今夏は日本に一時帰国の予定でしたが、パンデミックの影響で米国への入国制限がある中で、
再入国はリスクがあるとし、ワシントンDCに留まることにしました。
昨年8月より留学助成を受けて
一年がたちます。
今月は留学目標を振り返る機会とさせてください。
手話動画はこちらより私の留学目標は「ろう者への医療・看護支援」をテーマに以下の二つです。
@医療者のろう者に対する文化的技術向上トレーニングプログラムの開発なぜ医療者へのろう者についての直接的なトレーニングが必要なのかについて考えていたとき、
「銃の傷跡にバンドエイドを貼れば解決?」の論文(DeMeluder & Hauland, 2019)がヒントになりました。
手話通訳制度をバンドエイドに見立て、
それによって医療や教育の分野におけるろう者のアクセスの問題は解決したのか、
すなわち、バンドエイドを貼れば銃の傷跡は根治するのかと疑問を投じています。
真のアクセスとは何か。
ろう当事者はそう信じておらずとも、政策立案者や医療者の中には
「手話通訳の利用がろう者のアクセスを確保する唯一かつ最良の方法」と信じ、
実際アクセシビリティにに対して多大な予算を投じています。
そこで、著者は単にアクセスが整備されるからといって、
インクルージョンが推進されるわけではないと問題提起しています。
手話通訳制度をはじめとしたアクセシビリティの保障はあくまでもバンドエイドで傷口を覆っているだけで、
それで満足している人たちは、彼らの「錯覚」なのだと主張します。
世界ろう連盟も、“Inclusion is an experience, not a placement.(インクルージョンは単に配置することではなく、経験である)”と声明を出しています(World Federation of the Deaf, 2018)。
下記のイラストのように当事者を手話通訳を配置し、当事者を中央に設置すれば、
それで適切なサービスが確保されたり、当事者がエンパワーメントされたりするのか。
例えば、術後、片腕に点滴、もう片腕に血圧計などの機器を装用され、
両腕が動かないということがろう者にとってどういう経験なのか。
筆談もできない、手話もできない。話す術を失います。
モニタリングは最低限にし、片腕だけでも自由にする。
これに対応できるのは、手話通訳者ではなく、医療者しかないと思います。
専門職が直接、手話で、文化を考慮した医療サービス (本論文では“Language concordant services”と称している)が不可欠というのが私の結論です。
トレーニングのコンテンツについては、現在修士論文にて作成・評価を進めておりますので、また報告させてください。
Aろう者を対象にした医療アセスメントツールの開発2019年11月の生活記録や
2020年4月の生活記録での報告からも、
ろう者の文化・言語的背景を考慮したアセスメントや調査が重要だと再確認することができました。
例えば、「〇〇の用語を聞いたことがありますか?」という質問に対しては、
「
聞く」という表現より、「
見聞きして、知っている」というような表現が適切だろうということは、
アメリカ手話でも日本手話でも一致しました。
冗長に感じるかもしれませんが、ニュアンスを適切に伝えるという点では大切なプロセスだと思います。
米国では別れ際に”
See you.(またね/じゃあね。)”とよく言います。
ろう盲の方にも同様に伝えた時に、
”
Touch you.”の方がいいなと言われ、ハッとさせられたことがあります。
@の目標にも通じますが、こうしたようにコミュニティにおける用語の使われ方に敏感になることは重要だと考えます。
ろう健康研究センターで経験を積みながら、より多くのヒントを得る一年にしたいと思います。
なお、5月に集計したろう者を対象にした新型コロナウイルス調査については、
8月中に集計結果を公表予定です。公表し次第、こちらに掲載させていただきます。
<参考文献>De Meulder, M., & Haualand, H. (2019) Sign language interpreting services: A quick fix for inclusion? Translation and Interpreting Studies. The Journal of the American Translation and Interpreting Studies Association, Setember 6th, 2019,
https://doi.org/10.1075/tis.18008.demWorld Federation of the Deaf. (2018). WFD position peper on inclusive education. Retrieved August 7th, 2020 from
https://wfdeaf.org/wp-content/uploads/2018/07/WFD-Position-Paper-on-Inclusive-Education-5-June-2018-FINAL-without-IS.pdf