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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2023年11月「言語の壁」鈴木美彩(18期生) 生活記録[2023年12月08日(Fri)]
2023年11月 第18期生 鈴木美彩 生活記録
言語の壁


アメリカ手話や英語の大変さは何度かこのブログで話題にしてきたと思いますが、この言語の壁は今も目の前に立ちはだかっています。正直、これまで、アメリカ手話や英語の学習に対するネガティブな感情はあまり強くなかったのですが、言語学部で行われたアメリカ手話での口述試験、VIVAの自主勉強会には本当に参りました・・・。

これまでの経験上、複雑な議論からいきなりジョークが飛び出るのはお決まりですが、VIVAで出されるであろう予想問題のトピックに関するジョークに学生もジョークで返すので、わけわからん会話が飛び交っている状況でした。私としてはゲラゲラ笑ったりせず、静かに議論して練習したいのですが、そうもいきません。実際の言語学関連の会議に参加すれば周囲の人間との会話は不可避です。ジョーク禁止というルールはありませんし、情報交換や議論と同じようにコミュニケーションの一部になっています。

とはいえ、この学期は学生も皆十分院生活に慣れてきて、周囲との関係性も確立し、コミュニケーションにおける言語の使用域がより狭い対象範囲に固定されています。つまり、言語学部内の親密さが強くなった分、アメリカ手話の使用もより複雑な内容や文法へ及ぶようになったということです。なので、より難度の高いコミュニケーションに参加せざるを得ません。VIVAは1人対3人の先生で行われるもので、このグループセッションは非効率的・・・とちょっと思ってしまったのはここだけの話です笑

他のみんなみたいにスムーズにジョークも返せるようになりたいとか、みんなを笑わせたいとか、そんな複雑な自我の中、まずは試験に集中しようという理性に助けられて、なんとか練習に集中することができました。内容そのものは大変有意義で、VIVAに対する恐怖心も落ち着きました。多くの教授がこの勉強会に積極的に参加され、大量のジョークも交えて応援してくださいました笑

言語学を学べば学ぶほど言語の奥深さに魅入られますが、同時に迷路の堂々巡りをしているような感覚に襲われます。自身の言語獲得のプロセスも同じような感じで、新たな学びへの喜びと行き詰まりへの苛立ちの繰り返しです。どの論文だったか覚えておらず申し訳ないのですが(確認します顔1(うれしいカオ)あせあせ(飛び散る汗))、新しい言語を獲得する時、第一言語か第二言語かに関わらず、その言語能力は他の言語の交渉も受けながら上達と停滞を繰り返すという研究がありました。私は今まさにその停滞の時期にあるのだと思います。そこに試験のプレッシャーも合わさって言語能力に焦燥感を抱いてしまったのかもしれません。
 
そんな時の癒しは同じ国際学生の立場の学生との会話です。サウジアラビア出身の友人はいつも明るく、アメリカ〜ンなジョークとは違った独自の面白さで笑わせてくれるので、いつも支えられています。この調子で、このまま残りの秋学期も走り抜きます!
Posted by 鈴木 at 12:28 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年11月「年末は色々ありました」金本小夜(19期生)[2023年12月08日(Fri)]
こんにちは。
年末も間近になりましたね。
イギリスはもう11月末からクリスマス一色です。
イギリスではクリスマスにはミンスパイやクリスマスプディングを食べるのですが、これがどのスーパーでも山積みになり、街にはクリスマスマーケットが建ち、長く伝統に守られてきた行事だな、というのを肌で感じます。

それにしても11月は浮き沈みのあるひと月でした。
大変だったことの一つは、実は少し体調を崩してしまったことで、11月上旬、ほぼひっきりなしに原因不明のめまいと耳鳴りに悩まされてしまいました。
イギリスの病院のシステムは、まずGPと呼ばれるホームドクターにかかり、そこから専門医に紹介してもらうシステムなのですが、その後の待ち時間が長いことが問題で、聴力検査をしてもらうだけで3週間(この段階で体調不良のピークは過ぎていました笑)、それから耳鼻科(ENT)にかかるまでに、命に別条はない症状だからと最高で1年間待たされると言われ、今ウンザリしているところです… とりあえず、ストレスを溜めたりしないように、適度に頑張ろうと思っています。

