雪の降らない、けれど−16度の世界を経験するなど、生まれて初めての極寒地での生活は、新しい人間関係とともに始まりました。今回お世話になる実習先のHorace Mann School for the Deafは、子どもたちも先生たちもみなユニークです。教員用の休憩室の壁にはこんなコメントが…。

何かと思ってよく見てみると、

先生はだいたいこんな風になる(上段)。
時計の針を戻して冬休みの初めに戻してくれないか(下段)?

誰が教職がストレスだらけというの(上段)?
わたし39歳よ。気分はとてもいいわ(下段)!

そうです。こちらの写真は、今学期からお世話になる実習先のHorace Mann School for the Deaf (HMS)です。アメリカで初めて建立された公立ろう学校で、かつ全米初の寮のないろう学校でもあります。
実は昔、こちらの学校はアメリカの中でも強固な口話主義でした。それがトータルコミュニケーション(生徒一人一人に合わせたコミュニケーションを追求する教育方針、例えばある生徒には手話を、ある生徒には口話で話す、など)に代わり、約2年前に校長が変わったことをきっかけにバイリンガル教育を軸とした教育方針に変わったそうです。まだまだ一部のクラスでは主に声が使われていたり、生徒同士の「わからない。声を消して手話だけで話して。」という言葉がけもありますが、パワフルな校長とともに徐々に、それもしっかり変わっていくだろうと想像します。
さて、実習について、今回は中学部2年生のクラスにお世話になることになりました。他クラスの生徒による授業妨害や、喧嘩、いたずらで非常ベルが鳴り響くなど、毎日なにかがある慌ただしい日々ですが、若返った気持ちになります。乳幼児教育相談や幼稚部は、昨年度新設したばかりでまだ安定していないため配属が難しいとのことでした。見学の機会をいただき行ってみると、たくさんのろうの先生が乳幼児教育相談に遊びに来ていた様を見たときは、みんな同じ気持ちなんだなあとホッコリしました。子ども4人に対して大人が11人もいたのはとてもおもしろかったです。みんな、ろうの子どもたちがとてもかわいいんですね。
今月は、今学期に受講するクラスをいくつか紹介したいと思います。
今学期は5つのクラスと、教育実習を同時進行でこなすことになりました。
・American Sign Language Structure
・Pre-Practicum: Initial Strategies
・Teaching English to Deaf Children
・Elementary Math 2
・Advanced Language and the Deaf Child
American Sign Language Structure (アメリカ手話の構造:ナオミ先生)
こちら、とても難しいですが、言語の構造について深く掘り下げながら学ぶ授業です。ASLだけではなくJSL、英語、スペイン語など他の言語についても考えながら、全ての基礎となるもの、言語ってなんだろうと考えながら授業を受けております。
Teaching English to Deaf Children (ろう児童生徒の第2言語としての英語教育:トッド先生)
前学期の「Psychology and the Deaf World」「Instruction Strategy」に引き続き、今学期も大好きなトッド先生のクラスがあり、これからの15週間がとても楽しみです。
先週読んだ論文によると、バイリンガルで育った子どもの語彙数は、一見モノリンガルの子どもよりも少なくみえて、実は2つの言語の語彙数を合わせると、モノリンガルの子どもと同じぐらいあることが証明されているそうです。つまり、子どもたちの言語脳はどんなときも学び育ち続けるのです。バイリンガルで育てると、他の子より言語面で遅れているように見える、どちらの言語も中途半端になるのでは…と心配になってしまうこともあると思いますが、見方を変えるとおもしろいですね。
さて、初回の授業でどのようにろうの子どもたちに英語を教えるかの全体的観点を見ました。
全ての本の60%に共通する語彙2000語を叩き込む、2つの意味を持つ文に慣れる (I am Mayu, He runs, Sushi is delicious, etc)、3-4つの意味を持つ文に慣れる(I like it, The rabbit ate a carrot, etc)など…順を追って英語を教えていくそうです。
バイリンガルは魔法ではなく…
その教育方針こそ最も書き言葉と向き合わなければならないものだなと思いました。この講義を受けて、早急に日本語の文法書を買わなくてはと思うようになりました。
※2, 3-4の意味を持つ文… am, is, the, a, 前置詞などそれだけでは抽象的な意味のものは語彙数としてカウントされません。
Advanced Language and the Deaf Child (言語とろう児童生徒:パトリック先生)
誇張ではなく、こちらの先生の手話、とても美しいです。熱々のパンにバターがなめらかに溶けていくように、スッと手話が頭に入ってきます。
こちらのクラスの先生、パトリック先生の本当の姿は、学校教員なのです。昼間はHorace Mann Schoolで指導をし、木曜の夜は大学まできて講義をしてくださるのです。発言や話し合い活動の組み入れ方がとても上手く、普段なかなか発言できない人でも発言しやすい雰囲気になっております。
そんな先生から、毎回名言または教義がポロッと出てきます。
例えば、疑問があったらまず先生に聞くのではなく、
「1に友達に聞く、2に身の回りにあるもので知ろうとする、3に先生に聞く。」
なぜなら、昼夜トイレシャワーまで先生は付き添うことができません。先生というリソースが使えるときは使いこなし、自分で答えを導き出せるよう自立することも推奨しているのです。
先週はLearning Environment(学習環境)について学びました。
2つクイズです。
1)もしもクラスを担当した場合、どれくらい壁に紙を掲示しますか。
壁の上から下まで膨大な紙が掲示されていると、子どもの頭には入りません。それは参観客の好感を買うための掲示になってしまいます。
2)授業中、足を椅子につけて座っている、姿勢の悪い子にどう言葉がけをしますか。
子どもは、「NO!ちゃんと座りなさい。」というように「NO」にますます反抗します。「 手話が見えないよ」という言葉がけには、わかった、と姿勢良くしてくれるかもしれません。
最後に…
ボストン大学の先生は、本当に大好きな方ばかりです。今学期もハードなスケジュールになりそうですが、学べるだけ学び倒し、入手した情報をみなさんに伝えていきたいと思います。
ボストン大学の授業料はとても高いです。そして、それに見合う、いや、それ以上に素晴らしい授業がなされております。そこで学び取ったものを、もっとみなさんに分かりやすく伝えるためにはどうすればいいか、悩んでおります。何か感じたことなどありましたら、ヒントを頂けますと嬉しいです。
それでは、翌月にまたお会いしましょう。