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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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オンライン座談会”留学のススメ” 留学奨学生に聞いてみよう、開催[2021年03月26日(Fri)]
オンライン座談会”留学のススメ” 留学奨学生に聞いてみよう、開催

去る3月21日(日)、海外留学や留学奨学金事業をもっと知ってもらおうと、留学奨学生を招いてZoomを使ったオンライン座談会を実施しました。
前半は留学の経緯や留学先での生活、また事前に頂いていた質問に、後半は直接参加者からチャットで寄せられた質問、ASLの上達具合は?おすすめの英語学習方法は?留学先の住まいは?等に回答。
10分延長の正味1時間。短い時間ですが、海外留学の魅力、少しは伝わったでしょうか。

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進行役の武田理事・4期生(左上)、奨学生からは福島12期生(右上)と橋本13期生(中央下)

今回、進行役を担当した武田理事・4期生(下写真)、自身のボストン大学大学院留学当時の様子を織り交ぜながら進行。
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福島12期生は(下写真)、ギャロデット大学国際特別生プログラム修了。
1年間のプログラムで自分の学びたい科目を選択して学べる留学生のための特別なコース。学位取得を希望しない方や希望する学習内容の学部が設置されていない方等にはおススメ。
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橋本13期生(下写真)は、ギャロデット大学大学院教育学部を修了し、教育スペシャリストの学位を取得。英語学習で米国の先生に教えてもらって実践した方法。留学1年目時に、日常生活の中の買い物やニュース等の中で見た知らない単語を書き出しては横に日本語訳を書いては覚えていたというノートを紹介。
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参加してくださったみなさま、ありがとうございました
次回は、もう少しテーマを掘り下げて企画をしていく予定です。
お楽しみに!

*2021年度 第18期生 4月募集開始(予定)です*
2021年4月に日本財団からの助成が正式に決定後、事業実施が確定します。

事業担当:根本
Posted by 事業担当者 根本和江 at 15:06 | 事業担当者よりお知らせ | この記事のURL
第18期留学奨学生、4月以降に募集開始(予定)[2021年03月26日(Fri)]
第18期留学奨学生、4月以降の募集開始(予定)

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事業担当:根本
Posted by 事業担当者 根本和江 at 14:53 | 事業担当者よりお知らせ | この記事のURL
2021年2月生活記録【第16期生 皆川愛】[2021年03月08日(Mon)]
の蕾も膨らみ、春はもうすぐそこですね花見(さくら)
今月は手話の多様性と、言語イデオロギーについて考えてみます。

カチンコ動画はこちらより


スクリーンショット 0003-03-08 17.16.37.png


@言語イデオロギーとは
人はみんな個々の中に、言語に対する思いや信念を持っています。
「標準語や標準手話と呼ばれるものこそが真っ当な言葉だ」
「英語やアメリカ手話は世界的に影響のある言語だから覚えたい」といったふうにです。
そんなときは、"標準語ってどうやって決めるの?" "なぜ英語が世界で通用する言語という結論に至ったのか?"
を考えてみてほしいと思います。
言語にまつわる観念や思想が、特定の集団になんらかの利害関係を伴うとき
言語イデオロギーと言われるものになります。
それは政治的な利害関係が伴って、制度や文化の中で構成されます
さらに、それは実践としても現れます。

Aろう社会を取り巻く言語イデオロギーの例
例えば、1880年のミラノ会議(第二回国際ろう教育者会議)では、
「手話は音声・口話法より劣っている」という観念のもと、
ろう教育での手話の使用を禁止し、現場で教職についていたろうの教員の解雇に迫りました。
そして、世界各国で聴覚口話教育法などが制定されるなど、
政治的に思想を実践に取り入れるプロセスも見ることができます。

一方で、バイリンガルの思想を反映している教育現場にもイデオロギーが存在します。
対応手話を容認しないのはなぜか?
対応手話による言語習得の効果についてはまだ研究途上ですが、対応手話はろう社会で自然に生まれた言語ではなく、
音声言語に単語を付加しただけの人工言語だという見方もあります(Branson & Miller ,1998)。