その間にもつい先週、私が9月から通っていたBSLのコースが終了しました。みんなやる気に満ちた、楽しいメンバーだったので、コースが終了してしまったのは少し寂しいです。最後の授業では、それぞれBSLに対する思いをポスターにして、みんなの前で発表したのですが、それぞれがBSLを始めたきっかけや、BSLに対する思いがあって、それを知れたのはとても面白かったです。今後どうやってBSLの勉強を継続しようかは今考えているところですが、このコースに通えたことはとても意味のある経験だったと思います。また少し自慢をしますが、Distinction Star(一番いい成績ランク!)が取れたのはとても嬉しかったです。

それから先日は博士課程の昇格審査(博士課程に入った学生は、一年目の終わりにTransferという試験があり、それを通らないと2年目に進めないのです。私のは2月にあります)の模擬試験に参加してきました。本来は定員60人で、学生同士行う内容だったのですが、60人一気に部屋の中で話されたら私は間違いなく聞き取れないな、と思い相談したところ、主催者の教授の方が直々に一対一で対応してくれることになりました。こういう対応の早さはイギリスのいいところの一つだと思います。自分の研究内容について説明し、そこに突っ込んだ質問をされるのに対して延々釈明する練習でしたが、英語脳を使ういい練習にもなった傍ら、自分の研究内容を見直すいい機会にもなりました。

今回は大学のクリスマスツリーの写真を添付しますね。
リーズ大学はなかなか華やかです。

次は年明けの更新になりますが、どうかこのブログを読んでいる皆様が良い年を迎えられますよう。
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Posted by 金本 at 11:27 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年11月生活記録【第18期生 田村誠志】[2023年12月01日(Fri)]
皆様、おはようございます、こんにちは、こんばんは。
Washington D.Cの気温がついにマイナス3℃まで下がる季節となってきました。寒いのが大好きな私にとっては問題ないのですが、カリフォルニア州のような温暖な気候から来た人たちにとっては答えるそうです。早く冬休みが始まったらすぐ帰省して、暖かく過ごしたいと言っていました...。
もうすぐ年末になりますが、忙しさはより増してきています。学業だけならまだしも、学会やイベント、旅行や家族サービスなどの準備がてんこ盛りですので、あまり落ち着きがない生活だらけです。その行事の中で、私はボストン大学で行われる第48回ボストン大学言語発達学会(BUCLC: Boston University Conference on Language Development)を聴講するために参加しました。理由はアメリカ言語学会のサマークラスを体験した後、Gallaudet大学だけではなく、学会で発表される言語学の知見を広げたいからです。ボストン大学言語発達学会はとても大きな学会なので、言語学の中で権威のある方も参加してきており、身が引き締まりますね。この言語学発表のトピックはたくさんあり、形態素統語論、韻律、構文開発、第二言語習得、親子の相互作用、語用論、音韻論とありますが、手話言語習得の研究もありました。私が言語学の中で特に興味を惹かれているのは統語論(syntax)であり、統語論は語と語の組み合わせによる文の構成の規則や句構造を明らかにする研究がとても論理的思考で行われるのが魅力的だからです。しかし、私はこの学会で形態素統語論のことをより学び、手話言語による形態素統語論はどのような構造で研究できるのか、研究意欲が湧いてきます。やっぱり言語学学会の参加はとても有益になりますね。
もう一つ、この学会では出会いや交流の場としてとても有益な場なのです。私は、LSAのサマークラスに参加していた友人が発表者として参加していたので、声をかけました。友人も私を覚えてくれており、さらに新しい友人を紹介してくれてたくさんの友人が作れました。同様に言語学の教授にも再会できたり、専門についての意見交換をしたりするなど、とても有意義な時間を過ごせました。
アメリカはとても広く、なかなか友人と会えないな...と思っていたのですが、同じ専攻の有志でしたら集まるところには必ず集まるんだなとしみじみ思いましたね。
Thanksgivingでは1週間ずっと家に滞在して休暇を過ごしていたのですが、1週間後はクラスが再開したり、宿題がたくさんあったり、口頭試験があるんだろうなと予想していたので早めに12月分の宿題を終わらせました。12月に向けての準備が早すぎるかもしれませんが、正直12月の繁忙期は一年前に体験しましたので、もう二度と味わいたくない気持ちなのです。でもThanksgivingではルームメイトが誕生日であることも兼ねて、fomalなレストランで食事を楽しめました。
Thanksgiving明けですが、やはりほとんどの学生は宿題が終わっていないなど、阿鼻叫喚だらけの声がたくさんありましたので、自分もその中の一人になっていたらとゾッとしますね...。
長々と、11月の生活記録を書きましたが、今回はここまでにします。次は12月の生活記録に向けてゆっくりと体を休めながら新年を迎えたいと思います。
みなさまも良いお年を過ごせるように、お身体に気をつけてください。

