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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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第13回留学奨学生帰国報告会、開催[2019年12月30日(Mon)]
第13回留学奨学生帰国報告会、開催

去る12月22日(日)、飯田橋駅に隣接する飯田橋セントラルプラザ10階にある東京ボランティア・市民活動センターを会場に、6月に米国から帰国した第10期辻功一奨学生による帰国報告会を実施しました。
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右写真:司会を担当してくれたのは、辻奨学生と同期の山本綾乃10期生

帰国報告 辻功一(第10期生)
「起業を志す人々に対する日米の温度差について」
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「米国には、失敗は当たり前、失敗談も成功例も共有、ディスカッションして進める環境がある。」
<留学を考えている人に向けて>
「その留学は本当に必要か?留学して勉強したい内容、目的、学んだことを活用して何をやるか。これらを決めてから、奨学金事業に応募を。」

報告の後は…
新奨学生の皆川16期生をはじめ、当日会場に来てくれた奨学生を紹介。
奨学生との情報交換・相談など交流会を行いました。
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左写真:皆川愛16期生
右写真:左から太田琢磨1期生、管野奈津美3期生、武田太一4期生、川俣郁美5期生、山本綾乃10期生、福島愛未12期生

参加してくださったみなさま、ありがとうございました
今後とも、ご支援のほど、よろしくお願いします。

*2020年度 第17期生 4月募集開始(予定)です*
2020年4月に日本財団からの助成が正式に決定後、事業実施が確定します。

事業担当:根本
Posted by 事業担当者 根本和江 at 13:09 | 事業担当者よりお知らせ | この記事のURL
帰国報告会(@飯田橋)12月22日(日)午前10時開始です![2019年12月13日(Fri)]
帰国報告会(@飯田橋)12月22日(日)午前10時開始です!

帰国報告会まで、あと一週間。
開催に向けた準備を進めている真っ最中です。

会場となる東京ボランティア・市民活動センターは、
JR飯田橋駅に隣接する飯田橋セントラルプラザの10階にあります。
地下鉄からは、「B2b」出口が建物の1階に直結と、とても便利 (^^)
(10階へは、低層用エレベーターをご利用ください)
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当日は、報告者の辻功一さん以外にも、現在、米国へ留学中の奨学生や同窓会のメンバーも会場にやって来て、会を盛り上げます。歓談する時間もありますよ
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<第11回帰国報告会に集まった奨学生たち。今回も駆けつけてくれる仲間が何人も!>

留学してみたいけど、留学先はどうやって探せばいい?
英語力は、どれくらい必要?
奨学金に応募するには、どんな準備をしたらいいのかな?
等々、気軽にお声がけください。

お申込みまだの方は、こちらから→*ここをクリックすると申込画面が開きます
または、下記まで、お名前とご連絡先を添えて、お申し込みください。
ryugaku@npojass.org(日本財団助成事業・専用受付)
03-3264-8977(Fax)

みなさまのお越しをお待ちしています

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(写真をクリックすると、チラシPDFが開きます)

協力:
日本財団聴覚障害者海外奨学金事業留学奨学生同窓会

事業担当:根本
Posted by 事業担当者 根本和江 at 13:01 | 事業担当者よりお知らせ | この記事のURL
2019年11月生活記録 【第13期生 山田茉侑】[2019年12月08日(Sun)]
みなさまこんにちは。
気がついたら嵐のような今学期が過ぎ去っており、眼前には大量の課題とテストが待ち構えていました。とてもびっくりしています。今日もなんとか生きております。

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テネシーろう学校の小学部入り口付近で撮った写真

今月は、同じボストン大学院の2年生全員でテネシーろう学校の小学部に1週間ほど教育実習に行きました。今回は、テネシーろう学校での実習をテーマにしたいと思います。もしボストン大学のろう教育学部に留学を考えている方がいれば、ぜひ参考にしていただければと思います。また、今回「英語の書き」クラスを担当したので、この記事の最後の方に実際に使った教材をいくつか紹介します。ろうの子どもの英語指導の役に立つと思います。