他の例として、施設、センターなどの用語において、
用語の頭文字を「し」や「せ」といった指文字で示すことに対する様々な考え方も
一つの言語イデオロギーとして取り上げられています。
これはアメリカ手話でも同様傾向があり、議論があります(Kusters et al, 2020)。

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頭文字を用いない「Family(家族)」の手話

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Fの頭文字を用いた「Family(家族)」の手話
(写真はAcadeaficより)

B手話の標準化

近年、世界ろう連盟も懸念点として声明を出しているのが
手話の標準化(Standarilzation of sign languages)です(WFD, 2015)。
スクリーンショット 0003-03-07 21.01.40.png

(写真はWFDより、クリックするとそのリンク先へ飛びます)
一部の国では、国行政からの公共アナウンスを全国民に伝えるために
各地域での自然言語である手話を一つの国家手話に統一しようとする試みもあります。
それのみならず、手話の言語権や法整備の推進、ろう教育で使用される手話の均一化を目的とすることもあり、
そこには政治的・制度的利害が関与しています


手話は、地域、年齢、性別、教育、家族背景などに影響され、多様性があるものですが、
それを一つに統一しようとするのは、それぞれの多様性を無視することになります。

日本でも矢野氏が宮窪手話の言語体系の分析と記述を行なっています。
彼女がそれを始めた動機が以下の言葉に集約されています。
『島のは手話じゃなく“ホーム・サイン”。手話とは違う』『日本手話とはかけ離れたもの』『ホーム・サインは言葉とは言えない』と言われました。“地元で皆が日常生活で使う宮窪手話が言葉でないはずがない。宮窪手話も日本手話と同じ言葉だと証明したい”と思って、考え始めたのが中学部の頃です。
スクリーンショット 0003-03-07 20.57.26.png

(写真はNHK WORLD JAPANより、クリックするとそのリンク先へ飛びます)
いつみても、その言葉は私の胸を突き刺します。

手話にも様々な分類があり、国家手話は洗練された高貴ななものとしてみられることがしばしばあります(Burke, Snoddon, and Wilkinson 2016)。
その分類は上下をつけるものであってはいけませんが、ろう社会でも長年かけて構造化された階層がみられます。
アメリカでの例を取り上げると、
McCaskill先生らを中心に言語の妥当性を証明した黒人アメリカ手話(McCaskill et al, 2011)、
ハワイ手話(Lambrechet, Earth and Woodwark, 2013)などが
純粋なアメリカ手話ではないとみなされてきた歴史があります。
今日ではその言説は撤回されつつありますが、
全米の手話通訳者の試験を管轄している全米手話通訳協会(Registry of interpreters for the deaf: RID)における
有色人種の受験者数は増えているにもかかわらず、合格・登録者数がずっと横ばいという状況です(Hill, 2018)。
白人の受験者に有利なように判断項目が設定されているという指摘もあります。

複数ある手話を単一の表現に統合したり、古いと言われる手話を新しいものに置き換ようとしたりすることは、
まさに手話の標準化であり、その実践に対して警笛を鳴らしています。

Cおわりに
どんな手話にも多様性があり、個々レベルで、また組織や制度レベルでその言語に対するイデオロギーが存在します。
自分の、そして違和感を持った周囲の人の言語に対する考えはどこからきているのか、
どんな影響を受け、何に触発されているのか(動かされているのか)ぜひ考えてみてください。

<参考文献>
Branson, J., & Miller, D. (1998). Nationalism and the linguistic rights of Deaf communities: Linguistic imperialism and the recognition and development of sign languages. Journal of Sociolinguistics, 2(1): 3–34.

