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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2020年8月生活記録【第16期生 皆川愛】[2020年09月08日(Tue)]
在住のワシントンDCでは、が心地よく、秋の訪れを感じさせます。

今月はデフエコシステム “Deaf ecosystem”についてです。

9月4日にモッゼリア “MOZZERIA”の第二店舗がワシントンDC、
ギャロデット大学から徒歩10分ほどの場所にオープンしました。
IMG_2249.JPG

全てのスタッフはアメリカ手話に堪能なろう者によって構成されています。
店内の様子はこちら(現在はオンラインでの事前オーダー制によるテイクアウトのみとなっています)


なお、これまではカリフォルニア州のサンフランシスコにのみ店舗を構えており、
先日ろうコミュニケーション “Communication for the Deaf(CSD)”という会社の助成もあって、第二店舗が設立されました。

これまでろうコミュニティには発掘されていない様々な優秀な人材や資源があります。
しかし、聴者マジョリティ社会ではアクセシビリティや雇用主のろうに対する姿勢や理解不足によってなかなか就労を継続できなかったり、
ろう者が起業しようにも、サポートが得られずに継続を断念したりするケースがたくさんありました。

そこで、メリーランド州政策ろう・難聴部門の取締役がデフエコシステム "Deaf ecosystem"を提唱しました。
The Malyland governor's office of the deaf and hard of hearing, 2017)

モッゼリアの第二店舗の開業のためにろう者が運営するCSDが助成したように、
新規企業における助成をろうコミュニティの中で既にある資源が支援し合う仕組みを「デフエコシステム」といいます。
こうした持続可能な起業環境によって、安定した企業経営が確保され、ろう者の雇用を保障にもつながります。
さらに、ろう主導ビジネスがお互いの商品やアイデアを購買し、経営持続に貢献するシステムも見られます。
例えば、モッゼリアのパッケージのロゴは、デフアーティストのデビッド氏 “David Call”によって作成されたものです。
IMG_2252.JPG

手話スタバでも店内の壁アートはデフアーティスのものを採用しておりました。
IMG_7740 2.JPG

ろうのビール醸造所のバーの看板も同様にデフアーティストによるものです。
IMG_3994.JPG


そして、これは経済的基盤を形成するだけでなく、ろう者によるサービス提供によって、
顧客も新たなコミュニケーション方法や文化を学び
ろう者への理解を深めるという社会的影響力の増強にも繋がります。

例えば、手話スタバでは、商品が用意できると、電子掲示板に注文時のお名前が表示されます(写真は個人情報の観点からお名前をぼかしています)。
IMG_3671.PNG


ろう者の雇用や、ろう者の視点のシステム構築のメリットに社会全体が気づくことで、
ほかの場面でもろう者の雇用を促進するという相乗効果が期待できます。
このように、経済的基盤、社会的基盤どちらにも相乗効果が期待できるというものです。

以下では、ワシントンDC付近にあるろう主導のビジネスを紹介します。

MOZZERIA:ナポリピザのお店(サンフランシスコとワシントンDC)
https://mozzeria.com/

Streetcar 82 Brewing:ビール醸造所とバー(メリーランド)
https://www.streetcar82brewing.com/

Star Buck Signing Store:米国初の手話スタバ(ワシントンDC)
https://www.starbucks.com/store-locator/store/1009470/6th-h-625-h-street-washington-dc-200025094-us

パンデミック下で海外旅行はまだ厳しい情勢が続いておりますが、ワシントンDCを訪れる際の参考にしていただければと思いますぴかぴか(新しい)
Posted by 皆川 at 07:54 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2020年7月生活記録【第16期生 皆川愛】[2020年08月08日(Sat)]
今夏は日本に一時帰国の予定でしたが、パンデミックの影響で米国への入国制限がある中で、
再入国はリスクがあるとし、ワシントンDCに留まることにしました。
DCには日本から寄与された桜の木が植樹されており、春の花見を心待ちにしていましたが、3密を避けるために、今年は断念しました。
先月オープンした清水裕子さんというアーティストを中心にテクノロジーと融合した
プロジェクトマッピングを見に行き、花見を楽しむことができました。
IMG_3200.PNG


昨年8月より留学助成を受けて一年がたちます。
今月は留学目標を振り返る機会とさせてください。

カチンコ手話動画はこちらより


私の留学目標は「ろう者への医療・看護支援」をテーマに以下の二つです。

@医療者のろう者に対する文化的技術向上トレーニングプログラムの開発


なぜ医療者へのろう者についての直接的なトレーニングが必要なのかについて考えていたとき、
「銃の傷跡にバンドエイドを貼れば解決?」の論文(DeMeluder & Hauland, 2019)がヒントになりました。
手話通訳制度をバンドエイドに見立て、
それによって医療や教育の分野におけるろう者のアクセスの問題は解決したのか、
すなわち、バンドエイドを貼れば銃の傷跡は根治するのかと疑問を投じています。

スライド1.jpeg


真のアクセスとは何か。
ろう当事者はそう信じておらずとも、政策立案者や医療者の中には
「手話通訳の利用がろう者のアクセスを確保する唯一かつ最良の方法」と信じ、
実際アクセシビリティにに対して多大な予算を投じています。
そこで、著者は単にアクセスが整備されるからといって、
インクルージョンが推進されるわけではないと問題提起しています。
手話通訳制度をはじめとしたアクセシビリティの保障はあくまでもバンドエイドで傷口を覆っているだけで、
それで満足している人たちは、彼らの「錯覚」なのだと主張します。

世界ろう連盟も、“Inclusion is an experience, not a placement.(インクルージョンは単に配置することではなく、経験である)”と声明を出しています(World Federation of the Deaf, 2018)。
下記のイラストのように当事者を手話通訳を配置し、当事者を中央に設置すれば、
それで適切なサービスが確保されたり、当事者がエンパワーメントされたりするのか。

スライド2.jpeg


例えば、術後、片腕に点滴、もう片腕に血圧計などの機器を装用され、
両腕が動かないということがろう者にとってどういう経験なのか。
筆談もできない、手話もできない。話す術を失います。
モニタリングは最低限にし、片腕だけでも自由にする。
これに対応できるのは、手話通訳者ではなく、医療者しかないと思います。

専門職が直接、手話で、文化を考慮した医療サービス (本論文では“Language concordant services”と称している)が不可欠というのが私の結論です。
トレーニングのコンテンツについては、現在修士論文にて作成・評価を進めておりますので、また報告させてください。

Aろう者を対象にした医療アセスメントツールの開発
2019年11月の生活記録2020年4月の生活記録での報告からも、
ろう者の文化・言語的背景を考慮したアセスメントや調査が重要だと再確認することができました。

例えば、「〇〇の用語を聞いたことがありますか?」という質問に対しては、
聞く」という表現より、「見聞きして、知っている」というような表現が適切だろうということは、
アメリカ手話でも日本手話でも一致しました。
冗長に感じるかもしれませんが、ニュアンスを適切に伝えるという点では大切なプロセスだと思います。

米国では別れ際に”See you.(またね/じゃあね。)”とよく言います。
ろう盲の方にも同様に伝えた時に、
Touch you.”の方がいいなと言われ、ハッとさせられたことがあります。

