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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2019年8月生活記録【第13期生 橋本重人】[2019年09月08日(Sun)]
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日本の9月はまだまだ蒸し暑いでしょうか。ワシントンD.C.では日中こそ暑さを感じますが、朝晩は20〜21度と比較的涼しくなってきています。毎日ではありませんが、早朝に家を出てジョギングすることが最近の日課です。冷たい風を顔に受けながら走ると気持ち良いです。

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さて、今後の一年間はギャロデット大学で最終学年として学ぶことになります。今学期は、研究方法やカウンセリング方法をぜひ学びたいと考え、様々な学部のクラスを受講しています。

・Independent Study(学生自主研究:ろう教育学部)
前学期のクラスの続きです。私の入っているプログラムでは必須クラスです。アメリカのろう学校において、発達障害のあるろう児童生徒がどのようにろう児童生徒とともに学習しているか、休憩時間や昼食時間、放課後ではどのように交流しているか、また教員はどのようにサポートしているかを、調査しようと考えています。今は、ギャロデット大学のInstitutional Review Board(研究倫理審査委員会)に提出する研究計画を、教授とともに話し合いながら作成しています。

・Foundations in Helping Skills(支援スキルの基礎:カウンセリング学部)
カウンセリング学部の学生とともにカウンセリングの実践を行います。受講生がInterviewer(面接者)とClient(心理療法を受ける人)、 Observer(観察者)の役割に分かれてロールプレイを行う機会が多いそうです。また、実際に、カウンセリングを何人かと実際に行うこともあるということなので、どのようなスキルが私たちには必要なのか、その演習を通して吸収したいと思っています。このクラスの担当はろう教授で35年以上も臨床心理学を研究されており、どんなクラスになるかとても楽しみにしています。

・Deaf Studies Research Methods(ろう者学の研究手法:ろう者学部)
去年の秋学期に受講したクラスIntroduction to Research(研究入門)は文献レビューの練習を行いましたが、このクラスでは研究手法として、どのように調査を進め、参加者とそのデータ収集と分析の練習を行います。私が進めている学生自主研究にも結び付けることができるため、練習を積み重ねていきたいと思います。ろう者学部の学生との交流も楽しみにしています。

残り一年間になりますが、体調に気をつけながらいろいろなことを吸収していきたいと思います。

話は変わりますが、Theodore Roosevelt Island(セオドア・ルーズベルト島)はご存知でしょうか?ワシントンD.C.とバージニア州の間を流れるポトマック川の真ん中にあります。その名の通り、アメリカ合衆国の第26代大統領の功績を記念とする公園です。意外とその島は知られていないようです。ワシントンD.C.に10年以上住んでいる友人に連れて行ってもらい、そこでハイキングをしました。都会であるワシントンD.C.にもたくさんの公園があり、自然が好きな私にとってはとても嬉しいことです。
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Posted by 橋本 at 10:00 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2019年8月生活記録【第13期生 山田茉侑】[2019年09月08日(Sun)]

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皆様こんにちは。写真は新居に咲いていたヒマワリです。引っ越しの際は二階まで家具を運ぶのが大変でしたが、ヒマワリがずっとエールを送ってくれました。


今学期は、ろう教育クラスと合わせて、日本語初級者クラスを聴講生として受講することにしました。

なぜ、日本語初級者クラスを受講することにしたのか。それは、
今まで大学で学んできた、英語の「書き言葉」をろうの子どもたちにどうやって教えるかを、日本語でも応用したかったからです。その場合、日本語そのものを分析しないととても話にならないので、まずは「日本語」を知るためにこのクラスを受講してみました。
本ブログでは、このクラスで発見したことや、ろう教育クラスで習ったことで何か関係性があったら報告していきたいと思います。


