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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
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2023年2月 第18期生 鈴木美彩 生活記録[2023年03月08日(Wed)]
2023年2月 第18期生 鈴木美彩 生活記録
L字グラフ


↓動画はコチラから↓
https://youtu.be/rzPhQIX4k8E


 さて、本日はまた別の認知言語学における理論を紹介したいと思います。
スクリーンショット 2023-03-07 午後8.00.28.png
このL字のグラフです。これもラネカーの本からの引用です。複雑性と抽象度という2つの軸からなっています。複雑性というのはこんがらがって難しいと言うような意味でなく、数の問題で、猫→白い猫→かわいい白い猫、というように記号が増えていくほどに右へと行きます。「抱きたくなるほどかわいい白い猫」となればより右へと置かれます。次に抽象度はタテの軸で、使用が慣習化されて一つのパターンが作られるのが一例です。ある特定のルールが出来上がるとそれはより上へと置かれます。例えば、医者、医者、死者、読者、筆者、これらの言葉はある共通のルールがあります。いろいろな漢字と「者」が組み合わさって、ある特定の役割を持つ人を示します。「医者」ももともとは語彙として既にあった「医」とこのルール「?者」の組み合わせによって成り立っていましたが、使用が多くなるにつれてこのルールは次第に忘れ去られ、「医者」は一つの語彙として存在するようになったといえます。なんとか者は他にも多くの語彙があり、汎用性も高いので使用頻度の低いものはその都度このステップを踏んで言語化されていると説明できます。

 この授業での議論は慣用句やことわざなどの「イディオム」はこのL字グラフのどこに入るか?というものでした。イディオムは二語からそれ以上の数で構成されている事が多く、それは言語使用においてそのフレーズが姿を変えずにそのまま使われがちです。果たしてどこの位置になるか、私は課題をしっかり理解し、準備に取り組みました。しかし、様々な論文を読めば読むほどにわからなくなってしまいました。なぜなら、研究者によって様々なL字が存在するのです。ある人は2種類のL字を使用し、ある人はL字の中に更にL字を設置し、独自の分析方法を提案していました。この内容の理解が難しく、行き詰まってしまいました。英語に限界を感じ、オフィスアワーを利用して先生の元へ行きました。わけがわからなくなってしまったので一緒に見てほしいと頼むと、「あなたのその疑問は他の学生も抱いているし、自然の流れだ。決して英語の読解力が問題ではない」と言われました。もちろん、英語は一つの大きな壁ですが、ここで問題なのは提示されている理論に様々な見解が存在し、多くの研究者がよりよいものさしを作ろうとそれぞれの研究において独自のL字が作られていっているが、結局はcross-linguistic(様々な言語を包括するもの)でないということです。だから、その研究者が何を意図してそのL字を使ったかを見ることが大事とのことでした。そこから自分が良いと思うもの、自分にあうものを見つけていく練習でもあると先生は言いました。無事不安も解消され、議論の日を迎えました。「イディオムはどの位置に置かれるか?」明確な答えは無く、数学のグラフように具体的な位置をピンポイントで決めることはできませんでした。
 改めて批判的思考とは何か理解が深まり、勉強になりました。L字グラフを学んだ直後は、イディオムは長いものが多いからL字の中でも右辺りに位置するだろうと思い込んでいましたが、英語の ”(a) elephant in the room” は直訳で部屋の中の象ですが、誰もが知っているのに口にしたがらない問題を意味します。確かに部屋の中に象がいたら誰でもびっくりするし「何だこれは」と言わずにはいられないでしょう。でも、そこをあえて無視するのですからこのイディオムはなんとも明快です。象好きな私のひいきはともかく、”(a) elephant in the room” このフレーズの中に存在する語彙一つ一つはそれぞれの意味とは離れて、このフレーズ自体が一つの形式となって、「誰もが口にしたくない問題」という一つの意味と一対一で結びついていると考えられます。この場合、記号は一つと捉えられるので、L字の中では左の位置へ、ということになります。最終的に、最初の意見とは全く違った回答を出しました。今後も思い込みや初見の印象にとらわれず、柔軟な視点をもって物事を考えていきたいものです。
Posted by 鈴木 at 12:28 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
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