スライド3.jpeg


@の目標にも通じますが、こうしたようにコミュニティにおける用語の使われ方に敏感になることは重要だと考えます。

ろう健康研究センターで経験を積みながら、より多くのヒントを得る一年にしたいと思います。

なお、5月に集計したろう者を対象にした新型コロナウイルス調査については、
8月中に集計結果を公表予定です。公表し次第、こちらに掲載させていただきます。

<参考文献>
De Meulder, M., & Haualand, H. (2019) Sign language interpreting services: A quick fix for inclusion? Translation and Interpreting Studies. The Journal of the American Translation and Interpreting Studies Association, Setember 6th, 2019,
https://doi.org/10.1075/tis.18008.dem

World Federation of the Deaf. (2018). WFD position peper on inclusive education. Retrieved August 7th, 2020 from https://wfdeaf.org/wp-content/uploads/2018/07/WFD-Position-Paper-on-Inclusive-Education-5-June-2018-FINAL-without-IS.pdf
Posted by 皆川 at 11:24 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2020年6月生活記録【第16期生 皆川愛】[2020年07月08日(Wed)]

今月のテーマは、「感覚のヒエラルキー(階級構造)」です。

カチンコ動画はこちらより


@はじめに(0:04)
A感覚のヒエラルキー(0:48)
B感覚のヒエラルキーを強化づけるもの(3:47)
C感覚のヒエラルキーのろう教育への適用(5:23)
Dまとめ(10:35)

12月の生活記録でも触れましたが、人間を理解するのに、感覚は一つの重要な枠組みとなります。

@感覚のヒエラルキー
そこで、Classen(1997) は、感覚にはヒエラルキー(階級構造)があると重要な指摘をします。
スライド2.jpeg


このヒエラルキーは、社会における言説となるイデオロギー、それに関連した訓練によって、成立しています。
例えば、以下のイラストは、現代社会で使われるメディア媒体を示しています。

スライド1.jpeg


多くはどの感覚に依拠しているでしょうか。
電話やラジオは聴覚、
新聞やインターネットの文字情報は視覚、
テレビはどちらもと言ったように
聴覚と視覚の活用が重んじられています。

ニューヨークのタイムズスクエアは、
写真の通り視覚情報によるコマーシャルで溢れかえっています。
IMG_4761.JPG


これらは世界の動向を把握するメディアとなり、
それにアクセスできるか否かで、
人間が評価されるような世の中になってしまったのです。

そして、嗅覚や触覚、味覚を劣位に追いやってしまうのです。
これを感覚抑圧というのではという指摘もあります。

一方で、Bahan(2015)の感覚的志向の章では、嗅覚の重要性が描かれます。
それは、著者が出会った南アフリカのザンビアに住むろう者の話で裏付けられます。
彼はジャングルの近くの町で育ちました。ジャングルにはライオンなどの獣がいるわけで、
ジャングルを通る際は命がけです。
どうやって獣が近づいていることを把握するのかと尋ねたところ、
「匂いでわかるさ」と彼は言うのです。
米国で育った著者にとってこの感覚はないに等しいものでした。

そこで、環境やそれに関連づけられた訓練によって、
感覚の優位性が変化する
ことを知ります。

A感覚のヒエラルキーを強化づけるもの

西洋では、伝統的に感覚的イデオロギーはジェンダー、そしてそれに関連した訓練によって強化されていると言います(Howes, 2009)。
訓練というのは具体的には、教育やその職業の養成課程に見られます。
男性的な活動は、学問、軍事、監督、芸術など、視覚と聴覚に依拠する傾向があり、理性的な感覚(rational senses) と呼ばれます。
女性的な活動は、手芸や料理など嗅覚、味覚、触覚に関連するものが主であり、肉体的な感覚(corporeal senses)と考えられてきました。

そして、この視覚・聴覚に依拠する活動がハイカルチャーで、
それ以外をローカルチャーとして位置付けられてしまうのです。
1.jpg


この状況に問題意識を向けたのが、
先月の生活記録で触れた初期のカルチュラルスタディーズです。
いわゆる上部構造であるハイカルチャーに焦点化されるというものです。

B感覚のヒエラルキーのろう教育への適用

ろう教育で長年議論されていることは大雑把に言えば、
口話か・手話か
です。

全世界において、記述されているろう教育の始まりは、
1780年代後期から1800年代初期に見られます。

重要人物がジャン・イタール(Jean Itard)で、
アヴェロンの野生児のヴィクトール (Victor) の教育医として有名です。

推定11歳から12歳にジャングルから捕獲されたヴィクトールは、
言語を習得しておりませんでした。
さらに、ジャングルの中で、四足歩行し、落下しているクルミの実などを食べて過ごしていました。

イタールは、訓練によって、感覚を矯正・修復できると信じ、5年間、熱心に教育しました。
スライド5.jpeg


この時のイタールの記述から、まず聴覚を矯正し、次に視覚、最後は味覚を鍛えたことがわかっています(原文をもとにLane, 1976によって記述)。
そして、結果的に触覚・味覚・嗅覚の3つはほぼ回復しましたが、視覚と聴覚については改善が見られなかったと言います。

当時は活字印刷技術がまだ進歩しておらず、視覚の重要性は認識されていませんでした。
そうしたこともあり、言語習得においては聴覚の活用が重要と考えられていました。

後にイタールは、フランス国立パリろう学校の学校医となり、
ろう児を聴力検査でふるい分け、さらに口話教育で聴覚機能を矯正しようとしました。
スライド4.jpeg

(昨年の世界ろう者会議参加時に訪れたフランス国立パリろう学校の校門)

こうした経緯が後のろう教育、1880年のミラノ会議での口話
教育の決議に影響を与えたと言われています。

Cまとめ
感覚は、人間において、言語の使用、刺激の受容、世界を把握するために不可欠です。
5感において優劣性はないはずです。
しかしながら、環境や感覚の優位性を強化づける訓練といったシステムによって、感覚の階層構造が成立してしまったのです。
そして、これは今日のろう者の生活、ろう教育にも影響しています。
今一度、感覚とは何か、社会の構造を紐解くことで、突破口が見えてくるかなと思います。


<参考文献>
Bahan, B. (2014). Senses and culture: Exploring sensory orientations. In H-D. L. Bauman & J. Murray (Eds.), Deaf Gain: Raising the stakes for human diversity (pp. 223-254). Minneapolis: University of Minnesota Press.

Classen, C. (1997). Endangering perception: Gender ideologies and sensory hierarchies in Western history. Body and Society, 3(2), 1-19.

Howes, D. (ed.) (2009). The Sixth Sense Reader. Oxford: Berg.

Lane, H. (1976). The wild boy of Aveyron. Cambridge, MA: Harvard University Press.
こちら日本語版もあります 
ハーラン・レイン(著). (1980)アヴェロンの野生児研究.
中野善達・松岡清(訳).福村出版
Posted by 皆川 at 09:36 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2020年5月生活記録【第16期生 皆川愛】[2020年06月08日(Mon)]
修士課程一年目の学業を無事に終えることができました。
このようなお機会をくださった日本財団並びに、日本ASL協会の担当者、理事の方々、いつも応援してくださる皆さまのおかげです。

一年目の学びを振り返り、ろう者学とは何かなぜ文化学(以下、カルチュラルスタディーズ)が重要なのか現時点での自分なりの理解を記しておきたいと思います。
この学びの旅は果てし無いもので、まだまだ勉強、理解しないといけないことがあると痛感しています。
一年後、私の回答はまた変化しているかもしれませんし、まだまだ旅の途中ですので、
何か間違いや不明点、ご意見などあればいつでもご教示いただけますと幸いです。