–初回時のクラス内容–
「こんにちは」「さようなら」「いただきます」「どうも、よろしく」などの挨拶、そして「学生」「先生」「専攻」「〜時」といった身近な単語を、繰り返し繰り返し発音し音を通して学んでいました。同時に平仮名50音を順番に習っていました。
文字に入る前に、まずは音から入るようです。さて、この流れで思い出したのは、「指文字」です。


前にボストンのろう学校 小学部の先生に「就学前に身につけてほしいことは何ですか?」と聞いたことがあります。0歳児からの「指文字」と、その先生は言いました。つまり、聴者が音を通して英単語を覚えていくように、単語を指文字で覚えていく、ということでしょうか。別のろう学校でも、文字を教えるのは3〜5歳からだけど、指文字は0歳児から、と言っていました。
というのは、0-5歳児の間では、遊びや日常会話の中で「トマト(手話)→トマト(指文字)→トマト(手話)」というふうに自然に指文字を手話にはさみ、そして就学段階で単語を「書く」ことを教える時期には指文字を使いながら教えるそうです。

つまり、下の図のように、最初に「🐈」そのものの概念(意味)を理解した後、手話と指文字の「CAT (ねこ)」という単語を獲得し、そして最後に「CAT(ねこ)」と書けるように移行させるのです。

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また、現在「指文字」で、塊*を使って英単語を覚えられないか、という研究がアメリカでホットです。https://www.colorado.edu/program/fingerspelling/
ただ、日本語と英語の特徴に違いがあるため、日本語にも応用できるかどうかは分かりません。ここからは注意して読んでいただければと思います。

*塊
接頭辞、語幹、接尾辞はご存知でしょうか?英語には、一つの英単語の中にいくつか意味を持った塊があるのです。
例)education… e-「外へ」duce「導く」ate「〜する」tion「名詞」→「教育」

実は、アメリカ手話の指文字には英語とは違う塊があります。
例)英語 Piz・za / アメリカ手話 Pi・zza

さて、このようなアメリカ手話の塊を使って、「指文字」を通してどのように英単語を覚えるのでしょうか。こちら、一例になります。
全ての単語に共通するものはなんでしょうか。
C+AT …cat
H+AT …hat
R+AT …rat
H+AT+E …hate


そうです、「AT」です。他のスペルとATの間に少し間を入れることで、指文字で塊を作ります。

前に、黒板の前で「CAT」の意味がわからず困ってる子どもに、先生が指文字をするよう促すビデオを見たことがあります。その子は指文字で「c/at」と表した途端、意味を思い出していました。

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わたしも、友達と一緒に「at」ゲームをしたことがあるのですが、そこで「grater:おろし器具」という単語を初めて覚えました。その晩、その友達から実物のおろし器具を見せられ、この英単語は何かと聞かれたのです。英語語彙力のなさすぎるわたしでも、「atを使った単語で…gが付いていたような…ああ!grater?」と答えられたのです。そこから、この単語は今でも忘れずにいます。

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*「at」ゲームとは
Hat, rat, mate, cate, rate, hate, grate, など、「at」を使う英単語を順番に言い合い、最後まで残った人の勝ち。



このように、アメリカでは指文字の塊を使って英単語を覚えることが、研究や実践の面でホットになっております。しかしながら、日本語には塊はあるのでしょうか。おそらく日本語の場合は、漢字によって塊ができているのかなと思います。
例)半…半分、半袖、半日
上記の単語は「半」がつくことで、意味をなしていきますよね。漢字ごとに指文字の塊を作ればいいのでしょうか。例えば、「はん/そで」というように。

しかし、指文字で「はん」と表しても、「半」のほかに「反」という意味にもなります。音で塊を作るよりも、日本語は視覚的な塊が強いのかなとおもいました。そのところは英語と違います。
アメリカ手話よりも日本手話の方が、指文字が少ないと言われている所以も、「漢字」という資格的な塊の影響が大きいからかもしれません。*「小学生」「物質」「年金」など、漢字から手話化しているからです。