下の写真は第48回ボストン大学言語発達会議のパンフレットです。
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Posted by 田村 at 00:42 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年10月「フィールドメソッドにおけるデータ」鈴木美彩(18期生) 生活記録[2023年11月08日(Wed)]
2023年10月 第18期生 鈴木美彩 生活記録
フィールドメソッドにおけるデータ


 先日、Field Methods、フィールドメソッドの講義について紹介しましたが、この講義での言語学データ管理について紹介したいと思います。私たちのGALLAUDET THATのプロジェクトでは様々なデータを扱います。
 まずはオープンエリアでの観察、つまり学内の食堂や学生支援課など多くの人が行き交う場に出向いてそこで人々の行動を観察し、個人情報は抜きにその行動を記録すること。私の場合は、「挨拶」をテーマにしたので学内を散歩し、すれ違った人々の挨拶を観察しました。私のフィールドノートの中の一例が以下になります。「保護者の手から離れて我先に建物へ入らんと小さな子供が向こうから走ってきた。そして、こちらの顔をみてきたので、こちらがしっかり目を合わせると手を振ってきた。こちらも笑顔で手を振り返した。ハローと付け加えると、子供もハローと返してくれた。(事後観察のメモ) バーイといえばバーイと帰ってき、ハローというとハローと返ってくることが多い。」
 インターネット上の動画もデータとして扱います。ギャローデット大学が外部向けに作成した動画に、多くのインラビュー動画が公開されています。そのうちの一つに「HOLA!」という珍しい挨拶を見つけました。観察の記録には「これはスペイン語での挨拶で、インタビューの記者が対象者と同じラテン系だったことからきている。」などと記録しています。
 他には、参加者を募り、インタビューの様子を撮らせていただき、この動画を観察します。特にインタビューの動画はELANというソフトウェアでアノテーション作業を行います。アノテーションとは手話をラベル付けする作業のことです。ELANは動画と並行でタイムライン上に何層もメモを残せる便利なツールです。無料のツールなので、人間が使いやすいようなデザインにはまだ程遠いのが難点ですが、基本的な操作を覚えれば強い味方になります。
 さらに、アメリカ手話の分析の場合、ASLSignBankという優秀なシステムがあり、これがさらにスムーズなアノテーションにしてくれます。これは名前の通り、銀行のように様々な手話単語が貯められていて、瞬時に手話を検索できるプラットフォームです。ELANと連動させたテンプレートを使用して動画内の手話単語にクリック数回でラベル付けが可能です。キーボードを使用する必要はありません。ASLSignBankの素晴らしいところは単なる書記言語を使ったラベル付けではなく、手話表現の表面そのものに注目したラベルになっていることです。例えば、「無知」の手話には二つのバリエーションがありますが、それぞれ「KNOW-NOTHINGf」「KNOW-NOTHINGo」というように手型の違いがラベルの最後に示されています。こうすることで手話の意味に惑わされることなく手話の形を分析することができます。

スクリーンショット 2023-11-07 午後8.55.18.png

https://aslsignbank.haskins.yale.edu/dictionary/gloss_relations/1693

 このフィールドメソッドの先生はDr.Julie Hochgesang、人呼んでジュリー先生です。彼女は言語学の研究の中でも言語の表面つまり手話の動きや手型などの音韻に着目した分析の経験が豊富で、データ管理を得意とするELANのスペシャリストです。しかもASLSignBankは彼女のプロジェクトです。つまり作成者直々の指導のもとELANとASLSignBankの応用技術を学んでいます。技術と知識が素晴らしすぎて雲泥の差...と感じてしまう瞬間も多いのですが、厳しく指導していただいているのでこの機会を無駄にせず得られるものはどんどん吸収していこうと頑張っています。

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真ん中で手を組んでいるメガネの女性がジュリー先生。
Posted by 鈴木 at 10:43 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年10月生活記録【第18期生 田村誠志】[2023年11月07日(Tue)]
皆様、おはようございます、こんにちは、こんばんは。
Washington D.Cの気温は緩やかに寒くなってきていますが、突然暑くなったりと寒暖化が激しくなってきています。D.C.の10月の気候は穏やかな方だと思われますが、日本ではいかがでしたか?

