2019年6月生活記録【第13期生 山田茉侑】[2019年07月07日(Sun)]
写真は、元ボストン大学生協の建物上にあったCITGOの看板です。ボストンを代表する標識であり、ボストン大学の誇りでもありました。しかし、最近その生協が別の場所に移ったため、ボストン大学とは全く関係ない標識になってしまい、みんなで残念がっていました。
今月は、先月に引き続き「ろう文学とASL伝承」クラスで習った教材案をシェアします。全て手話やろう文化に関するものです。この記事を通して、「なぜろうの子どもたちに日本手話クラスが必要なのか」をみなさんと一緒に考えられたらと思います。
また、大変申し訳ないのですが、今回シェアする動画は、ところどころASLによるものです。ASLもそうですが、日本手話の手話ポエムなどの教材となるものはなかなか入手しにくい現状にあるからです。また、わたし自身がJSLの動画を知らないというのも理由の一つにあります。教育現場で使える動画の保存と共有も今後の課題かと思います。
「Personification」(擬人化)
ASL話者がモップやピンポン球など何か別の物体になりきること。
例えば、ボストン大学教授の1人であるAndrew Bottoms先生は、こちら「Deflowered」という題で、花になりきっています(http://www.andrewbottoms.com/asl-literature-/deflowered.html)。道端に咲いている花が摘まれ、花びらを散らされた後に捨てられるというストーリーです。実は、この動画には別の意味が隠されているそうです。「Deflowered」という単語について調べてみてください。
こちらもあります。さて、何に擬人化しているでしょうか。
「Palindromic」 (回文:前からも後ろからも読める文、動画)
“わたし負けましたわ”など、前からも後ろからも読める回分のほか、最初の文から読むのと最後の文から読むのとでは意味が変わってくる回文(日本語: https://president.jp/articles/-/25936?page=3)などの言葉遊びをASLでやるのです。
動画や手話では、「12345|54321」、もしくは「あいうえお|おえういあ」というふうに、ある点で動画を逆送りにして物語を発展させるイメージです。7分36秒とちょっと長いですが、こちらのような(https://vimeo.com/81151091 音声、手話なし動画のみ)Palindromicのコンセプトを使った動画もあります。関係性の展開の早さに突っ込みを入れたい気持ちが抑えられないのは山々ですが、心なしか最初と最後で表情が違うような気がしませんか。
逆送りにしたときも意味のある手話かどうかが、こちらの教材のキーポイントになります。例えば 「開く/閉じる、補聴器をつける/はずす、花が咲く/しぼむ(もしくは、終わり)」 など。
こちら、Palindromic(回文)の一例です。波紋が広がるあたりから、動画を逆送りにしました。
「Chiasm」交差
こちら、ある点の前後で同じ手話を使うという点では、コンセプトはPaladomicsと似ています。しかし、こちらでは動画を逆送りにはしません。そのため、物語自体は前へ進んでいるというイメージです。イメージとしては「123”4“321」「あいうえ“お”えういあ」。
chasm story (交差物語)の一例
水中から顔を出したカエルが一休みしたい、と呟き丘に上がるストーリーです。カエルが「休みたい」と言ってる前後で同じ手話を使っています。でも、「休みたい」手話は一回しか使っておりません。
交差物語のイメージ図
「休みたい」はここでいうとDにあたります。そのほかの手話がA、B、Cにあたります。
「Hand Shape(手の形)、number(数字) etc」
指文字ABC…や数字123…と、順序に沿って表現するスキルです。
(Andrew Bottoms先生:アルファベットのAからZまでの指文字で表現されています。 http://www.andrewbottoms.com/asl-literature-/the-wxyz-cowboy.html)
こちらは、エジプトのピラミッドをテーマに同期のみんなでアイデアを出し合い作り上げた動画です。遠くにある3つのピラミッドに気づき、興味津々で中に入ってみると複数のミイラがいた、というストーリーです。なにか気づきましたか。ちょっと遊んでみました。 実は、わたしの手の形(Hand Shape)を縦軸に、時間を横軸にグラフにしてみると…?(一つ手の形を間違えてしまいました…。)
「Cinemadgraphy」映像的技法・手話
映画のカメラワークは、いろいろと工夫されていますよね。マトリックスのような役者の周りをぐるっと回るバレットタイムからズームまで基本的なカメラワークがあるかと思います。それを手話で表現するのです。
Best Whiskey in the West (西海岸にある極上のウィスキー: https://vimeo.com/ondemand/bestwhiskeyinthewest)が、映像的技法・手話を使っており、レンタルで1ドル、購入で2ドルほどしますがかなりオススメです。
物語のあらまし:あるカウボーイが西海岸にある極上のウィスキーを求めてバーにやってきました。しかし、そのウィスキーは大変危険なもので、例のウィスキーの名前を聞いただけでバーテンダーや他の客が隠れるほどです。奥の部屋で例のウィスキーを飲めると聞いたカウボーイはそこへ向かうのですが、先に飲んだ者たちは床に倒れているのです。
例えば、ネイティブアメリカンへのズームからカウボーイへとズームが戻る手話技法、靴のズームから上半身へとカメラを移動させるような手話技法、歩いている時のような視線が上下に動く手話技法などが、この動画から発見できます。
理解が難しいですが、何度も見たり他の人と一緒に見たりすることで、いつも新しい発見がある動画で、ぜひみなさんにも見ていただければと思います。
ASL用語も少し出ておりますので、近日中にASL用語の解説動画を追加でアップロードしたいと思います。
以下、動画に出てるASL用語一覧です。
「Best, Whiskey, West, red neck, right, my horse, name, green, girl, run out, where that, god, wrong time」
その他
Eyeth(アイス)
このEarth(地球)はスペルにEar(耳)があるように聴者マジョリティの世界です。一方、Eyethはその逆でEye(目)の人たちの世界、手話の世界というコンセプトです。「もしもEyethという世界があったら…?」というお題で話し合うと楽しいかもしれません。
The End(最後のろう者:https://vimeo.com/24804168)
テクノロジーが普及し、周りが次々と”ろう“を治していく中、タイトル通り自分が最後のろう者になってしまう、という物語です。フランス手話ですが、英語字幕なのでぜひ見てください。
最後に、アメリカの聾学校には「ASLクラス」があります。
アメリカの教育で定められているLinguistic Artの分野では、「何語を教えなければならない」というルールはないため、「英語」と「ASL」をそれぞれ半々にしてクラスを設けているところもあるそうです。時にはASLそのものの文法を学んだり、時には同じ時期に同じ学習目標を設けて英語とASLそれぞれの視点から学ぶこともあります。
今回の「ろう文学とASL伝承」クラスは、「ASLクラス」でろうの子どもたちが幼いごろからろう文学を学べられるように開設されたクラスです。
手話ポエムや手話劇などのろう文学を通して、ろうの子どもたちは手話とは何か、ろうとは何か、究極的には自分は何者なのかを考えられるようになります。
手話はわたしたちの誇るべき言語です。そして、ろうの子どもたちは、彼らの言語を義務教育で学ぶ権利があります。読み書きの橋架けとしてではなく、彼らが自分の言語で読み解き、熟考し、議論し、創造し、表現するためにも。
「日本手話クラス」子どもの頃に受けたかったです。ぜひ近い将来に実現させたいですね。
それでは翌月にまたお会いしましょう。