こんにちは!第11期生の山本芙由美です。ようやく陽射しも暖かくなり、少しずつ春らしくなってきました。
春学期から、Deaf Studies(ろう者学)を3クラス履修していますが、どのクラスでもCarolyn McCaskill 先生という黒人のろう女性から教わっています。彼女は黒人ろう女性で初めてPh.D(博士号)を取った人で、長年、黒人ろうコミュニティーや黒人ASLを研究、本なども出版されています。私が履修している彼女のクラスは「Introduction Deaf Studies」(ろう者学入門)、「Black Deaf people’s Studies」(黒人ろう者学)、「Dynamics of Oppression」(抑圧の力動学)ですが、どのクラスも黒人や有色人種の学生が多く、ブライペートな部分、ディープな部分を聞くこともあり、ディスカッションによって私自身、落ち込むこともありました。私はこれまで日本でセクシャリティーを専門として活動してきましたが、日本で「肌の色」について差別や抑圧を受けた経験がありません。そのため、彼らと同じ目線で考えたり、意見を言うのに限界があり、私自身の「単一民族国家、日本人」としての特権に向かい合わなければならなくなったからです。
今の社会構造は「肌の色」もそうですが、見た目などで大多数が考える「ふつう」とちがうと判断されたものは抑圧の対象となりがちです。少数者コミュニティーである、ろう社会にもそのような人種差別やLGBTQ、トランスジェンダーへの差別(Trans phobia)などがあります。
実際、先日ギャロデット大学にもそのような事件が起こりました。トランスの人たちのためのAll Gender Restroom(全てのジェンダーのためのトイレ)の看板が誰かに3度も外されてしまいました。このような出来事を機に、多くのトランスの学生やスタッフたちは安心してトイレに行けなくなり、ボランティアに付き添そわれながらトイレに入らなければならなくなりました。それは、トイレという密室で誰かに暴力を振るわれるのではないかと恐れているからです。
一週間後、学長Bobbi氏が二度とこういったことが起こらないように、と説明した動画を発信しましたが、それまでの間、学内にあるLGBTQA Resource CenterのCara Millerさんがトランス学生の対応や緊急ミーティングを設定するなど、とても精力的に動いていました。
(学長Bobi氏の手話動画)
(Alex Leffer氏とCara Miller氏の手話動画)
改めて、アメリカには本当にさまざまな人たちが暮らしている国です。植民・抑圧の歴史からもわかるように、Privilege(特権)を持った人たちがそうではない人たちに対して抑圧し、そうでない人も自分より弱い立場の人たちを抑圧することがあります。そのような構造の悪循環はとどまるところを知らず、さまざまな「抑圧」が融合したり分裂したりと細分化するようになっているのです。ある日、白人の友達とお話をしていたら、有色人種の友達から「あなたは白人の特権にしがみついている」と言われ、目から鱗、びっくりしたことがありました。それがアメリカの現実なのであって、私は日々そのようなことと向き合いながら、今、自分にできることは何だろうと考えています。
そして、春休みは一週間ほどニューヨークに行ってきました。到着2日後には大雪に見舞われてしまいましたが、雪の降るニューヨークも素敵でした。先日、1月度の生活記録でも報告しましたが、全米LGBTQ会議でお会いしたアジア太平洋系の活動家たちとの繋がりによってAPIA Rainbow parents of PLFLAG NYC(アジア環太平洋系LGBTQの家族や友達が主体となった団体)で「Developing and Supporting of the Deaf Japanese LGBTQ Community」(日本ろうLGBTQコミュニティーにおける開発と支援)についてレクチャーさせていただきました。
日本でもそうですが、ほとんどの親、家族は子どもがLGBTQだった時に、受容するまでのプロセスがあります。それは社会構造がヘテロセクシズム(異性愛主義)であるように、LGBTQ当事者の家族としてのロールモデルが可視化される機会が非常に少ないからです。そのようなことも含めて、この団体はLGBTQ への差別をなくし平等な社会の実現を目指すアドボカシー活動を進めながら、LGBT の子どもをもつ親を中心とした、LGBT の家族、友人のためのサポートミーティングを定期的に開催しています。
また、New York University LGBTQ student center(ニューヨーク大学LGBTQ学生センター)にも訪問しました。そこは LGBTQ の学生に対するサポートを行って いる大学内の公的組織です。大学に対してLGBTQフレンドリーな環境にするための働きかけをしたり、LGBTQ学生のためのセーフスペース(ネットサービス、リラックスルーム)などが常備されています。ろうLGBTQ学生に対しては、障害学生サポートセンターとの連携を図りながら支援を進めているとのことでした。学内のさまざまなデパートメントとも連携を図るHub Centerとしての機能も併せ持っていて、全米で一番サポート制度が充実しているLGBTQ学生センターだと説明されていました。
(コーディネーターのLucasさんいわく「学外のLGBTQ団体との連携が重要だ」と。)
(LGBTQに関連した本の配架、コーヒー・紅茶サービスなども提供されています)
そして、Rainbow Heights Clubという、アメリカはもちろん、世界で一つしかないメンタルヘルスのサポートが必要な LGBTQ向けに、様々なピアサポートプ ログラムを提供しているデイケアセンターにも訪問しました。利用者は500名ほどですが、一日約40名ほどが利用されているそうです。このセンターは、16年前に同じ建物の別の階にある精神科のクリニックが補助金を受けて開設したもので、現在もそのクリニックと連携をしながら様々なサービスを提供しています。利用者のみなさんと交流をしたり、晩御飯を一緒に楽しみましたが、皆さん口を揃えて「ここが私たちの家です」とおしゃっていました。
ここGLESENは全米で5000ヶ所もあるLGBTQ中高校生のクラブ活動GSA(Gay-Straight Alliance)をリードしたり、LGBTQ関連の教材開発や提供をしている団体です。研究員Josephさんの話によると全て個人寄付・企業団体寄付によって運営されているとのことです。私たちが作ったろうLGBTサポートブックをお渡し、ろうLGBTQのための教材開発も視野に入れて欲しいとお願いしました。
(GLSEN研究員のJosephさん、少しASLができるとのことでした)
最後にGay Parent Magazineの編集部にも行きましたが、そこは1998年から現在、子育てをしている/将来子育てをしたいLGBTQファミリーのために作られた情報誌を刊行しています。雑誌の内容は、LGBT当事者で子育てをしている人へのインタビューなどが主で、LGBT子育てに関する話題や、LGBTフレンドリーな学校の紹介なども掲載されています。編集長のAngeline Acain氏は20年前、中国から娘を養子として引き取り、育ててきましたが、そのようなことが雑誌を作るきっかけとなったそうです。娘のJianaさんは高校時代ASLクラスを取っていたため、私の通訳として大活躍してくれました。
(私の右隣が編集長のAngeline氏、左隣が娘のJianaさん、左端がいつもお世話になっているはるくさん)
ニューヨークの旅はまだまだ続きますが、続きは4月生活記録にも書きたいと思っています。それでは、また