ギャロデット大学の秋学期の授業もあと5週間(1週間はThanksgivingで秋休みとなります。)になりました。とても信じられないぐらい早いスピードで月日が経っています。院生二年目ですが、一年目と比べて自分が抱えているクラスの課題やプロジェクト、仕事、プレゼンテーションがたくさんあることに愕然としています。去年の院生一年目の自分はそのような機会が無く、院生だけど研究や言語学研究の仕事体験がないのが不安でした。そこでアカデミックアドバイサーに、言語学研究のリサーチアシスタントやプロジェクト挑戦したいと相談したこともありましたが、担当者からは、二年目になったらとても忙しくなる、一年目はまだ基礎を学ぶことに集中した方がいいと助言を賜りましたが、実際にその通りでした。

言語学院生二年目の授業は、研究プロジェクトを興す実践的な研究職の一歩手前まで学ぶクラスがいくつかあります。私は、現在受講している4つの授業のうち、二つの言語学選択科目を受講しているのですが、どちらも研究職をやる上で大変経重要な実技と知識を得られ、貴重な経験をしています。8月生活記録ですでに二つの選択科目について紹介しましたが、より深く掘り下げて説明したいと思います。

一つ目の選択科目はコーパス言語学です。コーパスとは機械可読のデータコレクションです。データの種類はテキストやドキュメントや動画、データが何であれコンピュータなどの機械が、手話動画のデータコレクションを読み取る、エンコードしたデータから必要な情報を検索することが可能であることが前提です。簡単な手話動画の検索の例ですが、「私」という手話をを探すとき、どのように探すのかを想像してみてください。動画では早送りしたり、巻き戻ししたりして手話の「私」を探すのが多いかもしれません。しかしコーパスデータではPDFやGoogle Docのように検索機能がついており知りたい手話の情報を検索したらすぐに発見することが出来ます。すでに8月の記事で紹介しましたELANと呼ばれるソフトウェアを使い、アノテーションを行うことによってプライマリーである一次データから、機械可読の情報を追加したメタデータまたは二次データを作ることが出来ます。講義では、実際に研究者が行っている仕事と同じように、一次データから二次データへとエンコードする作業、お互いのアノテーションを確認作業するproofingをしました。私はこのメソッドを学んだ上で、この講義の最終課題、私たちが使ったコーパスデータから、手話言語の特定音韻論機能や文法的機能を解析する研究プロジェクトを立ち上げています。

次に二つ目の選択科目であるデータマネジメントでは、誰がデータを持つのか、データの所有者の責任は何か、誰がそのデータを見る権利を決めるのか、データを格納する場所はどこなのかと実際に研究者が必ず出会うデータ管理についての問題についてディスカッションしながら学んでいます。今まで私は研究者として仕事する立場の経験は少ないのですが、実際にプロジェクトの第一人者となると、同様にデータ管理責任者になるので、研究者としては管理能力を身に付けなければいけません。誰がデータを持つのか、所有者の所有者の責任は何か、という問いでは当然研究者自身です。しかし、個人でデータを格納する容量が多い場合、研究室やリポジトリのような大きな格納場所を探さなければいけません。この時、同様に研究室やリポジトリの責任者もデータを預かる事になります。従って、自分自身のデータ保存する場所だけでなく、研究室やリポジトリの責任者のデータ保存する場所も把握することが大事なのです。データを見る権利についてですが、その研究者に協力してくれた参加者や、学会の参加者、研究データを見たい人たちに向けて公開します。しかし手話言語学の研究データによる動画の公開は、身元特定や個人情報漏洩の恐れがあります。このリスクを防ぐために、私たちは、可能な限りオープンアクセスできるデータ管理の方法を学んでいます。この知識を学び、私たちは将来どんなデータ管理をするのかという提案書を作成することが最終課題となります。
研究資金先やリポジトリに研究データを格納する目的や方法などを事細かく伝えるのはとても難しいですが、この提案書の課題は大学院生や博士学生でも必ず研究するために必須な仕事に繋がります。

さて長くなりましたが、今回の記事はここまでになります。
もうすぐ年末が来ますが、皆さんはもう準備を始めているのでしょうか。私はドタバタして年末をどう過ごすかわからないのですが、ルームメイトが企画してくれるそうです。楽しみですね。

写真はギャロデット大学言語学部門に飾っているデフアートです。
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Posted by 田村 at 06:49 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年10月「長州ファイブ160周年記念企画」金本小夜(19期生)[2023年11月07日(Tue)]
あっという間に11月となりました。
私はイギリスにきて半年が経ったところで、何だか長かったような、短かったような…と振り返っています。