ボストン大学ろう教育学科は、毎学期教育実習をする機会があります。1年生の秋学期ではバイリンガル教育を実施しているThe Learning school for the Deafへ毎週月曜日に、春学期は同じくバイリンガル教育へと方向転換したばかりのHorace Mann School for the Deafへ1ヶ月間106時間を下限として実習に行きます。そして、2年生の秋学期は、他の州にあるろう学校へクラスメイト全員で行き、1週間教育実習をします。春学期は自分の希望先のろう学校へ、3−4ヶ月間教育実習ができます。
さて、今回の実習は、学生が現場を経験させてもらう代わりに、ボストン大学のバイリンガル教育の方法を学生がモデルとして示す、という目的があります。また、この実習はボストン大学のろう教育学科の看板の一つでもあるのです。
去年はギャローデット大学にあるケンダルろう学校、そしてその前はアメリカ最古のろう学校、アメリカろう学校で1週間実習をさせてもらったそうです。どちらも以前からバイリンガル教育を支持していたろう学校です。しかし、今年からボストン大学は、バイリンガル教育へと舵を変えたばかりのろう学校にこそ実習に行く意義がある、と実習先をテネシーろう学校に決めたようです。
テネシーろう学校は、5年前にトータルコミュニケーションからバイリンガル教育へと方向を転換し、2年前にパワフルなろうの校長先生が就任してからさらにその勢いを加速させているそうです。

今回は、日曜日にテネシーに降り立ち、月曜日から金曜日まで毎日5クラス教え、そして日曜日の早朝にボストンに飛び立つというハードスケジュールをこなしました。

小学部は、言語習得レベルによって5つのグループにわけられております。
グループ
1. 幼稚部〜小3 一般クラス
2.小1〜小3 高言語クラス
3.小4〜6 一般クラス
4.小4〜6 高言語クラス
5.ろう重複障害クラス

そして、実習中は5つのクラスを設置し、それぞれのクラスを実習生2人がペアになって担当して教えることになりました。
クラス
1. ASL 読み取り
2. ASL 表現
3.英語 読み
4.英語 書き
5.算数

以下の図のように、それぞれのクラスに1つ教室があてがわれ、グループ単位でクラスが終わるたびに子どもたちは次の教室に移動していました。

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わたしは、「英語 書き」を毎日教えることになりました。

実はこの実習、始まる前から友達とワァワァ嘆いていました。
守秘義務で子どもの詳細は直前まで得られない、スケジュールの都合で月曜日に初めて出会った子どもたちのクラスを担当する、指導内容がギリギリにわかる、など初日から不安の中で教えることになったからです。同じ学科を卒業した先輩たちの間でも、この実習は本当に素晴らしかった!!と語り継がれると同時に、寝られないことで悪名高くもあったのです。でもそれは、いろいろなやむなき事情が重なった結果のしょうがないことによるもの、と補足させてもらいます。(学校や、大学、指導教官はむしろ裏で甚大な仕事をして、この実習が実現できるようにここまで運んできてくれました。)

ただ、やはり用意してきた教材が、ろう盲/ろう重複の子どもたちのニーズに合ってなかったり、クラスのレベルと乖離していたり、と反省の山の中で初日を終えることになりました。教室の後ろにいる20人もの先生方の視線が痛かった…。クラスを終えた後は、子どもたちに「何かを残してやれた」という実感を感じる時と、そうでない時があります。新たな指導案と教材をもって次の日を迎えるも、低学年のクラスではなかなかその実感を得られずにいました。ようやく全てのクラスで軌道に乗ったのは3日目になったころです。その分、子どもたちはいろいろなことを教えてくれました。教材が合わなくて困っているのは子どものほう、そして子どもの能力のせいではないと何度も教えてくれました。
例えば、英文を書くときの「最初に大文字、最後にコンマ」というルールを教える際、あるクラスはすぐに理解したものの、同じ条件で教えた別のクラスではなかなかこちらの意図が伝わらなかったです。おそらく、一方のクラスでは今までたくさん書く練習をしてきて、「大文字に直すように」「コンマを忘れないように」と言われた経験が少なからずあるのかもしれません。でも、他のクラスではそもそも英文自体を書く経験が少なく、「大文字とコンマ」のルールを教えるよりも先にまず書きの経験が必要だったのかもしれません。あとでこの活動について詳しく紹介したいと思います。


