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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2021年5月生活記録【第16期生 大西啓人】[2021年06月08日(Tue)]


※手話内容はブログ記事と同様です。
※日本語字幕はついていません。

みなさんこんにちは。
私は今、今月から夏学期が始まり、7月までクラスをとっている仲間たちと一緒に学んでいます。アメリカでは、夏に約3ヶ月の休暇(5月中旬~8月下旬)があります。どう過ごすかは人によって異なり、仕事またはバイト、旅行、夏学期の授業など様々だそうです。3ヶ月以上も休暇があるので、どう過ごすか悩みますね…!もしあなたならどう過ごしますか?
本来は旅行したいところですが、現在コロナウイルスの猛威や変異株のこともあり、ワクチン接種を完了してても安心できないので旅行計画は組んでいません…(トホホ…)
最近は友達やクラスメートとZoomでの交流を行っているくらいです…笑 今後の状況によりますが、もっと友達と交流したり、旅行したりできることを祈ります。

夏休みが始まり、英語教材リテラシー教育バイリンガル教育に関する様々なテーマで学術論文を読む時間が前より増えました。そこで「教育メディア」について興味深い論文があったので、今回紹介します。

教育メディアはろう教育において、視覚的に内容を理解できることから、ろう児の言語と識字能力の発達を促進するためのツールとして活用されています。実際に研究のために使われた教育メディアはこちらです。






もっと詳しく掘り下げていきましょう!
ここで使用する「教育メディア」は、就学前のろう児向けにろう文化や単語習得、ロールモデルを含め、家での学びが可能になるために構築されたASLを用いたビデオを指します。この教育メディアを通してどのようにろう児の識字能力を発達するかに重点を置いています。就学前のろう児向けなので簡単なASLと単語学習になっていますが、非常に重要なポイントがいくつかあります。今から紹介するポイントはろう児への教育「戦略」として有効であり、教育メディアだけではなく授業方法にも取り入れることができるでしょう!

ろう児向けにASLで開発された教育メディア
ビデオはろう学習者の言語(例:ASL)ろう者に効果的な視覚的コミュニケーション(例:写真、プリント、身振り)視覚的戦略を含めた文化(例:ろう)に基づいています。ろう児のニーズに合わせていることからろう児にとって身近に感じられて、親近感を生じさせることができます。こういった要素はろう児たちの学習意欲の維持に効果的なのです。

多様な表現方法(multiple modes)
このビデオは、コミュニケーションの様々な方法が組み込まれており、複数の方法の間につながりがうまれ、理解を促すように考えられています。例えば新しい単語の意味を登場人物によって、身振りや顔の表情によって示されたり、写真や画面で表示されたり、手話で説明されたりします。同じ情報を1つの方法に依存するのではなく、複数の表現方法を使用した方が理解促進に有益です。

リテラシー思考(literate thought)
上であげた「多様な表現方法」はろう児の学習意欲を促進したり、理解力にも影響を与えたりできると考えてられていますが、それだけではなく、「リテラシー思考」を開発することもできます。リテラシー思考とは、視覚的に表現された文脈化されていない情報を文字として理解するための思考を指します。つまり実際に読み書きしていない状況(図や絵、手話など文字として表現されていないこと)の中で、文字をまだ獲得していないろう児は視覚的にインプットすることで意味/概念を理解します。このリテラシー思考に基づき、文字を認識することができます。このビデオは文脈化されていない状況の中でリテラシー思考を使用して、多くの意味/概念を正確に構築できることが重要としています。つまりろう児はビデオでの手話や絵などの視覚的情報を基にリテラシー思考を使用して、頭の中で読み書きにおける学習が多く展開されているということです。

指導技術(face-to-face strategies)
絵本読み聞かせやろう学校の授業で使われている指導技術はろう児の言語や識字能力の向上に効果的といわれています。この技術がビデオにも使用されています。バイリンガル教育でとりあげられている「サンドイッチ法(sandwiching)」や「チェイン法(chaining)」をこのビデオ内に組み込まれています。教育メディアに本来対面で使用されるはずの技術を取り入れることで、どこでもいつでもネット上で手話によって語彙と意味/概念をつなげて学習することができ、識字能力の向上に効果的です。