実は先月の27日と28日、イギリス、エジンバラにあるヘイオワット大学に赴任された矢部愛子先生にお声かけ頂き、エジンバラに本部を構えるDeaf History Scotland(DHS:スコットランド聾歴史研究会)主催で行われた長州ファイブ160周年の記念イベントに参加してきました。

エジンバラはヨークから更に北へ2−3時間ほど電車で行ったところにあるスコットランドの首都にある美しい海辺の街です。『シャーロック・ホームズ』シリーズの作者であるコナン・ドイルや、『ジキル博士とハイド氏』や『宝島』の作者として有名なスティーヴンソンが生まれた街でもある他、『ハリー・ポッター』の原作者J.K.ローリングが現在も住んでおり、第1巻の原稿を執筆したElephant Houseというカフェも残っています。

27日はDHSのジョン・ヘイさんからエジンバラのデフにまつわる色々な場所(主に教育史にまつわる場所)を案内してもらいました。
最初に聾者への教育が行われたのは現在スコットランド文学博物館となっている建物でした。ですが当時のイギリスは窓の数に応じて税金が取られるシステム。この建物も例外なく窓は少なく、部屋は暗く、明かりが乏しい中での手話教育は困難だったこともあり、教育はエジンバラ内の各所を転々としながら続けられます。そして最終的にイギリス初の聾学校’Braidwood school’がトーマス・ブレイドウッドにより1760年、設立されました。そして1785年に当時の王であるジョージ四世の目に留まり、学校全体がロンドンに移されるまで続いたそうです。(その後、学校はまたスコットランドに戻ってきたそうですが)現在は建物はなく、プレートだけが残されています。
写真は左から、スコットランド文学博物館、ブレイドウッド聾学校跡地、案内をして下さったジョン・ヘイさん。

そして28日は長州ファイブの記念イベントが開催されました。
ちなみに長州ファイブについてですが(私も今回初めてこの呼び方を知りました笑)、日本語だと長州五傑として知られており、1863年、ロンドンに留学した伊藤博文をはじめとする5名のことを指します。まだ江戸末期で外国への渡航は御法度のため、5人は密航してイギリスに渡り、主に現在のロンドン大学で学んだそうです。その中の一人、山尾庸三はグラスゴー(エジンバラから西に1時間ほどのところにある工業都市)に赴き、そこで騒音の中作業する船大工たちを見て、なぜ彼らがこれほどの騒音の中作業できているのか疑問に思います。そしてよくよく訳を聞いてみると彼らは耳の聞こえない作業員たちだった、というエピソードが残されているのです。そして帰国した山尾は後の筑波大学附属聴覚特別支援学校の前身である楽善会訓盲院を設立しました。

この歴史のプレゼンを行なって下さったのが、筑波大学附属聴覚特別支援学校の関係からいらした那須英彰さん、野呂一さん、藤井理仁さんでした。日本手話と英語で紡がれる、授業で習ったことのない日本史はとても面白かったです。

また現在エジンバラで研究をされている手話言語学がご専門の坊農真弓先生なども参加され、いろいろと学びの多い2日間となりました。
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エジンバラの寒さもあってか、私はヨークに戻って以降、絶賛風邪っぴきの状態ですが、日本もそろそろ冷え込む頃でしょうか。どうか皆様もお身体に気をつけて過ごしてくださいね。

Posted by 金本 at 00:59 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年9月「1学期を終えて」金本小夜(19期生)[2023年10月08日(Sun)]
みなさまこんにちは。
あっという間に10月ですね。ヨークシャーはだいぶ気温も下がって、ストーブをつける日が増えてきましたが、日本もそろそろ涼しくなってきた頃でしょうか。
私は日本にいた時にはいわゆる秋の味覚が大好きで、里芋の煮転がしや秋茄子の揚げ浸しなどは毎年作っていましたが、イギリスに来ると里芋は見つからないし、茄子も西洋茄子であのとろけるような食感が出ないしで、最近ちょっと和食が恋しくなっています。一応念のため書きますが、イギリスのご飯は世間一般で噂されているほど不味くはありません…!が、食べ物の季節感というものはやはり日本のものだなと感じます。そのうち一時帰国したら、和食をたらふく食べたいです。