毎日放課後は、小学部を担当している全ての人(先生や言語聴覚士など)と全体会議(反省会)をしました。毎日嵐のような時間でした。「子どもが机に突っ伏しているのに、放っておいていいのですか?」「突っ伏している間もずっとアイコンタクトが取れていたので、行動自体は指導しませんでした。」というクラス運営に関わる質問から、「指導要領にある目標は、どの学年レベルを使用しているのでしょうか?今教えていることは学年レベルではないですよね?」というろう教育の問題に及ぶ質問までありました。確かに、子どもが学年レベルに達していなくても教科書の順通りに教えることが多いですよね。でも、それは決して子どものためになっているのだろうか、「100を教えて全部台無しにするより、50を確実に教える」そのためにまずは教科書にない基礎の部分を含めて大事に教えていった方がいいのでは、という話し合いになりました。とあるろう学校では、月曜から木曜日までは子どものレベルにあった学力の目標をつけ、金曜日までに子どもの年齢にあった目標にたどり着けるようにしているそうです。また、日が経つにつれてバイリンガル教育に納得してない先生方からの発言があり、戦争状態になったことは印象深かったです。

この実習では、1週間学生たちがクラスを担当していたので、残念ながら先生方の授業を見学する機会はありませんでした。また、子どもたちとようやく距離が縮まった頃には去らなくてはなりませんでした。でも、毎日それぞれのグループのクラスを計画し、それについて大学の指導教官からその場でフィードバックをもらえ、そして実際にそれを使って教えたという経験は、これから春学期に長期間教育実習をするときの大きな自信となりました。



以下、「英語の書き」クラスで使った教材のうち、明日の現場にでもすぐに使えそうなものをいくつか紹介したいと思います。

・英作文

Screen Shot 2019-12-07 at 4.45.04 PM-2.png
写真を見て、英作文をする活動です。「猫がケーキを見ている」写真をみて、子どもたちは右の欄に英作文します。その際、英単語がわからなかったらASL単語の手の形を、わからない英単語の代わりに記述するのです。例えば「look at」という英単語がわからなくてもASL単語がわかれば、その手の形「V(手(チョキ)️見る)」を記入します。子どもが英作文をし終えたら、一緒に内容を確認していきます。もしASL単語があれば、その英単語を教え左側の欄に「ASL単語:英単語」というふうに書きます。この活動は、毎回クラス開始後5分間行いました。子どものモチベーションを失わせず、思いつつまま英語で書かせる経験を積ませるのが目的です。

・英単語
「horse」


「house」


この教材は、ASLの指文字を使って英語を教えていることが前提になります。
似たような英単語「horse」「house」どっちが馬で、どっちが家だっけ、なかなか区別して覚えにくいですよね…。このような、微妙に似ているけど一箇所だけスペルが違う単語、子どもたちも混乱しやすいです。実は、秘密があるのですよ、知りたいですか?
Ho「r」se、ho「u」seのrとuの部分を、視覚化するのです。例えば、rの指文字を使って馬の耳△を、uの指文字を使って家の形家を表します。こういう英単語のペアをいくつか作り、競争を活動に入れるのもいいかもしれません。

・頭文字とコンマ
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これは、ボストン大学の指導教員の一人であるクリスティン先生が考案した方法です。英文を書くときに、最初は大文字で書き、その後は小文字、そして最後にコンマをおく、というルールを教えるための活動です。まず、テープを横軸方向に床に貼り、そして紙のお皿を右側の端におきます。
・スターチ位置は必ず左。
・左端に立ったら必ずジャンプをする
・左端から右端へ移動するときは必ずボールをドリブルする。
・右端にたどり着いたら、必ずボールを紙の上におく。
これをルール化して、実際にボールを触りながら活動すると楽しいと思います。子どもたちはこの活動が好きです。繰り返し繰り返しやると、子どもたちが英作文をするときに、頭文字とコンマのルールを意識し始めるようになります。
この活動をするときに、ほかの先生が間違った例(線から逸れてドリブルする、ジャンプを忘れてドリブルし始める、ボールを皿に置かずにパスをする、など)をした際、これはルール違反かどうか子どもたちに尋ねるといいかもしれません。