※サンドイッチ法やチェイン法についてはこちら



今回の研究は、教育メディアが特定の言語(ここではASL)や識字能力の向上にどれくらい影響を与えることができるかを調査することが目的だったため、この教育メディアは教育ツールとして実用化されていません。研究では、実際に上に紹介した3つのビデオを通して、手話レベルで分けたグループそれぞれに語彙認識スコア内容理解スコアをテストしながら影響力を調査しました。そこには、ろう児たちに事前評価と事後評価を行い、事後評価における成績が事前のものより高く向上できたと結果が出ています。これだけではなく、手話レベルで分けてそれぞれ調査した結果、手話レベルに問わずASLを用いたビデオを通して、語彙認識、内容理解の両方とも向上できたとなっています。ただこれはビデオを使用して、その前後を調査したため、ビデオを使用していない場合との比較はされておらず、正確性が欠けているため、教育メディアの必要性はまだはっきりされていません。

でも私はこの教育メディアを実用化し、英語教育にも使用できると考えます。まず教育メディアの重要性に対して、手話やろう文化などの背景が含まれている、理解促進のための複数の表現方法があるだけではなく、学習意欲の維持に効果的学校や家庭でもどこでも学習できるろう児の注意を引くことができる、といった要素がろう児の言語能力、識字能力の発達に不可欠です。そう思う理由は私が小さいときから絵本読み聞かせが大好きで、当時のろう学校から絵本読み聞かせを記録したビデオが配られたので 購入して、家で内容や手話表現を覚えてしまうほど繰り返して視聴していた経験があるからです。今思えば、視聴していなければ、言語能力や識字能力が発達できていなかったかもしれません。この視聴していたビデオは教育メディアとして役割を果たしており、他にも繰り返し視聴できる教師がビデオを止めて解説、議論する機会を作ることができる点も魅力なため、効果は高いと考えます。
次にろう生徒(小学校高学年~中高生)における英語教育にも割り当てられるのではないかと仮説します。上記で説明した内容は第一言語の獲得における就学前のろう児向けでした。しかし第二言語としての英語を教えるためにも活用できるのではないでしょうか。確信はなく、効果があるかどうかわからないため、「仮説」になりますが、私の意見として、上記のようにASLを使うのではなく、日本手話で英語を学ぶことができる教育メディアがあれば、第二言語(第三言語)としての英語力の発達にも貢献できると思っています。複数の表現方法によって英語を理解し、リテラシー思考をもとに語彙認識や内容理解を繰り返して、手法技術によるインプットとアウトプットを繰り返すことで英語力を伸ばすことができます。就学前のろう児における言語獲得と中高生のろう生徒における第二言語習得では結果が異なると思いますが、試してみる価値はありそうです。

また、この教材メディアは「ロールモデル」という役割を果たしており、ろう児のための社会的モデルとして示すことができそうです。このように多くの仮説、理論や結果など論文を通してつながりを見つけながら、自分の中で新しい仮説や視点を組み立てながら読むことは英語で大変ですが、とても楽しく充実しています。またこれからもまた何か見つけましたら、その都度発信していきたいので引き続き、応援よろしくお願いしますひらめき

第16期生 大西

【Reference】
Debbie B. Golos&Annie M. Moses(2013). Developing preschool deaf children’s language and literacy learning from an educational media series. American Annals of the Deaf 158(4), 411-25. https://www.jstor.org/stable/26234911?seq=1

Debbie Golos, & Annie Moses(2014, February 18). Peter's picture: An educational video series in ASL. https://peterspicture.com

FSDB LearningNetwork(2018, August 23). Chaining/Sandwiching strategy. Youtube. https://www.youtube.com/watch?v=eJ46YjA5gCw
Posted by 大西 at 03:04 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2021年5月生活記録【第16期生 皆川愛】[2021年06月07日(Mon)]
この留学ブログに綴るの生活記録となりました。