さて、こっちに来てから5ヶ月。気がついたら一学期が終わっていました。
新しい友達ができたり、寮でトラブルが発生したり、新しい家を探すのが大変だったり、色々ありましたが、やはり留学の最大の目的で、自分が一番充実感を覚えたのは大学での勉強だったなと思います。
博士課程は修士までと違い、授業がありません。その代わり研究者の卵として、自分で自分のテーマを設定し、一人で勉強します。リーズ大学の場合は月に一回(年に10回)、指導教官との面談があり、自分の研究が正しい方向に進んでいるか、自分が書いたものを読んでもらって、アドバイスを貰います。
でももちろん、1ヶ月のうちの大半は一人で勉強を進めるので、自分が進んでいる方向が合っているのかどうか完全には自信が持てず、いつも不安と背中合わせでした。
直近の面談が実はつい先週あったのですが、そこまで計5回、文字数が少なすぎる、論文としてのフォーマットがなってない、など小さなお小言も含め、書きたい論文計画の全体像は頭に入っているか、その道の大家である人の文献はしっかり読み込めており、活用できているか、などさまざまな点からアドバイスを貰い、先週ようやく「いい方向に進んでいるね」と一言褒めてもらえて本当にホッとしました。
学士、修士、と大学生をやってきた期間は長かったですが、こんなに胃が痛かった一学期もなかったなと思います。

そしてこの指導面談とともに、先週から新学期が始まりました。
初回はオリエンテーションと懇談会で、たくさんの同じ英文科の博士の人たちと知り合いになる機会に恵まれました。英文科はもちろんイギリスの学生がほとんどなのですが、インドや中国の学生もおり、とても国際色豊かです。
また先輩の博士の人たちの話や研究内容が聞けたのも、とても勉強になりました。
リーズは障害/医療方面から分析する文学研究が盛んなこともあり、一般的なバイロンの詩や、ヴィクトリア朝文化の研究だけでなく、障害学から見た性におけるテキストと執筆の間の研究や、病気に関連した現代詩における生と死の描写など、興味深いテーマをたくさん聞けました。
私がデフと文学についての研究をやりたいんだ、と言うと、みんなから聴覚と言語、そして物語との関連はとても興味深い、と言ってもらえたのは嬉しかったです。
これから12月までの短い期間、このメンバーでinduction course(大学のシステムや行事、博士課程の説明をしてくれるオリエンテーションのようなもの)を受けますが、たくさんのことが吸収できたら、と思っています。


写真は今回何をあげようかな、と思っていましたが、ハロウィンも近いので、ヨークの公園の素敵な幽霊の装飾の写真をアップしようと思います。派手な装飾のないさりげなさがイギリスらしくて私はとても好きなのですが、いかがでしょうか?

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Posted by 金本 at 23:36 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年9月「院生活2年目」鈴木美彩(18期生) 生活記録[2023年10月08日(Sun)]
2023年9月 第18期生 鈴木美彩 生活記録
院生活2年目

8月末、ついに院生活2年目が始まりました。この秋学期から言語学課程と手話教育課程を同時に進めていきます。さらに学期末には2年目の適正試験があり、合格しなければ言語学課程には残れないので12月に向けて準備を着実に進めなければなりません。六週目を過ぎたところですが、未だにルーティンが定まらず焦りもあります。学業以外にも色々なことに手を出してしまっているところもあるので一旦反省し、1つずつ優先順位を見定めて集中して行きたいと思います。

ギャロデットの言語学修士課程は1年目に Quals、2年目に Vivaという昇級試験があるのが特色です。1年目は筆記試験で、4時間の制限時間内に4つの課題に英語でタイプして答えるというものです。それに対して2年目は口頭試験形式であり、これまた4つの課題にアメリカ手話で答えていきます。制限時間は各問題に5分。合わせて1人20分の持ち時間です。1つの質問に5分というと長いと思うかもしれませんが、これまで学んできた言語学の内容を考えると、5分は圧倒的に足りないと感じます。それだけシンプルにコンパクトかつ核を捉えた答えが求められているというわけです。私はこれまで言語学のクラスはどれも課題が楽しく、大変さや辛さは伴うもののモチベーションを持って取り組んできました。しかし、プレゼンテーションなど手話を使って発表する形式のものはどうしても緊張感や嫌悪感が強く、選ぶテーマも気をつけて意欲的に取り組めるものを注意して選ぶ傾向にあると自分で認識しています。自分の苦手がわかっているのは良いことだと思うし、経験を積んで成長するチャンスなのですが、Vivaの試験を思うと今から胃が痛いです…。今学期履修している認知言語学IIIは毎週学生が論文読みのリーダーをそれぞれ受け持つので、そこで経験をしっかり積んで、Vivaの試験に備えたいと思います。

