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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2021年11月生活記録【第16期生 大西啓人】[2021年12月08日(Wed)]

※手話内容はブログ記事と同様です。
※日本語字幕はついていません。

みなさんこんにちは。秋学期修了まであとわずかですが、最終プロジェクト(最終試験)が大変で慌てる毎日が続いています…。しかし履修している授業のうち、「バイリンガル教育におけるリテラシー応用」という授業の山場である模擬授業をやり終えることができ、ひとまず安堵しています。
模擬授業のための授業計画や教材、バイリンガル教育法の割り当てなど考慮しながら授業するのに大変でしたが、すごく良い経験になり、この経験はこれからの教育現場において非常に役に立つものだと実感できています。この経験を糧に、常にバイリンガル教育法を意識できるようにしていきたいと強く思えました。

さて今回は、ろう児をもつ聴親とろう児のリテラシー発達の関係性を考慮しながら、ろう児をもつ聴親に置かれている状況について考えたいと思います。

前回のブログで言及した通り、ろう児をもつ聴親は95%の確率で自分の子どもが初めて会う「ろう者」になります。ろう者と交流した経験もなく、聴覚障害についての情報がかなり乏しい聴親はどんな状況に置かれているのでしょうか?

ろう者の認識論
認識論とは、「信念」「真実」「正当化」の側面から哲学的立場から考察するもので、知識とは何かを追求するものです。そこでろう教育のあり方についてろう者の認識論では、現在において、ろう者が知識を得る主な手段として、聴覚から視覚へ移行し、ろう者の文化的、言語的、社会的な要素を尊重するようになったとされています(Bobbie, 2019)。このろう者の認識論によると、ろうコミュニティは言語を触れる機会、言語獲得、効果的な教育実践などを通して聴親に知識と支援を与えるものとしており、他にも以下のようなものがあります。

・ろう者や手話言語に対する意識
手話言語が読み書き能力の発達を阻害するという証拠はなく、手話言語は習得することで読み書きや読解力の発達に貢献できるとなっています。
しかし医療関係者において、手話言語に対する正しい知識を持っておらず、誤った情報で聴親は手話言語はろう児のためにならないと勘違いすることが多いのです。

・早期に手話言語を取り入れることのメリット
様々な研究によると、音声言語アプローチ、音声言語を取り入れたプログラム、人工内耳や補聴器などの聴覚支援技術に依存したろう児は年齢に応じた読み書き能力を身につけることは難しいとされており、早期から視覚的で完全に言語活用できる手話の導入が言語習得の遅れから守ることができると言及されています。
しかし早期介入や早期教育の専門家はほとんどろう教育の知識よりも言語病理学の知識に基づき、医療的モデルに沿った視点を持つため、聴親は医学的/病理学的から「ろう」を考えることが多くなります。

このようにろう者の認識論があるにも関わらず、医療関係者の医学的視点からアドバイスを受けることが多いため、ろう者における知識が乏しい聴親は誤った情報を信じてしまっているケースがよく見られますね…!

家庭における言語
家庭で使用される言語は、ろう児の発達を形成し、学業において将来の成功が左右されるほどろう児にとって重要な役割を果たします。また家族との会話に使用されるため、家族からの学びが得られる重要な機会ともいえます。そのため、聴親やサポートする立場である教育者や専門家は家庭で使用される言語について冷静に考慮しなければならず、ろう者の認識論における知識を得て、ろう児の言語発達に希望を与えることが大切です。

しかしこの重要な要素に対し、以前から聴親は医療関係者からのアドバイスによって音声言語を家庭で使用する言語として選択する結果が多いのです。さらに子どもが聴覚障害者と診断された後、医療関係者や早期介入関係者から早急に家庭での言語を決定しなければならないといったプレッシャーが感じるとされています。その理由としては聴覚学や医学に長けている専門家から、早期からの人工内耳装用や音声言語の導入を推奨されるからです。早期から開始することで効果が大きく期待できると研究されているものもあります。多数派により、社会は聴力至上主義なため、日本語や英語のような音声言語に対する意識が強く、ろう者に対する教育やあり方においても同様に強調している傾向がありますね。
一般的に、乳児の0~5歳は言語獲得や読み書き能力、読解力などのスキル獲得において大切な時期とされています。しかしろう児はまだ物心がついていない時期で意思決定ができないため、ほとんどのケースは聴親が意思決定します。上のような見えない抑圧や重圧によって、ろう児の言語発達が阻害されてしまう結果になってしまっています。

まとめ
今まで言及した内容について、聴親に置かれている状況は医学的また病理学的視点から物事を考え、聴力至上主義に伴ってしまう結果になりがちなことが分かりましたね。医療関係者や聴覚士が社会文化モデルなどろう者の認識論に基づいた正確な情報を有していないことがろう児をもつ聴親に負担をかけてしまっています。
聴親に置かれている不利な状況をできるだけ減らすためにできることがあると思います。私たちろう者やろうコミュニティは、これから産まれてくるであろうろう児の将来に、知識が乏しく不安に陥っている聴親にできるだけリスクを減らすために様々な方法が考えるべきです。私たちろう者は一般学校や地域コミュニティの中でろう児をもつ聴親と会うことがあったときに、ろう者の認識論に基づいた知識を提供することが求められます。またろうコミュニティとして、医療関係者や聴覚士、早期介入の専門家などに相談にやったきたろう児をもつ聴親に対して社会文化モデルの提供を求める活動をすることが大事なのではないでしょうか。
また、人々が「ろう者」でよく連想するろう学校やろうコミュニティ、団体などの活動情報をもっと社会に対して発信するべきと思います。言葉にするのは簡単ですが、社会認識そのものを変えるにはとてもエネルギーがいるもので大変なので、地道な努力が必要になりますが、私たちができることを積み重ねていく必要があります。

私自身も学校に就いたとき、学校を通して情報発信できるように上に述べたような正しい知識を得るために引き続き、勉強していきます。ここまで読んでくださりありがとうございます。

第16期生
大西

【参考文献】
Bobbie Jo Kite(2019), How The Medical Professionals Impact ASL and English Families' Language Planning Policy, psychology in the school, 57:402-417. https://doi.org/10.1002/pits.22324

Fred H. Geneses(2009), Early Childhood Bilingualism: Perils and Possibilities, Journal of Applied Research on Learning, 2(2), 1-21, http://talkingtogether.com.au/wp-content/uploads/2018/09/early-childhood-bilingualism-perils-and-possibilities-fred-genesee-april-09.pdf

認識論とは? https://uteimatsu.com/epistemology/
Posted by 大西 at 05:22 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
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