ただいま、日本、関西!
先日、6月28日、トロントでの約6週間のLGBTQ研修を終え、無事、日本に帰国しました。トロントでの研修は、人生の中でとても大きな学びとなり、多くろうLGBTQから数え切れないほどのエンパワメントをいただくことができました。
約1ヶ月半のトロント研修では、ライアソン大学での”Deaf Queer Culture”というクラスを週2回6時間、Ontario Association of the Deaf(オンタリオ州ろう協会)、Deaf Outreach Program(ろう者のためのHIV/AIDS理解を進めるプログラム)での研修を週二回受けながら、ろうLGBTQ/ 聴者LGBTQのイベントに積極的に参加したりしました。
Deaf Queer Culture クラスではろうLGBTQに関する様々な論文を読んでディスカッションをしたり、Queer手話の開発、ろうLGBTQとソーシャルメディアの関連性など、アメリカとは違う視点で学ぶことができました。Evan Hibbard先生のクラスですが、彼はろうトランスジェンダー、Ph.D(博士号)としてDeaf Queer Cultureを長年、研究されています。また、今年8月からCalifornia State University, Sacramento(カリフォルニア州立大学サクラメント校)で教鞭を取ることになり、彼のクラスを受けられたのはラッキーだと思っています。

(クラスの様子)

(Evan先生を囲んで、クラスメイトたちと)
また、Deaf Outreach Programはろう者のためのHIV/AIDS理解、啓発をするプログラムです。1980年代は「エイズパニック」という言葉があったように、大流行したHIV/AIDSによって、多くのLGBTQが亡くなりました。もちろん、ろうLGBTQコミュニティーにも大きな衝撃を受け、多くのろうLGBTQコミュニティーリーダーがこの病気によって亡くなられたそうです。そのような背景には、聴者LGBTQ中心のサポートシステム、音声英語/書記英語のみの情報提供、Safer Sex(安全なセックス)などの視覚的情報の乏しさなどがあげられています。

(Deaf Outreach Programのオフィスに展示されているHIV/AIDSのデフアート)

(1980年代から1990年代まで発行されていた、ろう者のためのHIV/AIDS啓発パンフ)
そこで、Deaf Outreach Programは1987年にACT(AIDS Committee of Toronto; トロントエイズ委員会 http://www.actoronto.org)からの助成により設立されました。
元々、ACTの傘下にあったのですが、聴者中心のサポートシステムではろう者の価値観や習慣に合わず、サポートがスムーズではなかったそうです。そこで、ACTからの助成を受けながら、オンタリオ州ろう協会の下でプログラムを進めるようになったとのことです。
ろう協会の中でそのようなプログラムがあるというのは珍しく、素晴らしいことだと思います。実に30年以上の活動実績を持っているプログラムですが、現在、そこのフルタイム職員であるCarisle Robinson氏(カーライル・ロビンソン)はTrans masculine(男性的なトランスジェンダー)で、Ontario Rinbow Alliance of the Deaf の副代表、2011年にギャロデット大学を卒業されています。

(People of ColorとLGBTQフラッグを編集している様子、オフイスにて)
彼はアメリカ人ですが、大学院で漫画学科を卒業し、昨年8月、アメリカからカナダに越してきました。彼自身のビジュアルアートスキルを活かし、ろうコミュニティーの価値観に合ったHIV/AIDSに関する情報を精力的に発信されています。また、彼は27歳と若いのですが、とても頭脳明瞭で、ORADとしてPride Torornto2017との調整役も担当されていました。今後のトロントのろうLGBTQコミュニティーで彼なしではやっていけないだろうとも囁かれているほどの実力者です。私は彼から多くのことを学び、今ではロールモデルの一人となっています。

(中央がカーライルさん、右端がとても仲良くなったフランス人のルームメイト、Carineさん)
そして、そのような研修だけでなく、様々なLGBTQ関連の会議にも参加してきました。6月5日から9日の5日間、LGBTQ+ Service Providers Summit(LGBTQサービス提供者のためのサミット)という会議にも参加しましたが、トロントより電車で5時間ほどのところにある、カナダ北部、Ottawa(オタワ)というところで開催されていました。

私はカーライルさんと一緒に参加しましたが、彼もパネルディスカッションでろうLGBTQコミュニティーにおけるHIV/AIDS支援について発表されていました。彼はろう者の価値観に合ったHIV/AIDSサポートシステム、コミュニケーションアクセスの開発が重要課題だと話されていました。

(発言しているカーライル氏、向かい側にいるのが通訳者)
私自身、カナダで多くのイベントに参加しましたが、どのイベントでも最初にindigenous opening(先住民族に対する尊厳オープニング)が実施されていました。これは、1600年代、ヨーロッパ諸国によるカナダへの植民地化によって、多くのインディアン先住民が土地や文化を奪われたり、虐殺されました。そのような背景を汲んで、カナダではイベントを実施する際に最初にインディアン先住民への尊厳のメッセージを送るようになったといわれています。