では、日本語の単語をどうやって効率良く覚えられるようにするか?
指文字をどう効率的に使うか?それはわたしの課題でもあり、皆様と一緒に考えられたらとも思います。






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◆クイズタイム◆

ろう学校では、先生の指文字を見て、子どもがその単語を紙に書き写すときが良くありますよね。
その際、あなたがもしも先生だったら、その子どもへ「ニワトリ」という指文字をどのようにあらわしますか?どのような指文字の表出方法だったら、子どもがその単語を覚えやすいでしょうか。




「に」「わ」「と」「り」と区切り、子どもに1文字ずつ書き写させますか?
実は、区切らずに単語全体の指文字「にわとり」を繰り返し何度も何度も見せた方がいいようです。
また、英語の場合は「cat」と出すのではなく、「c/at」と塊ごとに間を作るのもいいそうです。

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長くなってしまいましたが、来年1月に他州で教育実習があるためボストンの生活も残り4ヶ月を切りました。今後も引き続き気を引き締めて頑張りたいと思います。
それでは、また翌月にお会いしましょう。

Posted by 山田 at 09:48 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2019年8月生活記録【第16期生 皆川愛】[2019年09月05日(Thu)]
眼鏡動画はこちらのURLまたは画像をクリックしてください
( )は、その内容の開始時間です。興味のある内容に合わせてご覧ください。
@はじめに (0:05〜
Aろう者学の目指すところ〜オリエンテーションより〜 (0:28〜
Aろう者学におけるインターセクショナリティとモビリティ〜世界ろう者会議より〜 (3:35〜



はじめに
私のブログのスタイルは、手話による映像(Vlog)文章(Blog)の二つによる発信です。
構成や文脈が少し違うことがあるかもしれませんが、基本的には同じ内容で発信していきます。
お好みの方をご覧いただければと思います。
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@ろう者学の目指すところーオリエンテーションよりー

ろう者学って何するの?なんのための学問なの?としばしば聞かれます。
今後2年の自分への戒めも込めて、
オリエンテーションで学んだろう者学部の目指すところを記させてください。

一つは、既存のろうに関する知識に対するクリティーク(To critique)すること
ろうに関する知識は、これまで歴史や文学、文化人類学、言語学と様々な領域で研究がなされ、記述されてきました。
例えば、1990年代の心理学の著名な本ではろう者の特性に関して、
「攻撃的」「利己的」「非共感的」といったネガティブな記述がありました。
これは今日でも同じでしょうか。
極端な例ではありますが、こうした既存の知識に対して、懐疑的になる必要性を強調していました。
また、1960年代にアメリカを中心の手話の音韻、すなわち秩序性を見出す研究がなされ、
手話と書記言語は異なる言語だと立証されてきましたが、
アメリカ手話と日本手話の秩序性は同じでしょうか。
既存の知識が内容が果たして世界中のどのろう者にも適用できるのか、
時代とともに変化するもの、しないものは何か改めて考える必要があります。

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二つは、新しい知を創成(To product)すること
既存の知識をアップデートすること、新しい知識を発信することです。
これまでろうに関しては、圧倒的に医学界を中心に様々な知識が蓄積されてきました。
ろう者学は1970年代から学問として始まり、1990年代にアメリカやイギリスでろう者学部が設立されましたが、
それに関する論文や書籍はまだわずかです。
まだまだ可能性がたくさんあるといったところでしょうか。

ろう者学の目指すところは、
既存の知へのクリティークと新しい知の創成の二つを通じて、
社会の中にある、ろうに関する不利なイデオロギー(思想)を個人、組織レベルで変えることを通じて、
ろうコミュニティに革新をもたらすことです。
看護を含めた医学界において、「ろう」であることは欠損として見なされ、
文化として受け入れられることはなかなかありませんでした。
ろう者にとって快適かつ充実した看護ケアとは何かを、
文化モデルという新しいレンズを通じて追究することが私の目標であります。