日を追うごとにますます寒くなってきましたが、身体にはお気をつけください。それでは翌月にまたお会いしましょう。
Posted by 山田 at 12:11 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2019年11月生活記録【第13期生 橋本重人】[2019年12月08日(Sun)]
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こんにちは。あと一週間で大学院2年目の秋学期が終わろうとしています。今学期を振り返ってみると、1年目と違って、落ち着いて学習を進めることができたと思います。英語とアメリカ手話は試行錯誤を繰り返し、日々新しい単語や表現方法を学んでいます。

さて、今回は秋学期のまとめとしてOSWD(Office for Students With Disabilities / 障害学生のためのオフィス)という学生支援室で印象に残ったことを書きます。OSWDの利用学生とのかかわりを通して、感じたことや疑問に思ったことなどがあったらすぐにメモ書きするようにしています。それをいくつかピックアップしてお伝えしたいと思います。メモ書きしたことをそのまま書き記します。【 】は後日に付け足したものです。

10月22日
語学学校の学生(サウジアラビア出身)が付き添いの友人とともにオフィスにやってきて、OSWDを利用したいとのことだった。どのように申し込むか、手順の説明をした。彼女は、アメリカ手話と英語を十分に理解できていない様子だった。付き添いの友人は理解しており、彼女にアメリカ手話とサウジアラビア手話を交えて説明してくれた。例えの話を付け加えており、全てサウジアラビアでの出来事であった。「ほら、サウジアラビアでこういうことがあったよね。それと同じだよ」というふうに。【彼女は説明を例えの話と照らし合わせて聞いた方がスムーズだったようです。わからないことがあったら、身近な経験談を取り上げて説明すると分かりやすいですね】
また、彼女はdisability(障害)の単語の意味が分からなかったが、スマートフォンで意味を調べたら理解できたようだ。インターネットや携帯のアプリはとても便利なものである。瞬発にわからないことを調べて、すぐに理解できるからだ。そういえば、あの分厚い英和辞典のような辞書を使う学生を全然見かけない。

11月8日
ある学部生がやってきて、彼は自分の担当とコミュニケーションがうまく取れないから、担当を変えることはできるかと尋ねてきた。【OSWDの利用学生は利用開始と同時に担当が決まるのです。担当の主な仕事は、学生とどういったサポートが必要か、悩み相談などを話し合うといったメンター的な役割です。】すぐには答えず、OSWDの上司に聞いてみたら、「利用学生は自分の担当とどういったコミュニケーション方法がベストなのかを直接話し合う。それでも、コミュニケーションがうまくいかなかったら、その担当からコーディネーターにお願いして担当を変える」というシステムになっているそうだ。なるほど。自分の気持ちを隠さずにオープンに話し合うことが大切である。彼が再びやってきたら、そう説明しよう。

11月12日
ある学部生がやってきた。担当との面談が終わったあと、帰る途中でオフィスにいる私を見かけ、入ってきた。彼女の話を聞いてみると、今学期はやるべきことがたくさんありすぎて、かなりFrustrated(くじかれた、挫折、失望)という気持ちになったという。僕は今受講しているカウンセリングクラスで学んだいくつかのスキルを意識して、慎重に対応した。1時間後には、彼女は「少し元気になったよ。先生に相談してみるよ。聞いてくれてありがとう」と言って帰っていった。
【ADHDの彼女は、1つのことを集中したくても集中できないときがあります。ストレスが余計にたまるとその回数が増えてきて、課題に満足できていないまま提出して、その成績がよくなかったということです。担当の教授にその事情を伝え、どのように配慮してもらうか相談することが必要ではないかという結論に至りました。】