日本の大学では修士論文が卒業の必修となるところが多いと思いますが、ギャロデットでは違います。この2つの試験を通して卒業となります。私達学生は将来論文を書きたいと考えている人も多く、ギャロデットで論文を書く経験に関するカリキュラム内の比重が軽いことは1つのデメリットかもしれません。しかし、この筆記試験と口頭試験は知識を蓄え、それをすぐに本や論文なしに説明できるだけの知識と技術を目的としているので、重要な試験です。だから多くの学生は自ら先生と面談をして論文を書く機会や研究プロジェクトの機会を取ろうと努力しています。私も今学期からろう児の認知科学への関心をテーマにした1つのチーム研究プロジェクトに携わっています。学生同士のチームなので緊張もなくお互いが平等に発言し合える環境です。さて、私はこの経験以外にもフィールドメソッドという授業の中で実践経験を得ています。

このクラスの紹介をしたいと思います。フィールドメソッドは言語学課程の必修科目で、肝とも言える授業であります。手話のデータを収集し、分析するという一連の経験を積むのがこのコースの最大の目的であり、選択する言語は年によって異なります。未調査の言語が優先されることが多いです。学生はその言語の語彙、音韻、形態、構文など多方面から研究します。単位は4クレジットあり、2時間ずつ月曜日と水曜日に対面授業があります。月曜日は主に課題の論文や本などの読み物をもとに授業が行われ、様々な研究手法を学んだり、倫理問題について学生同士で議論したりします。IRB という倫理審査委員会に対する申請もようやく通ったので、いよいよ来週からは
実践に移ります。学生は様々な担当を分担し、データを集めていきます。私達の今年のテーマは「Gallaudet 🤙」です。すなわち「ギャロデット <イウ>」とは何かをキャンパス内における言語の多様性から分析していきます。これまでの知識を活かし、実践経験を積めることが楽しみでなりません。
Posted by 鈴木 at 13:24 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年9月生活記録【第18期生 田村誠志】[2023年10月03日(Tue)]
皆様、おはようございます、こんにちは、こんばんは。
Washington D.CとVA州を行ったり来たりしているこの九月ですが、天候は少々移り変わりがとても激しいこの頃でした。とても快晴すぎて猛暑だったと思ったら、急に大雨になり翌日には低気圧によって頭痛や偏頭痛になった人が複数名いました。日本の天候はいかがでしょうか...。快適であることを祈ります。


Gallaudet大学のクラスも4週間目、5週間目ぐらいとなりましたが一向にゆっくりできないぐらいたくさんの課題と仕事が増えてきています。大学院は本当にリーディングが多いと言われていますが...一つのクラスに四つのリーディングを出されることもあります。頑張りますが体を壊さないように気を付けていきます。私のスケジュールなのですが、リサーチアシスタント(RA)の仕事や、個人の研究プロジェクトも携わっておりますので、思ったよりハードです。でも後悔は...あるとしたら筋トレ(work out)ができなくなったことですね...。

少々私のリサーチアシスタントの仕事をこの場で紹介させていただきます。Gesture Literacy Knowledge Studio(GLKS)と呼ばれるラボで、主に表現者の動画のデータマネジメント、音韻論解析、質疑応答のためのフォーマット制作の仕事をしています。最初、この仕事に就いたばかりはジェスチャーと冠したラボの研究かなと想像していましたが、世界各国の手話言語も世界中にあるさまざまなGestureと切っても切れない関係があるので手話やジェスチャーの動画の収集をしています。このデータの量は遥かに多いので、職員一名と私、二人だけで管理するのがすこぶる膨大な作業です。しかし、この仕事の楽しいところはたくさんあります。異なる国からの聾者と交流したり、彼らの手話言語を観察・分析したり、ジェスチャーを起源とした手話言語のルーツを探ること、それぞれの国の手話言語を簡単に比較することができるマッピングプロジェクトを発展開発すること、日本手話や異なる国の手話言語特有の音韻的特徴を発見することができます。手話言語を通しての研究活動は、手話が大好きな私に創作意欲や生きがいを与えてくれると実感できます。

下の画像はGLKSのプロジェクトの一つです。世界中の手話単語比較マッピングプロジェクト(現在製作中)
IMG_3976.jpg

「世界」の手話です。
左からASL(アメリカ手話)、FSL(フィリピン手話)、JSL, RSL(ロシア手話)になります。
*プロジェクト責任者から許可を得て掲載しました。

