春学期がスタートして1ヶ月過ぎました。ここワシントンDCでは日々の気温差が激しく雪が降り始めたと思ったらすぐ快晴で、不思議な感じです。
さて、本来、1月の生活記録で報告すべきことなのですが、1月20日〜22日までの3日間、フィラデルフィアで開催された全米のLGBTQ関係者が集まる大きな会議 Creating Change Conference 2017(主催;LGBTQ Force Task)に参加してきました。

Creating Change ConferenceのHP
https://www.creatingchange.org
(会議のプログラムブック全155ページ、多くの企業からのサポートが目立っていました)
この会議は全5日間でワークッショップが250超、参加者が4000人超、というように全米で一番大きな会議といわれています。今年で29回目だそうですが、全米からLGBTQ当事者、アクティビスト、研究者、団体組織関係者などが集まって、LGBTQに関連した多様なプレゼンテーション、ワークショップを実施します。
ワークショップは、それぞれ初級、中級、上級、だれでも参加可能の4つのレベルに分かれていて、選ぶのに大変迷いましたが、日本でも活用できそうな内容を優先して選びました。ろうLGBTQからも何人かが発表されていました。
私が参加したワークショップは以下の通りです。
「Closing the Gaps; HIV prevention With the Deaf communities」
(ギャップを無くそう;ろうコミュニティーとHIV予防)
「What’s It take? Living and Loving in Long term Relationships」
(長期的なパートナー関係を築くためにはどうやって?)
「Hanging Out & Hooking Up in Trans* Communities」
(トランスコミュニティーで何かやろうよ)
「Low Spoons*, Full Heart: Navigating Relationships with Chronic Illness/ Disability」
(少量のスプーン、フルハート:慢性疾患/障害とナビゲートの関係)
「Inclusive Movement Building: Deaf LGBTQ Solidarity」
(建設的な運動を含むために:ろうLGBTQの連帯)
「But I am Queer! What does Disability Have to Do With it?」
(でも、私はクイアです! 障害を何とかしなくちゃいけない?)
「We Define Family! Stories of Alternative Family Models」
(私たちの家族定義!代替ファミリーモデルのストーリー)
「Two spirits, One Heart」
(二つの精神、一つのハート)
タイトルから分かるように、どれも大変興味深いワークショップでした。
NQAPIA(The National Queer Asian Pacific Islander Alliance)というアジア系の集まりにも参加しました。そこで、Marsha Aizumiさんとお会いしました。彼女は日系アメリカ人でトランスジェンダーの子どもを持つ母親です。彼女はアジア系アメリカ人のLGBTQ親の会で活動していて、興味深いメッセージ動画を発信しています。また、彼女はトランスジェンダーの子どもとの経験を通して書いた本を出版しています。

(Aiden Takeo AizumiさんとMarsha Aizumiさん)
https://www.youtube.com/watch?v=JZ-2mnp0s94(Marshaさんへのメッセージ動画、日本語字幕あり)
また、ろうトランスジェンダー活動家のひとり、Drago Renteria氏(生活記録2016年6月号参照)もサンフランシスコから参加され、「今すぐサンフランシスコに戻ってきてくれ!」などと嬉しい言葉をかけてくださり、約8ヶ月ぶりの感慨深い再会を果たすことができました。

(子ども向けの多様な性を題材とした絵本もたくさん売られていました)

トイレも一般的な「All Gender Restroom」ではなく、「Gender Inclusive Restroom」と表示されていました。一つの単語が違うだけで、トイレの概念自体も大きく変わってしまうものなんだなと感じました。切り抜かれた”Inclusive”を貼り付けているところがシンプルでかっこいいと思いました。
私自身、大学のクラスの関係で、3日間しか参加できませんでしたが、ろうLGBTQに対する情報保障がきっちりと用意されていて、ろうの参加者1名に対して2名のASL通訳者が付いて一緒に回るスタイルでした。途中で他のワークショップに変えることも可能です。私自身のこれまでの経験で、一度決めたら、ずっとその場所にいなければならないという拘束スタイルが多かったので、とても自由で新鮮でした。
大会のための情報保障で精力的に動いてくださったTamarさんは聴者でギャロデット大学院の通訳学部を卒業された方でした。日本ではLGBTQ関連の大会でなかなか情報保障がなされていないところが多いので、彼女のコーディネートの方法には参考になりました。