12月2日
突然、ある学生がやってきて、最終テストの時間を延ばしてほしいから、申込書などは整っているかと結構切羽詰まった雰囲気だった。少し戸惑ったが、彼の担当を呼んだ。担当と30分ほど話し合ったあと、彼は落ち着いた雰囲気でオフィスを出ていった。
【実は、彼は11月上旬にOSWDに訪れたことがあります。申し込みするときに必要な書類のことは理解できていましたが、提出しないまま12月に入りました。受講しているクラスの成績があまりよくないと最近知り、最終テストでもし単位が取れなかったらどうしようと心配になり、パニック状態になったようです。彼の担当が言うには、自己管理の練習の積み重ねが必要だということです。効果的な方法として、スケジュール帳やノートなどを常に持ち、重要な情報を得たらすぐにメモを取るようにして頻繁にチェックするとよいそうです。】

OSWDの利用学生は全員で280名はいます。様々な利用学生からの要求・相談に慎重に対応しないといけないため、毎回オフィスから出るとどっと疲労感が出てきます。しかし、この経験はこの大学でしか経験できないことです。これからも新しい発見を楽しみに、続けて残り半年間頑張りたいと思います。何かあったらまた報告します。

2019年もあと少しで終わります。1年間ありがとうございました。来年も何卒よろしくお願いします。
Posted by 橋本 at 05:24 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2019年11月生活記録【第16期生 皆川愛】[2019年12月07日(Sat)]
今月は、手話による医療アセスメントについてです。

カチンコ動画はこちらより

( )は、その内容の開始時間です。興味のある内容に合わせてご覧ください。
@はじめに(0:04
APollard先生のご紹介(3:32
B手話による医療アセスメントで留意すべき4つの項目(4:19
Cまとめ(10:22


かわいい今月の一枚
アメリカ側から見る日の出前のナイアガラの滝!

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私の具体的な留学目標である
「手話による医療アセスメントツールの開発」
についてのヒントを探るために、
ニューヨーク州のロチェスターに行ってきました。
(ロチェスターからナイアガラの滝までは1時間半ほどでした🚘)

現在NTID(国立聾工科大学)の教授で、副研究科長であるRobert Q. Pollard先生にお会いしました。
※(12/8にロチェスターろう工科大学から国立聾工科大学に修正済み、ご指摘をありがとうございました)
先生は長年にわたって、ろう者を対象にした心理テスト、精神保健分野での手話通訳、
公衆衛生など、幅広く研究と実践をされていらっしゃいます。
臨床現場でも多くのろう難聴者と接しており、アメリカ手話にも流暢な方です。

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長らく、多くの医療アセスメントは音声言語をベースにして進められており、
それが手話と相性が悪いということで、心理や教育の分野では疑問視されてきました(Pollard et al, 2005)。

私自身、臨床時代、アセスメントをどう行うか幾度も迷いました。
例えば、ジャパンコーマスケールという意識のアセスメントツールがあります。

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丸で囲ったところに「普通の呼びかけで開眼する」という項目があります。
一般的に医療者の多くは、普段通りの音声ボリュームで名前を呼びかけたり、「もしもし」と言ったりします。
そこは、普通ってなんだろうというところから議論が始まるのですが、、

目を閉じているろう者にはどうすれば良いでしょうか。
前職で、私と看護師の同僚は、「普通の呼びかけ」を「肩を叩く」に置き換えていました。
ろう者と長らく接しているとこうした判断が自然とできるのですが、
ろう者と接触体験がない、またろう文化といわれるものを知らない医療者には簡単なことではありません。
ですが、この経験的な知識は正しいのでしょうか。

Pollard先生は手話によるアセスメントの際に常に念頭におくべき4つの事項についてアドバイスしてくださいました。
従来はろう難聴者を対象にした精神保健分野での研究におけるガイドラインとしていますが、
アセスメントにも応用できるということで、
4つそれぞれについて詳しく見ていきます(Pollard, 2002)。

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@目的
なんのためにこのアセスメントをやるのか。モチベーションは何か。
A指示内容
書面や口頭での指示内容はろう者にわかりやすいものか。または有利になってしまわないか。
B言語のモダリティ
手話か音声(と書記)というモダリティの違いによって、指示内容や質問内容が歪曲しないか。
C結果(数値の解釈)
この結果は信憑性が高いか。それまでのプロセスは適切だったか、参考程度に止めるべきか。