1. ろう者学と、ろう者学を学ぶ意義

日本でもろう者学という言葉をチラホラ目にするようになりました。
しかし、ろうの歴史を学ぶ、ろうについての話ならなんでもろう者学と言えるという風潮に懸念を持っています。
義務教育で社会科が教科として存在するのに対し、社会学は主に高等教育以降で扱われています。
もちろん、社会科での学修が基盤となっており連続性があることは事実です。
ろうに関することだからなんでもろう者学だと言えるわけではないということをはっきり記したいと思います。

ただ、私が散見する限り、欧米でもろう者学の明確な定義はまだ提唱されていません。

それでもなお、ろう者学の目指すところは明確です。
10月の生活記録でも引用したように、ろうに取り巻く言説(以下ディスコース)を細かに分析し、デフフッドを提唱したラッドは
「ろう」の意味を問い直し、再構築す必要性を訴え、以下のように述べています(Ladd, 2003)。
1.jpg


社会の構造を俯瞰し、ろうの問題を理解するために、ろう者学は一つの学問”discipline”というより、
歴史学、形而上学を含めた哲学、社会学、文化学、科学的な言語学、神経科学などを網羅した学際的分野、
すなわち多分野にまたがる諸学提携の学問”Inter-discipline”と言えます。

また、ろう者学の先駆者でもあるレインは、
「ろう」にまつわるディスコースとそれを取り巻く制度を捉えることの意義について以下のように指摘しています(Lane, 2008)。
2.jpg

ろう者学には、何かと正しい答えや実践があるわけではなく、
個々がろう社会を変えるために役立てる一つのツールに過ぎないと理解してます。
そして、その知のツールをどう使うかは個々次第です。

私自身、様々な理論を学んだことで、グラディーション豊かなメガネで社会の本質を理解する、
クリティークする、その視点が養われたように思います。
それが私にとってこの一年の大きな収穫です。

今回は、ろう者学において重要な学際的方法論となるカルチュラルスタディーズについて書き留めたいと思います。

2. カルチュラルスタディーズ
自分の専攻でありながらも、カルチュラルスタディーズと文化人類学と何が違うのか、
どんな学問なのか理解していませんでした。
9月の生活記録でも少し触れましたが、現在になって見返すと、短慮的だったと思います。
哲学的な用語が続きますが、一年かけて消化した自分なりの言葉で書いていきます。
そして、それはまた今後変化するかもしれないこと、ご容認ください。

カルチュラルスタディーズの定義において、
「日常の中で身体化、自然化された知(常識)を文化として対象とし、社会の中で働く力関係について分析する学問とその実践(伊藤, 2000)」
が一番腑に落ちています。
自分の言葉でまとめると、伝統的に正しいと正当化されてきたディスコースを問い直し、知を構築し直すことです。
さらに、それを通じて、何かアクション、すなわち実践を行うのに役立ててくれます。

1950年代に盛んになったカルチュラルスタディーズは、
これまで研究されてきた文学というものが、上部階層にいる貴族や官僚集団によるものであって、
下部階層にいる労働階級の人々の日常文化に焦点が当てられてこなかったことに対する疑問から始まりました。
5月生活記録_文字盤2.png


このように初期のカルチュラルスタディーズは、
抑圧された人々の生活と体験に焦点を当て、不可視化されてきた声を引き出すことにありました。
今日、カルチュラルスタディーズは、多種多様な領域を扱っており、さらに様々な広がりを持っていますが、あくまでも一つの技法に過ぎないことを強調しておきます。

3. 「ろう」にまつわるディスコース
カルチュラルスタディーズ の手法を採用しているラッドによると、ろう者、ろう文化にまつわるディスコースは、
@学術的な文献
A新聞や雑誌、テレビなどのメディア
Bろう専門職が研究の場で繰り広げ、発信されたもの
Cろう社会の日常
に大別されると記述しています(Ladd, 2003)。

@学術的な文献
蓄積されてきた実験的研究に基づく文献が大半です。
これは9月の生活記録でも触れているように、結果的に制圧を生み出しました。
心理学の分野で、ろう者は攻撃的、自己中などの記述があったり、
聴力検査の基準の明確化によって、ろう者が逸脱や劣等のラベルを貼られたりした経緯があります。
また、10月の生活記録にもあるように、
言語学の父のソシュールは主に音声言語の特性に基づき、言語の定義を正当化しようとした点で、
手話は言語の対象から逸脱したとも解釈できます。

Aメディア
メディアなどを通じて報道される大衆文化は、それを常識化してしまいがちです。
メディアで報道されることはほんの一部にしか過ぎないにも関わらずです。

現在の状況で見ると、新型コロナウイルス感染流行状況下で、ろう・難聴者を扱ったメディア報道のほとんどがマスク使用による不便性に焦点を当てたものでした。透明マスク開発の重要性が謳われていたように思います。
それがコロナ流行下でのろう・難聴者の日常生活を反映しているのでしょうか。
メディアはパワーを持つという認識のもと、報道内容を理解し、解釈する必要があります。

Bろう専門職が学術の場で繰り広げ、発信されたもの
9月の生活記録で紹介した米国のパッデンとハンフリーズが提唱したろう文化の基準(Padden & Humphries, 1988)も、
ろう社会の中の多様性の中での切片を対象にしているに過ぎません。
「サインネームが決まったら(与えられたら)、それはろう者として、ろうの世界の一員に歓迎された証だ」という一例があります(Padden, 1980)。
確かに、デフファミリーやろう学校、特に寄宿舎育ちのろう者は、そこでサインネームを与えられることが多いかもしれません。
しかし、今日で東京をはじめとし全国で寄宿舎に入るろう児・生徒は減っていますし、
後にろうコミュニティに関わり、手話を習得したろう者はどうでしょう。
また、こうした慣習は時代によって変わっていくものでもあります。
このように既存の知識を問い直すところがカルチュラルスタディーズの担うところです。

Cろう社会の日常
ラッドはこれがほとんど記録されたこなかったということに問題意識を持ち、
ラッドは英国のろうコミュニティにおいて、
焦点化されなかった集団(これをサバルタンを呼んでいる)に焦点を当て、記述を行なっています。

4. まとめ
今日、日本におけるろう者を取り巻く状況はどうでしょうか。
聴者マジョリティ社会に「ろう」について伝えるには、学術論文やメディアが大きな役割を果たしています。
社会構造を批評的に考えるという点で、ろう者学は大いに役立ちます。
しかし、これまでの文献の著者から、ろう者学の理論構築は主に欧米、それも白人を中心に展開されており、
日本、またはアジアにおけるろう者学の発展が望まれると考えています。
ラッドが分析対象とした「ろう」にまつわる4つのディスコースを紹介しましたが、これは英語文献のみを対象にしたもので、
国内におけるディスコースは未だ未だ掘り出されてないことがたくさんあります。
その辺も含めて、
「ろう」にまつわるディスコースを塗り替えていく、作り上げていけるのは新しい世代だと思います。
この生活記録では、一つの議論の契機になれば幸いです。
来年度も皆さまにお役に立てる情報発信に努めてまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。


5. 新型コロナウイルスにまつわる情報

@アンケート調査ご協力のお礼
先月の生活記録で公表した「ろう難聴者を対象にした新型コロナウイルスにまつわる意識調査」に
呼びかけ、回答にご協力くださった皆さま、誠にありがとうございます。
おかげさまで500名以上からご回答をいただき、現在、解析を行なっています。
こちらは次回の生活記録にて簡潔な報告をさせてください。

中間報告動画はこちらより

研究代表のクシャルナガルから日本手話によるメッセージもあります。(0:43〜1:17)