カチンコ動画はこちら


卒業式修了のご報告
5月14日付けをもって、ギャロデット大学大学院ろう者学修士課程を修了することができました。
また、ギャロデット大学から大学院最優秀学生賞(Graduate student outstanding achievement award)
更にろう者学部からもジョージ・ヴィディッツ賞(George Veditz award)を頂きました。
*各賞をクリックすると受賞の説明に飛びます(アメリカ手話と英語)パソコン

これもひとえに、日本財団をはじめとし、日本ASL協会、家族、友人、
そしてこの生活記録を通して応援してくださった皆様のご支援によるものです。お礼申し上げます。

パンデミックの情勢により、卒業式はオンラインでの実施となりました。
そこで、有志にてフーディング(hooding)と呼ばれる黒のガウンの上に首元にフードをかけていただく、日本でいう学位授与式を行っていただきました。
ささやかなものでしたが、院生活、そして米国生活が走馬灯のように思い出され、忘れられないものになりましたうま
IMG_8846.JPG

(有志によるフーディング、ギャロデット大学の先生と日本人学生とで)

We also have the Graduate Student.png

(学部内でのzoomお祝い会では受賞にスポットライトを当てていただきました)

最後の生活記録では、
・留学で得たもの
・私にとってのギャローデット大学
について書きたいと思います。
あくまでも私目線です。

かわいい留学で得たもの
私が留学生活で得たものは知識や技術はもちろん、大きな糧になったのは「脈」でした。

クシャルナガル先生(Dr. Poorna Kushalnagar)がセンター長を務めるろう健康研究センター(Center for Deaf Health Equity)での院生助手としての経験は、
ろうの医療や健康問題に取り組む研究と実践を直に学ぶ大変貴重な機会となりました。
そして彼女は私の人生の中で、ろう者として、女性として、研究者として、遠のロールモデルです。
先生とは米国内での活動にとどまらず、世界ろう者会議の場で一緒に発表させていただき、
また国立がんセンターの研究班にて招致講演ができたこともこの上ない光栄でした。

デフゲインを提唱されたバウマン先生(Dr. H-Dirksen Bauman)、今後のろう者学を引っ張っていかれるモリアーティ先生(Dr. Erin Moriarty Harrelson)の元で、ろう者学を学べたことも大変幸運でした。
バウマン先生には、ろう者への看護に関する教育において何が必要なのか、
それは単に手話を覚えたり、マニュアルを身につけたりすることではなく、
個々人が抱く「ろう」の意味を見つめ、そして変えていくことなのだと教えていただきました。

モリアーティ先生には、言語イデオロギーを紐解くことの難しさ、面白さを教えていただきました。社会の中にある行動や信念、価値観は、イデオロギーに基づいています。言語もそうです。
Congratulations!.png

(修論の口頭試問: Defence にて、左上ダークセンバウマン先生、右上モリアーティ先生、左下がクシャルナガル先生、右下がストーカー先生)

このように、人生において、ろう者として、学術分野での活動者として、ろうコミュニティのアドボケーターとして、
沢山のロールモデルに出会い、今後にとって心強い人脈を得ることができました。
日本に帰国しても、人との繋がりは切れないものです。

留学生活では、言語の壁、様々な”ism”(差別)と、日本では経験しなかったような困難にも出くわしました。
日本での経験やキャリアを失うことの不安もありました。
それでも、得たものの方が多かったですし、留学して良かったと心から言えます。

ビル私にとってのギャロデット大学
5つの観点を箇条書きにします。

1. リベラルアーツに根ざした教育
ギャロデット大学は世界でも唯一のろう者のためのリベラルアーツに基づく大学だというフレーズをしばしば目にしますが、これは間違いありません。
リベラルアーツは幅広い学問に触れ、世界を変えるためのヒントを提示してくれます。
特に私が2年間没頭したろう者学は多学際的でした。歴史、哲学、社会学、倫理学、法学などの分野を網羅します。そうしないと、社会の構造は見えてきません。
以下の図は生活記録でも何度か出してきました。「ろう」の概念は無限大です。それを無限大にするのはリベラルアーツだと思っています。
次に、「一本のペットボトルの水」から何を思い浮かべるでしょうか。
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人間が生きるために必要なもの、ありとあらゆる生態系を維持するもの、
世界には飲水へのアクセスに格差があることなど、、一つの物事から何が想像できるか、何が見えるか。
リベラルアーツはこの引き出しを増やすのに大きく役立ちました。
社会を変えたいなら、自分の専門分野に関係なく、リベラルアーツはきっと役に立ちます。

