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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2023年7月「NHSからの補聴器の支給や、大学の障害サポートのことなど」金本小夜(19期生)[2023年08月03日(Thu)]
みなさん、こんにちは。
全然イギリスのことではないのですが、最近市川沙央の『ハンチバック』が芥川賞を受賞した!というのが私の中での一大ニュースです。読まれた方いるでしょうか。新人作家であることが条件の芥川賞はよく時代の意識を反映している、などとも言われますが、障害者の姿を障害者自身の目線を通して赤裸々に描いた作品が日本最高峰の文学賞の一つを受賞したのは、現代の人々の意識の中に何か新しいものが芽生えている表れでもないかなと思い、本作の芥川賞受賞、私はとても嬉しかったです。
ちなみに『ハンチバック』の主人公のセリフではないですが、紙の本ではなく電子書籍があるおかげで、私も芥川賞の速報が出たその瞬間に外国から本書を買えたのは本当にありがたかったです。なんでもデジタル化すればいい、というわけではないですが、やはり便利なんですよね。

さて今日はイギリスやリーズ大学で私が受けている保険や、障害者サービスについてお伝えしようと思います。
日本の国民健康保険は一定額を毎月払って、本来の3割の料金で病院に行って治療を受けられるシステムなのは当然ご存じと思います。一方、イギリスの国民健康保険、通称NHS(National Health Service)は一定額を払うところまでは同じですが、病院にかかることは大抵の場合完全無料です。ただし緊急の場合以外は一ヶ月以上待たされることが多いのが難点でしょうか。処方箋で買える薬は一律10ポンド程度の代金がかかります。ですがなんと、補聴器は完全に無料なんです。私は前回イギリスに行った時、ヨークの病院でオーティコンの補聴器をもらい、ずっとそれを使っていたのですが、今回リーズの病院に行くと、オーティコンはうちでは扱ってないから新しいダナロジックのものをあげるよ、と言われ、現在二つ補聴器がある状態です。しかもちょっと調子が悪いかな、と思うことがあると、点検ではなく新品のものにすぐ取り替えてくれる、というサービスの良さ!びっくりです。補聴器はメガネと同じように、随分と日常的に使われているんだな、という印象で、最近は道ゆく人の耳の上についつい目をやってしまうようになりました。

一方で大学ではどうか、というと、イギリスでは2010年にEquality Actという、社会・職場における差別を法的に禁止する運動が起こり、これ以降、少なくとも大学では必ず障害者をサポートする機関を作らなくてはいけないという決まりがあります。
どんな対応をするかは大学によりけりなのですが、ヨーク大学では専属のノートテイカーがつき、大学が完全に費用負担。ノートテイカーも、学生バイトではあってもしっかり研修を受けた子たちが担当するのでいつも安心でした。
リーズ大学では、私が今博士課程で、定期的に授業がないこともありますが、ノートテイカーは今のところいません。その代わり、指導教官や私が所属する英文科に、両耳感音性難聴はどんな症状があり、具体的にはどんなことができない/苦手なのか、ということをまとめて配ったりしてくれました。例えば、難聴者は人の口の動きに注意を向けるからノートを取るのが苦手な傾向にある、強いアクセントを持つ人物が話しているときは難聴者自身が追いつけないのはもちろん、文字起こしアプリも正常に作動しないため、聞き取りが追いつかない可能性が高い、など、具体的に示してくれたんです。自分でも、英語力が足りていないのか、聴力の問題なのかわからず、アウェイになることが多かったので、こうして第三者から専門的な意見をもらえるのはいいな、と思いました。
(ただし、今用心しなくてはならないのが、イギリス全体の経済が悪化して色々な機関でストライキが勃発しており、まともな手続きが完了するまで三ヶ月超かかったりすることです… ブレグジット以降、コロナや戦争の影響でイギリス経済は今結構悲惨な状況です… 元のイギリスに戻ったらいいなと願ってはいますが…はてさて)
ちなみに今私は指導教官とのミーティングはMicrosoft Teamsというアプリを通じて行っていますが、録画の許可をもらったので毎回ミーティングに字幕をつけ、それを録画しています。何度も見返せるしのは本当に便利。冒頭でも言いましたがデジタル技術、最高です。実は次回が録画ではなく初の対面のミーティングになりそうで、対面でいつも使っている文字起こしアプリがちゃんと作動してくれるか、ちょっとドキドキしています。

ついでながら、日本の大学は最近どうなのだろう、と思って調べてみると、大きい大学でのサポートはかなり充実しているみたいですが、一方で、ノートテイクはボランティアの学生だったり、そのノートテイカーも学生自身が探してこなくてはいけなかったりする大学があるなど、平均的に見るとまだまだサポートが足りないように思いました。

でも最近参加した、デフ教育に関するミーティングで出会ったBSL(イギリス手話)話者の方は、これでもまだ全然政府のサポートが足りていない、と力説していました。BSLの無料の教室の設置や、日本でもよく言われる、字幕や手話のサポートはもっと必要ではないか、という議論が大盛り上がりでした。やはりイギリスでも障害へのサポートは問題となっているようです。
経済が悪化すると、弱者へのサポートが手薄になるのは万国共通の問題かと思いますが、現在障害者の立場の向上が世界的にも注目されている中、国には頑張ってほしいし、自分もその力の一つになれたらなぁ、と思います。

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補聴器を貰いに行く病院までの道が素敵なんです♡
Posted by 金本 at 20:09 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
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