A新型コロナウイルスに関して作成した手話動画

・新型コロナウイルスにまつわる受診の目安と検査

厚生労働省から5月8日に受診の目安の変更が発表されました。
受診(相談)の判断方法の最新情報から、検査を受けてどうなるか、退院に至るまでの大まかな流れです。
PCR検査の方法についても触れています。

・WHO「新型コロナウイルスにまつわるよくある疑問や誤解」

「コロナウイルスに感染すると一生陽性なの?」
「蚊によってコロナウイルスに感染することもあるの?」
「コロナウイルスは高温多湿に弱いの?」といった疑問に答えています。
国際基督教大学の李先生をはじめ、コンサルチームが多言語へ翻訳しています。https://covid-no-mb.org 
5月28日現在、67言語に対応しており、今回、日本手話への翻訳に携わらせていただきました。

日本は各地で梅雨入りし、高温多湿の日々と伺っています小雨
新型コロナウイルス感染対策として、マスクの装用が未だに期待されていますが、
それによって熱中症を引き起こす危険性も指摘されています。
皆さまどうぞ暑さや湿度、コロナウイウイルスには気をつけてお過ごしください。

<参考文献>
伊藤公雄(2000)カルチュラル・スタディーズが問いかけるもの.理論と方法, 15(1), 75-88

Ladd, P. (2003). Understanding Deaf Culture: In Search of Deafhood. Clevedon, UK: Multiling Matters.

Lane, H. (2006). Do Deaf people have a disability?. In H-D. Bauman (Ed.), Open your eyes: Deaf Studies talking (p.277-292). Mississippi, MI. University of Minnesota Press.

Padden, C. (1980). The Deaf Community and the Culture of Deaf People. In C. C. Baker & R. Pattison (Eds.), Sign language and the deaf community (pp. 1-16). Silver Spring, MD: National Association of the Deaf.

Padden, C., & Humphries ,T. (1988). Deaf in America: Voices from a culture. Boston, MA: Harvard University Press.

Saussure, F. D. (1998). Course in General Linguistics. Chicago, IL. Open court.
Posted by 皆川 at 10:25 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2020年5月生活記録【第13期生 橋本重人】[2020年06月08日(Mon)]
こんにちは、13期生の橋本です。新型コロナウィルスの新規感染者数が以前と比べて減ってきているようですが、まだまだ安心できないですね。こちらも買い出しとジョギング以外は自粛しています。

さて、3年間書き続けてきた生活記録も今回で最後です。まずご報告があります。2020年5月に無事ギャロデット大学を卒業しました。本当に緑豊かなところで2年間学ぶことができたなぁとしみじみ思っています。
IMG-3264.JPG

昨年度の春学期から続けてきた学生自主研究の研究発表と論文作成を、期限日までに終了することができました。「ろう発達障害学生のインクルージョン教育に対する教員の態度と技能」という研究テーマを取り上げ、アメリカのろう学校に勤務する教員を対象に、インタビューを行いました。文献レビューを行う際、テーマに関する資料がアメリカにも日本にも全くなかったため、論文作成には非常に苦労しました。インタビューでは、アメリカの各州(インディアナ州、ウィスコンシン州、コロラド州など7つの州)のろう学校の教員たちの、ろう発達・重複障害学生に対する使命感を強く感じ、また、前向きな姿勢に感銘を受けました。一人ひとりの児童の可能性を信じて取り組んでいる様子でした。教員として基本的な知識や指導方法を学ぶ意欲を持つことは大切である一方、素晴らしい指導方法を習得するよりも、その児童を受け入れ、実態に合わせながら指導する態度や信念を持つことが大切であると、この研究を通して知ることができました。

カウンセリングクラスでは、マイクロアグレッション(微細な攻撃)について印象に残っており、それは卒業した後の私自身の課題でもあります。マイクロアグレッションとは、話し手にその意図がなくても、言われた人にとっては不快・差別に感じる発言や行為のことです(Sue et al, 2007)。2月の生活記録に書いてあるように、「え?知らないの?」とか「あなたはろうだから、人一倍頑張る必要があるよ!」「私は黒人の友達がたくさんいるよ。だから、大丈夫」といった些細なことでも言われた人にとっては違和感と感じることがあります。普段の生活の中でどういう場面にそういったマイクロアグレッションに出会ったか、その時どんな気持ちだったかを数名のろう者(特に、人種、移民、LGBTQ、そして、他の障害を併せ持つろう者たち)にインタビューしたり、インターネットで調査しました。どれだけ傷ついたか、さらには一生忘れられない場面だったと辛そうに話す姿に、ひしひしと彼らの思いが伝わり、私はその時どのように言葉をかけたらいいか分からないほどでした。多様性のあるアメリカ社会ではそういったマイクロアグレッションは慎重に扱う問題であります。それは私自身の言動にも当てはまることがあり、人権意識や差別に繋がることについての十分な理解がなかったことによるものだと気づくことができました。

渡米前に「こんな私でもやっていけるのだろうか…」という不安でいっぱいだった私が、カリフォルニア州のオーロニ大学で出会ったナンシー教授とトム教授、メンターであるステファニーさんが丁寧に指導・助言をしてくださったおかげで、ギャロデット大学に無事進学することができました。
ワシントンD.C.のギャロデット大学は、教育学部の学長であるマリベル教授、ろう重複障害を専門とするクリス教授、OSWD(障害のある学生支援室)のスタッフたちの手厚いサポートに恵まれ、素晴らしい経験を積むことができました。

それから、皆さんにぜひお勧めしたいことあります。それは、メモ書きです。第9期生の瀧澤さんの生活記録(2016年10月生活記録)にも書いてありますが、本当にノートやメモ帳に書き記すことはとても役に立ちます。印象に残ったことや気になったことをすぐにメモに取ります。私は常にズボンのポケットに収まるサイズのメモ帳を持ち歩いていました。読み返してみると、知らなかった情報や英単語も書いていました。振り返ったり、何かを思い出したりする時にそのメモ帳が役に立ちました。備忘録にもなります。

卒業後の課題として強く感じているのは「アメリカでの研究を日本のろう社会に貢献できるものは何か」です。アメリカと日本は文化も状況も全く異なるため、全てがそのまま適用できるとは考えにくいです。日本の実態に合わせて、私が積んできた知識と経験をどのように生かすか、特にろう発達障害の児童生徒と関わっている教員や保護者のサポートを中心に考えたいと思います。大学院を卒業したからと言っても、まだまだ学ばなければいけないことがたくさんあります。どういった支援・配慮がベストなのかを当該の児童生徒はもちろん、その保護者と教員たちと対話しながら進めていきたいと思っています。

読者のみなさま、そして日本財団、日本ASL協会のみなさま、3年間のご支援をありがとうございました。
IMG-3265.jpg

参考文献:
Sue, D. W., Capodilupo, C. M., Torino, G. C., Bucceri, J. M., Holder, A. M. B., Nadal, K. L., & Esquilin, M. (2007). Racial microaggressions in everyday life: Implications for clinical practice. American Psychologist, 62(4), 271–286.

