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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2019年6月生活記録【第13期生 山田茉侑】[2019年07月07日(Sun)]
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写真は、元ボストン大学生協の建物上にあったCITGOの看板です。ボストンを代表する標識であり、ボストン大学の誇りでもありました。しかし、最近その生協が別の場所に移ったため、ボストン大学とは全く関係ない標識になってしまい、みんなで残念がっていました。


今月は、先月に引き続き「ろう文学とASL伝承」クラスで習った教材案をシェアします。全て手話やろう文化に関するものです。この記事を通して、「なぜろうの子どもたちに日本手話クラスが必要なのか」をみなさんと一緒に考えられたらと思います。
また、大変申し訳ないのですが、今回シェアする動画は、ところどころASLによるものです。ASLもそうですが、日本手話の手話ポエムなどの教材となるものはなかなか入手しにくい現状にあるからです。また、わたし自身がJSLの動画を知らないというのも理由の一つにあります。教育現場で使える動画の保存と共有も今後の課題かと思います。


「Personification」(擬人化)
ASL話者がモップやピンポン球など何か別の物体になりきること。
例えば、ボストン大学教授の1人であるAndrew Bottoms先生は、こちら「Deflowered」という題で、花になりきっています(http://www.andrewbottoms.com/asl-literature-/deflowered.html)。道端に咲いている花が摘まれ、花びらを散らされた後に捨てられるというストーリーです。実は、この動画には別の意味が隠されているそうです。「Deflowered」という単語について調べてみてください。

こちらもあります。さて、何に擬人化しているでしょうか。


「Palindromic」 (回文:前からも後ろからも読める文、動画)
“わたし負けましたわ”など、前からも後ろからも読める回分のほか、最初の文から読むのと最後の文から読むのとでは意味が変わってくる回文(日本語: https://president.jp/articles/-/25936?page=3)などの言葉遊びをASLでやるのです。
動画や手話では、「12345|54321」、もしくは「あいうえお|おえういあ」というふうに、ある点で動画を逆送りにして物語を発展させるイメージです。7分36秒とちょっと長いですが、こちらのような(https://vimeo.com/81151091 音声、手話なし動画のみ)Palindromicのコンセプトを使った動画もあります。関係性の展開の早さに突っ込みを入れたい気持ちが抑えられないのは山々ですが、心なしか最初と最後で表情が違うような気がしませんか。
逆送りにしたときも意味のある手話かどうかが、こちらの教材のキーポイントになります。例えば 「開く/閉じる、補聴器をつける/はずす、花が咲く/しぼむ(もしくは、終わり)」 など。


こちら、Palindromic(回文)の一例です。波紋が広がるあたりから、動画を逆送りにしました。


「Chiasm」交差
こちら、ある点の前後で同じ手話を使うという点では、コンセプトはPaladomicsと似ています。しかし、こちらでは動画を逆送りにはしません。そのため、物語自体は前へ進んでいるというイメージです。イメージとしては「123”4“321」「あいうえ“お”えういあ」。


chasm story (交差物語)の一例
水中から顔を出したカエルが一休みしたい、と呟き丘に上がるストーリーです。カエルが「休みたい」と言ってる前後で同じ手話を使っています。でも、「休みたい」手話は一回しか使っておりません。

交差物語のイメージ図
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「休みたい」はここでいうとDにあたります。そのほかの手話がA、B、Cにあたります。

「Hand Shape(手の形)、number(数字) etc」
指文字ABC…や数字123…と、順序に沿って表現するスキルです。
(Andrew Bottoms先生:アルファベットのAからZまでの指文字で表現されています。 http://www.andrewbottoms.com/asl-literature-/the-wxyz-cowboy.html


こちらは、エジプトのピラミッドをテーマに同期のみんなでアイデアを出し合い作り上げた動画です。遠くにある3つのピラミッドに気づき、興味津々で中に入ってみると複数のミイラがいた、というストーリーです。なにか気づきましたか。ちょっと遊んでみました。 実は、わたしの手の形(Hand Shape)を縦軸に、時間を横軸にグラフにしてみると…?(一つ手の形を間違えてしまいました…。)
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「Cinemadgraphy」映像的技法・手話
映画のカメラワークは、いろいろと工夫されていますよね。マトリックスのような役者の周りをぐるっと回るバレットタイムからズームまで基本的なカメラワークがあるかと思います。それを手話で表現するのです。
Best Whiskey in the West (西海岸にある極上のウィスキー: https://vimeo.com/ondemand/bestwhiskeyinthewest)が、映像的技法・手話を使っており、レンタルで1ドル、購入で2ドルほどしますがかなりオススメです。

物語のあらまし:あるカウボーイが西海岸にある極上のウィスキーを求めてバーにやってきました。しかし、そのウィスキーは大変危険なもので、例のウィスキーの名前を聞いただけでバーテンダーや他の客が隠れるほどです。奥の部屋で例のウィスキーを飲めると聞いたカウボーイはそこへ向かうのですが、先に飲んだ者たちは床に倒れているのです。

