
2024年3月「EHDI学会」鈴木美彩(18期生) 生活記録[2024年04月09日(Tue)]
2024年3月 第18期生 鈴木美彩 生活記録
-EHDI学会-
3月17日から19日、ギャロデット大学の学生代表の1人として、EHDI(聴力の早期発見と介入の)学会に参加してきました。ギャロデットのチームは代表学生、ギャローデットの教授陣、NDEC(通称クレール・センター)の職員、通訳、そしてギャロデットの卒業生など、素晴らしい人々で構成されていました!また、ろう難聴児を持つ保護者の方、言語聴覚士、スピーチセラピストなど、アメリカ全土から集まった様々な人たちにも出会いました。EHDIというのはアメリカで1990年代から始まった早期介入プラグラムへの登録を目指す新生児聴覚スクリーニングです。EHDI学会は2002年に第1回目が行われ、今回の開催で24回目になります。とても規模の大きい大会ですが、参加者は研究関係者にとどまらずろう難聴児を持つ親や、言語聴覚士、スピーチセラピスト、医療関係、ろう教育などEHDIに関わる様々な職業の人が集まります。それぞれの専門家のたまごである学生も数多く参加していました。私はその中の1人で、言語学部の生徒そしてろう学生の1人としてギャロデット大学のブースでギャロデット大学について説明したり、ろう難聴児のロールモデルとして自身の生い立ちについて話したりするのが今回の役目でした。
これまで参加してきた言語学関連の学会とは異なって、学術的な活動よりも一般的な情報交換の場という印象でした。たくさんの講演が開かれてたとはいえ、その内容はろう児を育てた親としての経験や言語聴覚士本人の経験を元にしたものが多く、実験やデータに基づいた発表は多くありませんでした。また、1番の特色としては音声言語使用者が圧倒的に多く、手話を用いる人々にとってはあまりやさしくない学会ということです。厳しい表現かもしれませんが、3日間参加して見ての正直な感想です。とはいえ、ろう難聴に関わる大きな学会なので情報保障は素晴らしいほどに整っていました。各講演には必ず手話通訳がついていて、各発表の内容は文字起こし付き、資料は事前に公開されているなど。展示ブース会場にも通訳者がスタンバイしています。
そんな中でも、ろう者の言語聴覚士や早期介入専門職の方との出会いもあり、ろう者としてEHDIに関わる仕事をすることの意味について考えさせられました。共通していたのは、ろう難聴児を持つ親が最初に出会う相談者がろう者であることはとても影響力があるし、ロールモデルであることが使命だという信念です。ろう学校で働く言語聴覚士はろう難聴児とスムーズにコミュニケーションを取ることができ、きめ細やかな配慮に繋がると話されていました。興味深かったのが、ある小学低学年の人工内耳装用児の話です。その子は補聴器に替えたいと話しますが、人工内耳と補聴器は別物で、一度手術をしたその子は補聴器を使っても音は聞こえません。仕組みが違うと説明しましたが、どうしても人工内耳が嫌だというので、色々聞いていくと磁力が弱く取れやすく、補聴器なら耳掛け式で外れる心配がないからというのが理由だったとわかったそうです。それなら磁力を少し補強すればその問題はなくなると説明し納得してくれたという話でした。人工内耳装用児でもろう学校でバイリンガル教育を受けることによって、小学低学年でも自分のことについて理解し、決定することができるのは素晴らしいと思いました。
2日目に行われた全体講演では早期発見の新時代と題された新生児のゲノム解読に関する内容を聴講しました。血液や唾液から採取されたDNAでその人の情報が全て把握できる時代にきていて、自己決定能力のない新生児からDNAを集めるという行為は果たして倫理的に正しいと言えるのか、人種や障害を超えてみんなで議論するべき時だというような内容でした。しかし、その行為そのものが神の領域を犯しているような気がしてならないし、その行為が可能なフェーズにきていることを当たり前かのように話しているのが信じられませんでした。また、「このゲノム解読はろう難聴児の早期発見に繋がる」という文句が甘いキャンディのように倫理的な課題の危機感をぼかしているように感じました。300人の聴講がいる会場においてギャロデット大学のろう教員であるGertz先生が果敢にも挙手し、鋭い質問を投げかけました。「今こそ議論が必要な時だと何度かおっしゃったが、その議論はどこで行われるのか?優生思想を繰り返さないために今私たちがすべきことは何か?」とASLで話すステージ上の先生の姿は格好よかったです。しかし、講演側から具体的な回答はなく、ASLや英語の言語の壁もありつつ、スライドやキュードスピーチの通訳者など視覚的に情報過多気味の私は「我々は全員でこの問題に立ち向かわねばならない、この議論から疎外されるマイノリティはいない」という回答しか理解することができませんでした。ギャロデットチームのメンバーもこの回答にはあまり納得できていないようで、その夜、教授陣はギャロデットの教員が登壇する次の日のパネルディスカッションに向けて会議をしていました。内容が気になりましたが、スケジュールの都合上参加することは叶わず、代表学生チームはそのまま帰路につきました。3日間の経験は多くの新たな学びに負の感情という、筆舌に尽くし難い経験でした。このような機会を与えてくれたギャロデット大学と素晴らしいクラスメートに感謝です。
私のいる言語学部の研究休暇中のチェン・ピクラー先生は、この学会でリロ=マーティン先生とともにファミリーASLプロジェクトについて発表を行いました。同じ手話言語学の立場として、この学会で先生と時間を過ごせたことはとても嬉しいことでした。
今回の会議は何というか…目まぐるしく変化する時代の中で、ろう者として世界から取り残されているような感覚に襲われながらも、NDECのろう職員やろうの教授陣の学術的活動を目の当たりにし、アカデミックな世界に足を踏み入れた一人として、この現実に立ち向かっていこうと心に強く決めた瞬間でもありました。