(インディアン先住民の歌をうたっている様子)
また、6月はPride month(プライド月間)といわれていて、LGBTQなどの性的マイノリティーの人権を訴えたり、LGBTQコミュニティーの連帯を図るなど、さまざまなイベントが毎日のように開催されます。私自身も、さまざまなイベントに参加したりしたのですが、その中からいくつか紹介したいと思っています。
Metropolitan Community Church(メトロポリタン・コミュニティ・チャーチ/ トロント)

MCCは30年以上前からLGBTQの教会としてトロントで重要な役割を果たしているそうです。カトリック系の教会ですが他の伝統的なところに比べると、ミサの内容はとてもいきいきしていて、賑やかで、そうした点も人気の一つだそうです。LGBTQのための教会ですが、多くの異性愛者も参加されています。ミサは毎週日曜日に午前9時と11時、午後7時の3回行われるそうで、11時の回が一番人が多く、特に政治家や有名人がゲストスピーカーでいらっしゃる時は200人以上参加されるそうです。
多くのゲイカップルやレズビアンカップルが子どもを連れてきていました。トロントの教会の多くが看板にレインボーステッカーが貼っているのをよく見かけるのですが、それはLGBTQフレンドリーを意味していて、それでも伝統的な教会で疎外感を感じている人、まだまだLGBTQに排他的なことを言う牧師がいるからだとトランスの友達が教えてくれました。そのような中、MCCの役割は重要で、最近はFaceBookでミサの中継をするようになり、世界中の人がこのミサのライブ中継を見ているとも教えてくれました。

(トランスフラッグを羽織っているのがMCCの牧師さん、右端が手話通訳者)
また、友達いわく、MCCは教会としてLGBTへの取り組みをたくさん実施されているそうです。例えば、教会の地下ではPink Triangle Program(ピンクトライアングルプログラム)という高校卒業資格が得られるフリースクールを運営されており、普通高校で生きづらい思いをしているLGBTQの子どもたちが利用しているそうです。アフリカや中東など、LGBTQであることで命に危険があるような国からの移民してくる人たちにスポンサーをさがしたり住むところを提供したり、英語クラスの手配をしたりなど支援する移民支援プログラムも実施しているそうです。
友達は教会に参加することで、コミュニティー、信仰心(精神的安定)、価値観の共有、行動規範、ピアグループ、日常的習慣など、人が社会的動物して暮らす上で必要なものをうまく総合的に提供してくれていると言っていました。また、定期的な活動に参加することで、人間関係が広がり、コミュニティに属している帰属感が得られ、何か困ったことがあればそのネットワークで解決し、精神的な安定を得られると感じるようになったとのことです。
Toronto LGBTQ Firm Festival

プライド月間に合わせて、LGBTQに関連した多くの興味深い映画が上映されていました。
Pink Market(ピンクマーケット)
Queer(クィア)な人たちによる手作り市みたいな感じで、さまざまな商品が売られていました。私自身、乳首にピアスをしたモチーフのピンパッジを購入しました。


(さまざまな身体をした人形とディルドたち)

(Pride Monthに合わせてトロント市内を走る虹色バス、すてきですね!)
そして、6月23〜25日は大本番のパレードです!
6月23日はTrans Marchといってトランスジェンダー/ non binaryの人たちのためのパレード、24日はレズビアン、ダイクの人たちのためのパレード、25日は世界最大のLGBTQ総合パレードが開催されました。
25日はカナダの首相も家族総出でパレードに参加されていました。今年は100万人以上がトロントに集結したそうです。私自身、23日のトランスパレードに参加したのですが、実は人生で初めて車椅子でパレードを歩きました。


(トランス/People of Colorの人たちのグループ)

(牧谷奨学生もロチェスターから駆けつけてくれました!)

(ろうトランスジェンダー/ Non Binaryの人たちと)
そして、現在、私自身、トロントで生活している、ろうトランスジェンダー/ Non Binaryの人たちを中心に彼らのライフストーリーをインタビューするプロジェクトを進めています。
5名のろうトランスジェンダー/ Non Binaryの人たちがインタビュー撮影に快く応じてくれ、撮影した映像記録を編集中です。その記録をもとに、日本のろうトランスジェンダー/ Non Binaryの人たちとの共通点や相違点などをリサーチ、必要な支援について考えていきたいです。
そして、特にろう/聴者トランスコミュニティー、そして、ろうLGBTQ/ 聴者LGBTQコミュニティーにも発信していきたいと思っています。


(インタビューに応じてくれた日系カナダ人/ろうトランス女性のAyaさんと)
二年間に及ぶ、留学生活についてあたたかくサポートしてくださった日本財団、日本ASL協会、そして精神的にサポートしてくださった夫の諒さんに心よりお礼を申し上げます。
帰国後が、本当のチャレンジだと思っています。
引き続き、精進してまいりますので、よろしくお願いいたします。
第11期奨学生 山本芙由美

(関空で迎えに来てくれた夫の諒さんと)