他にも仕事がありますが、別の機会で投稿します。

もう一つ嬉しいことがありました。
私のハウスメイトですが、彼は健聴者であり私といつも話している時はスマートフォンでテキストを使って筆談をしています。しかし彼は私ともっと話をしたいと思い、ASL online lessonをこの秋に始めました。最初私は本当かな?と思ったのですが、家に帰ったらASL online lessonを学んでいる彼の姿を見てとても胸が熱くなりました。私の影響であると思うと、とても喜ばしいです。彼は70歳も超えているんですが、やっぱり学問に年齢は関係ありませんね!
Posted by 田村 at 09:59 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
2023年8月「言語学のロードトリップ(続き)」鈴木美彩(18期生) 生活記録[2023年09月08日(Fri)]
2023年8月 第18期生 鈴木美彩 生活記録
言語学のロードトリップ


言語学のロードトリップB ~SALT会議での困難~

このロードトリップ最大の目的であるSALT会議はアメリカ言語学会の協賛のもと年に一度行われていて、第16回は東京で行われるなど規模の大きさが窺える会議です。春学期の終わりが近づく頃、私とボニーは参加登録をオンライン上で済ませました。最後の欄に「アメリカ手話通訳を希望する方はこのチェックボックス」にとあったのでさすがアメリカと感動しました。言語学の中でも意味論に特化したこの会議はかなり専門性が高く、アメリカといえど通訳の用意は大変な仕事です。それでもアメリカ手話の通訳が選択肢にあるのは素晴らしいことです。すっかりあぐらをかいていた私でしたが、ボニーは通訳者の経験上、通訳を用意しますと言っていても、専門外な通訳者が派遣されたり、一部だけへの派遣だったりするから、念の為に問い合わせた方がいいと助言してくれました。そこでメールを送ってみましたが、返信がありません。これは雲行きが怪しくなったぞと思いつつ、ちょうど学期末で忙しさのピークを迎えていたので、課題に追われて時間も過ぎていきました。そして直前になって返信が来ました。その内容は明らかに通訳の申請に対する動揺でした。いつ参加登録をしたか、通訳は全日希望するか、という質問が並べられていて心配になりました。しかし、私たちはすでに出発していてコネチカットに滞在中でした。会議には最終日を除いて全日参加の予定だったので、基本的には全てのプログラムに参加したいと伝えると、通訳の費用が用意できていないのでギャロデット大学側で負担できるかと、これまた衝撃的な返信が返ってきました。参加登録には大学も記入するので、当てにできると思われたのでしょう。参加登録の時、通訳申請の締切が明示されていなかったのが気になっていましたが、形だけの処置だったのはかなりショックでした。それを言語学部の先生に相談すると、「オーマイガーなんてこと!!そんなのありえない!」と先生方も驚いていました。開催に関わっていないギャロデットから資金を出すのはナンセンスと言いつつ、私たち学生のためになんとかしようと言語学部内の学生への支援制度が使えないか模索してくださいました。その間に私はSALT会議の責任者と通訳についてあーだこーだとメールでやりとりを続けていました。会議の開催も目前で運営に追われている中の対応だったので運営側も大変だったのは想像するに難くありません。イェール大学近くのホテルに到着すると、イェール大学で教えているろうの先生、ジュリア・シルブストリ先生からメールが届いていました。「通訳を必要としていると聞きました。私が力になりますので詳細を教えてください。とりあえず明日の朝の分はオンラインになってしまうけど確保できました。」とこの波乱の中とてもありがたい助け舟でした。その後、三日間手厚くお世話していただいて、SALT会議に参加することができました。正確には3日目は母の日ということもあり、通訳者がつかまらず、最初の1日と2日目の午後からのみでしたが、ないよりはずっとましです。シルブストリ先生も一緒に会議に参加し、意味論の様々な発表を拝聴しました。生成文法はギャロデットで学んでいましたが、生成文法から見た意味論はより複雑で特有の記号も用いたりと私にとってはまさに異世界でした。アメリカの地でも学術レベルのこう言った会議には情報アクセスが行き届かないものなんだと経験を通して学びました。今回は直前ということもあり、専門外だがなんとか通訳してみます!という通訳者もいました。中には自分には不適任と断る人もいたと思います。専門性のある人でないと内容に適った通訳が難しいですが、時間のない中きていただいただけでもありがたいです。これは今後の課題として他の学生とも議論して改善に努める必要があります。改めて、突然のトラブルにもかかわらず多大なサポートをしてくださったシルブストリ先生を初め、通訳者やイェール大学のろうの先生方に感謝申し上げます。もちろん、一緒に行ってくれた同期のボニーに対しても感謝の気持ちでいっぱいです。
Posted by 鈴木 at 10:20 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
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