(ろうLGBTQのためのアクセシビリティールーム、ここで通訳内容などのフィードバックや、待ち合わせ場所として使われるなど多機能でした)

(プログラムブックの拡大文字版も用意されていました)
大会終了後、ろうLGBTQ当事者たちとASL通訳者を囲んでの反省会というものに参加しましたが、とても活発なフィードバックがなされていました。一番印象に残ったのは、参加者の一人が、Color(有色)で同じColorの人を通訳者として付いてほしいという意見でした。また同じセクシャリティーの通訳者も付いてほしいという意見もありました。アメリカではインターセクショナリティーが重要視されていて、気持ちよく通訳を受けたい!という権利がはっきり主張されていました。
大会全体が一方的なものではなく、多様な立場の人たちと一緒に作り上げていこうという雰囲気があって、とてもエンパワメントを感じました。
今大会の反省点として、白人の通訳者が圧倒的に多かったので、Color+LGBTQの通訳者を増やしていこうということになりました。来年はワシントンDCで開催されます、最後に皆さんと大きなハグを交わしながらバイバイしました。

(ろうLGBTQA当事者、ろうLGBTQアクティビスト、ASL通訳者たちと)
さて、春学期で履修しているクラスは以下の通りです。
【DST 101】Introduction to Deaf Studies (ろう者学入門)
ろう者学部のクラスです。「ろう」や手話が人間の多様性においてどのような側面から不可欠なのかを学ぶクラスです。社会的、文化的、時間的な視点から、ろう社会がどのように変化、そして多様性に対応してきたかを理解することが可能となります。
【DST 301】Dynamics of Oppression(抑圧の動力学)
ろう者学部のクラスです。様々な文化やコミュニティーにおいて、様々な形の「抑圧」について学びます。また、ろうコミュニティー内での「抑圧」についても検証、議論をするクラスです。これらの「抑圧」には、Raisism(人種差別)、Sexism(性差別)、Heterosism(異性愛主義)、有能主義、Agesism(年齢主義)、自言語自文化主義、聴覚口話主義などがあります。また「抑圧」の構造について理解し、識別するためのトレーニングも受ける予定です。
【DST 401】Black Deaf People’s Studies(黒人ろう者学)
これもろう者学部のクラスです。アメリカ黒人ろう者の歴史、教育、文化、コミュニティー、言語、心理的社会的な動きについて焦点を当てています。このクラスを受け持っているキャロライン先生自身も黒人で、黒人ろうコミュニティーで使われているASLについて専門的に研究していて、それらに関する本を出版しています。黒人ASLが一般的なASLとどう異なっているのかを学び、ろうLGBTQコミュニティーで使われている独特な手話単語を分析するための手立てとして学ぶことができるかもしれません。
【SWK 495】LGBT Studies(LGBT学)
ソーシャルワーク学部で初めて立ち上げられたLGBTQを専門的に学ぶクラスです。LGBTQに関連した書籍や文学、記事、映画、ワークショップを通して彼らの文化やコミュニティーについて学びます。また、多くのろう/聴者LGBTアクティビストや研究者たちをゲストスピーカーとして招き、お話が聞けるのも、このクラスの魅力です。LGBTQそれぞれの個人的経験も共有しながら、インターセクショナリティー(交差)理解に向けて取り組みます。Human Sexuality training programも組み入られていて、それぞれのスキルアップを目指すことができます。
【GSR 230】Human Sexuality Research in Deaf Community(ろうコミュニティにおける人間のセクシャリティー研究)
さまざまなセクシャリティー研究方法論を学びながら、ろうコミュニティーにおけるセクシャリティーについて研究するクラスです。研究にはろう者/難聴者の性自認や性指向について、ろうLGBTQに関する文献分析、ろう者への性教育、ろうコミュニティーにおける性への肯定的なアプローチ、ろうコミュニティーにおける性暴力/性的虐待、性への健康問題などがあります。毎週土曜日、午後1時から5時までの長時間クラスですが、LGBTQ当事者のろう学生が多く、それぞれが関心を寄せるトピックは様々で、いつも熱い議論が交わされています。現在、セクシャリティーに関する研究のIV(独立因子)DV(依存因子)の分析について学んでいます。リサーチの方法は多種多様ですが「Deaf friendly reserch」は大変参考になっています。
それでは、また。