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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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【自己紹介】第16期生 大西啓人[2020年10月18日(Sun)]
【自己紹介】第16期生 大西啓人

-手話動画-

※内容はブログ記事と同様となっています。
※日本語字幕はついていません。

みなさんこんにちは!
第16期奨学生 大西啓人と申します。この度は日本ASL協会の日本財団助成事業である聴覚障害者海外奨学金事業にて、2020年第16期留学奨学生として選出していただきました。

私の留学テーマは「ろう生徒のためのろう教育および英語教育」です。今回のブログでは以下のことを紹介していきます。

私はだれ?なぜアメリカへ?
私は奈良県出身で、奈良県立ろう学校や関西デフフリースクール「しゅわっち」に通うなど常に手話がある環境で育ちました。大学では英語教師を目指し、英語教育を中心に英語の文化や歴史、言語学などを学んできました。

学生時代はろう学校などの教育現場でろう教育、とりわけ英語教育において大変苦労しました。
大学生になり、初めてろう英語教育において数々の問題があるとわかってきました。

いったいどんな問題を抱えているのか?
様々な問題がある中で私は英語教育で使用される"英語教材”に問題があるのではと考えています。現在ろう学校の英語の授業では教科書、英語教材を用いて行っています。しかしその教科書および教材は元々聞こえる人のために作られ、ほとんどは日本語での説明が多めで構成されています。

しかしろう児童生徒は、日本語での説明を理解する事が難しい上、スピーキングやリスニングによる学習コンテンツは困難であり、私の中に「ろう児童生徒の学びに有効なのか?」と疑問が生まれてきました。

私はスピーキングやリスニングに代用できるアメリカ手話(以下、ASL)でのコミュニケーション、ASLやイラストなどの視覚的教材を多く取り入れた英語教材を用い、英語を楽しみながら学べる授業が最適だと考えています。

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Photo Oct 18, 11 59 31 AM.jpg
例はこちら↑

アメリカでの教育環境は私が最適だと考えるものと似ています。アメリカでのろう教育問題を議論する場や大学院での学びはきっとたくさんの刺激と己の成長につながると確信しています。
そして、ASLによる英語教育を日本のろう学校に持ち帰るべく沢山のことを吸収したいと考えています。

コロナによる影響
ご存知のとおり、アメリカはコロナ感染者数や死亡者数など世界で一番多いといわれています。ここでは帰国及び入国の際、必ず2週間の自粛待機を要します。また自粛期間後でも外出時はマスク着用などルールがあります。
本来この時世の中、渡米は難しいのですが、留学先であるギャローデット大学で教鞭をとられている高山亨太教授のもとで対面授業を行うカリキュラムを組むことで渡米できました。高山教授のご厚意と大学からの手助けによって渡米できたことを感謝しています。

私は今、メリーランド州にあるカメルーン出身のGregoire Youbaraさんのお宅にホームステイしています。会話がすべてASLなので刺激のある毎日で、アメリカやアフリカ文化を実感できる恵まれた環境にいます。現在、新型コロナウイルスによって、院の授業は高山教授以外すべてオンラインで行っており、自粛生活が続いています。

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メリーランド州↑

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Gregoire さんのお宅↑

これからも学習・生活の様子を記録していきますので、応援ご協力よろしくお願いしまするんるん

【今回でお世話になった方について】
Kota Takayama
Ph.D., MSW, LCSW, LP
MSW Program Director
Department of Social Work
Gallaudet University

Gregoire Youbara
M.A.; M.S. Lecturer of French and Spanish
Co-advisor, International Studies Program
Department of World Languages and Cultures
Gallaudet University
Posted by 大西 at 18:23 | 自己紹介/紹介 | この記事のURL
第16期 大西奨学生、渡米[2020年10月14日(Wed)]
第16期 大西奨学生、渡米

10月10日(土)午前、第16期留学奨学生の大西啓人さんが、留学先となる米国ワシントンD.C.にあるギャロデット大学に向け、出発しました。
世界的な新型コロナウイルスの蔓延により、米国への入国が閉ざされていましたが、大学側の協力もあり、ようやく、この日を迎えることが出来ました。
渡米にあたっては、感染予防・防止対策も準備してきました。
大西さんの留学生活、スタートですexclamation

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<羽田空港から出発する国際便はまだ少なく…。その上、台風も接近…>

●大西奨学生の出発前コメント

(Youtubeで字幕のon/offの切替が出来ます)

Photo3.png
<全日本ろう学生懇談会で活動を共にした仲間が見送りに。カメラの時だけマスクを外して>


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事業担当:根本
Posted by 事業担当者 根本和江 at 13:40 | 事業担当者よりお知らせ | この記事のURL
2020年9月生活記録【第16期生 皆川愛】[2020年10月08日(Thu)]
月は、ろう者学の今後と課題について、これまでの動向を見ながら私見を述べたいと思います。

カチンコ手話動画はこちら



昨年一年はどちらかというと、私がギャロデット大学で学んだ、欧米のろう者学を中心に紹介してきました。これを輸入だとか言われることもあります。私もそう思います。
欧米の状況に応じて、彼らによって発展したものですから、これが全て日本に当てはまるのかというと答えはもちろんNOです。