Hill, T. (2018). Is diversity a mask for tokenism in the field of Sign Language Interpreting?. Retrieved from https://streetleverage.com/tag/interpreters-of-color/

Kusters, A., Green, M., Moriarty, E., & Snoddon, K. (2020). SIng language ideologies: Practices and politics. In A. Kusters et al (eds.). Sign language ideologies in practice.  https://doi.org/10.1515/9781501510090

Lambrecht, L., Earth, B., & Woodward, J. (2013). History and documentation of Hawai’i Sign Language: First report.” Third International Conference on Language Documentation and Conservation, University of Hawai’i, February 28–March 3.

McCaskill, C, Lucas, C., Bayley, R. Hill, J., King, R. (2011). The hidden treasure of Black ASL: Its History and Structure. Washington, DC: Gallaudet University Press.


NHK.(2018). ろうを生きる難聴を生きる「故郷の手話を守りたい」番組ダイジェスト.
https://www.nhk.or.jp/heart-net/program/rounan/789/

World Federation of the Deaf. (2015). WFD Statement on standardized sign language. Retrieved from https://wfdeaf.org/news/wfd-statement-on-standardized-sign-language/
Posted by 皆川 at 10:48 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2021年2月生活記録【第16期生 大西啓人】[2021年03月07日(Sun)]


皆さんこんにちは!
1月ブログでお会いしたのに、もう次の報告です。1ヶ月があっという間に過ぎましたね!
コロナ感染について、アメリカでは予防接種を受けられるようになったと前回お話しました。全州が予防接種を受けるための電子登録フォームを開設したので、早速メリーランド州のフォームで登録してみました!予約できるようになると「予約可能」とメールで連絡が来るそうです。医療関係者、政治関係者、高齢者など優先順位が色々あるのでいつ受けられるかはわからないですが、待ってみようと思います。

さて今回のテーマは「多文化教育」で、特にLGBTQについて、述べようと思います。私は1月から始まった春学期で「様々な学習者のための家庭と学校、コミュニティの共同」という授業を学んでいます。ここで質問です。“様々な学習者”といわれて、あなたはどんな人を思い浮かべますか?

重複障害?
学習障害(LD)?
注意欠陥多動性障害(ADHD)?

などなど様々ありますね。その中に「LGBTQ」も含まれています。アメリカではこれ以外にも、反人種差別者、移民で第一言語が英語ではない英語学習者、宗教の違いによる反宗教差別者などもいます。日本にずっといた私は人種差別、英語学習者などに馴染みがないため、授業中の議論で他の院生の経験や視点から新たな知見を得ることができました。

教室や学校において、LGBTQやジェンダーに悩みを持つ児童生徒がどんな環境に置かれているのでしょうか?一例を紹介します。
@イリノイ州では2013年に同性結婚が認められたにも関わらず、あるジェンダー高校生がスカートを履いていることに嫌悪感をもった他の生徒は、そのジェンダー生徒が公共バスに乗っているとき、スカートに火をつけて大火傷を負わせた。

A帽子やフードを外す原則がある学校内で、小1のジェンダー児童が昨夜髪型をポニーテールにしたけれど、朝に元に戻す時間がなくて、フードで隠したため、からかわれることが嫌で外すことを拒否した。

B高校生のジェンダー生徒は校長に「学校にスカートを履いて登校したらどう思うか?」と相談し、たくさんの友達を失う、親など大人が怒るなどの二次影響があるかもしれないと言われたが、それでもドレスアップして登校した。しかしその生徒はクラスメイトからグループワークや宿題などを一緒にしたくないといじめられ、最終的には理解のない教師から教室を出ていくように言われた。

このような問題はどの教室でもどの学校でも起こる可能性があります。もしあなたのクラスにLGBTQ当事者がいた場合、どのように対応しますか?アメリカで実際に活動しているケースを以下に載せます。
・幼稚部や小学低学年など早い段階で、子どものおもちゃを用い、「男子のおもちゃ、女子のおもちゃとなぜ分けるのか」「男子が女子のおもちゃを使って遊ぶのはおかしいことか」と児童たちに考える機会を与える。幼稚部など早い段階でジェンダーについて理解できたら、ジェンダーに対する偏見を持たずに成長できるからである。