Posted by 橋本 at 09:51 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2020年5月生活記録【第13期生 山田茉侑】[2020年06月08日(Mon)]
みなさまこんにちは。早いもので、この記事が留学生活最後の記事となりました。


卒業式花見(さくら)ボストン大学大学院を修了しました花見(さくら)卒業式
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(写真は、Zoom卒業式の様子)

卒業式は新型コロナウイルス の影響で延期になりました。そのため、専攻だけの小さなZoom卒業式になりました。
去年の12月、学期末試験が終わったあとに先生や友人たちと卒業式に再び笑顔で会おうと、約束をして別れたのを思い出していました。今学期は大学を離れて、学期丸ごと(3ヶ月間)を使っての教育実習があったため、同期全員があちこちの州に引っ越し、それぞれの地で教育実習をこなしていました。なので、まさか12月のお別れが実際にみんなで会える最後のお別れとなるとは思いませんでした。人生何があるかわかりませんね。そんなことを考えながら、Zoom越しの卒業式を眺めていました。


卒業式はTodd先生を中心に進められました。Todd先生のコメントの中に、おもしろいものがあったので、ぜひ共有したいとおもいます。

マラソンランナー、エリウド・キプチョゲ選手をご存知でしょうか。
今まで人類がマラソンで2時間を下回って走りきることは不可能だと言われていました。ところが、2019年10月13日、オーストリアのウィーンにて1時間59分40秒の記録をもってエリウド・キプチョゲ選手が世界記録を破ってゴールしました。
人類の限界をその記録をもって破ったことは、当然世界中で注目されました。

ただし、その記録は公式ではありません。非公式です。

なぜなら、写真を見てわかるように、このレースは数々の人工的な条件を加えてのチャレンジだったからです。

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(写真はエリウド・キプチョゲ選手が走っている様子。CNNの記事から引用https://www.cnn.co.jp/showbiz/35143908.html )

ナイキの厚底シューズを使い、7人が風除けとして選手の周りを囲みながら走り、先導車が2時間を下回る走りになるように常に選手の足下をライトで照射し、精密に計算された時間にドリンクの配給があり、とさまざまな人工的な計算が加えられていました。

でも、それでも2時間という人類の壁を突破したのです。
Todd先生は、人生それでいいんじゃないか、と言いました。

「ろうの子どもと親たちが笑顔でいてほしい。」そのために、わたしに何ができるだろうか。そんな想いを持って留学した3年間。いろんな方に支えてもらいました。一人じゃ到底思い浮かばない、いろんなアイデアや考え方に触れることができました。いろんな方との出会いがあり、背中を押してもらって、ここまで道を開くのを手伝ってもらいました。

エリウド・キプチョゲ選手が人類の限界を超えたように、みなさまの支えによって、この留学生活がわたしの大きな糧となり、これからの人生の豊かな土壌になると確信して言えます。
Zoom卒業式の後、3年間を思い出してホロリときました。

Todd先生は、エリウド・キプチョゲ選手の例を出して、ここで得られた縁を大切にこれからも上手く使っていってほしいと言いたかったのだとおもいます。
赤いガウンをまとって卒業式の場に立てなかったことはとても残念でしたが、とっても大切なことを思い出させてくれたかけがえのない卒業式となりました。


改めまして、3年間に及び、留学をあたたかく支えてくださった日本財団、日本ASL協会のみなさま、そして家族や友人、先生方に心からお礼を申し上げます。ここまで来ることができたのも、ひとえにみなさまのご尽力のおかげです。3年間、本当にありがとうございました。



これからですが、OPTを使ってアメリカのろう学校で教職をする予定でいます。
(まだ正式な辞令がおりていないため、詳細を書くことは控えたいとおもいます。)
O P T (Optional Practical Training)とは、1年間に限ってアメリカで合法的に働くことを許される制度です。学生ビザ(F-1)を使って留学し、学位を取得した人がOPTの対象になります。
日本へ本帰国をする前に、短い期間ですが今度は現場を通して、多くのことを学び、実践力をつけていきたいと思っております。
そのため、今後も何らかの形で情報や教材を共有できるようにしたいと思います。
そして、日本の早期教育と親支援の発展のために何ができるか、現場から考えて参りたいとおもいます。これからも引き続き、何卒よろしくお願いいたします。



◆教員免許状についての情報
参考までに、アメリカの学校で働く場合、日本と同じく教員免許状が必要です。ただ、日本とアメリカで少し取得のシステムが異なります。日本では教員免許状取得に必要な単位をとって大学を卒業したら免許が取れます。一方でアメリカでは、教員養成大学/大学院を卒業後、州の試験に合格してはじめて免許状が取れます。

州立のろう学校で働く場合、数年間は免許状の取得を待ってくれる場合もあります。私立のろう学校やチャータースクール(親の要望で建設された学校)は待ってくれないケースの方が多いと思います。

もしも、日本の教員免許状を持っていて、その上でOPTを使ってアメリカの学校で働くことを考えている場合…吉報です。
いくつかの州では日本で取得した教員免許状が使えます。
アメリカのろう学校で働くなら、特別支援学校教諭 聴覚障害領域の免許状が必要になります。将来アメリカのろう学校で働きたい方に参考になれば幸いです。



◆参加型手話絵本「ムロと🤟」
2020年4月生活記録にて、eBookの URLを貼りました。家庭や教育現場でぜひ遊んでいただけると嬉しいです。
ムロ ILY.png



それでは皆様また会う日までごきげんよう!
Posted by 山田 at 05:51 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2020年4月生活記録【第13期生 山田茉侑】[2020年05月08日(Fri)]
2020年4月生活記録【第13期生 山田茉侑】

みなさまこんにちは。
新型コロナウイルス で依然として厳しい状況が続いておりますね。みなさまにも心身ともにかなり影響が及んでいることと心配しております。
さて、実習が終わってこの1ヶ月は、2019年9月生活記録で紹介した卒業制作の手話絵本の日本手話バージョンを作っておりました。その絵本ができあがりましたので、ぜひ在宅中のろうの子どもたちへ贈りたいと思います。


ボストン大学院のろう教育課程では、卒業論文を書く代わりに手話絵本を作ることになっています。手話ベースの教材を作り、少しでもろうの子どもたちの発達に貢献するためです。



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(手話絵本「ムロと🤟」)



この手話絵本では、4歳児以降で就学年齢のお子さんを対象に作りました。手話を獲得中の子どもから手話で育った子どもまで、誰もが楽しく遊べることを目標にしました。 家で子ども一人でも遊ぶことができます。また、他人数クラスでも使えるようにしました。
遊ぶには、最新版にアップロードしたKeynoteが必要です。



日本手話バージョン
ダウンロードはこちらから
https://www.icloud.com/keynote/0lt6nz5tTr0eFY5v6BkNRcsDA#Muro_%26_ILY_(JSL)__3



アメリカ手話バージョン
ダウンロードはこちらから
https://www.icloud.com/keynote/0CwAjMs-9uq2knFy_qL26cI2Q?fbclid=IwAR17VvuX2lazl7tW5mrfoTAJGC2zJON2ng10soLyLAK-Q-3R6B3uRgXN_rc#Muro_%26_ILY



上のリンクをダウンロードすると、iCloud上でkeynoteが開きます。
(データ容量が大きいため、WiFiに繋げることを推奨します。)


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(左上の緑丸で囲んだ右向き三角1︎を押すと、手話絵本がスタートします)



使用しているデバイス(iPhone, iPad, MacbookなどのApple製品)で遊びたい場合は、右上にある「Keynoteで開く (open in Keynote)」をクリックしてください。手話動画とアニメーションのタイムラグを減らすため、iCloud上ではなくKeynote上で遊ぶことをおすすめいたします。


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(「Open in Keynote」右上の緑丸で囲みました)





以下、概説です。ただ、基本的に概説を読まなくても遊べるようにはなっております。



タイトル「ムロと🤟」

◆内容
主人公ムロは、地球のエネルギー源である🤟を管理していました。しかし、他の惑星からきたクェスが🤟を奪い去ってしまい、地球からあるあらゆる明かりが消えてしまうのです。ムロは、🤟を取り戻そうとクェスを必死に追いかけることにしましたが…。