これに関連するものとして、Friender (2017)がろう者学は伝統的に欧米を中心に展開されてきたしたことに疑問を投げかけています。
そもそも「欧米」というのも西か東かというのは誰が決めたのでしょうか。方角的には、その人の位置でどこの国が西か東か決定づけられます。
これは “National geopraphic”が発行しているスタンダード世界地図です。
ORTH POLAR.jpg

https://www.nationalgeographic.com/maps/

違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。日本の教科書等でよく見る世界地図とは違います。
この地図で見ると、日本は極東と言われるのです。
つまり、ヨーロッパの人からすると、アジアは遠く離れていて、なんだかよくわからないけど、独特の風情があるようだ、そしてこれをエキゾチック “exotic”だとか言うのです。

そう考えるとすべての事柄は中立ではないのだと気づかされます。
そこで(Friender2017)は、あえて北 “Global north”と南 “Global south”で分けています。
北は発展国、南は途上国のようなニュアンスで使われます。
しかしこれは東洋、西洋の二分化を批判したサイードのオリエンタリズムから逃れるための一手段に過ぎないのかもしれません。

ここでの問題は二項対立 “Dichotomy” になります。
例が以下になります。男性に対しては女性。西洋に対して東洋など。
2.jpg


実社会には連続体がありますが、二分化することで、どちらかに偏らざるを得ないのです。
例えば、分散に対して集中。新型コロナウイルス感染拡大予防のため、分散しなければならない状況の中で、都心は集中しているから、外に出ようと分散すると、郊外に集中してしまいます。
このように二分化は社会に利益をもたらしません。

あるカフェのトイレでは、よく見る男性、女性それぞれアイコンを合体させ、どちらでも“whichever”と表札がかかっていました。
図1.png

こうした従来から構築されてきた二項対立に基づく言説に対して批判的視点を持って、女性学が展開され、その後連続体を考察するジェンダー学やクィア研究と広げています。

これはろう者学にも同様のことが言えます。
昨年の9月の生活記録で紹介した世界で最初の「ろう文化」に関する書物を発表したPaddenとHumphries (1988)は「聴者=自分たちの反対」とはっきり主張しました。
初期のろう者学は、ろう文化について、従来の文化の枠組みに当てはめて説明する試み
これが今では特定の誰かを排除することになると問題視されています。
これをアイデンティティ政治 “Identity politics"といいます(Shakespeare, 2006)。
3.jpg

その集団を構成する個人のアイデンティティに対して社会的承認を求める運動が、
結果的に手話を使用しない人はどうなるのかといった疑問が呈されます。

米国当時の時代背景としては、手話が言語であると証明された1960年より、
手話が音声言語と対等な一つの言語であるという認識が普及し、
これがろう者の肯定的なアイデンティティを形成する核となり、ろう文化に関するPaddenとhumphriesの主張につながりました。
1.jpg

それは自然の流れだったように思います。それはろう者の権利獲得のための一つの戦略だったと理解できます。
しかし、米国型のろう文化の説明と議論を今後も続けていくのかというとそうではありません。

授業で面白い議論がありました。ろう者は障害を有しているかという問いです。
答えはもちろんありません。
興味深いことに国際学生4名全員が「NO」。8名のアメリカ人学生は「YES」か「状況による」と答えました。
米国の状況として、発展途上とはいえ、障害者としての権利が障害を持つアメリカ人法(通称ADA)によって保障され(いわゆる合理的配慮が法律上必須)、ろう者としての権利(手話に対する前向きな姿勢や保障)やそのための資源、環境も地域によっては揃っています。
必要性を訴えるための手話言語学の研究やバイリンガリズムの研究と実践も蓄積されつつあります。一方で、国際学生に共通した意見としては、自国はそのような状況ではなく、むしろアイデンティティをまず主張しなければ言語権も保障されないと話していました。
近年まで手話が猿真似やジェスチャーなどと卑下されてきた中で、このネガティブな認識を変更する取り組みがまだ続いているように思います。
そして、結果的に政策的に障害者ではない「NO」と言わざるを得ない状況というふうに感じるのです。

そして、冒頭のろう者学は伝統的に欧米を中心に展開されてきたのかという問いに立ち返ります。
ろう文化の定義も日本のろう社会に直接当てはまるものではなく、
そしてろう者学は今や二項対立を超えた「ろう」の意味を説明する試みが世界で始まっています。
言語は現在、手話か、音声か書記かといった言語モダリティ(Marschark et al, 2014)で振り分けるのが主流でしたが、実社会にはその枠にとらわれない人間間のコミュニケーションがあり、Kustersら(2017)はこれを記号的レパートリー “Semiotic repetorie"言っています。これにはアイコンタクトやジェスチャーが該当します。
4.jpg


ギャロデット大学ろう者学部での学は残り数ヶ月となりましたが、この問題に関しては生涯かけて消化、取り組むべきものと思っています。

(文中にいくつかスペルミスが見受けられ、10月16日に訂正させていただきました。ご指摘いただいた方、ありがとうございます。)

<参考文献>
Frienderm M. (2017). Doing deaf studies in the global south. In A Kusters. M De Meulder. & D O’Brien (eds). Innovations in deaf studeis. Oxford University press.
Kusters, A., Spotti, M., Swanwick, R., Tapio, E. (2017). Beyond languages, beond modalities: transforming the semiotic repertoires. International Journal of Multilingualism, May 2017, https://www.researchgate.net/publication/316849534
Marschark, M., Tang, G., & Knoors, H. (2014). Bilingualism and bilingual deaf education. Oxford: Oxford University Press.
Shakespeare, T. (2006). Disability Rights and Wrongs. London: Routledge.

Posted by 皆川 at 09:26 | 奨学生生活記録 | この記事のURL