・LGBTQで悩んでいる児童生徒やLGBTQで生きると決めた児童生徒と一緒に授業を計画する。日本でいう「総合的な学習の時間」のような授業で当事者から様々なことを説明する機会を与え、自分に自信を持つことができるように促す。

・教師やサポートスタッフ(学生教師、学校補佐官、事務員など)を集め、緊急会議を開き、学生の権利について話し合う。権利の不可侵における重要性を理解するために機会を設け、理解するだけではなく今後の影響や対応について協議する。また教育者が共通認識を持つことで、指導に一貫性が生まれ、他の児童生徒にも同じ認識へと導くことができるようにする。

こうして様々なケースについて書かれた本や記事を読んで、私は改めてLGBTQ当事者に負担を感じさせないために教室環境や学校環境を整える必要があると感じました。そして人の興味や愛、アイデンティティには決まった形はなく、男として生まれてきたから心や行動は男らしくいなければならないといった固定概念をなくすためにも幼少期かや小学校など早い段階でジェンダーについて考える機会を作る考え方に賛成です。人と違うことを恥ずべきではなく、「個々の”違い”とはそれぞれの個性である」「性別関係なく人として尊重するべき」といったことを全ての児童生徒は早い段階から知るべきです。ただ注意点として、もしLGBTQ当事者がいたらさらけ出すべき!暴露するべき!というわけではないことです。LGBTQ当事者がこれからどうしたいかを決めるのは本人なので、教師から強制するべきではないということです。私たち教師ができることは性別関係なく人として尊重するべきだと児童生徒に認識させることであり、そのために最善かつ効果的な環境作りに向けて、LGBTQ当事者から話を聞いたり、今後の対応について教育者同士で協議することだと考えます。

日本ではLGBTQへの理解が世界と比べて遅く、公表している人はまだ少ないです。 日本社会の特に高い年代の方にはまだ男性は社会で働き、女性は男性を支え家庭を守るといった昔からの考え方が残っています。男性のあるべき姿、女性のあるべき姿に固定概念があり、その慣習がLGBTQを公表しにくい弊害となっているのかもしれません。男女が結婚したら夫側の名字を名乗る、日本の家庭における主婦や家事に対する認識、同性愛への理解が少ないなどといった沢山の慣習が、よりマイノリティであると強調される要因となっているのではないでしょうか。 こうした昔から根強く残っている固定概念を変える事は簡単ではないですが、時代の変化に応えて少しずつ人々の意識を改めていくことが必要だと考えます。

そして私たち教師は教室に“様々な学習者”がいることを忘れずに一人一人の背景やニーズを正確に把握する必要があります。これから世界はグローバル化され、日本にもLD、ADHDやLGBTQだけではなく、国際化による人種差別で困っている児童生徒や日本語が困難で学習に困っている児童生徒に対し、より細やかな対応が必要になってきます。私たち教育者は様々な学習者のために教室内指導と児童生徒対応を的確で柔軟的に変更できる体制を整えていかなければならないでしょう。

今回はLGBTQに重点をおきましたが、他の様々なニーズをもった児童生徒がいることを忘れずに勉学を励み、将来活かせるようにしたいと思います。 最後まで読んでいただきありがとうございます。


【参考文献】
・wayne au, Rethinking multicutural education:teaching for racial and cultural justice, https://rethinkingschools.org/books/rethinking-multicultural-education-2nd-edition/

・Annika Butler-Wall, Rethinking sexism, gender, and sexuality, https://rethinkingschools.org/books/rethinking-sexism-gender-and-sexuality/

大西 啓人
M.A. Deaf Education Studies Gallaudet University
Posted by 大西 at 08:07 | 奨学生生活記録 | この記事のURL