◆劇とナレーター
子どもたちがわかりやすいように、絵本は主に劇で進められます。劇中は誰もが内容にアクセスできるよう、簡単な手話単語を選びました。

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(劇中の様子)



劇のすぐ後に、ナレーターが改めて手話で反復します。手話を獲得または習得中の方でも、ナレーターの手話にアクセスできるように、ナレーターのお話しに合わせて劇中の写真が画面下方に浮かびあがるようにしました。

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(ナレーターの様子)



◆参加型手話絵本
主人公ムロは、数々のトラブルに巻き込まれてしまいます。この手話絵本は、子どもたちの協力が不可欠です。全部で3回、子どもたちに選択を求めてきます。



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(1、2回目の選択肢:正誤問題)



2〜3つの選択肢の中からより良い答えを選ぶことで、先に進めるようになっています。最初の2回の選択肢は正誤問題なので、はっきりとした答えがあります。

最後の3回目の選択肢の場合は、答えがありません。それぞれおもしろい結末を用意しました。ぜひ、全ての選択肢を経験して遊んでみてください。



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(最後の選択肢:答えがありません)



また、最後の選択肢(スライド25)で「一緒に使う(3番目の選択肢)」を選んだ場合は、子どものアイデアを要します。保護者のみなさん方、先生方、ぜひ子どもたちと話し合ってみてください。



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(一緒に使う: 最後の3番目の選択肢)



◆日本手話バージョン、アメリカ手話バージョン
せっかくなので、両方の言語の絵本を作りました。内容は全く同じです。ぜひ、日本手話バージョンで遊んだ後に、アメリカ手話バージョンで遊んでみてください。子どもたちが、幼い頃から他の国の言語の一つであるアメリカ手話に触れることは、何物にも替えがたい経験になるでしょう。
一部分、アメリカ手話の知識が必要な場面が出てきます。ぜひ、異なる文化の一つとして子どもたちに紹介してみてください。

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(異なる手話)



左側の手話🤟は、世界共通で「I L O V E  Y O U」という意味を持ちます。ムロがずっと追いかけていたエネルギー源の手話ですね。そして、右側の手話は、「I REALLY LOVE YOU」という意味を持ちます。人差し指と中指の形が、「REALLY」の頭文字R(アメリカ手話の指文字)になっていることに気づきましたでしょうか。家族や本当に大切な人にしか表さない手話だそうです。



◆使い方
ブログのトップで紹介したリンクをクリックして、iCloud上で遊んでみてください。Keynoteの最新バージョンがあることと、MacのiCloudにサインインして、iCloud DriveがKeynote用にオンになっている必要があります。クリック後、画面に反映するまで少し時間がかかるかもしれません。Mac、iPad、iPhoneで遊びたい場合は、iCloud上の手話絵本の右上にある「open in Keynote」をクリックしてください。
また、操作方法の詳しい説明は、ブログの最後に載せました。





最後に…
この手話絵本、S N S上でもアップロードします。みなさま、ぜひシェアして日本中のろうの子どもたちに届くよう協力してくださると嬉しいです。また、子どもだけではなく、手話を学習中の方みなさんも楽しめること、大保証します。
学校で教材の一つとして使用してくださるのも大歓迎です。
保護者方や先生方へ、もしも子どもたちと一緒に遊ぶ際は、主人公ムロがトラブルにあったときに、それぞれの選択肢を選んだらどうなるか予想しながら話し合ってみてください。

意見、感想などありましたら、ぜひご連絡ください。

最後になりますが、みなさま、どうかご無事で、健康的な生活を送られていることを祈っております。それでは翌月にまたお会いしましょう。



◆操作方法
手話絵本は、以下の構成になっております。
1)キャラクターの紹介(スライド3)
2)練習(スライド4-11)
3)劇(スライド12-33)
4)ナレーター(スライド12-33)
5)地図(スライド34)
6)手話単語帳(スライド35-36)
7)作者(スライド38)
8)おれい(スライド38)



物語を進めるためには、画面の右下にある、「→」を押して進めてください。

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(進む: 右下、緑丸で囲みました)



誤った選択肢を選んだ場合は、右下にある戻るボタンを押すことで選択肢に戻ることができます。

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(戻る:  右下、緑丸で囲みました)



2)練習(スライド4-11)
絵本が始まる前に2回、練習できるようにしました。一つ目は答えのある問題です。2つ目は答えのない問題です。



5)地図(スライド34)
もしも他のスライドに飛びたい場合は、地図を使うことで簡単に飛ぶことができるようにしました。すべてのスライドの左下に、世界地図の絵がありますので、それをクリックしてみてください。

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(地図: 左下、黒丸で囲みました)
Posted by 山田 at 12:11 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2020年4月生活記録【第16期生 皆川愛】[2020年05月08日(Fri)]
まだ新型コロナウイルスが猛威を振るっていますね。
今月は、「健康格差ととろう者」についてです。

カチンコ動画はこちらより


@パンデミック下での健康格差(0:26)
A日本における健康格差(3:04)
Bろうコミュニティにおける健康格差(4:19)
C手話による調査の開発(6:17)
Dアンケート調査ご協力の依頼(10:49)

@パンデミック下での米国における健康格差
現在、米国では、新型コロナウイルスによる全米での黒人の死亡率が、
アジア人の2.4倍、白人の2.6倍というデータを打ち出しています(APM Research Lab, 2020)。

コロナウイルス自体は誰のことも差別せず、公平で、あらゆる階層にとっての脅威であるにも関わらずです。
実際、王族や宰相から、国民的英雄も襲いました。
しかしながら、医療制度へのアクセスの不公平さ、
職種によってハイリスクな環境に身を置き続けなければならない人がたくさんいるのです。

黒人だからという理由で健康格差が起こるのではなく、
従来の喘息の有病率が高いこと(CDC, 2020)、
黒人を取り巻く労働状況、例えばブルーカラー職種が多いためテレワークが困難(U.S. Bureau of Labor Statistics, 2018)
保険の適用範囲によって、治療における保険が適用不可、
などによる、社会的経済的地位が結びついていると考えられます。
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さらに、喘息の有病率が高いことは、黒人の居住地の環境や遺伝が大きく影響していると言います(U.S. Department of Health and Human Services Office of Minority Health, 2015)。

それが人種ごとの不平等、健康格差です。

ただ注意しなければならないのは、その人種の者全てそうだというわけではなく、そういう傾向がある、というものです。

健康格差はなぜ起きるのでしょうか?
それには様々な要因があり、健康の社会的決定要因 (Social Determination of Health)と呼ばれます。

A日本における老後の健康格差
日本でも、所得や学歴、運動量、社会参加、地域の結びつきなどの社会階層間において、
老後の健康に格差が生じることがわかっています(日本老年学的評価研究, 2014)。
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Bろうコミュニティにおける健康格差
日本のろう者の中でも健康格差が起きているのでしょうか?
それは未だわかっていません。なぜなら、研究が未だなされていないからです。

米国では、ギャロデット大学にある、
ろう健康研究センター(以下、研究室 正式には”Center for Deaf Health Equiety”)を中心に、
ろうコミュニティにおける健康格差の研究、介入に取り組んでいます。 
今学期より、パートタイムで働かせていただいています。
スクリーンショット 2020-05-06 13.32.50.png