2. 手話によるフルアクセスと卓越したメンター
言わずもがなですが、手話で不自由なく学術的な議論ができ、ご指導を頂き、共に研究ができるということは当たり前のようで、私とっては大変貴重でした。
ろうや手話のことを1から説明しなくてもいいこともありがたいものでした。むしろそれを上回る視点や意見をくれました。
ギャロデット大学が150年以上の歴史をかけて築いた学術スペースとリソースは格別でした。

3. 少人数・参加型授業
ギャロデット大学は基本的に少人数の参加型の授業です。
授業ではグループワーク、ディスカッション、プレゼンテーションを繰り返しでした。
そのおかげで筋道を立てて、ともに学び合い、違いに気づき、新たな自分を発見電球、その上で伝える力が身に付けられたと思います。

4. 世界とつながる
アメリカ手話と英語のバイリンガル教育によって、語学力を伸ばせます。
この語学力は新しい世界へのドアを開く大きな武器になります。
学会や会議に参加する後押しをしてくれます。そこで世界中の学者、アドボケーターとの縁を掴むこともできます。

5. 自己洞察
ギャロデット大学は、ある意味USAアメリカ社会の縮図とも言えます。
多様な背景を持つ者が者集まります。肌の色、国籍、ジェンダー、障害、出身地、家庭、卒業校なども様々です。
その中でどうしても誰かが特権(Privilege)を持ち、その力関係の中で、そして抑圧(Oppression)が生まれます。
この文脈で、特権とは労なくして得られる優位性です。
米国では白人が白人というだけで、特権を持つと言われています。それを裏付ける例として、黒人の大卒の人よりも、白人の高卒の人の方が寿命が長いのです。
肌の色は変えられません、これが社会の不平等です。
言語獲得に関しても、乳児期から手話の環境にあるか否かは大きく影響します。
特権と抑圧が表裏一体の場所で、思うことはたくさんありました。
私は日本で肌の色によって差別や抑圧を受けた経験がありません。
日本における私自身の特権、それがもたらすであろう抑圧にも向き合うことができました。
さらに、社会における力関係を洞察するきっかけになりました。それは留学しなければ一生気づかなかったことかもしれません。
picture.png

(第16期生の大西さんとギャロデットのランドマークにて)

大西さんとはこちらで初めて出会い、アトランタに旅行に行ったり、一緒にコロナの予防接種を受けたり、
ろうのイシューを話し合ったりと、とても濃い時間を過ごしました。
アプローチや専門は違うけれど、大西さんのろう教育にかける思いにたくさんの刺激を受けました。
ありがとう!

育てられることのありがたみを知った今、コミュニティへの還元をすること、
そして、これからの世代、特にろう者、女性たちの力になれるようになりたいと強く思っています。
それだけ自分がそう思える素晴らしい先生方、同僚、クラスメイトに出会えたからです。

英語で卒業式はcommencementといい、この単語は「まり」という意味を持ちます。
まさにここからが本当のスタートだと感じています。

最後になりますが、留学開始当初から多大なご支援をくださった日本財団、日本ASL協会、
特に細やかなサポートをしてくださった根本様、奨学生の先輩方と同期、家族、友人、
そして、応援してくださった全ての皆様に感謝いたします。

7月からろう健康研究センターで研究員(Research associate)として働かせていただくご縁に恵まれました。
奨学金をはじめ、様々なご縁や機会は私自身の特権とも言えるかもしれません。
これらの特権を抑圧を生む権力に使うのではなくエネルギーに変えて、これからも精進いたします。
日本でも看護大学の非常勤講師や国立がんセンターの研究員などを通して、
継続的にろうコミュニティとつながり、還元できる活動を続けて参りますので、
どうかこれからもよろしくお願いいたします。

16期奨学生 皆川 愛
Posted by 皆川 at 11:33 | 奨学生生活記録 | この記事のURL