)[2023年09月04日(Mon)]
みなさんこんにちは。
日本はまだ残暑が厳しい頃でしょうか?
私は8月半ばなのにも関わらず、図書館での勉強が寒すぎてとうとう湯たんぽを購入して、それをお腹に置きながら勉強していました(イギリスにも湯たんぽがあるのです!Hot water bottleとかHottyとかいう名前で売られています。)

さて、8月の私の生活記録ですが、実は恥ずかしながら勉強よりも家探しに時間を費やす羽目になりました。
今住んでいる大学寮の契約が9月8日に切れるのですが、現在イギリスはどの大学も学生数に対して寮の数が足りないらしく、契約が切れた後は大学寮を出て自分で民間の住まいを探す必要があり、これがもう、本当に大変だったのです…。

日本だと大家さんたちが不動産会社に登録して、家を探す私たちの側は不動産会社に連絡して、不動産が整理してくれた物件を選んで内見、前の人の退去日や、こちらが入居する日は、不動産会社がきっちり管理してくれる、大変安心できるシステムが出来上がっています。ですがイギリスは個人が貸し出していることもあれば、企業が建物を買い取って管理していることもあり、無料のネットサービスを仲介することは大体同じですが、どのような管理体制なのか、いつどこに連絡してどんな手順を踏むのか、共通の決まり事があまりありません。今回はメールのやり取り50通以上、内見は20軒にも及んだ8月の家探し苦労エピソードをご紹介します。

失敗ケースその@治安や景観
リーズはヨークシャー地方の中心部にあるため、比較的どこへもアクセスが良好、しかも元々工業で発展した街という背景もあって当時労働者たちが住んでいた家がそのまま残っており、物件数が多く家賃が安い、という魅力があります。ですがその安さと利便性のために今でも労働者階級も多く住んでおり、家賃が手頃な地域は治安がちょっと…というマイナスの面も。実際、リーズの都心部はロンドンも含めたイングランドの中で治安の悪さ第3位という不名誉なランキングに載っています。駅から離れた地域は治安がいいのですが、基本的に車を持ったお金持ちの人を想定しているエリアなので、大学や駅から徒歩1時間かかってしまったり。(東京でも、景観がいい二子玉川や吉祥寺なんかはアクセスがそんなに良くないのに人気エリアですよね。そんなイメージでしょうか)
私は初めのうち、学生向け物件が多い安いエリアを中心に見て回ったのですが、落書きだらけの崩れた塀や、粗大ゴミが打ち捨てられた庭があちこちにあり、下水の悪臭に混じって、薄暗い通りの奥から麻薬の臭いが漏れ、時折割れた窓の奥からじっと私を見つめるあまり裕福ではなさそうなお年寄りの視線を感じる中歩く羽目になった時にはさすがに怖いな、と感じました。内見した物件の大家さんたちも「夜20時以降女性一人で歩くのはやめた方がいい」と口を揃えて言うので早々に安いエリアは諦めることに…。

産業革命(18-19世紀)の頃、工場で働く労働者階級の人たちが住んでいた家が今でも多く残っています。丈夫で効率的な造りです。
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失敗ケースそのA同居人
これは日本とは違う、イギリスならではの話ですが、イギリスは石造りの建物が多く、地震や台風もないので、築100年の建物がざらにあります。みんなだいたいそれを改築して住んでいるのですが、一人ではとても費用的に家を維持できないので、一つの家を複数人でシェアしていることが多いです。シェアが前提なので、すでに住んでいる人たちとうまく行くかどうかは大きな問題です。
広告に丁寧に条件を書いてくれている家もあり、男性希望、女性希望、というシンプルなものもあれば、ベジタリアン限定、イスラム教の女性限定、など随分詳細が決まっている家もあります。
内見した家の一つは、アクセスや部屋の設備といった条件はよかったのですが、他のハウスメイトが全員、鳶職の筋骨隆々の男性たち3人、というところがありました。台所にはプロテインの大瓶が数種類、ダンベルがまるでインテリアのようにあちこちに置かれており、いやこれはさすがに気が休まらない、と辞退することに…。

新しいお家の内見に向かう時は基本GoogleMap頼り。イギリスで使うと、この道は本当に正規の道なのか…?と疑いたくなるような道をよく歩かされます…
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失敗ケースそのB衛生観念
コモンズの悲劇、という経済観念があります。人は共有地では乱獲を行ってその土地をダメにしてしまう、という考えですが、つまり人間は人数が多くなればなるほど、匿名性が高くなればなるほど、共有の場所の管理をちゃんとしなくなるのです。特に学生向けのシェアハウス、あるいは学生向けでなくても5人以上のそこそこ大人数のシェアハウスの内見はいくつか行きましたが、リビングは共同の物置状態、洗ってない食器や作りかけの料理が台所に積み上がってハエが飛び回り、風呂場に至っては貴方たちは浴槽でカビの培養でもしてるんですか?という家に複数行き当たり、大人数のシェアをする物件は私には無理だ…と実感しました。
もちろんイギリス人が全員掃除ができないわけではなく、物件広告を見ていると、間違いなく綺麗好きだと自負できる人!自分の家のように掃除をしてくれる人!という条件を掲げたものがいくつもありました。でも綺麗な家は応募者が殺到するのでなかなか留学生の私にまでおはちが回ってくることは少なく、難儀しました…。

失敗ケースそのC入居日
イギリスではchain(鎖)と呼ばれる不動産の現象が存在します。どういうことかというと、私が希望する家には前の人(Aさんとします)がまだ住んでいます。そのAさんが引越す予定があるから、広告が出るわけです。そしてAさんが希望している引越し先にもまたどこかへ引越しをしようとしているBさんがいます。そしてその先にはCさんがまた引越す準備をしているのです。ですが何らかの理由により、Cさんの引越しがダメになったとすると、Cさんだけでなく、Bさんも、Aさんも、私も、全員の引越しの予定がおじゃんになる、これがChainです。
イギリス在住の友達に聞くと、まあまあ起こる現象だそうで、そのためか引越しの予定が間違いない、という状態になるまで募集を出さない家も多く、「入居して欲しい日:即日」と書かれた広告が少なくありません。初めのうち、まさか本当に即日なわけないだろう、と思って連絡した家は、「OK!じゃ明日から入れる?」と言われ「えっと…1ヶ月先に入ろうと思ってまして…」と返事をすると「せめて3日後でないとうちも困るんだ、悪いね」と断られた家がありました。イギリスの人、そんなギリギリで家を探すの、怖くないんでしょうか…。

番「猫」ちゃんたちが多いリーズ笑
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成功ケース
さて、退寮日まで1週間となった昨日のこと、ヨーク大学で仲良くしていた友人が「知人で部屋が余ってるって人がいるんだけど…」と連絡をくれました。正直気持ちとしてはもう地獄に仏、場所は隣町のヨークとなりましたが、素敵なお宅で、駅も図書館も近く、ようやく家を決めることができました!
決まった今となっては妥協しなくてよかった、と思う反面、1週間前にこれから2年以上住む可能性のある家を決めるなど、どう考えても正気の沙汰ではなく、本当にギリギリだったな、と改めて思い返しています。
もちろん、お金を出せばキッチン風呂トイレ付きのマンションもあるのですが、そういう家は日本円にして20万円近くしちゃうので、いつかお金持ちになったら検討したいと思います笑
Posted by 金本 at 01:06 | 奨学生生活記録 | この記事のURL