センター長はプールナ・クシャルナガル先生 (Dr. Poorna Kushalnagar)で、
2017年に設立して以来、国立衛生研究所(NIH)などの政府機関から千万単位の助成金を受けて、
手話を主に言語とするろう者にアメリカ大規模研究をされています。
一年に5〜10本の論文も書かれているほどで、
手話を含め全てのペースがとても早く、ついていくのに必死ですが、
聡明で、厳しさもありながら温かい先生です。
私にとってろう女性のロールモデルとなっています。
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(夏に開催された世界ろう者会議の時にて、
 左がクシャルナガル先生)
後ろのポスターは(Kushalnagar et al, 2019)の参考文献参照

Cろう・難聴者を対象にした新型コロナウイルスにまつわる意識調査と手話による調査の開発
今回、クシャルナガル先生のご指導の元、
ギャロデット大学の助教授である高山亨太先生とともに、
新型コロナウイルスにまつわるろうコミュニティを対象にした調査を実施させていただく機会に恵まれました。

全ての質問・回答に、日本語とともに日本手話動画が記載されています。
スクリーンショット 2020-05-07 13.24.49.png

(写真はデモグラフィックの一例)

アメリカ手話から日本手話の翻訳に始まり、逆翻訳、参照を経て妥当性の検証をするなど、
多大な方々にご協力いただきました。
世界ろう者会議でのポスターの内容をもとに、日本手話動画作成のプロセスを記します。

@順翻訳(Forward translation):アメリカ手話⑴→日本手話への翻訳
バイリンガルのろう者がアメリカ手話ビデオを元に日本手話へ翻訳します。

A逆翻訳(Back translation):日本手話→アメリカ手話⑵への逆翻訳
他のバイリンガルのろう者が日本手話ビデオを見て、アメリカ手話に翻訳します。
この際、逆翻訳の担当者は⑴のビデオを見ることはできません。

B調和(Reconciliation):アメリカ手話⑴⇄アメリカ手話⑵との参照
アメリカ手話のろう通訳士、@とAとは他のバイリンガルのろう者との二人が
同言語である⑴と⑵のビデオを見て、内容に相違がないか検証します。
必要時、バイリンガルのろう者は、日本手話のビデオの確認も行います。

スライド3.jpeg


Bの段階で、⑴と⑵の内容に相違があった場合、フィードバックを受けて、@からやり直します。
2度繰り返すこともありました。
内容に相違がない場合は、承認となり、Cの認知面接へ移ります。
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C認知面接(Cognitive interview):
Bの段階で承認を得たビデオ(下書きの段階)を数名のろう者に見せ、
本人が回答したことについて、面接者がそれにまつわる質問をし、内容妥当性について確認を行います。
また、調査についてののフィードバックも同時に頂きます。
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D校正と本撮影:日本手話ビデオの作成
下書きのビデオを忠実に、また必要時これらのフィードバックを参考にし、本撮影にかかります。

昨日リリースしたところ、動画が重くて再生できないないといった物理的な面や、
ネット環境がない人への調査参加へのアクセスなど、次の課題があることは承知の上ですが、
同意書から全質問・回答、終わりのお礼まで全てにおいて手話でアクセスできる調査は国内で初めてに等しいと思います。

ろう者は多くの場面で、言語バリアの観点から調査の対象から外されてきたことがあります。
取りこぼしがないように調査の対象に含め、
ろう者における健康格差について様々な要因とともに追究していくことが求められると考えます。

最後にろう・難聴者のみなさまにこちらの調査の協力をお願いできますと幸いです。
所要時間:10〜15分
締め切り:5月24日
目的:新型コロナウイルスにまつわる気持ちや知識についてお伺いし、
   公的機関からの手話でアクセスできる情報の提供や、自宅待機における孤独への支援など、
   今後の活動、研究の指針にしたいと考えています。
こちら、もしくはQRコードより
QR_830079.png


スクリーンショット 2020-05-06 18.43.43.png


絶対皆さまに還元できるように活動してまいりますので、
ご協力・応援のほど、よろしくお願いいたします。

<参考文献>
APM Research Lab. (2020). COVID19 Deaths by race and ethinicity in the U.S. Retrieved from
https://www.apmresearchlab.org/covid/deaths-by-race#reporting

Center for Disease Control and Prevention. (2020). Asthma Surveillance Data. Retrieved from https://www.cdc.gov/asthma/asthmadata.htm

Kushalnagar, P., Paludneviciene, R., Rivera, D. Bruce, S, Mirus, K., Ryan, C., & Minakawa, A., & Kallen, M. (2019). Moving from research to practice: Making patient reported outcomes measure accessible in signed languages for Deaf people. 2019 World Congress of the World Federation of the Deaf, Paris, France.

日本老年学的研究評価. (2014). http://www.mcw-forum.or.jp/image_report/DL/20180314-1.pdf

U.S. department of Health and Human Services Office of Minority Health. (2015). https://www.minorityhealth.hhs.gov/omh/browse.aspx?lvl=4&lvlid=15
Posted by 皆川 at 11:33 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2020年4月生活記録【第13期生 橋本重人】[2020年05月08日(Fri)]
「障害プライドパレードって知ってる?」

ギャロデット大学のOSWD (Office for Students With Disabilities/障害学生のためのオフィス)で働いている時に、あるボスにそう聞かれました。初めて接する名称に驚きながら詳しく聞いてみると、最近アメリカのあちこちでこういったパレードが開催されるようになっているそうです。

今回はこの「障害プライドパレード」について少し話したいと思います。
この名称の通り、障害者を祝うためのパレードです。 The disability Pride Associationのホームページでは「障害についての考え方や定義を変える、障害に対するスティグマ(偏見)をなくし、障害とは自然なことであり、障害のある人たちの多様性の信念を促すことを目的にしているパレードである」と述べています。
https://www.disabilityprideparade.org/parade-mission.html

初めて開催されたのはイリノイ州のシカゴでした。アメリカで一番開催数の多い州はシカゴであり、毎年行われています。なぜシカゴなのか理由はわかりませんが、首都のワシントンD.C.では開催されていないことに少し驚きました。そのため、ボスは是非ともワシントンD.C.でもこのようなプライドパレードを行うことができたらという気持ちがあるとのことです。ワシントンD.C.では、その知名度がまだまだ低いため、ギャロデット大学のOSWD特定の掲示板にそれに関する情報を集めて掲示して欲しいと頼まれ、私ともう一人の学生と二人で協力しながら情報を集めたり、掲示用レイアウトを考えたりしました。入念にチェックの必要のある作業だったため、完成するまでほぼ一ヶ月かかりました。その力作はこちらです。
そのボスに許可は得ております。

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学生がその掲示板の前に立ち止まって読んでいる場面を見かけると、よっしゃ!という気持ちになります。

今年(2020年)のシカゴではADA(アメリカ障害者法)制定30周年記念として大規模なパレードを行う予定だったのですが、コロナ影響でどうなるかは分からないそうです。


それから、ボスに勧められた映画が印象に残ったので、そのことを書きたいと思います。タイトルは「Crip Camp: A disability Revolution」という映画です。ADAが定められていなかった頃、障害のある人々の中には学校や職場で対等に接してもらえなかったり、いじめや差別の経験をしたり、また自信がなく自分から行動を起こそうとしない人がたくさんいました。普段の生活では、周りがサポートしてくれているから『してもらって当然』、または、周りを頼りにしてしまっているからこの理不尽な状況でも我慢する、そんな環境で社会参加する機会を与えてもらえずにいたのでした。そこで、Larry Allison(ラリー・アリソン)という人がニューヨーク州でサマーキャンプJened(イェンド)を立ち上げ、様々な障害のある人々が集まって、ともに生活しました。障害のある人々自らが役割分担して、責任を持って行動する。例えば、インタビューを行う、ゲームを考える、司会進行をするなど、キャンプ外では障害があるからといって経験させてもらえなかったことばかりでした。また、ワークショップでは、苦しい、寂しい気持ちや理不尽な経験したことを共有することで、「僕だけではないんだ」とキャンパー同士の絆が強まっていきました。ある女性、Judith Heumann(ジュディ・ウーマン)さんは、キャンプ後、社会に自分たちのことを訴えたい気持ちが強くなり、代表としてカリフォルニアのバークレーで仲間と団結し、ホワイトハウスへ署名運動したり、泊り込みをしながらデモ運動をしたりして、ついにADAが認められるようになりました。それが認められるようになるまでの過程が記録されているドキュメンタリーがこの映画です。




