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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
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2009年7月生活記録(3期生岡田)[2009年08月16日(Sun)]
7月はサマースクールとケンタッキーで行われたAssociation on Higher Education and Disability(AHEAD)への参加が主な出来事だった。

■サマースクール

先月にも少し報告したが、リサーチメソッドについての授業である。いわゆる量的研究、質的研究の両方を取り上げて、それぞれの方法論のメリット・デメリット・手順等を学んだ。日本でもやっていたが、あらためて教科書を用いながら学んでいくことは、復習の意味もあって有意義だった。

最後には、あるトピックでLiterature Review(先行文献の整理)を15枚から20枚ほど書くペーパーが課されたが、その過程で自分が書きたいと思っているトピックに応用できる方法論や資料に出会うことができ、秋から始まる論文の執筆にとって、よい方向付けができたと思う。


■AHEAD

この団体はアメリカ、カナダおよび世界中のメンバーから成る、高等教育における障害学生支援に関わる専門家の団体である。

参加して感じたことは、「Universal Design」のコンセプトが大合唱されていたことである。参加したすべてのワークショップで1度は聞いたと思う。これは「すべての人が容易にアクセスできるように」「そもそもバリアのない設計をあらかじめ行う」というコンセプトである。ただ、現実には、プレゼンターによってそのコンセプトにズレがあったり、コンセプトはあっても現実のプログラムに具現化しきれていなかったり、といった面もあった。

とはいえ、すでに障害者はもちろん、多種多様な学生(学力、人種、性別、年齢等)がいるという前提で、つまり、すでにそのような現実があるという認識の下で、いかによい教育を提供するかというスタンスに立って、支援を行っているというのは大きなアドバンテージである。

日本も障害学生はもちろん、社会人学生、留学生、あるいは学力の面でなど、従来に比較して、学生の多様化が進んできている。そうした学生をいつまでも「イレギュラー」と見なしてその場しのぎの大学運営を行うのか、すでに対応しなければならない現実として戦略的に行うのかでは、大学の経営力に大きな差が出てくると思われる。併せて、障害学生支援に関わる人々も、目の前にいる障害学生だけに目を向けるのではなく、多様化しつつある大学の中で、いかに効率的な運営に寄与できるのか考え、貢献できなければ、その専門性は認められにくいだろうと感じている。

また今年はADA法が改正され、その適用範囲がさらに広がった。具体的には、障害者の定義である「『主要な生活活動』に制限が生じる者」の「主要な生活活動」の範囲が多岐に及んだことで、今まで障害者と認められなかった人も、ADAのもとで権利が保障されるようになった。そのため、大学はいわゆる「伝統的な」障害者だけではなく、さまざまなニーズを持つ学生に対応しなければならなくなり、それによって、学内の連携の強化や、支援における理念の変更も行わなければならなくなった。このことも「ユニバーサルデザイン」の流行と無関係ではないだろうと感じた。

事実、参加者の質疑も、ある学生がADAの対象になるのか、障害を証明する文書をそろえにくい場合はどうするのか、その文書には何をどこまで記録していなければいけないか、といった質問が多くあり、改正によって生じる戸惑いも感じさせた。

最後に、一番印象に残った出来事がある。最終日の全体会で、イラク、アフガニスタンなどの戦場から帰還し、大学に通っている学生の問題について講演が行われた。今まで様々なカンファレンスに参加する中で、彼らはキャンパスへの物理的なアクセスにバリアがあると知っていたが、今回はPTSD(心的外傷後ストレス障害)、TBI(Traumatic brain injury:外傷性脳損傷)に焦点を当てて行われた。

その講演に、現在大学に通っている1人の元兵士が招かれ大学内での様子を話した。しかし、相当なストレスがあるのか、話し始めようとしても言葉が出てこない、涙がこぼれてしまうという状況だった。そのような状況の中で彼がぽつりと話してくれたことは、キャンパスの中で人が集まるような場所近づいたり、見たこともない車をキャンパス内で見ると、戦場での光景がフラッシュバックして、体がこわばる、クラスにいけなくなることや、一見気楽に学生生活を送っているような若い学生を仲間と認められず、孤独感を感じることなど、自分からはまったく想像もできないような体験であった。また、時には教員からクラスの中で「戦場で何があった?」と安易に尋ねられ、あるいは責められ、深く傷つくこともあると話してくれた。

障害学生支援室だけではなく、アカデミックカウンセラー、教員にとって、こうした学生をいかに受け入れていくかが、今アメリカの大学が抱えている大きな問題の1つである。日本ではなじみのない問題であるが、このような現実を知れたことは貴重な経験だった。また、心理的な障害に対するアプローチの難しさと奥深さを感じることができたのは、今後につながっていくと思う。

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