先ほどのケースについて、@からCそれぞれについて考えてみます。

@の目的については、なぜ意識のアセスメントが必要なのか。
例えば、肝臓の病気によって昏睡が起きているなら、毎日の変化を示し、
看護師同士で引き継ぐためにも、このアセスメントは必須と言えます。
一方で、意識低下にまつわる疾患がなければ、
無理にやる必要はないといったように目的に応じて必要性を判断します。
一方で、介護保険や医療保険申請のために、そのアセスメントが必要になることもあります。
その際は更に慎重に行う必要があります。
目的や状況に応じて、このアセスメントの意義を考えることは重要です。

そして、A指示/観察内容とB言語モダリティが特に重要です。

先ほどのジャパンコーマスケールの「普通の呼びかけ」を「肩を叩く」に置き換えることは、Aに該当します。
そして、この判断はろう者学のBahan氏(2014)の感覚的志向理論 ”Sensory orientation“ によって説明できると考えています。
聴者の音声/聴覚に依拠するものである「普通の呼びかけ」を、視覚/触覚的な「肩をたたく」という内容に置き換えるのです。

スライド4.jpeg


他のアセスメントツールを概観しても、指示や観察は音声を中心に進められていくことが多いです。
「聞く」「話す」などの音声を使う項目については、「たたく」「見る」などの視覚・触覚的な内容に置き換えていくことが重要です。
この置き換えの妥当性についてはまた厳密な研究が必要になりますが、一つの技法として考えてください。

B言語モダリティには、聴覚音声的、視覚身振り的、書記的の3つがあります(Marschark, Tang & Knoors, 2014)。
モダリティは様式とも訳されます。
例えば、認知症のスクリーニング検査の一つのスケールとしてよく使われるMMSEには
「右手をあげなさい」という音声指示に従うという項目があります。
日本手話にすると表現そのものが、右手の挙上を表してしまいます。
これでは、質問の意味がなくなってしまします。

1.jpg


この項目の目的は、方向の判断を問うことなので、
「右隣にいる人は誰?」といったように質問を置き換えていました。
言語のモダリティが異なると、指示/質問内容への回答が有利になったり、
困難度が上がったりするので、それを考慮する必要があります。


C結果の解釈については、「手話で行いました」「文書の代わりに絵を見せました」といったように
プロセスをきちんと書き留めることで、それは参考に止めるべきなのか、
結果として信用できるのかといった判断ができるかと思います。

全てのアセスメントツールを手話版で開発、すなわち翻訳もしくは一から作成するのには限界がありますが、
アセスメントを行う者がこの4つを念頭に置いて実施することで
少しでもバイアス(結果の誤差)の減少に役立てると考えています。

そして、この4つを理解するためには、感覚的志向理論や言語のモダリティなど、
ろう者学の知識は不可欠であることも認識できました。
医療者へのトレイーニングプログラムにもぜひ盛り込みたい内容だと考えています。

師走に突入しましたね、皆さま体調に気をつけて2019年の残りをお過ごしください。


<参考文献>

Bahan, B. (2014). Senses and culture: Exploring sensory orientations.  In H-D. L. Bauman & J. Murray (Eds.), Deaf Gain: Raising the stakes for human diversity (pp. 223-254). Minneapolis: University of Minnesota Press.

Knoors, H., Tang, G., & Marschark, M. (2014).Bilingualism and bilingual Deaf education: Time to take stock. In M. Marschark, G. Tang & H. Knoors (Eds.) Bilingualism and bilingual deaf education (pp.1-20). Oxford: Oxford University Press.

Pollard, R. Q. (2002). Ethical conduct in research involving deaf people. In V. A. Gutman (Ed.), Ethics in mental health and deafness (pp.162-178). Washington, DC: Gallaudet University Press.

Pollard, R. Q., Rediess, S., & DeMatteo, A. (2005). Development and validation of the Signed Paired Associates Test. Rehabilitation Psychology, 50(3), 258-265.
Posted by 皆川 at 01:39 | 奨学生生活記録 | この記事のURL