このように、仲間と語り合ったり、ともに過ごしたりすることで自分に自信がついたり、安心したりしますよね。また、おかしいと思ったことをみんなで話し合ったり確認したりすることでどんな方法がベストなのかを考えることもできます。そんな集まりがあるからこそ、力を一つにして活動を起こすきっかけにもなります。みんなで力を合わせて行動を起こすというのはとても勇気のいることだと思います。仲間がいるからこそ、周りからどう言われようともその信念は揺るぎません。そんなみんなの行動がADAと結び付けられたなんてすごいことだと思います。日本も昔の人々が戦ってきたからこそ、いまの恩恵があるということを忘れずにいたいです。個人的に自主課題研究で様々な州のろう学校の先生にインタビューを行いましたが、やはりろう発達障害学生のインクルージョン教育を促すには、教員一人の力だけでは太刀打ちできません。同僚の先生、主任や校長、専門家、医療関係の人たちとのチームを組んで取り組むことが大切であるとこの映画を観てさらに確信するようになりました。

そんな情報を教えてくださったボスに感謝しています。ちなみに、そのボスはOSWDのカウンセリング担当、ノートテイクのコーディネーターでもあり、政治関係の講義まで担当をしている多忙な女性の方です。聴者でとても気さくな方なので、OSWDの利用者はよく彼女の元へ会いに行きます。私も分からないことや疑問に思ったことなどがあったら、すぐに彼女に尋ねますが、彼女は嫌な顔一つもせず丁寧に対応をしてくださいました。1年間半、共に働くことができたことは貴重な経験です。
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Posted by 橋本 at 11:13 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2020年3月生活記録【第13期生 橋本重人】[2020年04月08日(Wed)]
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みなさん、こんにちは。新型コロナウイルス が世界180カ国、地域に広がっています。米国の感染者は37万人を超え、世界最多となっています(4月7日時点)。ギャロデット大学では3月11日に学長からの発表で、春休み以降(3月23日)はオンライン形式での開講となりました。その発表から春休みに入るまでの間、私はOSWD(障害学生支援室)でずっと働いていました。案の定、学生や保護者からの問い合わせや連絡が殺到しました。新型コロナウイルスの今後の対応方法やオンラインクラスや課題をどのようにすればいいかの不安事や相談ばかりで、担当教授もOSWDのスタッフも私たち学生もてんやわんやでその対応に追われていました。また、寮生たちは18日(水)までに寮を出なければいけないため、朝から夕方まであちこちの寮の前に車が停まっていました。保護者や親戚が学生を迎えに来ていました(留学生や特別事情のある学生は寮にとどまることができました)。私も春休み中は同学部の友人たちの荷造りを手伝いました。最後に、再会できることを約束して、強く手を握り合って別れました。

春休みが終わった後は、Zoomというビデオ通話ツールでリアルタイムに授業を受けています。やはり教室で授業を受ける雰囲気とは違うため、なかなか慣れません。特に肩が凝ってしまいます。じっと教授や学生の手話を見逃すまいとパソコンの画面とにらめっこするため、ついつい顔を前に傾いてしまいがちです。春休み後の最初の週は「どのタイミングで発言者を見たらいいか」等、みんなでルールを話し合いました。普段は教授を見る、手をあげて指名されるまでは発言しない、教授が学生の名前を言ったら、その学生の画面を注目する等のルールを決めました。自分の写っている画面の背景や服装にも気を使う必要があります。
実際のクラスと違うルールのため、私だけでなく他の学生もみんなクラスが終わった後はくたびれていたようです(個人的にメールのやりとりをして感じました)。精神的に苦しい時もありますが、春学期が終わるまで、残りの1ヶ月のため、クラスメートや友人と励まし合いながらなんとか読み物課題やプロジェクトに取り組んでおります。
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今回は受講しているDifferentiated Instruction(多彩な学習方法)のクラスについて学んだことを書きたいと思います。どの学校でも学習における個人差や特性が多様な児童生徒一人ひとりに、どのように指導をしていくかが課題となっています。その解決策の一つとして、Carol Tomlinson(キャロル・トムリンソン)先生が提唱する多彩な学習方法を取り入れた指導法があります。これは、児童生徒それぞれの多様性に目を向けた、教室での指導法であるとトムリンソン先生は述べています。児童生徒の学習最終目標は同じですが、教員がそれぞれの児童生徒の状況に合わせていくつかの手立てを提供していくという方法です。一斉指導(みんなで同じ学習方法で同じことを学ぶ)とは違います。教室で教員ひとりで同時に違う指導方法で行うのは難しいですよね。その方法を行うには、チームティーチングとして補助の教員を取り入れたり、課題をいくつか用意して児童に選ばせたりするということです。

例を出します。教室に数名の児童がいると想定します。児童みんなは読解力もコミュニケーションモードもそれぞれ違います。そんな児童たちに対して多彩な学習方法を取り入れます。

社会(歴史)の授業です。
ある戦争について生徒グループいくつかに分かれてインターネットで調べもの学習をします。前もって教員は各グループに調べたことをどのように発表するかを伝えます。あるグループは劇で表現する、他のグループはパワーポイントで発表する、もう一つのグループは手話動画を作ります。生徒はやりやすいようなパフォーマンスを選んでグループを作り、仲間と協力しながら作業を取り組みます。

算数の授業です。
児童全員で今日の授業の流れを確認してから、教員が児童を3つのグループに分かれます。実際はグループをそれぞれの算数スキルのレベルで分かれていますが、児童たちに気づかれないようにグループ名を色の名前(青、緑、黄色)にします。青(基本)グループの児童は選択肢のある課題を、緑(中程度)のグループの児童は基本グループの課題に応用問題をいくつかを取り入れて取り組みます。黄色(応用)グループには自分で問題を考える、少し抽象的な課題を出します。


このように、トムリンソン先生は、児童生徒の個人差や特性に応じた教えるべき基礎・基本を本質的な理解や問いなどを用いて明確化し、実際の授業では「contents (学習内容)」、「 process (学習プロセス)」を多様化して、理解を得ているかどうかを「products (成果物)」で評価すると提案しています。多彩な学習方法を行うには、教員は前もって児童生徒の特性を把握する必要があります。そして、どのような内容で、どういった過程で児童生徒が学習していくか、常にチェックします。最後に、最終目標を達成できているかどうか児童生徒の発表、作品やワークシート、ノートなどで評価するという事です。

その多彩な学習方法はすべての授業に当てはまるとは限りません。しかし、私たち教員は様々な指導方法を知り、児童生徒の実態や目的に合わせて柔軟に指導・対応することが求められます。


参考文献はこちらです。
Tomlinson, C. (2017). How to Differentiate Instruction in Academically Diverse Classrooms (3rd ed.). Alexandria, VA: ASCD.
Posted by 橋本 at 11:51 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
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