Aろう者学におけるインターセクショナリティとモビリティー世界ろう者会議よりー

7月末にフランスのパリで開催された世界ろう者会議に参加しました。
ろう者学に関して興味深い発表があったので紹介させてください。

テーマは「ろう者学におけるインターセクショナリティ」で、
Kusters氏、Moriarty氏、Lyer氏による合同プレゼンテーションでした。
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“Intersectionality” インターセクショナリティという用語は、
米国の法学者で、市民運動家でもあるCrenshaw氏(1989)によって提唱されました。
フェミニズムの理論が白人の中流階級の女性を前提としていることに対する普遍性への批判から始まったものです。
白人女性と黒人女性の経験は同じものか、そうではありません、
その時にインターセクショナリティの考えが重要になると主張しています。
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今日、インターセクショナリティは
「性や民族、経済状況などの様々なアイデンティティの交差」
として理解されることがしばしば見受けられますが、
本来は「様々なパワーと抑圧の交差」を意味しています。
Hill Collins氏とBilge氏(2016)の著書には、
世界には様々なパワー(すなわち抑圧)が働いており、
二重、三重と抑圧を受けているということを考慮すべき
だと強調されています。
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ろう世界はどうでしょうか。
ろう世界にも様々なパワーが働いており、それは”Mobility” モビリティー(移動性)とともに変化するという話でした。
この概念を医療場面に置き換えてみます。
例えば、日本で、私はバイリンガルの立場で、また看護師という専門職としての特権、
いわゆるパワーを持っています。
医師の説明で違うと思うことは自分の持ってる知識と日本語で異議申立てられますし、
受診を不安に思うことは一度もありませんでした
(病気の種類によっては大きな不安を持ちうることもありますが、
受診や入院そのものに対して躊躇は基本的にあまりないです)。
しかし、米国に来てみると、まだ受診経験はないのですが、
言語の壁、医療システムの違いから、受療が抑制されるのを感じます。
環境の変化によって、自分の持ってきたパワーが変化するのです。
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また、これまでろう者学が研究してきたことは、あくまでも白人のろう者です。
移動性や他の民族についてはあまり考慮されていなかったという指摘がありました。
これは、ろう者学の目指す、既存の知へのクリティークと新たな知の創成と一致するものでもあります。
今後、ろう者への医療、看護ケアを考えるに当たって、
移民のろう者など幅広く適応できるようにこのことを念頭においていきたいです。

興味深いことに、プレゼンターはみな女性で、更にろう者でもありました。
これまでろう者学の理論家、研究者のほとんどは白人男性、聴者でした。
(決して彼らを批判しているわけではありません、むしろ彼らの礎があるからこそ、今日のろう者学があるわけです。)
ろう者学の新しい風を感じたプレゼンテーションでした。

いつでも質問やコメント等あれば、コメント欄にお願いしますかわいい
できる限りお返事するようにします。

<参考文献>
・プレゼンター(Kusters, Moriarty, Sanchayeeta氏)が実施している研究プロジェクトのホームページ
英語と国際手話でプロジェクトの概要が語られています。
Mobile deaf. (2019). Retrieved September 6th, 2019 from https://mobiledeaf.org.uk/

・Crenshawのインターセクショナリティの論文
Crenshaw, K. (1989). Demarginalizing the intersection of race and sex: A black feminist critique of antidiscrimination doctrine, feminist theory and antiracist politics. University of Chicago legal Forum, 8(1), pp. 139-167.
こちらからも閲覧できます。
https://chicagounbound.uchicago.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1052&context=uclf

・Hill CollinsとBilge著書のインターセクショナリティの本
Hill Collins, P., and Bilge, S. (2016). Intersectionality. Cambridge, UK: Polity.
Posted by 皆川 at 00:00 | 奨学生生活記録 | この記事のURL | コメント(0)