-EHDI学会-
3月17日から19日、ギャロデット大学の学生代表の1人として、EHDI(聴力の早期発見と介入の)学会に参加してきました。ギャロデットのチームは代表学生、ギャローデットの教授陣、NDEC(通称クレール・センター)の職員、通訳、そしてギャロデットの卒業生など、素晴らしい人々で構成されていました!また、ろう難聴児を持つ保護者の方、言語聴覚士、スピーチセラピストなど、アメリカ全土から集まった様々な人たちにも出会いました。EHDIというのはアメリカで1990年代から始まった早期介入プラグラムへの登録を目指す新生児聴覚スクリーニングです。EHDI学会は2002年に第1回目が行われ、今回の開催で24回目になります。とても規模の大きい大会ですが、参加者は研究関係者にとどまらずろう難聴児を持つ親や、言語聴覚士、スピーチセラピスト、医療関係、ろう教育などEHDIに関わる様々な職業の人が集まります。それぞれの専門家のたまごである学生も数多く参加していました。私はその中の1人で、言語学部の生徒そしてろう学生の1人としてギャロデット大学のブースでギャロデット大学について説明したり、ろう難聴児のロールモデルとして自身の生い立ちについて話したりするのが今回の役目でした。
これまで参加してきた言語学関連の学会とは異なって、学術的な活動よりも一般的な情報交換の場という印象でした。たくさんの講演が開かれてたとはいえ、その内容はろう児を育てた親としての経験や言語聴覚士本人の経験を元にしたものが多く、実験やデータに基づいた発表は多くありませんでした。また、1番の特色としては音声言語使用者が圧倒的に多く、手話を用いる人々にとってはあまりやさしくない学会ということです。厳しい表現かもしれませんが、3日間参加して見ての正直な感想です。とはいえ、ろう難聴に関わる大きな学会なので情報保障は素晴らしいほどに整っていました。各講演には必ず手話通訳がついていて、各発表の内容は文字起こし付き、資料は事前に公開されているなど。展示ブース会場にも通訳者がスタンバイしています。
そんな中でも、ろう者の言語聴覚士や早期介入専門職の方との出会いもあり、ろう者としてEHDIに関わる仕事をすることの意味について考えさせられました。共通していたのは、ろう難聴児を持つ親が最初に出会う相談者がろう者であることはとても影響力があるし、ロールモデルであることが使命だという信念です。ろう学校で働く言語聴覚士はろう難聴児とスムーズにコミュニケーションを取ることができ、きめ細やかな配慮に繋がると話されていました。興味深かったのが、ある小学低学年の人工内耳装用児の話です。その子は補聴器に替えたいと話しますが、人工内耳と補聴器は別物で、一度手術をしたその子は補聴器を使っても音は聞こえません。仕組みが違うと説明しましたが、どうしても人工内耳が嫌だというので、色々聞いていくと磁力が弱く取れやすく、補聴器なら耳掛け式で外れる心配がないからというのが理由だったとわかったそうです。それなら磁力を少し補強すればその問題はなくなると説明し納得してくれたという話でした。人工内耳装用児でもろう学校でバイリンガル教育を受けることによって、小学低学年でも自分のことについて理解し、決定することができるのは素晴らしいと思いました。
2日目に行われた全体講演では早期発見の新時代と題された新生児のゲノム解読に関する内容を聴講しました。血液や唾液から採取されたDNAでその人の情報が全て把握できる時代にきていて、自己決定能力のない新生児からDNAを集めるという行為は果たして倫理的に正しいと言えるのか、人種や障害を超えてみんなで議論するべき時だというような内容でした。しかし、その行為そのものが神の領域を犯しているような気がしてならないし、その行為が可能なフェーズにきていることを当たり前かのように話しているのが信じられませんでした。また、「このゲノム解読はろう難聴児の早期発見に繋がる」という文句が甘いキャンディのように倫理的な課題の危機感をぼかしているように感じました。300人の聴講がいる会場においてギャロデット大学のろう教員であるGertz先生が果敢にも挙手し、鋭い質問を投げかけました。「今こそ議論が必要な時だと何度かおっしゃったが、その議論はどこで行われるのか?優生思想を繰り返さないために今私たちがすべきことは何か?」とASLで話すステージ上の先生の姿は格好よかったです。しかし、講演側から具体的な回答はなく、ASLや英語の言語の壁もありつつ、スライドやキュードスピーチの通訳者など視覚的に情報過多気味の私は「我々は全員でこの問題に立ち向かわねばならない、この議論から疎外されるマイノリティはいない」という回答しか理解することができませんでした。ギャロデットチームのメンバーもこの回答にはあまり納得できていないようで、その夜、教授陣はギャロデットの教員が登壇する次の日のパネルディスカッションに向けて会議をしていました。内容が気になりましたが、スケジュールの都合上参加することは叶わず、代表学生チームはそのまま帰路につきました。3日間の経験は多くの新たな学びに負の感情という、筆舌に尽くし難い経験でした。このような機会を与えてくれたギャロデット大学と素晴らしいクラスメートに感謝です。
私のいる言語学部の研究休暇中のチェン・ピクラー先生は、この学会でリロ=マーティン先生とともにファミリーASLプロジェクトについて発表を行いました。同じ手話言語学の立場として、この学会で先生と時間を過ごせたことはとても嬉しいことでした。
今回の会議は何というか…目まぐるしく変化する時代の中で、ろう者として世界から取り残されているような感覚に襲われながらも、NDECのろう職員やろうの教授陣の学術的活動を目の当たりにし、アカデミックな世界に足を踏み入れた一人として、この現実に立ち向かっていこうと心に強く決めた瞬間でもありました。