例えば、ネイティブアメリカンへのズームからカウボーイへとズームが戻る手話技法、靴のズームから上半身へとカメラを移動させるような手話技法、歩いている時のような視線が上下に動く手話技法などが、この動画から発見できます。
理解が難しいですが、何度も見たり他の人と一緒に見たりすることで、いつも新しい発見がある動画で、ぜひみなさんにも見ていただければと思います。
ASL用語も少し出ておりますので、近日中にASL用語の解説動画を追加でアップロードしたいと思います。
以下、動画に出てるASL用語一覧です。
「Best, Whiskey, West, red neck, right, my horse, name, green, girl, run out, where that, god, wrong time」


その他
Eyeth(アイス)
このEarth(地球)はスペルにEar(耳)があるように聴者マジョリティの世界です。一方、Eyethはその逆でEye(目)の人たちの世界、手話の世界というコンセプトです。「もしもEyethという世界があったら…?」というお題で話し合うと楽しいかもしれません。

The End(最後のろう者:https://vimeo.com/24804168)
テクノロジーが普及し、周りが次々と”ろう“を治していく中、タイトル通り自分が最後のろう者になってしまう、という物語です。フランス手話ですが、英語字幕なのでぜひ見てください。




最後に、アメリカの聾学校には「ASLクラス」があります。
アメリカの教育で定められているLinguistic Artの分野では、「何語を教えなければならない」というルールはないため、「英語」と「ASL」をそれぞれ半々にしてクラスを設けているところもあるそうです。時にはASLそのものの文法を学んだり、時には同じ時期に同じ学習目標を設けて英語とASLそれぞれの視点から学ぶこともあります。
今回の「ろう文学とASL伝承」クラスは、「ASLクラス」でろうの子どもたちが幼いごろからろう文学を学べられるように開設されたクラスです。
手話ポエムや手話劇などのろう文学を通して、ろうの子どもたちは手話とは何か、ろうとは何か、究極的には自分は何者なのかを考えられるようになります。

手話はわたしたちの誇るべき言語です。そして、ろうの子どもたちは、彼らの言語を義務教育で学ぶ権利があります。読み書きの橋架けとしてではなく、彼らが自分の言語で読み解き、熟考し、議論し、創造し、表現するためにも。
「日本手話クラス」子どもの頃に受けたかったです。ぜひ近い将来に実現させたいですね。

それでは翌月にまたお会いしましょう。
Posted by 山田 at 07:14 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2019年6月生活記録【第13期生 橋本重人】[2019年07月05日(Fri)]
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マサチューセッツ州にあるボストンからこんにちは。ボストン市内を散策しているときに撮りました。とても美しいですよね。

ワシントンD.C.からAmtrak(公共鉄道)に乗って観光に行きました。ボストンにあるオールドサウス集会場に行ってみたかったことがきっかけです。アメリカ独立戦争の発端となったボストン茶会事件はみなさんもよく知っている出来事です。事件の中心となった建物がその集会場なんです。さっそく入ってみたら、途端にものすごく鳥肌が立ちました。本当にここに5,000人もの人々が集まってイギリスに対抗しようと話し合いを行い、その時彼らはどんな気持ちでいたのだろう、どんな表情でいたのだろうと想像しながら館内を見てまわりました。当時、実際に使われていた椅子や装飾品等が配置されていました。ボストンで二番目に古いその建物に入って、自分の目で見ることができて非常に感激しました。現在は博物館として一般公開されていて、会合、会議、表現活動などに使用されているそうです。
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また、世界4大美術館の一つであるボストン美術館にも行ってみました。収蔵品がとても多く、1日で全部回りきることができません。美術館入り口正面にある銅像は Appeal to the great spirit(ネイティブアメリカンの像)です。58ED73B7-B8BF-44F0-A814-F6AB41AAB998.jpeg


ボストン在住の山田さんに会って、それぞれの大学で学んだことの情報交換をしました。山田さんもろう教育について勉強をしているため、共通する話題がたくさんあり、話がなかなか尽きませんでした。ろう教育の基本的なところは共通していますが、違う観点で話し合うことができてよかったです。留学生活残り一年間でたくさんのことを吸収していこうと約束して別れました。
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さて、6月末にサマークラスを一つ受講しています。
Language and literacy Development for Deaf students with disabilities (ろう重複障害のある学生の言語と読み書き能力の発達)というクラスです。このクラスはテキストが基本となっており、常にそのテキストを読み進めながら、学生同士で議論し合うという進め方です。サマークラスということで、受講生のほとんど(11人/13人)が現役教員でした。


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まだ始まったばかりですが、そのテキストをさらっと読んでみると、それぞれの障害(ADHD、自閉スペクトラム障害、知的障害、感覚障害、外傷性脳損傷など)に合わせて、言語発達やその指導方法の具体的な事例がたくさんありました。このサマークラスでどんなことが得られるかが楽しみです。また次月に報告します。
Posted by 橋本 at 06:46 | 奨学生生活記録 | この記事のURL